驕り驕られ4
遠くの方で爆発する音が聞こえた
それがオルゲンの物だと皆が理解出来た
それに何かを言うものはおらず、ただ森を抜けることだけを考えて馬を走らせる
しばらく馬を走らせると森を抜けることが出来たそこで始めて足を止めて振り返る
天使たちは追ってくる様子もない
「先を急ごう」
「待てよ、じいちゃんが来るかもしれないだろう」
「それはないよ」
ルードが俺を睨む
オルゲンが生きているのなら、それは天使がオルゲンを無視してこっちに来た時だけだ
俺たちが無事に森を抜けることが出来たということはオルゲンはうまくやっているということだ
それはオルゲンの死を意味するものでもあることくらいルードもわかっているはずだ
それでも育ての親を諦めきれないこいつを責める気にはなれなかった
「ルードウィク君、行きましょう」
「そうだ、船に乗ることが俺たちの目的のはずだ」
レーヌとオルティノがルードに優しく諭す
バゴォン
その時大きな爆音が聞こえた
それはオルゲンの物である可能性は高い
その爆音を聞いた皆は俺を見る
「先を目指すんだ、オルゲンが生き残る可能性はないと思え」
たしかにここで希望的な考えを言って、皆を促すことは出来たはずだ
オルゲンが生き残る可能性は極めて低い
もし生きていたとしても船旅にはついてこれないだろう
そうだとしてもオルゲンを助けに行けばあいつの覚悟に泥を塗るだけでなく、無駄死にさせることになる
だからあいつを見捨てる選択をしなければならない
「急ぐんだ、行くぞ」
誰も反対はしなかった
ルードだけは何か言いたげだったが、それでも何も言わなかったのはある程度は状況を理解してのことだと信じたい
街道が見えてきたので、港が近いことがわかった
港に着くと夜明け前だというのに、出港の準備で忙しなく船員が動いていた
ソラスがうまく話をつけたのだろう
「もしやテオドルス様ではありませんか」
船員というよりは商人のような風貌の男が話しかけてきた。傍らにソラスがいることからこの人がパウルという人物なのだろう
「自治区の方から話を聞いております。今回は商船ですのであまり優雅な船旅は期待しないでください」
「乗せてもらえるなら、どんな船だっていい。それより出港はいつになる」
「そちらのソラス殿からも話をお聞きして、今急いで準備をしております。出港は夜明け程になります。もう少しお待ち下さい」
「そうか、頼む」
「それから、おいこっちに来い、ニクラス」
呼ばれてはいと言う声と共に男がこちらに来た
その男は歳はコレットやヨランダと同じくらいだろうか
小太りで自信たっぷりの顔をしていた
「見習いのニクラスです。道中好きに使ってやってください」
出港までほんの少し時間が出来た
この時間にオルゲンが来てくれるのなら嬉しいが、そんなことは怒らないだろう
「おい、これはどういうことなんだよ」
ジギが声を荒げていった
「どうしたの」
「どうしたじゃない。どうして天使たちが俺たちが街を出るのと同時に襲ってきたんだ」
レーヌの問いかけをはねのけてジギはいう
「ロゼッタ、お前は何か知っているんじゃないか」
「どうしてそうなんだよ」
名前を呼ばれたロゼッタではなく、ルードが真っ先に反応した
「どうしてもこうしてもまず考えられることだろ」
「ロゼッタはそんなことしてない。こいつは10年一緒にいたんだぞ」
「俺も疑いたいわけじゃない、だから説明してくれ」
ジギは怒りよりもただ困惑しているような顔をしている
「信じてもらえるかはわかりませんが、私は本当に何もしりません」
「だからその根拠を話してくれよ」
「それを言うことはできませんが」
「落ち着け」
オルティノが叫んだ
「今は天使が追ってこないか、警戒するほうが先決だ」
「ロゼッタと俺はある契約を交わしている。だからこいつが裏切るのはありえない」
「どういうことだ」
「ロゼッタはもうすでに天使共を裏切っている。その証拠に翼がないだろ」
ロゼッタと天使の最大の違いは翼の有無だ
彼女はあの時自分の目的のために自ら翼を取り除いたのだ
「その契約ってなんだよ」
「天使の子とその居場所を教えることと、その保護だ」
「何だよそれ、じゃあこの状況も思うの想定どおりとでも言うのかよ」
ジギが俺に詰め寄る
「お前なら出来たんじゃないのか、オルゲンさんを犠牲しないことも」
「お前は俺を買いかぶりすぎだよ。今回のことは俺も驚いているよ。恐らくチャミュエルは配下の天使に俺をずっと見張らせていたんだよ」
ジギは何も言わなくなってしまった
「今回のことで考えが変わっている者もいるかもしれないからもう一度言う。俺は特別な力を持たないただの人間だ。それでも女神と邪神とも戦うと決めた。戦力差は知っての通り圧倒的な差だ」
「だからもう一度考えてくれ、俺に着いてくるかを。悪いけど俺はお前らの命の保証は出来ない、ただの人間だからだ。それでも着いてくると決めたものだけ船に乗ってくれ」
「その女神様や邪神と戦わなかっら、どうなるって言うんだ」
「そう遠くない未来に人類は滅びる。少なくとも邪神はそのつもりだ」
「勝てる確証はまだない、だから着いてこなくても誰も責めないよ。元から一人でもやるつもりだったんだから」
皆が黙ってしまった
少ししてから
「俺は始めから決めていたんだ」
とルードが声をあげようとしたので手で口を塞いだ
「結論は出港の時に聞くから」
俺はその場をはなれて、波止場の方に行く
「あなたは思いの外優しいのですね」
ロゼッタが後ろから声をかけてきた
「そうか」
「ルードを止めたのは、他の人間のためでしょう。ルードの言うことを聞いてしまうと退く選択が難しくなってしまうから」
「そうじゃないさ。ただ巻き込む以上選択肢は用意すべきと思っただけだ」
「お前こそ優しいじゃないか、お前がここまで来る理由なんてもうないのに」
「そうですね。でも貴方やルードの側にいると姉さんの気持ちがわかる気がするのです。それに何か満ち足りた感情を実感しているので」
彼女はもはや作り物でもない笑顔をしていた
気づけば準備が終わっていたようだ
もうすぐ出港だ
船の側に行くとすでに全員が集まっていた
「なんだ全員いるじゃないか」
「当たり前だろ、俺はお前の剣なんだからお前いるところに俺ありだ」
ルードがニッと笑った
「俺はお前に恩がある。それに息子に誇れる父親でありたいからな」
「私はそんはだいそれた理由はないわ。でもオルゲンさんやあの時のみんなからきっと貴方について行くと思うから」
「私は始めからどこまでも貴方様について行くとお話しました。そう天国だろうが地獄であってもお仕えします」
オルティノ、レーヌ、ソラスが思いの丈を話す
みんな何も言わないジギをつい見てしまう
「ごめん、俺はまだちゃんとした理由を言えない。それでもこんな俺がお前の役に立つのならついて行くべきだと思ったんだ」
「みんなありがとう。戴冠の時にも言ったが、最後の一人には俺がなるから」
こうして俺たちはニクラスの案内で商船に乗り込む
乗ったことはないが客船と違い、船内は慌ただしかった。それがなんとも俺たちらしいと思った




