戴冠8
区長宅を出て、特に行き場もないので被害の会った市街地の方に足を運ぶ
「ソラス」
「お呼びでしょうか」
こいつはやはり遠目に着いてきたいようだ
覗かれているようで、あまり気分のいいものではないので、今後は好きにしていいと伝えると
「既に私は私のやりたいようにしておりますが」
と言われて返す言葉がなかったが、俺の側にいる時はもっと近くでいいと伝えると
「かしこまりました」
と俺の後ろにつく
彼らを仮に魔人と呼ぶことにするが、造形は人にそっくりだが、中身がまるで違うようだ
核以外を損傷しても、修復するし、食事や睡眠も必要ないそうだ
市街地の状況はまだ3日しか経っていないのに、瓦礫の運搬はあらかた終わっているようでそろそろ本格的に復興作業に入るようだ
この国の人達は随分とたくましいと感心する
「テオドルス様」
声を掛けられて振り向くと恐らくこの街の市民に声を掛けられた
「私達の様子を見に来てくださったのですね」
「まあ、そんなところかな」
特にすることもなかったので、来ただけとはとても言えないな
「それよりも、思ったよりも復興が早いな」
「それは区長様のおかげです。こういう時に備えて復興の手順書を用意してくれていたようで」
アンソニー・ローラン
少ない情報と時間でよくここまでのことが出来たと尊敬の念を持つ
もう少し話をしておくべきだった
「それに奥様が今は指示をくれるので、何とかなってます」
区長の奥方が当分はこの街の指示を取るようだ
区長と共にいた使用人や騎士はまだ多いので何とかなると俺達に休むように行ってくれたのもあの人だ
夫をなくして一番悲しいのはあの人のはずなのに
「あのこれ今朝焼いたパンなんですが、よければどうぞ」
「こら失礼だろう」
「ありがとう、でも復興にあたっている人に配るものじゃないのか」
「気にしないでください。たくさん焼いてますので、それよりも王族の人に食べてもらった方が泊がつきますので」
王族か
俺は本当に王族と名乗っていいのだろうか
それは彼らを騙すことになるのではないか
「そんなことない、俺はただ拾われただけだ。王族の血は引いていないんだ」
「そんなことどうだっていいんですよ。あの時俺達を救ってくれたのは貴男なんですから」
「本当だ、あんたは俺達の命の恩人なんだ」
「ありがとう」
皆感謝の言葉をくれる
俺がいることで戦場になることを分かっていたこんな俺に
それをどう受け取っていいか分からない
パンを受け取って食べた
ソラスも強引に押し付けられたので、俺をみて口にした
焼き上がって時間が経っていたが、とても美味しく感じられた
「それより奥様から聞きましたよ。テオドルス様が王様になって国を復興させる」
あまりの内容に喉をつまらせた
息を落ち着かせてもう一度聞くと
「だから、テオドルス様が王様になるんですよね」
「いや、それについてはまだ何も決まっていない。それに王の力を継承したのはルードウィクだ」
彼らは不思議そうに俺を見ると
「ルードウィク様がテオドルス様に仕えるとずっと言っておりましたが」
ルードめ、あいつ始めからこのつもりだったのか
「お前達はそれに反対しないのか」
「まさか反対だなんて」
「そうだ、俺なんてテオドルス様の演説に感激しちゃって」
「俺達で頑張っていこうって話てたんですよ」
彼らは力のない、俺を王として受け入れるというこんなこと考えたこともなかった
少しして彼らの元を離れて、区長宅に戻る
ソラスは途中ずっとあのパンについて話していた。始めてした食事にいたく感激したようだ
区長宅に戻ると玄関でルードが待っていた
「テオお前に話がある。付いてこい」
ルードの後につづくと区長宅から離れていき、この街の協会まで来た
協会と言っても木造の簡素なものだった
ルードが扉を開けると
そこには話し合いにいた面々や他の騎士もいた
彼らは俺たちが来ると跪いた
ルードが俺に振り返る
「俺達には貴方が必要なんです。これから世界はもっと変わっていく。なので俺たちをお導きください」
と言って俺に跪いた
拙い言葉だが、彼の思いは伝わった
「反対の者はいないのか」
誰も何も言わない
「皆が知っている通り俺は弱いし、1人では何も成し遂げられない
神に対して戦争を仕掛けようとする愚かな男だ
それでもいいのか」
それでも顔をあげる者はいない
「俺が王としてお前たちに出来ることは少ない。守ることも、救うこともできない。
ただそんな俺に命を捧げるというのなら、俺は生をお前たちに捧げよう。誰が死のうとも俺は止まらない、最後の1人になるまで死なずに生き続けることを誓おう」
皆を見ると誰もが顔を伏せたままだ、泣いている者せていた
先頭のルードだけが両手を掲げて、剣を出現させた
「お取りください。そうすれば俺は貴方の剣となります」
俺はそれを手に取り、皆に見えるように掲げた
それをきっかけに皆が立ち上がり
うおおおおおおと歓声をあげた
この日俺は王となった
小ぢんまりとした戴冠式のようなものを終えた俺たちは、ありあわせの物でその祝を行うことになった
いくら自治区の運営が良くても、国を失った鬱憤はあったのだろう
子供よりも大人の方がはしゃいでいた
ただこれは自分たちの王を決めただけにすぎない。国が戻るわけでもない。
さらに天使や魔人など多くの問題も解決していない
それでも今、彼らに水を刺すのは申し訳ないわけをして言えなかった
一応主催なわけだが、勢いについていけず端のほうにいる
そこにジギが来た
「気分はどうだ」
「別になんてことないよ。レーヌにも見てもらったし、死んだ影響はないそうだ」
「そうじゃなくて、いきなり王様になったことだよ」
「それはまあいろいろとあるけど」
「お前が王になろうとしたのは正直以外だったよ。そんなことより自分の目的を優先するとおもっていたから」
こいつは確か話し合いの場では俺を推していなかったか
「一度死ぬと本当に死生観が変わるんだよ」
冗談のつもりだったが、ジギがすごい形相で睨むので、この冗談はもう誰にも使わないことにする
「父さんのことを思い出したんだよ」
「親父さんてことは、王弟の」
「そ、親孝行したくなっただけだよ」
「そうか」
こいつもモンタグ村の村人拾われた身だ
少なからず俺の気持ちを汲んでくれたようでこれ以上の追求はなかった
「テオ様、ジギそんな端っこでナニしてんだよ」
オルゲンが俺達に肩を組んできた
酒を呑んでいるせいか機嫌がよさそうだ
この後オルゲン、ヒューゴ、レンナルトが中心に大騒ぎとなったがレーヌのお陰で場は落ち着いた
明日はマティアス達と爺さんが出る日だ
見送りをしたいので、早く床につく
朝珍しく早く目が冷めた
爺さんの遺体が安置してある場所に行くと
誰もいないので棺を開ける
レーヌが防腐処理の魔術を施してくれたお陰で爺さんはきれいなままだった
死因は魔力切れで間違いないらしい
この人にとって俺は孫でいいのだろうか
生かしてくれたことは感謝しているが、命をかけるほどの価値がこの人にとって俺にあるかは分からない
あの時、もっとちゃんと話をすれば良かった
いつ別れがくるか分からないなんて当の昔に知っていたはずなのに
だから誓おう
この祖父に、両親に恥じない生き方をしようと
棺の蓋を閉めて、外に出る
マティアスがいた
出発の時間にはまだ早いはずなのに
「何だよ」
「いや、早いなと思ってな」
「王様は、朝から街の見回りですか」
「突っかかるような事言うなよ」
「突っかかせるようなことをしたのは誰だよ」
マティアスが怒鳴った
「何だよ」
「何だよ、じゃないよ。なんで何も言わずにいなくなるんだよ」
「それは、ごめん」
「オレたちともかく、フェリシアには何か行ってやれよ」
フェリシアの名前を出されて何も言えなくなった
「あいつもお前が牢屋にいる間、ずっと軟禁されて取り調べを受けてたんだぞ。それにまだお前なんかを信じてるんだ」
何も言えない
「何か言えよ」
「死ぬつもりだったんだ。いや正確には俺なんか生き残れるわけないと思っていた」
「死ぬから何も言わないのか。そんなの残された方は何も知らないままじゃないか」
フェリシアの顔と同時に祖父と両親の顔が思い出される
「お前は自分も他人も生きているやつにはいろいろと雑なんだよ」
「そんなことは」
「ないとは言わせない。どうせ死んだ両親の無念を何より優先させていたんだろう」
「仕方ないだろ、あれを見ても何でそんなことが言えるんだ」
「一人でやるなって言ってんだよ」
「お伽噺が本当でしたなんて誰が信じるんだよ。よくわからないやつにそんなこと言われて誰が信じるんだ」
「今は違うだろ」
「え」
「今は俺やフェリシアももう何も知らないわけじゃない。それに俺とお前は友達だ、よくわからないやつじゃない」
「マティアス」
「それでもお前は俺達に話していないことがあるだろ、それはどうしてだ」
「それは」
「自分が巻き込ませたって、思いたくないだけだろ。フェリシアは本来話の中心にいるべきなのは、俺にもわかる」
そうだ、フェリシアがいつか巻き込まれるのは分かっていたことだ。それでも彼女に何も言わなかったのは、俺が彼女を変えるなんて烏滸がましいと思っていた
マティアスは俺の脇腹を小突いて言う
「これからお前が言わなかったことは何か事情があるって信じるからな。いいな」
「わかった。フェリシアとお前には極力隠し事はしないようにするよ」
極力ってなんだよとマティアスが小突く
「今から言うことをよく聞け、騎士団しかも上層部に天使と繋がっている奴がいる」
「何だよそれ」
「俺の両親は理の国の騎士と天使に殺されている」
「誰が」
「結局わからなかった、だからこれ以上何も言えない。知ることでお前達を危険にしたくない」
「上層部って限られるだろ」
「少なくとも俺が会ったことのある、ベルトランとガスパール、年齢を考えるとクリストフは違うだろうな」
「あとは全員怪しいってことかよ」
「そうだ、恐らく人数も複数だろうな。分かっていると思うが」
「お前から聞いたことを無闇に言わないよ。バレたら俺まで牢屋行きだ」
「そうか、それならいい」
「あとは」
そう言って、マティアスが小突いてくる
「何だよ」
「フェリシアにはなんかないのかよ」
ああと言って懐からカギを取り出してマティアスに渡す
「これをフェリシアに渡してくれ」
「何の鍵だよ」
「それを持って二人でアースレンに行け」
「何であんなところに」
「たのむよ」
マティアスは鍵を懐に入れてくれた
「あとは何もないのかよ」
「そうだな、ああ」
「あるのかよ」
「俺とお前は同い年だから、もう威張るなよ」
「はぁぁぁぁ」
今日一番の絶叫が響いた
「二人とも男だけで何いちゃついてんだよ」
ラウルが呆れた様子で家から出てきた
気づけば時間になっていたので、彼らは街の出入り口まで送る
既にそこにはオルゲンを含めた他の騎士や市民達もそろっていた
「どういうことだよ」
「何、アンソニー区長の見送りだよ。それにノルベルト殿は我らの王の命の恩人であり、その家族だ見送って当然だ
」
ラウルの問にオルゲンが答えた
なるほどねとラウルがおっかなびっくりした様子で馬車に入る
ソーニャとジゼルもそれに近づく
「マティアス」
マティアスを呼んで近づき、手を差し出した
「何だよ」
「俺達、友達なんだろ」
と言うと彼は怒った表情で俺の手をとり、別れの握手をした
彼らは行ってしまった
だが、何も終わっていない。終わらせるわけには行かない
俺はやっと始めることが出来たところなのだから
馬車の中は、何故か居心地が悪かった
「なんつーか、お前ら気持ち悪いよ」
「マティの浮気者」
ラウルはともかくソーニャ様は本気で起こっているようだ
「違いますよ。あいつの距離感がおかしいだけですから」
「本当に」
「本当ですよ」
「皆様この話題はまた後ほどにして、それよりも国に戻ってからのことを考えた方がよろしいかと」
ジゼルが助け舟を出してくれた
「戻ったら調査隊に、ベルトラン隊長のもとに真っ先に行こう。ソーニャ様とジゼルも」
「そうだな、それがいい。誰が裏切り者なんだろうな」
ラウルが知っていないはずのことを口にした
「聞いてたのかよ」
「途中からだけどな」
「国内も安全ではないとは言うことですか」
「どうだろう、でも剣の国から帰ってきた俺たちを快く思わないやつがいるってこと」
しばらく話をしたが、内容があれなのでなかなかまとまらない
数時間ほど馬車を走らせていると
「あっーーー」
ソーニャ様が大声を出して、指を指した
その先には色鮮やかな鳥がいた
「テオの鳥だよ、お前付いてきちゃったのかよ」
「どうすんだよ、今更引き返すわけにはいかないぞ」
「こいつは自分でテオのところまで戻れるはずだ」
捕まえようとすると、それを避けて馬車の中を飛び回る
「もう何とかしてよ」
「おい、どうすんだよ」
しばらく捕まえようとしたが、鳥ことバイアーはなかなか捕まらず。こちらが諦めるとソーニャ様の肩に止まった
「ソーニャ様、お取りします」
「もういいわ、この子私達についてくる気でいるみたいだし」
「なんか、動きの割に静かな鳥だな」
「俺が知っているこいつはもっと喧しかったけどな」
とにかく帰りも賑やかになってよかった
鑑賞的にならずにすんだ
父上、俺も必ず貴方のような立派な騎士になってみせます
そして、いつかソーニャ様にふさわしいだけの男になってみせます




