傷を癒やす暇もなく3
「しかし、無償での変換だと私達は納得したとしても、多くの民は納得するものでしょうか。もちろん貴方方が提供する情報に相応の価値があるのでしょうが」
ベルトランはダルンを見ながら尋ねる
「その件についても考えておりますよ。相応の金額を用意しましょう。無論今の剣の国に不可能なので、将来的な返済という形はいかがかな。あとは我が国からも復興支援という名目で金銭の支援を致しましょう」
「それはありがたいのだが」
オーギュストは不可解な様子だった。彼らからすると無用の土地が金銭に変わるのだから悪くない条件である。ただ、剣の国にとっては国を取り戻せるとはいえ多額の借金を抱えることになる。明の国はともかく剣の国はそれを承知するのだろうかと
「この件に関してはテオドルス殿の発案なので、無論剣の国も承知の上なのでご安心を。逆に言いますとなそれ以上の譲歩は致しかねるということになりますが」
ダルンは言い終わると、2つの書状を部下に渡すように指示した。そこには剣の国、明の国それぞれの契約状で十分な金額が記載されていた。
「これで納得してもらえますか」
ジギが尋ねる。アレクサンドリーヌはオーギュストや各隊長を見て答える
「わかりました。領土の変換については、その条件で異論はありません」
「ありがとうございます」
ジギが頭を下げる。
「それでは、5カ国の会談への参加と使者の件も引き受けていただけますかな」
「会談については是非参加させて頂きたいです。使者についてはフェリシアを指名する理由をお教えください」
「それを話す前に情報を提供させてください。我王からマティアス殿、ラウル殿に以前情報提供をしたので少なからず事情はご存知だとは思いますが」
ジギが語る
女神と魔王の御伽話は概ね真実であること。言い伝えでは魔王を退けたとあるが、それは封印を意味しており、その封印は既に解かれていること
バティストは天使、女神と内通、ないし配下であり、過去にディートリヒ、レオノールを殺害した事実がある。その時に天使を従えていた事から間違いないこと
「待て、それではテオドルスはこの国にいた時からそこまで知り得ていたというのか」
ガスパールがジギの言葉を遮って叫ぶ
「そうですね。私は全てフェリシア殿の家族の世話になる前のことだとお聞きしています。バティストの件についてはそういう人物がいることは把握していましたが、人物の特定には至らなかったそうです」
ジギはガスパールに反して冷静に答える
「何故黙っていた。事前に知っていればどれだけ被害を抑えられたかわかっているのか」
「ではお聞きしますが、出生も定かでいない子供の言うことを誰が信じると言うのですか。それに貴方方には教えていませんでしたが、ブレイズ王には全て伝えてありました」
「待て、王とテオくんが繋がっていたというのか」
「ええ、そのとおりです。ブレイズ王はテオドルスの両親と交流があったのでその縁で、直接話をしたのは彼がこの国を出る時が最初で最後でしたが」
「ではどうやって」
「彼はバイアーという名前の鳥を使っていました。それに手紙をつけて情報共有をしていたそうです。心当たりはありませんか」
そこまで言われてベルトランは納得した。テオドルスの周りには派手な色の鳥がいたと聞いている。それが伝書鳩の役割をしていたとのことだ、モンタグ村民の大規模移動もバイアーによって、情報を伝えたという可能性が高い。そしてブレイズとテオドルスが協力関係にあったということは、おそらく自治区にいたマティアスの父であるアンソニー・ローランも王の指示で動いていたということだろう
さらにそのバイアーがここ半年はフェリシアの元にいたのだから、フェリシアも何か知り得ているのではないかという疑念はここで振り払うことにした
「わかりました。そう言われるといろいろと納得のいくことがあります。ではブレイズ王の死因について貴方方はご存知ということですね」
ジギの瞳が少し大きく開いた
「そうですね。そもそもテオドルスの逮捕からブレイズ王の死までの一員はその2人の共謀ですから」
「王は自ら命を絶ったというのか、なんのために」
「女神、バティストを出し抜き、時間を稼ぐためです。」
「バティストか」
「はい、バティストの影響力は騎士団においては王を超えるものだった聞いています。多くの騎士が一度は彼に教授され、いたく尊敬を集めていたとか」
「それはそうだが、王の力があればバティストを葬ることはできるのではないか」
「そうですね。ただその場合女神の実在を我々が把握していることが察知されます。お二人はそれを避けるためあの偽装を行いました」
「偽装ということは、王は生きているのか」
「すいません言葉を間違えました。あの死体はあくまでブレイズ王自身のものです。彼は肉体を変えて今もなお生きております」
「では、王の力の継承が確認できていないのは」
「王の力は今なおブレイズ王とともにあります」
「な」
一同は開いた口が塞がらない思いだった
「それでは王はこの国にいるということなんですね」
そういうベルトランの脳裏には天使アルマロス、魔人ボティスの時の炎は王が付近にいたからだと、そしてフェリシアはあの時アレクサンドリーヌに対して力の使用を指示していたことから彼女もそのことを知っていたのではないかと言うことを
「その通りです。ただブレイズ王についてはこれまでとさせていただきたい。時が来れば王自ら姿を現せることでしょう」
「そんなこと納得できるか、今回王がいればどれだけの命が救われたと思うのか」
「落ち着け、ガスパール」
「しかし」
「そこまではテオドルス殿とブレイズ王の計画といことですかな」
「その通りです。此度は王の力が失われていないことを天使、魔人に知らしめることが出来、かつその所在を明かさずに済みましたので」
理の国陣営がジギを見る目が鋭くなる。ジギも当然それを察していたので
「ですから、貴方方には王の力に変わるものがあるではありませんか」
誰も口には出さなかったが、フェリシアのことを指していることが容易に察することが出来た
あの光景を見ると彼女が王の力に匹敵するのだと少なくともテオドルスとブレイズはそう判断しているということを
「では時間稼ぎというのは」
「他にも理由がないわけではありませんが、大部分はフェリシア殿が力を蓄える時間を作るためでした。その結果フェリシア殿は我々の想像を超えるものとなったわけです」
「では彼女を使者とするのは」
「ええ、単独で天使、魔人に対応できてかつ王でないものはフェリシア殿しかいませんので。それに他国に王の力なくして王を超える者がいることを周知する目的もありますが、その時には従者としてこちらのオルティノとロゼッタを共にさせます。特にオルティノは牙の国では役にたつことでしょう
王を超える。この世界において誰が聞いても与太話だとほとんどが笑うだろう。だがそれが今現実なっている
「話は変わるが、女神や魔王は王をもっても対抗できないのか」
「少なくとも言い伝えにある通り王の力は女神が与えたものだった場合は単独ではとても叶わないでしょう。ですのでフェリシア殿を筆頭にして5人の王が集結するのが最低条件だと王は判断しております」
「魔王は本当にいるのですか」
「はい、17年前の戦争は魔王が手引したものですから」
ジギは混乱していると一同を気にせずに話す
17年前より以前に剣の王の側近だった男が言い伝えの魔王である可能性が高いということをその男が剣の王を操り、理の国への侵略となった。剣の王を止めに行った王弟ディートリヒとレオノールが戦闘となり、その結果レオノールが剣の王を殺害することにより戦争が集結したこと。男は以降姿を現さなかったが、8年前ディートリヒ、レオノールがバティストに殺害された後に現れたのだという。
魔人が生まれたのはその後だったと考えられることを
「そもそも魔人とは何なんだ」
「我々もその多くは把握しておりませんが、王の力のように固有の力を有しており人でないものとしか。そして魔王が生み出した存在ということは間違いないでしょうか。そして現在確認できている魔人はここにいるソラスを含め4人です。内2名の討伐はしたので、この世にはいないはずですが」
「アバドン、グシオン、オルニアスという魔人以外にも交戦したということですか」
「オルニアスという魔人は知りませんが、エネプシユスという幻を操る魔人に襲撃されました」
「それで勝ったと、やはり王の力には叶わないということですか」
「エネプシユスを討伐はテオドルス様が単独で果たしました」
「彼も何か特別な力があるというのか」
「いえ、あの方に特別な力、大きな力は有しておりません。」
話によれば、アバドン同様に魔人固有の力を攻略したのだと。魔神には基本的に人間でいう心臓の部分に核があるのでそこを破壊すると存在が保てなくなるということが、テオドルスの見解だと




