戴冠6
グシオンが去ったあと
俺はなんとか立ち上がり、外を目指す
地下道の扉を開けるとそこも瓦礫だらけで
以前街の姿からすっかり変わってしまっていた
「マティ」
ソーニャの声が聞こえたので、振り返ると何か倒された
「うが」
「ごめんなさい、マティ大丈夫」
「お嬢様、マティアス様はお怪我をされているようです。先に手当を」
「マー坊、よく生きてたな。ところであいつは」
「分からない。時間が来たからって何処かに消えて」
「マティ、すごいわ。あなた勝ったのね」
ソーニャがまた抱きついてきた
すごく痛いが、今はその痛みが俺が生きていることを教えてくれる
「それより、この現状は。それにさっきの歓声は」
「マー坊落ち着けよ。市街地の方でも別の化け物が現れたらしいんだ」
「じゃあ何で逃げてないんだよ」
「落ち着けって、そいつはテオたちが倒したんだとさ」
あんな化け物を一体どうやって
周囲を見ると歓声を上げている群衆の先の瓦礫の山の上にテオがいた
そして何かを叫んでいる
それを聞いて群衆はまた歓声をあげる
するとテオが瓦礫の山から崩れ落ちてしまった
「テオ」
気づけば叫んで前に進んでいた
ラウルが俺を支えてくれているようだ
テオのところまで行くと
テオは虚ろな目をしていて横たわっていた
オルゲンや他の人間が駆け寄って必死に名前を呼ぶが何も反応しない
何でみんなそうなんだよ
あんな化け物に敵うはずがないのに
どうして戦うんだ、なんで戦えるんだよ
アバドンとかいう化け物との戦闘を俺はただ見ている
じいちゃんの斧がまるで刃が立たない
早く逃げないと本当に皆死んでしまう
「人は弱い生き物だから、勝てると思わないと戦えないんだ」
ふとこの言葉を思い出す
確かモンタグ村でテオが言っていたかことだ
その言葉を信じるなら何か勝算があるのか
そしてみんなもそれをわかっているから戦えるのか
必死で考えるが何も思いつかない
あんな化け物と戦えるのなんて、王くらいのものだ
この国にはもういない王
そんなこと皆の方がよく分かっているのにどうして
何を期待しているんだ
するとテオがノルベルト爺さんと一緒に
アバドンへ向かった
それもすごい速さでだ
遠目では何をしているか分からないが
ノルベルト爺さんが手をかざすとアバドンは全身が鉄となってしまった
それにじいちゃんが思いっきり斧を振り下ろす
するとアバドンから何か折れたような音が聞こえた
その後に霧が出てきて皆が戻ってきた
ノルベルト爺さんが魔法陣の中心に奴の破片を置いて調べている
その間にテオが前に出て
化け物を挑発した
化け物はテオに猛攻を仕掛けた
それでもテオはそれを難なく交わす
これなら本当に勝てるかもしれない
これが刻印術、魔術なのか
解析が終わったのか、ノルベルト爺さんが剣の空白の部分に何かを刻んでいた
テオはすぐにこちらに戻り、その魔剣を受け取ってグラフドラファムと名付けて
皆とアバドンの方に向かった
アバドンはこちらに鋼鉄の腕を伸ばすが
ヒューゴが、レンナルトが、ジギが、じいちゃんがテオのために道を作る
気づけばテオはアバドンのすぐ側にいた
そこからはすごかった
テオはあの化け物の腕を難なく、紙でも切るかのように切り裂いた
そして化け物に止めをさした
すごい、本当にあんな化け物に勝つなんて
俺もあっち側に行きたい
テオやじいちゃんのような強い戦士になりたい
本気でそう思った
テオの叫びは皆に勇気と希望を与えたはずだ
少なくとも俺はそれをもらったと感じた
するとテオが瓦礫の山から崩れ落ちた
慌てて駆け寄る
「おい、テオ、テオどうしたんだよ」
ジギの必死な呼びかけにも答えない
「何があったんだよ」
二人の騎士とロゼッタとオルティノが現れた
二人の男の一人は怪我をしているようで、もう一人がそれを支えている
テオ
テオ
テオ
皆が必死に叫ぶが、誰の声にも反応しない
「もう、やめなさい」
ノルベルト爺さんが言う
「でもテオが」
「この子は自分の魔力を全て使い果たしたのだよ」
「それじゃあ」
「この子はもう死んでおる」
死ぬ
テオが死ぬ
だってあんなに強かったのに
俺もあんな風になりたいって思ったのに
ノルベルト爺さんがテオに近づいて手を握る
しばらく目を瞑ったあとに言った
「やはりこの子は愛されていたのだな」
それがどういう意味か聞こうとしたとき
「お前達そのテオ・クレマンとかいう男の遺体をよこせ」
それは空から聞こえた
見上げると背中から白い翼を生やした人間が何人もいた
それはまるで物語の中にいる天使のようだ
そのうちの一人、リーダー格であろう男が叫ぶ
「もう一度言うぞ、その遺体をこちらに寄越せ」
するとその天使に向かって火球が飛んだ
それは全く効いた様子がなかったが、ノルベルト爺さんがしたようだ
「わしの孫を、家族を2度も失うわけにはいかんのだ。この子はわしが助ける」
「爺さん、何と言ったんだ」
「この子はまだ助かる。それまで私を守ってくれ」
ジギの問にノルベルト爺さんが答えると皆が立ち上がって、武器を構えた
「下等な存在が、今更お前達に何が出来るというのだ、行けえ」
その指示で天使たちは一斉にこちらに来る
ロゼッタはテオとノルベルト爺さんを守るつもりだ
皆もうボロボロなのに、どうして立ち上がれるんだ
どうして俺は立ち上がれないんだ
さっき決めたじゃないか、テオやじいちゃんみたいになるって
すると天使の1人がロゼッタに気づいて
「お前はもしかしてシェミハザじゃないのかい」
シェミハザとは誰だ
いやロゼッタに対して言っている
「お前もペネムエも実に疎かだ。下等な人間に味方するなんて」
「うるさいアルマロス、私はともかく姉さんを侮辱するな」
ロゼッタの言っている意味が分からない
天使がロゼッタに斬りかかる、ロゼッタは防御壁で応戦する
その時急に男が空中から現れて、アルマロスと呼ばれた天使を蹴り飛ばした
「いけませんよ。人形とはいえ、女性のエスコートはちゃんとしないと」
「お前何者だ」
「失礼、私はソラスと申します。あの方の従者にしていただくために来たのです」
ソラスは天使を無視して、ノルベルト爺さんに話かける
「ご老人、本当にこの方は助かるのですね」
「ああ、何があってもこの子だけは助ける」
「それは素晴らしい、では私もぜひご助力させていただこう」
ソラスはそう言うと姿が消えた
気づけばリーダーの天使のもとにいた
「お前は、もしや」
「今は何だっていいでしょう」
ソラスはリーダーの天使と互角にやり合う
空を飛ぶ天使に対して、瞬間移動をして空中の相手に応戦している
こいつもアバドンとかいう化け物と同じなのかもしれない
でも、これ以上俺達にはどうしようもすることは出来ない
そう俺達には、いや俺にはなにもないからだ
じいちゃんが
ジギが
オルティノが
レンナルトが
ヒューゴが
騎士たちが
ただ傷ついていく皆を見るだけで何も出来ない
体が動かない、怖いからだ
皆テオのために必死になっている
テオが居てくれたら、何とかしてくれるかもしれない
それじゃあだめだ
俺も戦うんだ、テオやじいちゃんと一緒に敵を倒すんだ
「うわぁぁぁぁ」
体に力がみなぎるのでそれに合わせて叫んだが
だが何も起きない。それでも不思議な感じだ
今ここにいる人達が怖くなくなった
こいつらになら勝てる
そう思った時、一人の天使が俺に向かってきていた
「アロイス」
じいちゃんの心配する声が聞こえる
俺は何も怖くないのに
気づけば俺に向かってきた天使は剣が突き刺さり、地面に落ちた
それを全員が見ていた
俺の周りにはいくつもの剣が出現していた
「お前達、動くな」
その言葉に天使や皆の動きもとまった
「くそ、なんてことだやはり剣の王は生きていたのか」
「素晴らしい、王という最強の手札を切らずにアバドンを倒すだなんて」
リーダーの天使とソラスという男が正反対の反応をする
膠着状態が続く
アルマロスとかいう天使が叫ぶ
「撤退しましょう、このことを我が主に伝えないと」
リーダーの天使は頷くと
天使たちは上空へと昇る
「君はどうするだい、シェミハザ。我が主に断罪されようとも報告する義務があると思うけどね」
ロゼッタは迷っているようだ
「行くな、行かないでくれ」
つい口走ってしまった
それを聞いた彼女は少し笑ってわかりましたと答えてくれた
天使たちはここから離れようとしている
これでやっと終われると思った時に
「待てよ、そう急ぐなよ」
俺のそばから声が聞こえた
そうテオの声だ
「俺達は一度退く、なんのようだ」
「いや、客人に何のもてなしもしていないと女神様にも失礼かなっておもってな、土産を用意しよう」
「どういう意味だ」
オルゴグラフ
テオが手を掲げて、それを口にするだけで小さな炎が出てきた
魔法陣なしにだ
「何故貴様のような王でもない者が、下等な存在が我が主の言葉を使える」
「そこまでは言えないな」
リーダーの天使はまるで悪魔のようなすごい形相だ
「わたしの名前はチャミュエル、貴様の名前はなんという」
「テオドルス・フォン・エスターヘルム」
「そうか、今この時から貴様は私の敵だ。いいか必ず殺すという意味だ」
天使たちは一斉に引き上げたようだ
「よく頑張ったなルードウィク」
テオはその名前を言って、俺の頭をポンと叩いた
もう何が何だか分からない
それでもテオが生きていてよかった
ふとテオがいたところを見ていると、ノルベルト爺さんが倒れていた
「先生」
騎士たちがノルベルト爺さんに駆け寄る
ノルベルト爺さんは死んでいるようだった
「テオどういうことだよ」
「俺にも分からない、気づいたら爺さんが俺の手を握っていて倒れていたんだ」
「それじゃあ、先生も魔力切れで」
「なんで、先生が死ななきゃいけなのよ。せっかく家族に会えたのに」
「もうよそうマー坊、ソーニャ様、ノルベルトさんも本望だろう自分の孫のためにしたことだ」
「ですよね、テオドルスさん」
マティアスとかいった騎士を嗜めて、長身の騎士が軽くこちらに笑ういかける
「わかっているよラウル、ちゃんと説明する。その前に怪我人の救助をしたい」
その後、スタッドの街で人命救助が行われた
じいちゃんや戦った人達は怪我の手当をしてもらったていた
「オルゲンさん、無理をし過ぎですよ。それにあなた達も」
女性が率先して皆の手当をしている
この人も魔術師のようで魔術で大きな傷を癒やしていく
「お前、レーヌか相変わらずいい女だな」
「余計なことは言わないでください、こんなおばさんに向かって返って失礼ですよ」
レーヌという人はじいちゃんの手当が終わるとヒューゴ、レンナルト、マティアスと手当をしていた
ルードウィク
とは俺のことなのだろうか
それに俺が剣の王だなんて、こんな俺に王なんてできっこない
この国にはもっとふさわしい人がいるのだから




