戴冠5
「テメェ等、俺に何しやがった」
やつは肘から先を硬化させてそれを伸ばして周囲を破壊する
このままでは、俺たちはもちろん周囲の被害は甚大だ
ノルベルトの解析魔術はもう少し時間がかかるようだ
「おい、木偶の坊」
「おい、何してやがる」
オルゲンが瓦礫から飛び出した俺を止めようとするがジギがそれを止める
「おい、テオ。俺に何をした」
「なんのことだ」
「ふざけるな。お前が何か小細工したんだろうが。じゃなけりゃあ、俺の硬度を折れる訳がない」
どうやらこいつは自慢の硬化が折られたことにご立腹らしい
「教えるかよ。ていっても教えてたところでお前にはどうしようもないけどな」
「クソが」
アバドンが硬質化した腕を勢いをつけて伸ばした
俺はそれを避けて、前に出る
アバドンの一瞬の隙にオレは瓦礫をやつに投げつける
「なんのつもりだ」
「これでもヒビが入るのかと思ってさ」
安い挑発だが
やつはそれに乗ってきた
アバドンは俺だけを狙い攻撃してくる
俺はそれを避けながら、石を投げる
「すげぇな、あれは何だ」
「魔術じゃよ。恐らく身体能力を強化しておる」
「でも魔法陣なんかどこにもないぞ」
「刻印式だろうな。あの子の体の何処かにこの刀身のように文字が刻まれているはずだ」
「よし、終わったぞ」
オルゲンはそれを聞くとヒューゴとレンナルトに指示を出し、3人はアバドンと相対する
その隙に俺はやつから離れた
ハァハァハァ
息が苦しい、あれだけの動きでも魔力の消耗が激しい
「大丈夫か」
アロイスが尋ねる
俺はそれに大丈夫だよと返す
「ほら、出来たぞ」
ノルベルトから剣を受け取る
ノルベルトは剣を離すのを一瞬ためらった気がするが今はそんなことを考えている余裕はない
剣を見ると魔術が完成していることがわかる
これだけ高度な魔術だ、そう何度も使えないだろう
「名前を決めてくれ」
「は」
ノルベルトは悲しそうな顔をして言う
いきなりのことに戸惑う
「決めてやれよ」
ジギも同じような顔をして言うので
少し考えてから
「1を切るもの グラフドラファムだ」
全てから1にはなってしまったが、俺たちには似合いの名だろう
「そうかいい名だな」
ノルベルトは表情を変えずにそう言う
俺は瓦礫の上に立つ
「アバドン、いい加減に終わりにしよう」
アバドンが俺を睨む
「それはお前たちが俺に殺されるって意味だよな」
「お前が死ぬって意味だよな」
アバドンはふざけるなと鋼鉄の腕を俺に伸ばす
俺は先程と同じように躱して前に出る
思ったよりも芸のないやつだ
こいつは自分の力をあまり使いこなせていないような気がする
アバドンは今度は両手で俺を潰そうとする
それをジギ、ヒューゴとレンナルトが受け止める
俺は全身全霊でやつの下へ行く
気づくとやつの腕は元に戻っており、今度は腕を十字に交差させ俺を切ろうとした
オルゲンがそれを受け止める
俺はなおも前に進み続ける
もう奴に触れるほどの距離まで来た
それに流石のアバドンも動揺したようだが
「今更一人で何が出来ると」
左右から鉄の腕で俺を攻撃してくるので
魔剣グラフドラファムで奴の腕を順番に切った腕を無くした状態のアバドンは少しの間、呆然としていた
「嘘だ嘘だ、俺が切られることがあるかよ」
無様に騒ぎ続けた
耳障りなので早く終わらせよう
「確か左胸だったよな」
「やめろ」
アバドンは全身を硬化する
その表情は恐怖に染まっていた
そのことに安堵して俺はアバドンの左胸に剣を突き刺す
「クソクソ、嘘だ嘘に決まっている」
アバドンは理由の分からないことを言って倒れた
アバドンは塵となって消えていく
俺達の勝利だ
うおおおおおお
周囲から雄叫びが聞こえる
気づけば俺は瓦礫の上にいた、それを瓦礫の影に隠れて市民や騎士が見ており、喜びの声を上げていた
俺は最後の力を振り絞り叫ぶ
「聞けえ」
全員が黙る
魔剣を掲げて叫ぶ
「俺たちがやったんだ。そう俺たちだけで、王なしでだ。王も神も勇者でさえもいないこんな状況で俺たちはやってのけたんだ
もうなにかに頼らやくても、俺たちなら自分の足で前へ進める
もう王の時代は終わりだ、これからは俺達の、俺達自身で時代を切り開いていけるんだ」
頭が回らない
上手く伝わっただろうか
もう1度歓声が聞こえる
それに安堵する
ここまでやったのだから俺にしては上出来だ
二人もきっと褒めてくれる、いや無茶をしたことを叱ってくるかもしれない
何にせよ、俺はもう終わりだ
最後にルードウィクに何かを残せたのなら、それで良しとしよう
全てのことを終わらせたことに安堵するとフェリシアのことが頭をよぎる
欲をいえば、もう一度会いたかった
会って謝りたかった。彼女にこそ伝えたいことは山程あったのに
ああ、死にたくないなあ
それでも自分の力が抜けていくのを感じる
それでも最後の光景がきれいな青空であることが不幸中の幸いだ
大きな爆破音が聞こえる
父上が何かしたのだろう
ということは時間はあまり残されていない
父上はもう死んでしまったのだろう
でもあんな化け物相手に立派に時間を稼いだのだ
何とも誇らしいことだ
涙が流れる
これは父上が亡くなった悲しさか自分が死ぬ恐怖かはもう分からない。あるいは両方かもしれない
カツン、カツンと足音が聞こえてくる
振り向くと奴がいた
爆発に巻き込まれたはずなのに、少し汚れている程度で無傷のようだ
「父上はどうした」
「区長殿なら死んだ。油断していた、まさかあの短時間で爆破の用意を指定だとは」
グシオンとかいう化け物がこちらを見た
「一人で残ったのか、勇敢というべきか、はたまた蛮勇か」
「父上は最後になんか言っていたか」
「さあな。笑っていたことは覚えているが、惜しい男を亡くした」
男はまるで父の死を悼んでいるようだった
「どういうことだ」
「言ったとおりだ。お前の父親は力こそ人並みだが、なかなか肝が座っていた。もう少し語り合いたかったものだ」
グシオンが目を閉じたのを確認して、天井に設置した火薬に火の魔術を放つ
速さ重視で見た目はショボいが爆破させるには十分だ
爆破音がしてから天井が崩れた
俺は次の罠を発動させる準備をするために奥に進む
「やはり親子なのだな、父親とやることが同じだ。だが、時間稼ぎだけではどうにもならないことくらいわかっているのだろう」
そんなことをこと言われなくてもわかってる
ソーニャ様が運良くこの街を出て、国に戻ることができても意味はない
眼の前のグシオンと前会ったオルニアス奴らは少なくとも2人いる
口ぶりからしてもっといるかもしれない
こんな奴らに王なしでは対抗できないだろう
だから俺の目的は時間を稼ぎつつ、情報を得ることだ
「お前達は何者なんだ」
「その問いには答えられない。俺もわからないからな」
「目的は、どうしてテオを狙う」
「王を全員殺して、自由を手に入れるためだ」
グシオンは瓦礫の中から出てきた
今度は巻いてある油に火をつけた
火の壁が俺と奴を遮る
急いで先を急ぐ
「こんなもので、俺が諦めるとでも」
グシオンは平然と火の壁を通った
どうする有効打が何もない
せっかく父上が時間を作ってくれたのに
これじゃあ、無駄になってしまう
そしたらソーニャが
そこまで考えて、自分で自分の両頬を引っ張る
「何をしている」
その様子にグシオンは足を止めた
「気合を入れたんだよ」
そうかと言うグシオンは何処か嬉しそうな顔をしていた
グシオンはすぐに間合いを詰めた
俺も魔術で応戦しようとする
すると誰かに服の襟を捕まれて尻もちをついた
「何で私がこんなことを」
ロゼッタが薄い黄色の壁を発生させて、グシオンの拳を止めた
グシオンが少し距離をとり、警戒しているようだ
「ロゼッタどうして、というかあれは何」
「そんなことどうでもいいでしょう」
彼女は激昂しているようだった
こんな彼女はモンタグ村でも、スタッドの街でも見たことはない
行きますよと走る彼女について行かず
その場にとどまる
「まさか、あれと戦うつもりですか。あなたが敵うわけないじゃないですか」
「そんなことわかっているよ、それこそどうでもいいことだ」
すかさず先程と同じ方法で天井を崩す
「ここで死ぬつもりですか」
「死にたくないよ、でもそれよりもこいつを先に行かしてはいけない理由があるんだ」
「私に期待しても無駄ですよ。私の防御ではそう何度もあの男を止められません」
「それなら君も逃げて、できれば応接室にいた人達を守ってほしい」
それを聞いて彼女は心底落胆したような顔をした
「あの男に利用されているようで癪ですが、あれを殺す理由なら私にもあります」
グシオンが瓦礫から出てこちらに殴りかかりにくる
ロゼッタが防御癖を出してそれを防ぐ
何度も殴られている内に透明の壁にひびが入っていく
俺は魔術を構成する
壁が崩れた同時に瓦礫で出来た砲丸をやつに食らわせる
グシオンは吹き飛ばされるがまた立ちあがる
「そうかお前は天使か、それに魔術師もなかなかやるな」
グシオンは機嫌が良さそうに話す
天使
それが何なのか気になるがこれよりも先にグシオンをどうするかが先決だ
ロゼッタがまた防御壁をはる
今度は二重だ
これならすぐには壊せまい
その間に必死に頭を働かせる
このままではジリ貧だ
どうすればあの男を止められる
気がつけば市街地側の出入口近くまで来ていたことがわかる
「ロゼッタ、壁に破られたらまたさっきの魔術をぶつける」
「その隙にそこの出入り口から出てくれ」
「それであなたはどうするのですか」
「考えがあるんだ、信じてくれ」
「よく考えればあれをどうにか出来るならどうでもいいことですね」
壁が限界のようなので岩石をあいつに放つ
「2度目が通じると思うな」
グシオンは体を捻るだけでそれを避けてこちらにくる
その時、空気の弾丸が奴を捉える
ガハっという声を出してグシオンが付記き飛ぶ
いくらグシオンとはいえ、こんな薄暗い地下道ではただでさえ見えづらい空気の弾丸を見ることはできないようだ
「ほら、早く」
ロゼッタを逃がす
「どういうつもりだ」
「サシでお前に勝ってやる」
「なかなか面白いなお前も」
そう言うグシオンの顔は笑っていた
「さっきから何回天井を崩したと思う」
「数えてないな、だから何だと言うのだ」
「ちゃんと考えろよ。いくらこの地下道が頑丈とはいえ、何度も爆発を起こされたら絶えられないだろうよ」
グシオンは少し考えて
「そうだな、つい楽しみすぎたようだ。たとえここが全て崩れても俺は死なんぞ」
「生き埋めにすんだよ、馬鹿」
そう言って俺は全力で走る
グシオンがそれを追いかける
当然すぐに追いつかれて殺されるだからこそ
ここまでくる必要があった
今までちゃんと爆薬を配置させていたんだ
雑な計算だけど、ここで爆発させればこの地下道は絶えられないだろう
俺は拳が来ると思うと同時に火を放つ
グシオンは俺ではなく、火を止めた
そのままの勢いで俺を蹴り飛ばされる
「危ないところだった。でもこれで万策尽きたようだな。あの天使を巻き込みたくなくて逃がしたのだろうが、そこが甘いな。確実にやるならあいつの助けを借りるべきだった」
痛い、痛くて立ち上がれない
何とかしないと、何かしないと
こいつがソーニャに
「さぁ、お前と話をしようか」
「え」
痛みで立ち上がれず、地下道の壁を背にしてなんとか座れて奴を見た
「俺の目的は始めからテオ・クレマンだ
逃げた連中に興味はない」
そういえばそうだった
こいつは始めから俺達のことなんて眼中にない
「お前は知っているのだろう、教えてくれ。俺もお前のような男は殺したくないのだ」
グシオンが話している間になんとか呼吸を落ち着かせた
「教えてくやるかよ、俺はもう友達を裏切らない」
こう言って睨むことしか俺にはできない
「そうか、残念だ」
グシオンが近づいて来た
屈んで俺に向かって拳を振り上げる
今度こそ終わりだと思った時
うおおおおおお
とんでもない歓声が聞こえる
それには流石にグシオンの拳が止まった
「時間のようだな」
「え」
「だから、この勝負お前の勝ちだと言ったんだ、お前名はなんという」
「マティアス・ローラン」
「そうか、マティアスというのか。それではマティアスこの勝負はお前に預けることにする。お前がこの後も生き残ることができたのならまた会おう」
そう言ってグシオンは瓦礫の中に消えていった




