王との邂逅2
ユージン王の話では明の国の面々はそれぞれの仕事場に向かうようだ
俺たちだけが取り残される
「どうするんだよ」
ルードから話し始める
「ユージン王が言っていた通り、好きに回ろう。それぞれいい経験になるだろうし」
「そうだとしてもだ」
ジギがロゼッタとソラスを見て言う
「ふたりのことは王に話してある。というよりは俺はあの人に記憶を見られているんだ。今更だよ」
「それについても、相談の一つがあっても良かっただろ」
ジギが睨んでくるが気にしないい
「じゃあ解散ということで、お前達も王宮の中を好きに回って言いそうだから」
と言うとそれぞれが部屋を出ていった
俺は一人で部屋に残り一息ついた
明の口では王の力のおかげで簡単に行ったが、あと命の国、牙の国、理の国との協力関係を結ばなればならない
まずは理の国に行くべきだろうが、向こうの上層部は王の殺害容疑のある俺と合ってくれるはずもない
マティアスの話では、向こうでも魔人が出たそうだから、明の国からの使者ならそう無下にもしないか
あとは閉鎖的な牙の国と理の国と交易をしている命の国をどうするかだ
フェリシアはあいつと今上手くやっているだろうか、今の理の国の要はあいつなのだから強くなってもらわないと魔人や天使が来たら一溜りもない
などと考え事をしていると
「若いのが昼間から働きもせずに何をしておる」
老人が声をかけてきた
この老人は確かさっきの会談にもいた
国の重鎮として見るには軽装で衣服もあまり良いものではない
「いや、少し考え事を。そろそろ王宮を見て回ろうかと思っていたんだ」
「テオドルス王ともあろう方が老人を煙たがるな、付いてきなさい」
老人は俺の返事を聞かずに扉の方に行った
「ちょっと、あんたは」
「あぁすまんな、名乗ってなかったか。最近歳のせいかうっかりすることが多くなってな」
「だからあんたは何者なんだ」
「そう急かすな、ワシはサンラー・ズオンだ、王の教育係だよ」
王の教育係
ユージン王の教育をこの人がしたということなのだろうか
俺は特に宛もなかったのでサンラー老について行くことにした
部屋を出ると
「まずは王宮を見て回ろうか」
サンラー老は、何か含みのある言い方をしたものの王宮を案内してくれるようだ
まず訪れたのは研究所といったところだろうが
ざっと見回して研究しているのは薬の調合と魔術だろうか
「ここは見ての通り、薬やら毒やら魔術を研究しているところだ」
薬剤のところにはレーヌが、魔術とのところにはロゼッタとソラスがいて、それぞれ話を交わしているようだった
俺に気づいたレーヌは近づいてきて
「この国の薬学いえ医学はすごいわ。魔術の素養を必要としないから知識さえあれば多くの人が扱えるわ」
レーヌは珍しく興奮していた
「この国は薬学に長けておる、その代わり使用する者がその場にいないといけない魔術はおざなりになっておるがの」
魔術にはそういう見方もあるのか
「そうね、薬剤は持ち運びも出来るけど、即効性がないの、魔術は即効性こそあるけど扱い手が少ない。どちらも一長一短ね」
レーヌはしばらくはこの国の医学を見学するそうだ
魔術の方を見に行くと
ロゼッタとソラスという珍しい組み合わせだ
本来は敵のはずだが、二人に声をかけようとしていると
「刻印式と詠唱式とは本当なのか」
レイに凄い勢いで話しかけられた
彼女の様子が理解できない俺に
「いえ、主様の扱う魔術についてお話したらこの有り様で」
「でもこの方、2つの魔術についてご存知だそうですよ」
二人が説明をしてくれた
「で、どうなんだ」
「どちらも軽く教わったくらいで」
「誰に教わったんだ」
「どちらも死んでいる、詠唱式はドミニクで刻印式はレオノールという人だ」
「なるほど、ドミニクという方は知らないがレオノールというのは聞いたことがある」
「それは本当か」
今度はこちらが勢いよく聞いてしまった
「いや、理の国でも歴代1と言われているほどの天才という話を聞いたくらいだが」
レイは俺の勢いに押されたのか、しどろもどろで答えた
「テオドルス様、女性に失礼ですよ」
ソラスに窘められた
でも他国で母の名前を聞くことになるとは
「詠唱式については今俺から話せることはない。刻印式については」
俺は下げていた剣をレイに見せる
「これはなんだ」
「分解の魔術が施された剣、魔剣グラフドラファムだ」
「これが刻印式か、預かってもいいか。この国いるだけでいいから」
頼むよと何度も言う彼女に押し切られる形でグラフドラファムを預ける形になってしまった
この国にも刻印式や詠唱式の研究がされていたようでレイは若く優秀なようで剣一本分の術式でも研究できるようだ
次に訪れたのは文官たちの仕事部屋のようだ
そこにはジギがいた
ジギが教わっているようで、文官たちに質問して多くを教わっているようだ
軽く挨拶をしたが、忙しそうだったので邪魔をするのは申し訳ないのですぐにその場を去った
ジギに熱心に教えているのはこの国の大臣であるダルン・ホーという人なのをサンラー老から教えてもらった
ニクラスは市場を見に行ったそうだ
しばらく進むと外に出ると兵士たちが稽古をしているようだった
そこにはルードとオルティノがおり
オルティノは兵士たちに混ざり鍛錬をしていた
ルードは剣を持ち、槍を持ったジンと打ち合いをしていた
純粋な剣技でもルードとジンは拮抗しているように見えた
ルードは王の力に目覚めたからというもの剣技の技量が高められた
今では俺も含めて誰も敵うものはいない、オルゲンに並ぶと言われたレンナルトさえ
ただそのルードに押し負けていないジンの実力に驚いていていると
「ジンに槍を握らせればこの国に敵うものはおらんよ」
ワシ以外はなとサンラー老は足を進めたのでついてくることにした
そのあとについたのは稽古部屋だった
そこには誰もおらず、サンラー老と俺の二人出けだった
「さてと準備運動でもしようか」
「準備運動ってなんの」
「稽古に決まっておるじゃろ、ばかもん」
どうやらこの老人は俺に稽古をつける気のようだ
「どうして稽古なんて」
「言ったはずだ、王の教育係とな」
納得していない様子の俺に痺れを切らしたのか
貫手でこちらにくる
急なことで対応が少し遅れたが、両手で手をそらして対処する
「ほう、なかなか動けるな」
サンラー老はそういいながらも今度は足を狙う
それを飛んで交わし空中で身動を取れない俺に対して
貫手とは別の手で掌底を入れた
とてつもない衝撃だ
まるで枯れ木のような老人からは考えられない衝撃だ
「なんじゃ、若いのに情けない。これで終いか」
老人は挑発してくるが、今は立つのがやっとだ
今の一連の流れだけでも分かる。この人は強い
純粋な体術では天と地ほどの差がある
「おぬしは武術師ではなく、魔術純粋なのだろう、戦い方を選べるほどの強さがあるとでも言うのか」
呼吸を整えて、なんとか立ち上がる
魔術を使えば勝てるかもしれないが、そんなことをしたら目の前の老人を殺してしまう
俺は体に刻まれている魔術を発動し、老人との距離を詰める
そのままではカウンターを受けるだけなので
直前で横に飛び、フェイントを入れて魔術を使わずに廻し蹴りを繰り出す
老人はそれを屈んで躱す
老人を飛び越えて再度向き直ると老人の拳が既に目の前にあった
再び老人に吹き飛ばされた
「お前は魔術師でもなく、曲芸師といったところかの」
起き上がり尋ねると
「常に相手の裏を考えることしか頭にない」
「それは当たり前のことだろ、それで攻撃を与えるのが定石とも言っていい」
「いや、お前さんはそこまでのことは出来ておらんよ。曲芸で相手を驚かせているだけだ。今まで戦ってきた相手も皆そうじゃなかったのか」
フォルカーも、アバドンも今でも俺よりはるかに強い相手になんとか勝てたのは、相手の想像していないことで隙を作っていたにすぎない
「それも戦い方の1つだ。非難されるようなことか」
「そうじゃな間違っておらんよ。だが、お前がこれから相手にする者達に同じ曲芸が通用するのか」
何も言い返せない
もう天使にも魔人にも俺の魔術は知られてしまった
エネプシユスに対しても運がよかっただけにすぎない
でも、俺にはもうこれ以上どうすることもできない。俺には刻印式と詠唱式が扱える程度しか周囲に誇れるものはない。今から新しい者を身に着けられるだけの素養はない
「己で理解できたのなら、それでいい。ワシから言えることは1つだ。今あるものを極めなさい」
老人は一筋の希望の光を示してくれたようだが、俺は顔を上げることができなかった




