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nobody   作者: 福郎 犬猫
そして少女は魔女になる
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欲望と覚悟3

「頼むな」

ジギは言葉を失っていた。(コトワリ)の国への使者として自分が行くことについて拒否するつもりは全くない、まさかテオドルスが行かないとは予想しいなかったからだ

当のテオドルスは素知らぬ顔で、書類を読んでいた。当然これは理の国に渡すの書状であり、内容に不備がないのかを確認している。(アカシ)の王と協議をして、決めたものだそうだ

「どうしてだ。あの国には女神の間者がいるんだろう。それにお前も何かと因縁があるだろう」

因縁とは、理の国からして見ればテオドルスは王殺しの重要参考人であり、長らく身分を偽って騎士団に潜伏していた。協力関係を築くにあたってそれを解消するのが最優先事項だとジギには思えた。だからこそこの使節団はテオドルスが率いるものだと思っていたが、実際は(アカシ)の国の大臣ダルンが中心となるもので(ツルギ)の国は謂わばおまけのような扱いのようなものになっていた

「お前とルードがいるのなら、何も問題はないよ。それにあいつらは少なからず知ってしまったんだ。会談の席を用意しないなんて愚かなことはしないはずだ」

「だが間者の方はどうするつもりなんだ」

「それこそルードがいる。それにあいつに敵わない相手ならどのみち俺達に未来はない」

「相手は国の重鎮なんだろう。おいそれと剣を抜いていいのか」

「むしろ、相手が剣を抜く前に殺せるならそれが一番いい。相手は理の王が戦闘を避けていた相手だ。立ち回りが上手いだけならこんな回りくどいことにはなってない」

「仮に殺せたとしても、こちらから手を出したら会談にならないだろう」

「その時は理の王直々に出てもらえばいい」

「それで簡単に治まるとも思えないが」

「まあ、こればっかりはブレイズやダルンを信頼するしかないな。お前はとにかく同盟とフェリシアのことに注力してくれればいいさ」

テオドルスはそう言って書面にまた目をやる。ジギは全てに納得することは出来なかったが、半ば諦めに近い感情で自信を納得させた。戦闘においてもう自分が役に立てることはないのだから、名代という責務を果たせないのなら自分に価値は無いのだと


ジギは帰りの船の中で理の国に行く前のことを思い出し、憂鬱な気分になっていた。

「どうしたジギ、船酔いか」

オルティノがジギの様子を見て、声をかける。オルティノ自身もジギが船酔いでないことはわかっている。そう声をかけたのはジギの内心を察してのことだった。オルティノとロゼッタはフェリシアの他国遠征への同行をするはずだったが、甚大な被害を受けた理の国にはすぐに事に移るだけの余力などなく、3ヶ月の猶予を求めてきた。それを無理強いすることなどその場で出来ることなく、一度引き返して王の判断を請う形となった

「違う」

「そうか」

ジギは顔を俯かせたまま答えた。オルティノはその様子に言葉を探したが、上手い言葉は出て来なかったので観念して思いの丈を話す

「お前はよくやった。お前がいたから理の国と友好的な関係を築けたんだ」

「慰めはいいさ」

「そうじゃない聞け、確かにダルン殿に言われたことは正しいのかもしれないが、それはテオがお前に求めたことと違うのではないか」

「そもそも俺に大したことは求めてないってことかよ」

「不貞腐れるな。お前はテオの命を忠実にこなした。それは事実だ。それは俺やルードウィクには出来ないことだ」

「でももっと上手くできた。いや、やらなければいけなかったんだ」

「少なくともあの方は貴方を避難することはないでしょう」

ソラスが何処からともなく現れた

「何だよ、いきなり」

「いえ、他国を思ってのあなたの言動は陛下に通ずるものだ。あの方こそ一国に収まる器でないのですから」

自分を慰めに来たのかと思ったが、ただテオドルスを称賛しに来たソラスに少し呆れながらも気分は少し軽いものになったのを感じた

その時膝の裏に強い衝撃を受けてジギは体勢を崩した

蹴られた方向を見るとそこには明の国のレイがいた

「何するんだ」

「キモかったから」

レイは堂々と胸をはってそう言いのけた。如何なる理由があったとしても、他国の臣下に対してしていい行動ではないのでジギはそれを言おうとした時

「こんな隅の方で男だけで集まって、メソメソと傷の舐め合いなんて見てられないわよ」

「メソメソなんて」

「していたわよ。他国の大臣が乗る船でもあるのよ。王の名代というのなら自国に戻るまで気を緩めるんじゃないわよ」

何も返す言葉がなかった。何処かで明の国は自分たちの仲間だとそう甘えていたところがあった。それはいくら友好的とはいえあってはならないことだった。それは王の顔に泥を塗る行為だと言うことを

「すまなかった。気をつける」

気づけば素直に謝罪していた。レイはそれをみて少し心配そうにが微笑んで分かればいいとその場を立ち去った

「良かったではありませんか、女性に慰めもらえて」

「あれは慰められたといえるのか」

ジギは一息ついてから他の二人を見る

「ありがとな、もう大丈夫だ」

オルティノは安心した様子でそうかと返したが、ソラスは何も言わずまた姿を消した。ジギは残りの時間で報告する内容をまとめるために部屋にこもって過ごした


明の国の王宮に着くとジギ達は報告するためテオドルスの姿を探すことになった。迎えにきた使用人聞けばテオドルスはいつも通り中庭でサンラーと稽古をしているそうだ。中庭に着くとテオドルス達は話に聞いていた通り稽古をしていた。一度テオドルスがサンラーに一撃を入れてからサンラーの稽古は激しさを増した。彼らが知る限りではテオドルスはそれに対応できていなかったが、少しその猛攻について行けているように見えた。

しばらくその様を見ていたが、テオドルス達もジギ達に気づいて稽古は終了となった。

ジギは船でまとめた報告内容をテオドルスに伝える。ジギ達が来る前にバティストは既に第一王子ジュリアンを手に掛けたことや天使の軍勢が押し寄せていたこと、会談の内容を全てそれを聞き終えたテオドルスは神妙な顔をやめて

「ありがとうよくやったよお前たちは」

「それだけか」

「確かに話し合う内容はいくつもど、長旅で疲れただろう。明日にして早く休んだらいい」

「そうじゃなくて、俺達は多額の負債を背負うことになったんだ。そのことに何も思わないのか」

そこまで言われてテオドルスはジギが何を言いたいのか理解した

「そうだな。俺は女神や魔王を倒すことを最優先にして、どれだけ痛手を負おうがいいと思っていた。それが間違いだったんだ」

テオドルスは申し訳なさそうな顔でジギ達を見て続けた

「もっとちゃんと未来の事を考えないとな」

そう言うテオドルスは少し嬉しそうにさえ見えた。

そこでジギは始めて理解した。テオドルスが魔人や天使と渡り合うことが出来たのはその誰よりも必死に言葉通り命を賭けていたからだ。そうテオドルスは誰よりも優れているわけでもなく、完璧な存在でもなかったのだ。出会った時にはそんなことを思っていなかったが、いつしかテオドルスと自分たちは違うと彼の言動は全て正しいのだと勘違いをしていた。

眼の前にいる人間は誰よりも必死なだけの普通な人間なのだから過ちも不可能なこともいくらでもあるのだから、そんな彼に必要なのは彼の命を忠実にこなす者ではなく、彼の過ちを正し、助けになる人物なのだと

ジギはそれが自分に課せられた使命ではなく、ただそんなテオドルスの助けになりたいと始めて心からそう思えた

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