粗雑な魔女9
街を見渡して、考える
やはり救助より天使をどうにかすることが先決だ
それなら瓦礫をすべて天使たちにぶつけるか
そうすれば天使達を落とせるかもしれない
その考えに至った時にまた違和感を感じた
その違和感の正体が何なのか、気付いた
私は敵でも傷つけたくないようだ。それを皆に言ったら、怒られるだろうか、それとも呆れられるかな
もっとわがままになっていい
それは姉さんに言われたんだったかな、いやおばあちゃんだったかな
頭の中で無数のイメージが浮かぶ
多分今の私なら天使たちを傷つけず、無力化できると思う
それなら、自分の心に従おう
天使たちを傷つけることなく、皆を守る
そうなるとまずは天使たちを捕まえてしまうのがいいだろう
それだと岩や石だと怪我をさせてしまうかもしれない
それならいっそ砂を使おう
砂で優しく捕まえてしまえばいい
そのイメージを固めて
「ファンドル・ガルドゲドクス(砂の大蛇よ)」
瓦礫が塵のように集まって来て、すぐにそれは大きな大蛇の形となった
「ナファム(捉えろ)」
砂の大蛇は天使たちにめがけて、宙を舞った
大蛇は次々に天使たちを飲み込む
息が出来るように、頭は出すようにして大蛇は天使たちを飲み込んでいく
「何が起きているというのだ」
チャミュエルは異様な光景を前にして、流石に狼狽える
部下たちが砂の塊に飲み込まれていくのだ
防御壁を使用してもそれごと飲み込む、飲み込まれると頭のだけ出されるので生死の確認はできるが
これではまるで神の戯れのように感じた
この目の前の神になり得る少女は既に敵を葬るだけなら、そう難しくないことを理解してしまった
戦いの手を止めたのは、フォルカーとリオネルも同じでこの光景を見ることしかできなかった
この神のいや悪魔の所業のような光景を作り出しているのは、フェリシアという心優しい少女だと言うことを目の当たりにしても理解が追いつかない
一番最初に我に帰ったのはチャミュエルだった
チャミュエルはフェリシアに向けて槍を放つ
迫りくる槍にフェリシアは気づく様子がまるでない
「危ねえ」
フォルカーが何とか槍を受け止める
続けてリオネルが槍を弾き飛ばした
弾き飛ばされた槍は主の下へと戻る
チャミュエルは槍を構えて、フェリシアに向けて突進する
フォルカーとリオネルがそれを迎え撃つ
直ぐ側で激しい剣戟を繰り広げられているが、フェリシアはそれに気づく様子はない
「お前たちでも理解出来ただろう。あれはもう人間の枠を有に超える存在だと」
「そんなもん始めからお前が似たような事を言っていただろうが」
「あら、よくあることじゃない。美しい花には棘があるって」
「そんな簡単な話ではない」
チャミュエルは槍を回転させて、フォルカーとリオネルを薙ぎ払った
「主に背くことになったとしても、それでも」
チャミュエルは震える手で槍を構える
その時、砂の大蛇が主を守るかのようにチャミュエルに突進する
チャミュエルはそれに気づくと逃れるために
上空へ目指す
そこで始めて気付いた
王都を攻撃する配下の天使がいないことに
天使の多くはさらに上空に避難していた
ある程度の高さまで行けば、大蛇は追ってこないのだろう
そして大蛇は王都を守るかのように上空を漂っている
天使達はこの大蛇を攻撃することが出来なかった
大蛇に飲み込まれて姿を現している同朋に巻き添えの心配があるからだ
フェリシアの意図したところではないが、同朋を盾にされたような状況となった
静寂の時が訪れた
誰もが理解を超えた状況に戸惑っている
最初に声を上げたのはフェリシアだった
「あのチャミュエルさん、天使さんたちもう止めて帰ってください。そうしてもらえるならお仲間もお返ししますので」
天使達にはその様子が無垢な少女がする願いのようにも見えたが、神が行う忠告や脅迫のようにも感じられた
アルマロスに向けて短剣を構えるクリストフ
アルマロスの側には配下の天使が1人
反対側のイネスとトーマスの状況もわからない
ただ背後から天使たちが来ないことから、まだ生きていることは理解できる
アルマロスと先ほどまでは愉快そうにしていた天使は無表情でこちらに来る
王女たちではなく、クリストフを狙っていた
クリストフは短剣で応戦するが、使い慣れていない短剣では先ほどのようにいかず苦心する
アルマロスの猛攻は止まらない
それにはクリストフだけでなく、配下の天使も戸惑った
本来ならば強者に対しては、アルマロスを魔弾で援護する手はずなのだが、アルマロスはそのタイミングを一向に与えない。これではアルマロスに魔弾が当たってしまう
「どうした様子がおかしいな、先ほどのように楽しそうにしないのか」
「君がもっと弱ければ、王女なんか見捨てる意気地なしなら楽しめたのに」
「どういうことだ」
「人間なんかに一撃を入れられるなんて名持ちの恥だ。君のせいなんだよ」
アルマロスが怒りを向けてくるのは理解できた。どうやらこの天使は、一人でクリストフと形を付ける気でいるらしい
これは一見事態が好転したように思えるが、クリストフには分が悪い
愛剣ならば互角に戦えたことだろう
だが今は、使い慣れていない短剣だ
それに王女への渡しものだからといって、切れ味よりも装飾に拘ったものだ
こうなるとわかっていたのなら、素直に装飾品と真っ当な短剣を渡せば良かったと後悔する
「俺を殺したとしても、お前の汚名が消えることはないのだから。素直に帰って、主とやらに泣いて許しを請うたらいいだろ」
「うるさいんだよ、その時はお前の首を土産にしないと格好がつかないだろう」
このアルマロスという天使
怒りに我を忘れているようだが、その分剣も感情を乗せるように鋭くなっていく
下手な挑発は悪手のようだ
それでもクリストフに怒りが向いているうちは、王女達の安全が約束されていることに少し安心する
当初の目的通り時間稼ぎに徹することにする
しばらく切合をしていたことで、防御に徹するクリストフに痺れを切らしたのか
「あぁ面倒くさいな、早く死ねよ」
アルマロスは魔弾を放とうと手をかざす
剣での勝負にこだわらずもうなりふり構わないらしい
おそらくこの魔弾は先ほどの配下の物と比べても威力が段違いなのだろう
射線上に王女達がいるので避ける事もできない
盾になることを決心した時
アルマロスに何かが被弾する
特に外傷があるように見えなかったが、その隙に短剣で利き手を狙ったがやはり切れ味は悪く、切り落とすには至らなかった
アルマロスにもう一度空気弾が当たる
今度はアルマロスは壁に激突する
「貴様ら何者だ」
配下の天使が叫ぶと同時に2人の女性によって切り捨てられる
ヨランダとマルグリッドだ、背後にはマティアスもいた
「何者って、ここは騎士団なんだから騎士に決まっているでしょ」
「うわっ、ヨランダさんこいつ泥みたいになっちゃいましたよ」
「ソーニャ」
マティアスが二人を無視して、ソーニャの下へと向かう
「マティー、遅いじゃない」
「ごめん、だけど警鐘がなってからすぐ来たんだけど」
「うるさい」
そう言って、ソーニャはマティアスに抱きつく
「油断するな」
クリストフが一括する
「でもあとは、このヒョロそうな天使1人じゃないですか」
「いや、向こうにも数名の天使がいる」
「その天使は」
「部下たちが応戦している、ヨランダとマルグリッドはそちらの援護を。マティアス、お前は王女の側にいて魔術で援護をしてくれ」
「了解」
全員が指示に従う
アルマロスは起き上がろうとしない。先ほどの一撃で頭で打って気絶でもしたのか
そう願いたいところだが、それはありえない
アルマロスを注視していると小声で何か言っているのがわかる
「ありえないだろ、なんで人間相手に、僕が、こんなの笑いものだ、きっと女神様もお許しにならない、名前を剥奪される、仮にあの方が許しても僕が許せない」
ボソボソと脈絡もないことをつぶやきながらアルマロスは立った
それからアルマロスは自分の剣をクリストフの足元に投げた
「もうそれいらないから使っていいよ」
するとアルマロスの両手が光始めた
光からは二刀の短剣が現れた
「はぁ、こんなことでこれを使うことになるなんて」
アルマロスは今にも泣き出してしまいそうな声で言う
「聖剣 マルサラン(響き奏でる者)」




