この手に負えない守りたいもの
「手合わせ願えないでしょうか」
会談終了後、フェリシアの案内で親交のあるマティアス達のいる部隊室へと案内されたルードウィク達はマティアス達を尻目に以前のモンタグ村やバイルの町での事での事を礼も兼ねて挨拶にきたが、調査隊の面々は急な訪問に驚きを隠せないでいた
落ち着きを取り戻したヨランダにより話は整理させれて、ルードウィク達は無事彼らに礼を言うことができた。特にオルティノは息子の救助の件について礼の言葉を伝えた。少し照れるマティアスに対して、ラウルは気のない返答となったので、オルティノは不可解な顔をする。一時の付き合いであるが、そんな彼から見てもラウルの変化は明白であった。そんなオルティノの心情を察したヨランダが話題を変えたので、オルティノはそれを言及することはなかった
いくつか他愛のない会話をしたが、会談のことは当然として、彼らに聞きたいことが多くではる調査隊の面々は煮えきらない態度であった。
それに痺れを切らしたマルグリッドだった
「テオ某はどうして来ないんですか」
「テオは今修行で忙しいんだよ」
ルードウィクは何の気なしに答えるが、それがかえってマルグリッドの逆鱗に触れる
「あれだけのことがあったのにそれより優先する修行って何ですか」
「しょうがないじゃん、俺達もまさか先に動かれているとは思ってなかったんだから」
「だとしてもです。マーさんたちはともかくフェリ先輩にどうして会いに来ないんですか」
「テオがまだその時じゃないって判断したんだろ」
「フェリ先輩の気持ちはどうなるんですか」
「マリーちゃんやめなさい。相手は使節団の重鎮よ。慎みなさい」
「でも」
「もし何か伝えたいことがあるなら言伝や手紙なら個人的に預かろう」
興奮気味のマルグリッドをヨランダとオルティノによって窘められる
「いいんですか」
「君は息子の恩人だ。そんなことでいいのなら是非やらせてくれ」
「じゃあ手紙をお願いします」
「わかった。私達は明後日にこの国を出る。それまでに頼む」
「ありがとうございます」
一応は話はまとめられることになった。ルードウィク達も目的を果たしたのでこの場を離れようとしたときノック音が響く。その後にクリストフが入って来た
「ルードウィク殿、そこにいられましたか」
「何、俺に用なの」
「はい個人的な要望で申し訳ないのですが、貴殿に是非手合わせ願えないでしょうか」
「ちょっと、クリストフいきなり来て」
「別にいいけど、どうして」
「今回のことで痛感したのです。自分が弱い存在であるのだと、だからどれほど自分が弱いのかを確かめたいのです」
その申し出に一番驚いたのは、ヨランダやラウルなど彼をよく知る人物だった。クリストフは騎士学校を首席で卒業し、最年少で隊長に任命されたほどの人物だ。だからこそ今までの彼は自信家であったし、それに見合った実力があると周囲も評価していた
「ようは腕試しってことか」
「その通りだ」
「いいよ、どこでやる」
「いいのですかルード、ジギに確認しなくて」
「いいよ、この人は強くなろうとしているんだ。ジギもテオも反対しないよ」
「ありがとうございます。では修練場に案内致します」
「ちょい待ち隊長さんよ。独り占めってことはしないよな」
「フォルカー、貴方もなの」
「俺は何人でもいいよ。何なら全員でやってもいいよ」
「さすが、話がわかるね」
見学と言う形で他のもの達もついて行ったが、ラウルだけは誰もいないと困るかもしれないとその場に残った
「ラウルは何かあったのか」
「あれだけのことがあったからね。次の日に剣を握ろうとする貴方達が異常なのよ」
「それについては否定出来ないな」
修練場についたら、ガスパールがいた。他には彼の部下数名がいるくらいだった
「どうしたクリストフ、使節団の方をこんなところにお連れして」
「気にするな、手合わせを頼んだだけだ」
素っ気なく返すクリストフにガスパールは興味を持ち、部下たちにも鍛錬を止めさせた
クリストフとルードウィクの手合わせは多少粘りこそすれどあっけなく終わった。当然ルードウィクは王の力を使わなかったが、純粋な剣技においてもクリストフを軽く凌駕していた。
フォルカーやガスパールなども続いたが、同じ結果となってしまった。
それに誰もが息を飲んだ。誰もルードウィクに勝てるものがいるとは思わなかったが、それは王の力が前提となっていた。まだ騎士学校を卒業するくらいであろう年齢の少年に騎士団の精鋭が全く歯が立たないとは思ってもいなかった。ルードウィクがこの年齢でそれだけの剣術を習得したのは王の力の所以であるが、少なくとも彼らはそのことをしらない。
「まさか、ここまでとは」
「3人も結構強いよ。明の国でもそれだけの使い手は数えるほどしかいなかったし」
ルードウィクは彼らを褒めたが、素直に喜ぶことが出来なかった。つまりはそれが普通の人間の限界だと断言されたように思えたからだ。
「それではルードウィク殿、我々はこれ以上の強さは望めないということか」
真剣な目をするクリストフにルードウィクは嬉しそうに答える
「そんなことないさ。バティストの爺さんは何度も人生を繰り返すこと以外は普通の人間だった。だから不可能じゃないよ」
ルードウィクはそうは言ったものの、それが容易いことではないのは誰しもがわかっていた。バティストの多大なる経験に基づく強さも女神から与えられた力によるものだ。
それでも泣き言を言う者はここにはいなかった。王だけがいればいい時代などもとよりなかったのだ。王を作った女神、それすら超えうる存在である魔王がいることを彼らは知っている。そして、それに頼ることなく邁進するものがいる者がいるということも。フェリシア、そしてテオドルス、特にテオドルスは剣技においてはこの3人に数段劣る。そんな彼が魔人を倒すに至るまでとなったのだ
ルードウィクが理の国に滞在するほとんどの時間を騎士たちと手合わせをして過ごした。多くのものはあまりの力量差に参っていたが、それでも何度でも立ち上がる者たちに心を動かすものも少なくはなかった




