驕り驕られ8
まだ気分が落ち着かないので甲板で海を眺めていた
「ここにいたのか」
ジギが声をかけてきた
「どうした」
「いや、その」
彼にしては珍しく歯切れが悪い、時間がないわけではないので何も言わずに彼の次の言葉を待つ
「すまなかった」
謝罪の言葉だった。特に思い当たることもないので、黙って彼の言葉を聞くことにした
「いや、俺は今回のことも含めて何も役に立てていない」
「今回は仕方がない、エネプシユスに勝てたのも運みたいなものだし」
「それが情けないんだ。オルゲンさんが残った時、次は俺だと思っていたのに結局なにも出来ていない」
「勘違いするな、オルゲンは死ぬために残ったわけないじゃない、それに俺もお前に死なれては困る」
「でもそれなら俺には何ができる」
「そうだな、たとえば他国に潜伏して王城仕えにまでになるとか、常に周りに意識をして現状を理解することや、人の言いにくいことを必要なら言うところとか」
「もういい」
「何が言いたいかって、お前には戦力じゃないところに期待しているんだから、戦いの中で死なれると困る」
ジギは苦虫を噛みつぶしたような顔をしているので、納得はしていないのかもしれないが、ただ言ったことは本心だ
しばらく二人して無言の時間が流れた
「覚悟が足りなかったんだ、お前に仕えることに対して」
急にジギが口を開く
「お前の最終目的を教えてくれ」
「 」
激しい海風が吹いたが、ジギには聞こえたようだ
ジギは今まで見たことがないくらい、大笑いをしていた
「お前のようなやつを人でなしっていうんだろうな、最低のやつだよお前は」
彼は笑いながも大層ひどいいいようだ
ひとしきり笑い終わったジギはまたこちらを見て口を開く
「どこまでも貴方様についていきます。それが地獄だろうが、天国だろうが」
「しっかり頼むよ」
また海風が強く吹いた
「二人ともいつまでこんなところにいるの、体を悪くしますよ」
レーヌが夕食に現れない俺たちを探していたのか、こちらに起こったような口調で叫んだ
たしかに体が冷えてきたので、彼女の言葉に従うことにした
それからは、魔人や天使の襲撃も無く平穏な船旅となった
日中は、ルードの力の検証や仮説などを考えながら過ごし、夜は研究をするという生活を数日過ごした
ルードの力については、出現場所、持続時間、一度に出せる剣の数、操ることのできる剣の距離など一通り把握することが出来た
驚いたのは持続時間だ、ルードが出した剣は本人が命じるまで存在し続ける。それは睡眠など意識がない状態でも同じようだ
他の項目に関しても回数によってばらつきこそあるが、習熟度によって変わってくる可能性がある
ルードはこの検証に関してかなり前向きだった
彼の心境の全てを察することは出来ないが、真剣な彼を邪魔して尋ねる気にもならなかった
そういやあれならニクラスの姿を見ていなかったので、他の船員に尋ねると彼は自分の仕事こそこなすが、それが終わると一人で部屋に籠もっているようだ
ニクラスの自室に行って、ノックをすると物音がして人の気配を感じるが、扉が開く気配がない
この船の船員の部屋には鍵がないので、扉を開くと
そこには土下座をしているニクラスがいた
異様な光景に言葉を失っていると
「申しわけありませんでした」
ニクラスは叫び声をあげた
「どうしたんだ、顔をあげろよ」
「いえ、できません。私はこともあろうことに皆さんを見捨てて逃げ出してしまったのです」
彼には申しわけないが、あの場に彼がいても結果は特に変わらなかったはずだ
「そんなこと気にするな、あの場で平静でいられる人間がいるわけがないだろ」
「いえ、そんな理由には行きません。貴方様は私の命の恩人なのですから」
「どういうことだ」
「スタッドの街であの時私もあの場所にいたのです。それで貴方様の演説に心を打たれてそれで自分の夢をもう一度叶えようと決心した矢先にこのざまだ。なんて情けない」
「とりあえず、落ち着けって」
なるほど最初から有効的な態度の理由がわかった。あの場所にいたということは天使や魔人の存在を知ったうえで俺たちと同じ船に乗ったのか
「お前の夢と俺と一緒にいることは別のはずだ。お前もあの場所にいたら、俺と一緒にいることの危険を理解出来ないはずなかったはずだ」
「いえ、貴方様の近くが一番夢を叶えるにいいと判断しました。ですから命をかける覚悟でついて行くと決めたのです」
人のことを言えた話ではないが、どいつもこいつも自分の命を軽んじすぎだと思う
「別にあそこで命をかけてもお前の夢は叶わないぞ。そこを見誤るな」
「なんというお優しいお言葉」
それまでの間にニクラスは顔を上げてはいない
「だから気にするなとは言わないが、俺に引け目を感じる必要はないから」
「いえ、そういうわけには行かないのです。このニクラスもどうか貴方様の覇道に加えてほしいのです」
いきなりの申出に理解するのに時間がかかった
「お前の夢は自分の店を持つことだろう、俺といてもそれは叶わないぞ」
「いえ、貴方と入れば各国との伝ができます」
こいつは自分なりに考えてのことだろう
「ついて来たいならついてくればいい、だが俺はお前を守ることはしないからな」
そう言うと始めてニクラスは顔をあげた
「ありがとうございます。このニクラス貴方様のために粉骨砕身の思いで働きます」
その後ニクラスのことを皆に話すと全員が驚いていたが、反対するものはいなかった。天使や魔人ではない普通の人間が加わったのだ。
商売人としての技量は分からないが、それはそれとして今は少しでも多くの人員がほしい。
危険を省みずついてくるというのだからそれでいい
もうすぐ船は明の国の港につく
船員が荷下ろしをしているのを他所に周囲の状況を見ると建物様式から庶民の服装まで理の国や剣の国と大きく違うものだった
そんな異国情緒につい心を奪われてしまっていると
他の人間とは異なる集団がこちらに近づいてきた。そいつらの衣服は庶民と似たような作りだが、少し見ただけでそれが高価な素材を使っていることがわかる
「剣の国メディスカルの王とその御一行で間違いないか」
「そうだが」
「私は明の国バングラフ王のユージン・アラム・レイゼイの側近のジン・タイガンと申す」
「同じくレイ・アミン」
「王が貴方方を是非王城にお招きしたいとおっしゃっている」
「ご同行願えますか」
まさか向こうから接触してくれるとは予想外だ
少なくとも自治区から情報が流れたとも考えられない
もしかしたらこれが明の王の力の一端なのかもしれない
ジンと名乗った男はオルティノほどではないが大柄な男で如何にも武人といった様相だ。それにガスパールやフォルカーを思い出す
レイと名乗った女の方は武人と言うには華奢な体をしている。ただ服装はジンと同じことからそれなりの役職なのだろう
俺たちはこの二人を筆頭にした役人の集団に招かれる形で馬車に乗る
明の国バングラフは島国で王都に港があり、産業こそ他国に比べると劣るものの貿易で栄えている国だ
しばらく町並みを見ているとどの人間も裕福には見えないが、取り立てて貧しいものもいる様子がなかった
貧富の差はあまりなく、誰もが食べていくだけなら十分な生活をしているようだった
明の王の力とは全てを明らかにする力と聞いたことがあるがその詳細な内容は知らない
他国の人間を感知したしても何故わざわざ招き入れるのか、俺たちが敵対していないことも把握しているのだろうか
もしくは、何か罠を張っているのだろうか
たとえ罠だとしても多少の罠ならどうにでもなるだろう




