粗雑な魔女8
フォルカーは上空から降りかかるチャミュエルの剣を何とか凌いでいる
「オルゴグラフ(火炎よ)」
隙を見ては魔術を放つが、チャミュエルには当たらない
翼を持つ彼に魔術を当てるのは至難の業だ
それにファルカーに当たらないように制御しなければならない
このまま時間をかけていては王都の被害が大きくなってしまう。ラウルさんが市民の誘導をしているとはいえ、時間をかけるわけにはいかない
ただファルカーと私だけではいくら時間を掛けても倒せる保証がない
チャミュエルが上空にいるのを確認して
「ゴン・ジバン(石の飛礫)」
これはチャミュエルを狙ったものではない
上空にいる無数の天使たちに向けてだ
街に落ちる事のないよう威力を抑えず、思いっきり魔力を込めた
天使達は魔術を察知したら、直ちに防御壁を出してそれを出して防いだ
ただ全てを防ぐことは不可能だったようで、翼や身体に風穴を開けた者もいた
天使達は血を流すこともなかったが、それでも攻撃の手を緩めた
その光景を見て、違和感いや嫌悪感のような物を感じた
それは天使にだろうか
いや、違う
「やはり、厄介なものだな。神を相手にするというのは」
チャミュエルが私の直ぐ側まで降下してきたが、フォルカーが既のところで間に入りその攻撃を防ぐ
「おかしな話をするな、この嬢ちゃんがお前には神様に見えるってのか」
「いずれの話だ。それにあの凡夫が何故あそこまで神の定めに逆らおうとするのか疑問に思ってな」
チャミュエルは上空に戻ることなく、フォルカーと切り合う
私の目から見てもフォルカーが押されているのがわかる
それに2人の動きについていけず、魔術を使用するタイミングがつかめない
チャミュエルや他の天使に対してでも狙いを定めるのに一度動きを止めなければならない
チャミュエルはその隙を与えてくれない
冷静になれ、皆が言ってくれるんだ私には力があると何かこの状況打開する術を考えろ
考えれば考えるほど自分たちが追い詰められている状況なのがわかる
鐘がなって、しばらく経ったのだ
何故騎士たちが出てこない。これだけの騒ぎだ静観するわけがない
それに今日は全隊長が会議のため揃っているのだから、私達より先に動く人がいてもおかくしない。ガスパール隊長なんかは真っ先に動きそうなものだが
その時、ブレイズさんの言葉を思い出す
バティストには気をつけろ
私は何故、ベルトラン隊長に事前に相談しなかった
言い訳ならいくらでも思いつくが、攻め込まれることなど夢にも思わなかったからだ。この国の状況を考えれば何が来てもおかしくないのだから
この国には王がいない。私はそれを甘く考えていたんだ
この半年で強くなった自身はある。でもそれだけじゃ足りなかったんだ
「騎士団にも何かしたんだね」
「今更、気づいて何になる」
「バティスト」
チャミュエルの動きが少しの鈍くなった
フォルカーはそれを見逃すことなく、攻め込むが決め手にかけているようだった
「そういえば今はそういう名だったか。気づいている者がいたとはそれももう遅い」
「どうして」
「あの男はもはや人と呼ぶことの出来ない存在だ。それに王城や騎士団も抑えるよう動いている」
「そっか」
「仮に私を倒すことが出来たとしても、それは無意味ということだ」
「オルゴグラフ(火炎よ)」
今度は放つのではなく、囲った
私とフォルカー、そしてチャミュエルを
「何を考えている」
「何も変わっていないよ。ただ私は皆に無事でいてほしいだけ」
「それは叶わなぬことだと話したはずだ」
「そうだね。でもみんななら大丈夫。だからここであなたを倒して、みんなのところに行く」
「いいねえ嬢ちゃん。ならさっさと済ませるか」
「私の動きを制限したところで、どうなると言う」
「天子様それは無粋ってもんだ。そんなもんやってみて確かめりゃいいんだよ」
フォルカーとチャミュエルの切合が再び始まる
やはりフォルカーが劣勢のようだが、それでいい
「オルゴグラフ(火炎よ)」
今度は放つのでも囲うのでもなく、火炎の壁から炎の槍をチャミュエルに向けて放たれる
チャミュエルはフォルカーを突き飛ばしたあとにそれを避けようと上空へ飛ぶ
「ナファム(捉えろ)」
炎の槍はチャミュエルを追うように上空へと方向を帰る
チャミュエルは防御壁を自分の真下に展開したのを確認した
「オルゴグラフ(火炎よ)」
今度は2本の槍が火炎の壁から出現し、チャミュエルへと放たれる
チャミュエルは想定していなかった2方向の攻撃に対して、剣を持っていない方の手から光の槍を出現させて、剣を手放し両手で持って回転させた
すると炎の槍だけでなく、壁も全て吹き飛んでしまった
「全く持って感心するよ。私にこの槍を使わせるなんて」
「ヴェフド(解除)」
私は残っていても意味がないと判断し、火炎の壁を消した
チャミュエルの持つ光の槍は、やがて光を放つことなくそこから槍が現われる
その槍は一見装飾が凝っただけの槍に見えるが、ただの槍でないと直感させられる
「私にこれを使わせたのだ、殺すにしても名くらいは教えないと不敬というものか」
「聖槍 オルガグラティー(忠誠を認められた者)」
聖槍 オルガグラティー、テオの持つ魔術を施された魔剣グラフドラファムと同じように何か力があるのだろう
「それで槍になってからって、どうなるってんだ」
「私は何も変わらない」
そう言って、チャミュエルは槍を私に向かって投げる
「ジス・アラフ(盾よ)」
分かっている攻撃なのだから、当然のように防ぐ
防がれた槍は地面に転がる
この一連の行動は何だろう、チャミュエルという人物をまだ理解したとはいえないが、真面目で几帳面のような印象を受けた。とてもこんな無意味な行動をするようには思えない
チャミュエルは丸腰で私達に迫ってくる
「ゴン・ジバン(石の礫)」
魔術で迎え撃つがそれを交わしながらもその速度を緩めることはない
その距離がいよいよというところで
「オルゴグラフ(火炎よ)」
正面から火炎を放つ
側面からはフォルカーが斬り込む
違和感を持ちながらも捉えたと思った時には
チャミュエルの手には聖槍が握られていた
チャミュエルの槍は火炎を消し去り、フォルカーの剣を弾く
チャミュエルが槍を私に向けて穿つ
魔術も間に合わないと思った時
「飛べ」
その言葉に従い、その場で跳ねると強い衝撃を受けて私は吹き飛ばされた
吹き飛ばされた方向を見ると、フォルカーが私を突き飛ばしたことがわかった
槍はフォルカーの横腹を掠めているようだ
ファルカーは体制を立て直そうとするが、チャミュエルは2撃目を入れるところだった
「ジス・アラフ(盾よ)」
チャミュエルとフォルカーの間に盾を出現させるが、チャミュエルはそれを気にすることなく、槍を穿った
槍は先ほどとは違い盾を貫き、フォルカーへと向かった
その時ガキンと金属通しが当たる音が聞こえた
誰かがチャミュエルの槍を受け止めたのだ
それが誰だか知っている
アースレンの店主さんだ
「ごめんなさいね、でもラウルちゃんのお陰で何とか間に合ったかしら」
チャミュエルは思わぬ増援に攻撃の手が一瞬止まった
「ゴン・ヴェフメド(石の砲丸)」
チャミュエルに向けて、大きな岩を放つ
チャミュエルはそれを上空で躱す
その間にフォルカーと私は体制を立て直す
「ありがとうございます、助かりましたでも」
「そういうのはあとにしましょう。」
「そうだ、この男もそれなりのやり手だ。今はそれだけわかれば十分だ」
二人に諌められて、周りを見る
チャミュエルに集中していたので気づかなかったが、街の破壊は進んでいた
チャミュエルなんてどうでもいいことだったんだ。それを眼の前に現れたからとそちらばかり考えていて、街や皆ののことを一切考えていなかった
そう私の目的はチャミュエルを倒すことじゃない
皆を助けることじゃないか
「せめてお名前はお聞きしてもいいですか」
「リオネル、リオネル・ノートンよ」
やることが定まったのだ、一息ついてから
「フォルカー、リオネルさん、2人でならチャミュエルから私を守れますか」
「どういう意味だ」
「この男と2人ならある程度はやれると思うけれど」
「でお前はどうする気だ」
「私は残りの天使の相手をします。だからチャミュエルに集中することはできないので、お二人にお願いしたいんです」
「今更上官殿に逆らう気なんて、ねえよ」
「それがこの国のためなら迷うことなんてないわ」
「ありがとうございます」
それだけ言って、私はチャミュエルからも2人からも視線を外して、ただ王都を見渡し手をかざす
倒すのではなく、守る戦いを




