驕り驕られ7
体が言うことを聞かない
それは切り落とされた左腕の痛みか、敵に対する恐怖からなのかすら分からなくなっていた
「ねーねー、黙っちゃってどうしたの、よくも仲間をみたいなのないの」
「それよりもお前をどう殺してやるか考えている」
「なにそれ、あんたなんかが出来るわけないじゃない。私アバドンよりもずっと強いんだから
」
口だけはなんとか動くようだ、なんとかこいつから情報を手に入れないと
「でも、本当は言うと楽しみにしてたんだよ。アバドンを殺したんだからもっと凄いやつなんだって」
俺はそんな大したやつじゃない
アバドンに勝てたのも皆がいたからだ
皆とノルベルト爺さんがいなければ俺はあの時に死んでいたはずなんだ
それに8年前にとうに死んでいるはずだったんだ。そんな俺が諦めていいはずがない
なんとしても俺がこいつを殺さないと
「どうやって皆を殺した」
「そんなこと敵に言うバカがいると思う、アバドンも冥土の土産だとか言って余計なこと言っちゃったんでしょ」
一つ気になることがあるなら、こいつはなぜ俺を殺さない。生かしておく理由があるのか、それともこの出血だ手当もしなければその内死ぬと判断したのだろうか
「ああ、君をすぐ殺さないのはね。少し君に興味があるからだよ。アバドンを殺したのもそうだけどソラスが私達を裏切ってまでついて行くのはどんな男なんだろうと思ってね」
「で、どうだった」
「残念、肉体も精神も人並みってところだね」
少女は床に落ちていたナイフを拾いあげた
「だからわかったんだ、君はただ出来ることを一生懸命やっきただけなんだね」
少女はナイフを片手に持って手を広げながらこちらに近づいてくる
「だからね僕は感動しているんだよ。こんなちっぽけな存在がここまでやるだなんて」
少女は俺を抱きしめようとする
その時、グフっと言う声が聞こえて血の匂いがした
俺が少女の下腹部に剣を突き刺したのだ
「どうして」
少女は俺から距離をとる
そうなると左腕は無いままだったが、痛みもなくなり体がある程度自由に動くようになった
だとしたらやることは一つ仲間たちを殺したこいつをなんとしても殺す
「何なんだよ」
少女は刺されたところを抑えながらいる
アバドンではわからなかったが、魔人といえど痛みがあるようだ
少女との距離を詰めようとするが、体が上手く動かずすぐには走れそうにない
少女は近づいてくる俺に気づいたようで、何故か恐怖を感じているような表情をして食堂を出た
それを追いかける
何故、少女は俺に止めをささない。今の俺なら殺すのは容易いはずだ
しばらく追いかけているとと徐々にだが、体が言うことを聞くようになってきた
少女は甲板の方へ走っているようだった
まさか本当に逃げる気か
なぜ、どうしてなんださっきまでのように俺を殺さない。何か条件でもあるのか
少女は走り続ける
曲がり角で見えなくなったが、声だけが聞こえてくる
「あいつ変だよ、おかしいよ」
「どうしたのですかエネプシユス」
聞いたことのある声が聞こえる
「だからテオドルスって奴がおかしいんだよ。あいつは私の幻に完全にかかっているはずなのに、それでも私に攻撃してきたんだ」
「正気を保っていたということですか」
「違う、あいつの心はもう壊れているんだよ。それなのに平然としているんだ。あんな不気味なやつ見たことないよ」
ソラスが俺が近づいていることを察知したのかエネプシユスと呼ばれな少女の両肩を持った
エネプシユスも俺に気づいたようたが、もう遅い俺はエネプシユスの首を剣ではねた
エネプシユスは首だけになっても騒いでいる
「お前は何なんだよ、どうして幻に打ち勝つ精神力もないのにどうして」
もう話す内容に脈絡がなかったが、その顔をは恐怖でパニックになったようだ
アバドンはたしか心臓に核があると言っていたな
横たわったエネプシユスの体の心臓がある部分に剣を持っていくと
「やめてよ、わたしは誰も殺してないんだから、お願いやめて」
エネプシユスは命ごいをしてきた
アバドンの時もそうだったが、こいつらも死ぬことは怖いんだ
こいつらもちゃんと生物なのだということがわかる
それにたまらなく嬉しく思っているとエネプシユスと目が合う、まるで化け物を見ているかのような顔だ
こいつ自身が化け物なのに
心臓の部分に剣で貫くと
エネプシユスは声にならない声を叫びながら崩れていった
たまらなく疲れて片膝を着くと
「お見事でございます。主様」
ソラスはも俺に高さを合わせてそう言う
「皆はどうなった」
「恐らく大丈夫かと。エネプシユスは人の精神に干渉して幻を見せる能力です。皆さん肉体的にはご無事しょう」
それを聞いて体の力が抜ける
「皆の様子を見てきてくれ、なにかあったら報告をしてくれ」
「かしこまりました。主様はどうぞお体をお休めください」
そこまでしてようやく自分に左腕があることがわかった。幻というのは本当だったのだろう
しばらく待っているとソラスが再び表れた
「船員含めて皆、無事でございます。臣下のものは特に疲れている様子でしたが、怪我をしているものすらおりませんでした」
それを聞いて本当に安心しきった俺はそのまま瞼を閉じてしまった
次に目を覚ました時にはベッドの上だった
ソラスあたりが気を効かせて運んでくれたのだろう
部屋の中には誰もおらず、一抹の不安を感じながら部屋を出ると船員達から発せられる喧騒に少し安堵する
それからは船内を見回る
レーヌ、オルティノ、ロゼッタ、ルード、ジギ、ソラス
全員の無事を確認できた
皆に話を聞くと俺と同じような幻覚を見せられたことを聞いた。船員達については眠らせていただけで特に被害はなかったそうだが、全員が寝てしまったことで、船が航路をされたたので到着にはまた時間がかかるそうだ
「ソラス」
「お呼びでしょうか、我が主」
何もない場所からソラスが現われる。こいつはいつもどこにもいるのだろうか。呼べば現われるので特に言及する気はないが
「エネプシユスは死んだのか」
「はい、貴方様が行われました」
「それならいい、でもどうしてこの船にあいつがいたのか、わかるか」
「彼女は幻を操る能力があるので、誰かに成りすますことで情報を得たのだと考えられます」
「どうしてあいつは直接姿を表したんだろうな。もっとやり方があったはずなのに」
条件こそ分からないが幻覚を操る能力なら直接相対せずとも、ここは船の上なのだから船員を混乱させるなりいかようにも出来たはずだ
アバドンも然り、未熟さというか驕りのようなものを感じる
「貴方様が王の力に頼らず、アバドンを倒したことが大きいのかと」
「どういうことだ」
「私達は王に届かなくとも人の上位種として作られました。己の尊厳といいますか、彼女は貴方を殺すよりアバドンの仇を取っていた勝利することに固執したのでしょう」
やはり魔人にはそれぞれに性格や趣味趣向があるということになる。
天使もそうだが何故わざわざ人を模倣するかのように作られているのだろうか
「同方が殺されたのに恨み言の一つもないのか」
「そのようなことを聞かないで下さい。家族を失ったのですから、身が引き裂かれるような悲しみがあります。それでも私の信じた道は正しかったのだという喜びがそれに勝っているのです」
どこまで本音かは分からないが、今のところこいつが嘘をついたことはないのでそれを素直に聞き入れることにした




