傷を癒やす暇もなく2
「この度はかような機会を作って頂き感謝致します。私は明の国バングラフ、ユージン・アラム・レイゼイ王の名代で参りました。ダルン・ホーと申します」
「同じくレイ・アミンです」
ダルン・ホー、明の国の重鎮であり、王の右腕
本来なら他国への使者で来るような人物ではない。そのことは理の国の陣営も理解している
「いえ、こちらこそ満足に饗すこともできず、申し訳ありません。私は理の国第一王女、アレクサンドーリーヌ・ルネール=ド・シュヴァリエです。遠路はるばるようこそおいで下さいました」
アレクサンドリーヌからは普段の落ち着いた様子もなく、緊張の色が見える。王であるブレイズ、第一王子ジュリアン亡き後、彼女が矢面に立つしかない。まともに国の運営に関わる経験のない彼女では心許ないが、他国からの使者ましてや重鎮であるダルンに王の後継がいないと悟られないためだ
それも剣の国、事情を知るであろうテオドルスが関わっているなら無駄なことかもしれないが、それでも彼らには国としての体裁を保たれていると自国の人間に知らせるためにもそうせざるを得なかった
「いやいや、王無き状況で天使の軍勢と魔人を退けるとはまことに感服いたします。是非とも援助をさせて頂きたい、人員、物資必要な物がありましたら申し付け下さい」
「いえ、そんな」
ダルンの急な申し出にアレクサンドリーヌは困惑する。その様子はまるで大人と子どもであった。ダルンはたどたどしいアレクサンドリーヌの振る舞いに急かすこともなく、ただ温和に見守っている
「ダルン殿、復興の話はあとにして本題に移りましょう」
アレクサンドリーヌよりも先に言葉を発揮たのはジギだった
「ジギ殿、彼らは昨日被害に合われたばかりなのだ。あまりこちらの都合だけで話を進めてはいけない」
ジギは少しアレクサンドリーヌを気の毒そうに見て黙った
アレクサンドリーヌはなお言葉に困っていたようであったので、とうとうオーギュストが口を開く
「ダルン殿、お気遣い感謝します。ですが、今回は我々だけで十分手が足りております。私共としては貴国の王の言葉をお聞きしたい」
オーギュストの言葉を聞いて、ダルンの温和な表情が変わる
「それでは今からお話する内容は、全て我王ユージン・アラム・レイゼイ。そしてテオドルス・フォン・エスターヘルム殿のお言葉としてお聞きして下さい」
ダルンが話した内容は以下の内容だった
・天使、魔人に対抗するため5カ国全てが協力してことに当たることが必要あるため、その同盟に参加要請
・現在理の国の自治区となっている旧剣の国の地域をテオドルス・フォン・エスターヘルムに変換すること
・以上の2点に賛同するのなら、テオドルス・フォン・エスターヘルムが知りうる情報を共有する
・そのうえで命の国、牙の国の二カ国には使者として、理の国からフェリシア・ベルーナを指名する
ダルンは従者に命じて、理の国陣営に書状を渡した。そこに書かれた内容は先程ダルンが述べた内容と一致しており、明の王とテオドルスの署名がされていた
「いかがですかな」
ダルンはアレクサンドリーヌを見て尋ねる。当然アレクサンドリーヌにすぐ返答できるわけもなく、またしてもオーギュストが尋ねる
「ダルン殿、少し待って頂きたい。かような話を急にされましても」
「貴方方の心中を察するのは容易い。ですが、もう知っているはずだ天使、魔人、そしてその上位存在による脅威を。此度は礼を失する行いについては全てが終わったあとなら如何様にも詫び、必要となら私の首を差し出す所存です」
ダルンの剣幕に一同が押し黙る。
「ですが、いきなり来て急にそちらの要件を一方的に話されましても、やはりこちらが納得できるほどの説明をお願いしたいですね」
ベルトランが始めて口を開く
「それもそうですな、では何から説明いたしましょうかな」
「天使、魔人と言われる存在について、そして剣の国を復活させる理由についてお聞きしたいですね。それから使者にフェリシア君を指名した理由も」
「ははは、そうですね。順番に話せる範囲で説明しましょうか」
ダルンは少し上機嫌に話し始める
天使、魔人については、現段階では詳しくは話せないが、どちらもが人類の敵であること
剣の国については、理の国全王ブレイズの意向により、自治区とはされているがその運営にほとんど関与していなかったことから手放したところで理の国にはなんら影響がないこと、フェリシアを使者に指名したのは、テオドルスの強い意向であり、こちらも詳しい内容を話すことは禁じられていること
「何の説明になっていないのではないですか」
「最初に述べた通り、すべてを話すには我々に協力することが条件になりますので」
「もう、やめにしよう」
ルードウィクが急に大声を出した
「あーもー、いらいらするなぁ。これから協力しようって言いに来たのに何で腹の探り合いなんかしなきゃいけないんだよ」
「ルードウィク殿、お静かに頼みます。貴方の仕事はもう済んでいるはずだ」
「だから何だよ、こんな弱いものいじめみたいなことに俺を利用しやがって」
「落ち着けルードウィク、ダルン殿もこの国がどういう状況か理解しているはずだ」
ダルンに突っかからるルードウィクをジギが止める
「あの」
アレクサンドリーヌが意を決して話しかける
「どうされましたか」
「ご存知の通り、この国には王がいません。本来後継となるべき兄も失ったばかりです。」
「そうですね。その件についてはお悔やみ申し上げます」
「ですから、私達はわからないのです。何も知らないのです。どうかお願いします」
アレクサンドリーヌは頭を下げた
「王女様、頭をお上げ下さい。一国の元首としてそのようなことをされてはいけません」
「いえ、私には皆のためにこんなことしかできません。どうかお願いします」
「わかりました。全てお話します」
アレクサンドリーヌの懇願に答えたのはダルンではなく、ジギだった
「その後に我々に協力するかお決めください」
「ジギ殿まで、どうされましたかな」
「いえ、ダルン殿が遠い未来のことまで考えて行動しているのは理解しているつもりです。ただこの状況は我が王が許すものではないと思いまして」
ジギは理解していた。一連のダルンの言動は国の変換という無茶な要求や事態解決後の立場関係を考えてのことであると一国の使者としては自国の利益を追求するのは当然のことであると、それでもこの国を追い込むことはテオドルスが望むものでもないということを
「ロゼッタ、ソラス、俺の側に来てくれ」
ロゼッタとソラスは何も言わず、ジギの背後に立つ
「理の国の方々、今から我々が知っていることをお話します」
「ありがとうございます」
アレクサンドリーヌは再び深くお辞儀をした
ダルンは少し呆れたような嬉しそうな表情でいた。フェリシアはそれに違和感を覚えたが、ジギが話し始めたので、そちらに目をやる
「皆さん、私の名前はジギ、ご存知だと思いますが、以前はこの国でジャンと言う名前で活動していました。今ではテオドルス様の臣下です」
「それについては、部下から報告を受けています。ルードウィク殿のことも、ロゼッタ殿、ソラス殿についても」
「そうですか。話が早くて助かります。現在テオドルス様の配下には天使と魔人がそれぞれいる状況になります。ですがロゼッタは女神の元を離れて十年ほど経っており、ソラスについてはテオドルス様の従者ではあるが、人間の味方というわけではありません」
「つまり、その二人から有益な情報は手に入らないということですかな」
「そうですね。ですが、二人は決して害あるものではありません」
「こちらも報告を受けているが、それを信じるという証拠は」
「それについては、我々を、いや我が王テオドルスを信じていただくしかないですかね」
「そもそもテオドルスとは何者なんだ」
「王弟ディートリヒとレオノールに育てられはしましたが、直接の血縁はありません」
「それは本当なんですか」
フェリシアはつい声を荒げる。たしか以前彼は自分のことを孤児と言っていたが、それはその二人の死後のことだと思っていた
「あくまで本人からの話ですが、幼少期に拾われたそうです。それ以降については本人も記憶にないそうです」
「待ってくれ、それでほ王族の血を引いていないものが王になっているというのか」
「そうだよ。王の力を受け継いだのは俺だけど。俺はテオに仕えているからな」
「それは一時的というわけではないのだな」
「そうです。我々は貴国から領土の変換後、正式にテオドルス様を王となる予定です」
テオが王になる。フェリシアもマティアスから話は聞いていたが、本人から聞いていないことからまだ実感はわかない
ただテオが遠い存在になったということを突きつけられたことにフェリシアは悲しさや悔しさと違う言い表せれない思いを抱いた




