傾慕4
会議は進む
これといって天使や魔人の対策などは決められることはなく、情報収集と現状維持となった
それほどまでに私達は何も知らない
スタッドの街に行くという案も出たが、今のあの街には王と力がある。王のいない私達では、下手に手を出すことも出来ない
魔人オルニアスの言葉の意図は、王を全員が殺すというのならこの国に用はないのか
それとも滅ばすに容易いと判断してすぐに攻めてくるのか
魔人があと何人いるのかも分からない
それに天使は、彼らの目的は何なのだろうか
テオの遺体、恐らくは新しい系統の魔術を狙ってのことだろうか
テオを助けるためとはいえ、ラウルさんやマティアスは彼らと戦っている
味方とも敵ともわからない不思議な存在
それにテオだ
彼の目的はなんなのだろう
何故王の力を持っていない彼が王になることができたのか、マティアスの話を聞く限り皆に請われたからだが、彼が意味もなくそんな地位につくことがあるのだろうか
それに一度死んでだ彼をどうやってノルベルト先生は生き返らせることが出来たのだろうか
彼は何故3系統の魔術が使えたのか
彼が何を考えているのかすら分からない
「でも剣の王の力が本当にあるのなら、やはり王を殺したのは彼だ」
誰が言ったかはわからなかったが
それに続く言葉はなかった
もしそのことが本当だったとしても私達にはどうしようも出来ないことをはっきりさせるに過ぎなかった
結局、今日はここまでとなった
無理もないこんな話を急に聞かされてもすぐに信じることはできないし、その真偽も定かではない
変に結論を急ぐよりも慎重にことを進めることが騎士団長の結論なのだろうか
私達はなんのために呼ばれたのかはわからなかったが、ベルトラン隊長の思惑となったのだろう。彼だけが何処か満足そうだった
そんな隊長は、私達に今日はもう帰ってもいいと言った
隊長はどうするのかと尋ねると
やることがあるから残ると言っていた
あまり居心地のいい場所ではなかったので、私とマティアスはソーニャ達に挨拶をするとすぐにこの会議室をあとにした
少しあることマティアスが
「なあ、この後少し付き合ってくれないか」
と真面目な顔で言うので特に断る理由がなかったので了承した
城下町へ向かう道中は静かだった
マティアスの雰囲気から私も声をかけられずにいて、ただ前を進むだけだった
少し歩いてからマティアスの足が止まる派手な店に止まった
アースレンと看板に書かれているこの店は、全く予想もしていない場所だった
私なんかよりラウルさんと来るべき場所に反応が困っていると
「変なところに連れてきて悪いけど、とりあえず店の中に入ろう」
彼が店へ入っていったので、その後をついて行く
店の中はカウンター側は普通の酒場のようになっているかが、テーブル側はなんとも派手な造りになっている
従業員数もほとんどが女性で、全員顔も整っており可愛らしい格好をしている
「あら、マティアスちゃんじゃないの。久しぶりに来てくれたのは嬉しいけど、ここはデートに使う場所じゃないわよ」
恐らく店主であろう男性が話しかけてきた
その男は顔こそは整っているが、背も高く筋肉質な見た目で失礼だが他の従業員と似つかわしないように感じてしまう
「こいつはそんなんじゃないよ」
マティアスはいつもより静かに否定する
「なら、新しい従業員かしら。この子はいいわね。磨けばその分光るわよ」
「違うよ。こいつはこれ」
マティアスはそう言いながら懐から鍵を出した
一見何の変哲もない鍵だが、この店主はすぐに何の鍵かわかったようで、表情から笑顔が消えて真剣な顔になっていた
「そう、この子が」
店主は私を何か懐かしいものを見るかのような目で見る
「ごめんなさいね、着いてきて」
店主は店の奥を指さしてからそちらに向かうので、私達もついて行った
厨房の隣、食材置き場の中に地下へと向かう階段があった
そこを降りると4つの扉があった。
店主はここよとその内の一つの扉を指さした
その扉に特に変わった様子はない
マティアスは無言で私に鍵を手渡してくるので、私はそれを受け取る
私に扉を開けろということだろう、二人の様子を見ると頷かれたので、私は鍵穴に鍵を入れた
鍵はするりと入っていったので、横にまわすとガチャリと音がして扉が開いた
中を見てみると机と椅子があるだけのちいさな部屋だった
一応本棚もあるが、それに入れられているのは5冊程度で持て余しているようだった
そして机の上には2冊の本があった
ふと片方の本を手に取ると本の隙間に手紙が1枚あった。それは本に比べると少し新しいような気がした。手に取って、中を見ると文字がびっしり書かれていた
そこに書かれていたの謝罪だった
友に対して、妻について対して、恩師に対して、両親に対して、妹に対して
そしてとりわけ長く書かれていたのは、娘に対してだった
彼の謝罪は全てそれらからの愛情や信頼を全て裏切ったことに対してだ
その理由は直接書かれていなかったが、何となくだが娘のためにそうせざる負えなかったことが察せられる
彼は異形を妻にして、その間に娘ができた。その娘は姿形こそ人そのものだったが、魔力に関しては人の領域を有に超えているらしい
そのためにいつかその子は、将来起こりうる異形との争いに巻き込まれることになるだろう
そんな娘がに残り少ない自分が出来ることは、せめてその子の選択肢を作ることだと戦ってもいいし、逃げてもいいその子が幸せならそれでいい
娘が大きくなるまでに異形や他の人間に娘のことを知られてはいけない
だから、一人で誰にも頼らず成し遂げなければいけなかった
要約するとこのようなことが書かれていた
この手紙には名前が書かれていなかったが、父が書いたことは最後まで読んでわかった
この手紙の最後には
フェリシア、どうか私の知らないところで幸せになってくれ、笑顔でいてくれ
それが私の唯一の心残りであり、願いだ
フェリシアとは自分のことなのは、間違いない
父は私に興味がなかったわけでもなかった。ただ私のために自分の時間を全て投げ売ってくれたのだ
手紙の中には愛しているとは一切書かれていなかったが、父の愛情を感じることができる
それに胸が目頭があったかくなっていく、本の方を手に取ると中は語学書のようになっていた
恐らくこれが古代魔術である詠唱術なのであろう
この言語を習得することが私の力になるのだろう。少なくとも父はそう考えていたようだ
難解のこの言語に対してところどころ別の筆跡の文字で注釈が書いてあった
この字は、テオの字だ
彼の意図は今となっては分からないが、父の手伝いをしてくれているようだ
その注釈は、どのページにも書かれている
他の本も見てみるとどの本にもどのページにも、テオによる注釈がある
彼は私が詠唱術を習得するために多大な時間をかけてくれたのだろう
私のためだけに父は生きてくれたのだ
テオがその手助けをしてくれた
その事実だけで十分だ。私は頑張っていける
たとえこれから何が起こったとしても、皆のために、私のために、この力を振るおう
そう決心したところで、涙がこぼれた
涙は止まらずにどんどん流れてくる
少しの間だけ、涙が止まるまでの間だけと思い椅子に腰掛けた
扉の奥から泣き声が聞こえる
フェリシアが泣いているのだ
店主を見ると首を横にふる、そっとしといてやれということなのだろう
「何があるんだよ」
「知らないわ」
「物によっては、自分たちも危険なのに確かめなかったのか」
「人のラブレター見るほど、野暮じゃないの」
それもそうだと思って、フェリシアが出てくるのを待つことにした
しばらくしたら涙が止まった
その時にマティアスと店主さんを放ったらかしにしていたことを思い出して、階段の前で待っていてくれていた
「もういいの」
「すいません、お待たせして」
「いいのよ、はいこれ」
そう言いながら店主さんは濡れたお手拭きを差し出してくれた
「女の子なんだから涙は大切な人に取っておきなさい」
言葉の意味はわからなかったが、優しい顔にホッとしてお手拭きを瞼に当てた
「マティアス、ちゃんはこれね」
マティアスには手提げを渡す
「何だよ」
「鈍いわね、これであの子の荷物をまとめるのよ」
「何で俺が」
「いいから」
マティアスは渋々、私がいた部屋にいった
「私がやります」
「いいのよ、こんな時ぐらい人を頼っても」
「あの」
「テオちゃんね、捕まる少し前まで毎日のように来ていたの」
「どうして」
「預かりものが人目につくのを避けったかったからじゃないかしら。あの子はまだ生きているのかしら」
「何で」
「ここに来るテオちゃんの顔ね。勝てるはずのない戦いに向かうような兵士の顔をしていたから」
そんなこと気づかなかった
テオは捕まる直前もいつも通りだった
「私、そんなこと全然気が付かなくて」
「それはね、彼がカッコつけだからよ。大切な人にこそ悟られたくなかったのよ」
「テオはまだ生きていますよ」
店主はそうと返すだけで、目頭を抑えていた
「持ってきたぞ」
マティアスが私に手提げを差し出す
「こういう時くらい、あなたが持ってあげなさいよ」
「いいんです。私持ちたいです」
マティアスから本の入っている手提げを受け取った
店主に頭を下げて、お礼を言ってこの店をあとにした。去り際に
「また来なさいな。この店はご飯も美味しいから、今度からはお昼だけに来るのよ」
店主さんは言ってくれた
マティアスが寮まで送ってくれて、彼にも今日のことに礼を言うと
「いいよ。俺は友達の頼みを聞いただけだから」
友達とはテオのことだろう
マティアスがそう思えるなら、テオは大丈夫なのだろう
私は私のすべきことをしよう。今は無理にテオを追いかけるときではない
自分の部屋に戻ると彼からもらった髪飾りを取り出して身につける
大切にしまい込むだけじゃいけない気がした
明日からはこれをつけよう
寝る準備をして、もう一度父の手紙をみているとは
コンコン、窓から何かが当たる音がする
そちらを見るとそこにバイアー、ビアちゃんがいた
すぐに窓を開けて中に入れてあげると
机の上にとまって、私をみる
「ビアちゃん、どうしたの」
「すまないが、私はもうバイアーという鳥ではないよ」
「どういうこと」
「君とははじめましたかな、私は
ブレイズ・ルネール=ド・シュヴァリエ」
「え」
「かつて理の王を名乗っていた人間だ」




