表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Lightning in the blue sky

Lightning in the blue sky{5・6}

作者: はらけつ


なんにせよ、


青い空に、稲妻は、よく似合う。



稲妻が、走る。

稲妻が、落ちる。


青天から、落ちる。

青天に、走る。


空から地へ。

いや、正確には、宙から地へ。


気象衛星は、観測する。

大気の動き等を観測し、地上に、伝える。

地上では、それを元にして、気象予測を、する。


気象衛星は、落とす。

人工的な稲妻を、地上に、落とす。

地上では、気象予測した結果を元に、気象制御の為の稲妻を、落とす。


未だ、人工的には、微々たる稲妻しか、起こせない。

そんな稲妻では、気象制御に、使えない。


稲妻の威力を、増幅する必要が、ある。

気象制御に使える稲妻にする必要が、ある。


それには、増幅装置が、必要。

増幅装置と云うか、そう云うものが、必需。


色々、試した。

無機物から、有機物まで。

鉱石・薬品から、昆虫・動物まで。


結果、一つのものに、落ち着く。

人間に、落ち着く。

それも、濃い記憶を所有している人間、に。


濃い記憶を持っている人間ほど、役に立つ。

気象制御の為の、稲妻増幅に、役に立つ。

記憶が濃い程、稲妻は、増幅される。


が、身体に、電気(稲妻)が走る訳なので、無事には、済まない。

人間の神経や脳には、電気信号が走っている訳なので、無事には、済まない。


代償として、増幅装置になった人間からは、失われる。

増幅装置として、使われる度、記憶は、失われる。

新しい記憶から、最近の記憶から。


法律が、制定される。

その法律の為、気象制御を名目に、人が、強制的に招集される。

体のいい、お祭りの際の人身御供、戦時の赤紙招集。


招集する人間は、その資格から、高齢者が、多くなる。

が、『濃い記憶を持っている』資格さえあれば、若年者も、招集される。


表立っては、苦情を、言えない。

災害を防ぐこと、多くの人の利便に関わること。


そうやって、善意の犠牲者を出し、日々は、続いてゆく。


{case 5}


やった。

やっちまった。


酒に酔っていたとは云え、相手も酔っていたとは云え、口論になってしまった。

些細なことが、原因だ。

それが、口論の原因、だ。

今では、何が原因だったかさえ、思い出せない。


口論で埒あかず、掴み合いになった、殴り合いになった。

そして、相手は、倒れた。

血まみれになって。


息も絶え絶えになり、眼も、ピクピク動いていた。

『このまま放っておいては、危険』と、思った。

が、放っておいた。

面倒なことには、関わりたくない。


その際、まずいことに、なった。

犬を散歩している老人に、出くわした。


暗くなっていたとは云え、俺の姿には、気付いたろう。

自分の血と、返り血を浴びた、俺の姿を。

血で真っ赤に染まる、俺の姿を。


どこの誰、だ。

付き止めなくては、ならない。


幸い、犬種は、覚えている。

毛つやの良い、大きなゴールデンレトリバー、だ。

そうおいそれとある犬、ではない。


有力な情報(犬種)を、手にしている。

目撃者は、すぐに、見つかるだろう。

その後の処理は、見つけてから、考えよう。



ランダは、犬の散歩から、家に、帰る。

今日は、途中、真っ赤な服を着た人を、見掛けたぐらいだ。

何の変りも無い一日の散歩、だった。


ゴールデンレトリーバーの靴を、脱がす。

靴と云うか、散歩用の草履の様なもの、だ。

これをしておけば、軽く足を拭くだけで、屋内に上げることが、できる。


ランダのゴールデンレトリーバーは、屋内飼い、だ。

子供が独立し、妻が死に、ランダは、一人ぼっちになる。

その状態をまぎらわす為、犬を飼い始める。


ランダは、猫も好きだ。

猫には、ツンデレ感があり、友達・仲間感が、漂う。

が、今のランダは、それを、求めていない。


求めているのは、先輩・後輩の様な、上下関係。

それでいて、パートナーの様な、相棒感。

その結果、猫より犬を、セレクトした。



よっぽど、驚いたみたいやな


ランダは、思い出す。

散歩中の出来事を、思い出す。


真っ赤な服を着た人は、眼を剥く様に、驚いていた。

ゴールデンレトリーバーの大きさに、存在感に、よほど驚いた、らしい。


なにも、そこまで


とも思うが、『感じ方は、人それぞれ』、なのだろう。


近所には、これだけのゴールデンレトリーバーは、いない。

その大きさも、存在感も、際立っている。


そもそも、ゴールデンレトリーバー自体が、いない。

他の散歩している犬は、小型犬種ばかり、目に付く。


しゃーないか


ランダは、少し笑って、溜め息を、つく。



なんや、気持ち悪い


ランダは、不安を、覚えている。


犬の散歩仲間から、聞いた話によると、こうだ。


最近、犬の散歩をしている人に、眼を光らせているやつが、いるらしい。


最初は、小型犬、中型犬、大型犬に限らず、眼を光らせていた、らしい。

が、今では、中型犬、大型犬にのみに絞っている、らしい。


包囲が狭まっている様で、照準が合って来ている様で、何か、気持ち悪い。


そんな中、来る。

ランダに、来る。


ランダの元へ、郵便物が来る、届く。

赤い封筒の、郵便物。


ついに、来たか


ランダは、深く、深く、溜め息を、つく。


封を開けて、中身を、取り出す。

中の便箋も、赤地。


間違い無い。


招集令状、だ。

赤紙招集、だ。

気象衛星への機乗を、求める手紙、だ。


ま、ええか


ランダは、即、招集に応じることを、決める。


子供は、独立した。

妻も、もはや、いない。

仕事も、無い。

年金生活、だ。


遮るものは、何も無い。

ある意味、自由な身、だ。


引っ掛かるのは、犬の世話だけ。

それも、誰かに預ければ、いいだろう。


ランダは、手紙を手にしながら、ゴールデンレトリーバーを、撫でる。



犬から探って、目撃者を、突き止めた。

目撃者の住所も、突き止めた。


その家を、見張っている。

二日ぐらい前から、見張っている。


分かったことが、ある。

目撃者は、夜に犬の散歩に出るくらいで、ほとんど、家に居る。

一人暮らしでも、ある様だ。


が、今日になって、動きが、ある。

目撃者の家の前に、車が、止まっている。

赤地の車、だ。

気象センターと、書かれている。


ああ、間違え様が、無い。


お迎え、だ。

お迎えの車、だ。

気象衛星に乗り込む人を、招集する為の車、だ。


目撃者は、気象衛星に乗り込む、らしい。

気象制御の為、稲妻を増幅させる、らしい。


願ったり叶ったり、だ。


つまり、気象衛星に乗り込むと云うことは、目撃者は、記憶を失う。

聞く処では、最近の記憶から失う、らしい。


で、あるならば、『目撃の記憶は、失われる』と、みていい。

俺の記憶を。

殺人の記憶を。


万々歳、だ。

これで、心安らかに、寝られる。

枕を高くして、寝られる。


後は、半年後に確認するだけ。

でも、おそらく、キレイさっぱり、忘れ去っていることだろう。

まあ、案ずるより産むが易し、だろう。



今日も雨、風も強い。

ここ最近、天候不順が、続く。

この半年間は、天気が、不安定だ。


稲妻も、何度も、落ちている。

天然のものも、人工のものも。


天然のものと同じくらいか、それ以上、人工の稲妻は、落とされている。

気象衛星から、気象制御の為。

人間を、増幅装置として。


その度に、ランダは、電気に、晒される。

身体に、電気が、走る。

神経間の電気信号が、乱れる。


ランダの乗る、ローザ1号は、明日、戻って来る。

日本に、帰って来る。

良くも悪くも、待ち受けている人の元へ、帰って来る。



数日前、気象衛星は、帰って来た。

目撃者も、それに合わせて、帰って来た。


その後、今まで、音沙汰が無い。

何もトラブルが、無い。


と云うことは、


『逃げ切れた』と、考えていい。

目撃者は、『目撃したことを、忘れ去った』と、考えていい。

目撃者は、『俺の記憶を、失くした』と、考えていい。


乾杯したい気分、だ。

生きとし生ける全てが、彩り豊かに、見える。

周りが皆、薔薇色、だ。


 ・・ トントン

 ・・ トントン


玄関のドアが、ノックされる。


 ・・ トントン

 ・・ トントン


気配を、消す。


 ・・ トントン

 ・・ トントン


居留守は使えない、様だ。

気配を察知されている、らしい。


 ・・ トントン

 ・・ トントン


諦めて、対応する。


「 ・・ sはい」

「すいません。

 こちら、気象署の者ですが」


眼の前の風景から、色が、失われる。

眼の前が、真っ暗に、なる。



「ご協力、ありがとう御座います」


ランダは、気象署の署員に、礼を、述べられっる。


「いえいえ」


ランダは、すっかり、忘れていた。

あの時の記憶を、失っていた。


気象衛星に乗ると、記憶が失われるのは、本当だ。

気象制御の必要がある度に、身体に、電気が、走る。

気象制御の稲妻を増幅する度に、身体の電気信号が、乱れる。


それが、度々、起こる。

割合、頻発する。


半年間、ランダは、植物人間状態。

摂食と排泄のみ、行なう。

身体と精神の健康管理は、機械が、常時、行なってくれる。


身体と精神が再起動するのは、気象衛星が、大気圏を、脱してからだ。

具体的には、ローザ1号が地球の空に入る、と同時くらい。


真っ先に、ランダの眼に飛び込んできたのは、青。

一面の、青空。

所々に、小さく白い雲があるのが、余計、青空を、引き立たせる。


そこで、思い出す。

ランダは、思い出す。


鮮やかな青と対照的な、鮮やかな赤。

あの時の、赤。

暗闇に浮かぶ、赤。


夜に、ゴールデンレトリーバーと散歩をしていて、出喰わした光景を、思い出す。

その光景を、話す。

帰還後、『記憶が、どのくらい失われたのか』検査の際、話す。

何の気無しに、話す。


検査官は、引っ掛かる。

ランダの話に、引っ掛かる。


夜に、真っ赤な人 ・・

しかも、まだら赤 ・・

ランダさんの話振りでは、赤に粘度がある ・・


検査官は、釈然としないものを感じ、気象署の職員に、伝える。

念の為、伝える。


検査官が伝えると、気象署の職員の顔色が、変わる。

『すわっ!』とばかりに、分かり易く、変わる。

なんでも、ドンピシャ該当する事件がある、らしい。


後は、気象署が動いて、犯人、逮捕。

なんでも、目撃者がいなくて、迷宮入りしそうになっていた、らしい。

犯人は、『逃げ切れる』と思っていた、ことだろう。


良くも悪くも、誰かが、見ている。

お天道様が、見ている。

自分が、見ている。



ランダは、申請する。

続けてざまに、申請する。

気象衛星への搭乗を、引き続き、申請する。


妻も、いない。

子も、独立した。

そばにいるのは、ゴールデンレトリーバーだけ。


記憶は、ある。

思い出も、ある。

でも、それを持っているのも、『もう、ええか』と、思う。


何より、


何より、頭から離れないものが、ある。

それを、離したい。

その記憶を、離したい。


青い空。

それと、真っ赤な服を着た人と云うか、実際は、真っ赤な血まみれの人物。


その二つがセットで、頭に、こびりついている。


聖と俗。

清浄と不浄。


そのクッキリとした対比で、こびりついている。

不浄には、罪と罰の要素も、加わった。


早く、次のに、乗りたい


ランダは、思う。

切実に、思う。


大事にしたい記憶が、ある。

すぐさまに、忘れ去りたい記憶が、ある。


大事にしたい記憶は、子が、これからも、持っていてくれるだろう。

そして、大事にしたい記憶は、最後まで残っている、様な気がする。



今日も、気象衛星は、飛んでいる。

今日も、地球の周りを、廻っている。


地球の人々へ、笑顔の記憶を、作る為に。


{case 5 終}


{case 6}


アンキ2号が、帰って来る。

アンキ2号には、幼馴染が、乗っている。


コルブは、いる。

気象センターまで、来ている。

幼馴染のヘイグを迎えに、来ている


高を括って、いた。

『自分は、大丈夫』だろうと、思っていた。

『自分は、忘れられることは無い』と、思っていた。

結果的には、大丈夫で無かった。


「誰?」


ヘイグの第一声は、これ。

コルブと再会した一言目が、これ。


完全に、忘れ去っている。

コルブの記憶を、コルブとの記憶を、失っている。


気象衛星に乗り込んだ際、記憶が失われるのは、直近のもの(最近のもの)からと、云われている。

実際、多くの人が、そうらしい。

が、少数だが、そうとは限らない人も、あるらしい。

それが、ヘイグだった様だ。


ヘイグの場合、直近や最近と云った時系列的なものではなく、家族や身内と云った血縁的なもので作用した、らしい。

記憶の残存率が作用した、らしい。


つまり、家族・親戚等、血の繋がりのある身内の記憶は、ほぼ残っている。

のに、友達・先輩・後輩等、血の繋がりの無い人々の記憶は、ほぼ失われている。


つまり、ヘイグは、失っている。

コルブの記憶を、コルブとの記憶を、失っている。


なんやねん、それ


コルブは、憤る。

納得できない。

ああ、できない。



「珍しいサンプルが、見つかったとか?」

「はい。

 レア・ケースです」

「どうレアなんだ?」

「記憶が」

「記憶が?」

「直近のものからではなく」

「ではなく?」

「身内以外のものから、消えています」

「身内以外から?」

「はい。

 家族・親戚以外のものから、消えています」

「それは、友人・上司・部下と云ったものから、

 『記憶が、消えている』と云うことか?」

「はい、そうです」

「 ・・ ふむ ・・ 使えそうだな」

「私も、そう思います」

「そのサンプルの身柄を、確保しておけ」

「はい。

 既に、手配しています」

「おお、さすがだ。

 素晴らしい」

「ありがとう御座います」

「何に、活用しよう?」

「この間の、あれでは、どうでしょうか?」

「あれか。

 お誂え向きだな」

「はい」

「では、そうしよう」



ヘイグは、そのまま、気象センターに、留め置かれる。

通常は、即、帰宅が許されるはずだが、そのまま、留め置かれている。


なんでも、帰宅前検診で、異常値が出た、らしい。

念の為、再検査する、らしい。


ヘイグは、家族みんなに会えるのを、楽しみにしている。

友達に会えるのも、楽しみにしている。


それにしても


ヘイグは、思う。

ちょっと不満に、思う。


友達は、ヘイグの帰還後、誰も、来てくれていない。

ヘイグのことを忘れ去ったかの様に、顔を覗かせていない。


帰還してすぐ、顔を覗かせたのは、一人だけ。

誰かは知らねど、一人だけ。

向こうは、ヘイグのことを知っている、様だったが。


「ヘイグさん」

「は~い」


検査の時間だ。


実は、ヘイグの再検査は、これが一回目、ではない。

これが三回目、だった。



「どんな具合だ」

「はい。

 順調です」

「何事も無く、進捗していると?」

「はい。

 記憶を失って出来た、脳の空きスペースに、新規作成記憶を、

 慎重に挿入しています」

「ふむ。

 これで、証人は、確保できたな」

「はい」

「後は、犯人確保、か」

「はい。

 それについて、案が ・・ 」

「何か、いい案があるのか?」

「当時、近くをブラついていた男を、犯人にしようかと」

「障害は無いのか?」

「はい。

 証人とも近所付き合いしていた様なので、説得力は、あるかと」

「それは、都合がいいな。

 そうしよう」

「では、すぐに、手配します」

「ああ、そうしてくれ。

  ・・ これでまた、宮入り事件が、一つ減ったな」

「ウチの成績が、また、上がりました。

 ウチの基盤が、着々と、盤石になっています」

「違いない。

 これも、スムーズな気象制御の為、だ」



「この人、です」


ヘイグは、高らかに、指摘する。

気象署の職員が見せた顔写真を、一目見て、断定する。


長年の懸念の迷宮入り事件が、解決寸前に、迫っている。


たまたま、ヘイグが、その事件の犯人を、目撃していた。

たまたま、ヘイグが、その事件の記憶を、失っていなかった。

たまたま、気象署が、その事件の犯人の顔写真を、手に入れていた。


この事件は、当時、割り合い大々的に、報道される。

気象衛星(ローザ1号、アンキ2号共に)を狙った、テロ事件。


気象衛星を動かなくし、気象制御を出来なくすることが、目的だった。

気象制御を出来なくすることで、世の中を混乱させることを、目的としていた。

その混乱に乗じて、真の目的を達成しようとしたのだろう。


結果から云えば、それは、達成されていない。

気象衛星に辿り着く前に、気象センターの厳重冷徹セキュリティが、発動している。

そのセキリュティが、犯人を、情け容赦無く、粛々と、排除した。

その際、犯人の顔写真も、手に入れていた、らしい。


が、犯人は一向に、見つからない。

まんまと、逃げおおせられる。

事件は、迷宮入りとなる。


気象署の面目、丸潰れ。

加えて、今後の気象衛星、気象センターのリスク・マネジメントにも、不安を残す。

犯人を撃退したとは云え、侵入は許している。


スッキリとした犯人逮捕。

それが無ければ、今後の気象制御にも、暗雲が漂う。


でも、それは、杞憂に終わりそうだ。

ヘイグの指摘で、犯人は、特定される。

なんでも、捜査している最中、近くをブラついていた、らしい。

ヘイグとも顔馴染みらしく、顔写真の特定に、間違いは無い。


気象署は、早速、動く。

犯人逮捕へ、動く。

気象制御を守る為、自分たちの面子を守る為。



 ・・ トントン

 ・・ トントン


玄関のドアが、ノックされる。


 ・・ トントン

 ・・ トントン


少し間を置いて、再び、ノックされる。

急いている様だ、気が逸っている様だ。


「 ・・ はい」

「すいません。

 こちら、気象署の者ですが」


気象署が、何の用や


コルブは、思う。

思いつつ、覗き穴から、外を、確認する。


黒ずくめ制服の、署員らしき人物が二人、佇んでいる。

フェイクでは無い、らしい。


 ・・ ガチャ


ドアを、開ける。

開けるないなや、署員二人は、提示する。

警察章を、パカッと、パスケース様のものを開いて、提示する。


引き続き、書類を、提示する。

書類には、【捜査令状】と、書かれている。


その瞬間、頭が、身体が、フリーズする。

風景から、色が、失われる。

音も、失われる。


コルブは、白い世界に、囚われる。



「犯人が、見つかった様だな」

「はい。

 既に、確保しました」

「おお。

 さすがに、仕事が早いな」

「恐れ入ります。

 既に、尋問にも、入っております」

「罪を認めそうか?」

「強情、ですね。

 『知らない』の一点張り、です」

「そうか ・・ そうだろうな」

「いよいよとなったら、強引にでも、認めさせます」

「おいおい。

 時代柄、手荒なことは、しないでくれよ」

「はい。

 それは、承知しています。

 上手く、やります」

「まあ、君に任せといたら、安心だろ」

「ありがとう御座います」

「では、任せた」

「お任せください。

 希望に添える様、臨みます」



ヘイグは、戻る。

家に、帰る。


久し振りの家、だ。

留め置かれた期間を考慮すると、七ヶ月くらい振りの家、だ。


ヘイグは、そこはかとない懐かしさを感じ、辺りを、見廻す。

壁、椅子、机、箪笥、台所、トイレ ・・ 何も、変っていない。


ヘイグは、楽しむ様に、愛でる様に、屋内を巡る。

そんなヘイグを、母も父も、温かく、見つめる。

屋内が、優しさと親しみに、包まれる。


ヘイグは、椅子に腰を下し、机に着く。

テレビのスイッチを、入れる。


ヘイグの前に、マグカップが、置かれる。

カフェオレが、たっぷり注がれたマグカップ、だ。


ズズッ ・・


ヘイグは、一口、啜る。


美味い、温かい


喉を通り、沁み入るカフェオレを、感じる。


チャンネルを、切り換える。

ニュースに、する。


ニュースは、事件報道を、している。

なんでも、長年逃げていた犯人が捕まった、らしい。


どこかで見たことが、ある ・・

 ・・ どこや ・・ ?

 ・・ あっ ・・ 顔写真!


テレビ画面に映し出された犯人を見て、ヘイグは、気付く。


「これ、俺が証言したやつや!」


母と父に、言う。


その途端、


母と父の顔から、表情が、ストンと落ちる。

母と父の顔が、能面様に、なる。


そして、棒読みに様に、母は、言う。


「事件解決に、貢献したんやね。

 すごいね」


{case 6 終}


{了}

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ