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nobody   作者: 福郎 犬猫
そして少女は魔女になる
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欲望と覚悟2

「何があったんだ」

言葉を発したのはジギだったが、周囲も同じ思いだった。今までサンラーに対して手も足も出なかったテオドルスがサンラーに膝をつかせたのだ。それも一撃も攻撃を入れることなくだ。最後のサンラーの一撃は間違いなくテオドルスを捉えていた、その間テオドルスから攻撃をした素振りは一切なかった

ふとルードウィクは隣にいたユージン王の顔を見るとその顔は驚きと興奮を隠しきれていなかった。そこにルードウィクは不信感を持つた恐らくユージン王はテオドルスが何をしたのか事前に知っていたはずだ。それなのに皆と同様に驚いている。それほどのことがあの一瞬に行われているのだろうかとルードウィクが思案しているとテオドルスの声が聞こえたのでそちらへとまた注意がいく

「それで一撃いれたら、この稽古の理由を話す約束だったよな」

「そうだったな。約束は守る。稽古が終わったら話すとしよう」

「おい、話が違うだろ」

「焦るな小童、物事には順序というものがある。早く構えなさい」

サンラーは立ち上がり、構える。それから一呼吸でテオドルスの方に駆ける。テオドルスは構えていなかったので遅れを取ってしまい、またも防戦一方となる。サンラーの攻撃を今までと違い、傍目で見ていても軽くなったことがわかる。テオドルスを一撃で沈めさせるような重い一撃がなくなった。それでもテオドルスが攻めることが出来ないのは、軽いものの素早い攻撃の連打に体制を整えることが出来ない。テオドルスはその中でも攻撃を試みるも当然のようにいなされて、隙の出来たところに重い一撃が入る

「こんなものか、やはり曲芸しかできぬのか」

テオドルスは何も言うことも出来ない様子だった。そこからサンラーも口を開くことはなく稽古が続けられた。その中でテオドルスは膝をつかせることはおろか攻撃をいれることはなかった。その様子はまるで力の差をはっきりとわからせるかのように一方的だった

「そろそろ日が暮れるな。今日はここまでにするか」

そうサンラーが言う頃にはテオドルスは息も絶え絶えとなり、足はおろか手も地面についていた

「おい、約、束」

テオドルスはなんとかこの言葉だけをひねり出す。

「だから焦るなと何度言わせる」

サンラーは少し呆れながらも使用人に水を持ってこさせるように言う。2人分の水が用意され、テオドルスはそれを一気に飲み干し、呼吸を整える

「それで俺に何をさせたいんだ」

「せっかちじゃのう、まあ良いか。別にワシがお前さんに望むことは何も無い。強いて言うならただの興味だな」

興味

テオドルスは耳を疑った。この老人に何か自分には思いも寄らない考えがあるのだと心の何処かで期待していた。それなのにサンラーはそれを笑うかのようにただの興味だと言ってのける

「興味だとふざけるな。こんなことをして一体何になるんだ。」

「おや、お前さんは自分に武術の才があるとでも思ったのか。ならそれは勘違いだ。済まなかったな期待させて」

サンラーは誂うかのように言う。テオドルスは確かに始めは少しの期待はあったが、その期待が途中で違うことを理解していた。むしろ自分には才がないのだと痛感していた

「それでその興味ってなんなんだよ」

テオドルスには怒りの感情はなかったが、サンラーはそれをつまらなさそうにしながら答えた

「覚悟だ。覚悟だけで人はどこまでの高みに行けるのか」

「覚悟」

「お前さんはもうとっくにしているのだろう。死ぬことや大切なものを捨てる覚悟を」

死ぬ覚悟

それはテオドルスにとって当たり前のことだった。大きな力を持たない彼にとって天使や魔人を相手に我が身を守りながら戦うことは出来ない。だからこそ以前臣下たちに大義のため、国のために死ねと言い、テオドルスも最後の1人として今もそれに準じるつもりだ

「だから何だっていうんだ」

「それが悪いとも思わんよ。そのお陰で魔人を2体葬った。だからこそもうお前を侮らない。誰もこれから命をかけた曲芸に騙されんだろうな」

「だからって、俺に何が出来るっていうんだ。俺にはもう何も無いんだ」

それを言うテオドルスの様子はまるで玩具を取り上げられた子供のようだった。

「本当にそうなのか。お前は何ももっていないのか」

サンラーは優しく問いかける。それでもテオドルスには答えることが出来なかった

「お前さんの魔術はなんだ。体裁きは一体誰が持たせてくれたものだというんだ」

「それは」

「確かにお前の考えていることは正しい。お前は多くを持たない。それに特筆する物もない。そんなお前が何かを捨て去ることにどれだけ価値があるというのか」

「だから諦めろっていうのか。他の奴に任せろって」

「それも一つの答えだ。お前より優れたものなんぞいくらでもおる。少なくとも(ツルギ)の王、(コトワリ)の王を動かした今、十分役割を果たしたとも言える。それでもお前さんが戦場に生き場を見出したのはどうしてだ」

彼が今まで戦い続けていたのは、亡き育ての両親の無念を晴らすことだった。それが全てのはずだったのに今はそうだと言い切れない。

テオドルスの当初の目的は既に果たされている。そのためなら自分の命を使うことに戸惑いはなかった。現にテオドルスはスタッドの街で一度己の命を目的のために捨てた

「答えられないのならそれも良い。だからこそお前のそのちっぽけな命一つを賭けたところで一体何が出来るというのだ」

テオドルスの中に答えはなかった。サンラーの瞳は労るように優しいものになっていた

「なら聞くが、お前の望みはなんだ。何を欲している」

何かを望む。テオドルスは考えたことがなかった。正確に言うのなら考えないようにしていた。自分にはその資格がないとかんがえていたから

もしそれが許されるというのなら、そのとき頭に過ったのは、死んだ育ての両親のこと、オルゲンや死んでいったもののこと、それよりも強く現れたのはフェリシアだった。そして臣下のこと、理の国での生活の全て

「   欲しい」

「何と」

「明日が欲しい、ただ当たり前にくる明日が欲しいんだ」

テオドルスの声は震えていた。その単純な願いが許されないものだというかのように

「そうか、そうか」

サンラーは満足げに嬉しそうな様子だ

「俺はどうすれば良い」

「知らん、そんなもの自分で考えろ」

テオドルスは瞳を大きくなる

「そうだな、強いて言うのなら。お前が持っているそのちっぽけな物を掻き集めて、そして積み重ねるのだ」

テオドルスは何も言わずにサンラーを見る

「死ぬ覚悟だけでなく、生きる、生き続ける覚悟を持て、それがお前の欲望を叶えられるとワシは考えておる。」


少し離れたジギとルードウィクはテオドルスに見た瞳は以前と同じ強いものだったが、また別の物となっていた

それからテオドルスは自らサンラーの元に訪れるようになった。

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