戴冠4
土煙に近づくと声が聞こえる
「テオ・クレマンはどこだ」
土煙の中心で男が叫んでいる
身を隠して周囲を確認する
土煙がやがて晴れていく、そこに現れるたのは上裸の男だった
その男は俺であろう名前を叫びながら、周囲を見回しているようだ
騒ぎを聞きつけて、この国の騎士たちが来たようだ
その1人が叫ぶ
「お前は何者だ、なんの目的だ」
「俺の名前はアバドン、テオ・クレマンっていう名前のやつを殺しに来た」
俺を探す理由は殺すためらしい
こいつらは何者だ、なんのために俺を狙う
想定していた相手じゃないことに戸惑いがあるが、様子を伺うことにする
「テオ・クレマンを出せ」
「そんなやつは知らない」
「はぁ、こういうの苦手なんだよな」
上裸の男は項垂れた
よしと声を出し
「ここにいる奴全員殺せばいいか、探すのめんどくせえし」
男は騎士たちに突進する
騎士たちは当然それを迎え撃つ
男の動きは単調だ、これなら難なく対応出来るだろう
男を討ち取ったと思ったとき、騎士たちの剣や槍がカンっと甲高い音を出して弾かれる
「死ねぇ」
男が腕を広げて回転すると、騎士たちが上下で半分に切られる
その男の腕は鉄のように変質していた
こいつは何者だ、これは魔術ではないことは確かだ
仮に魔術だったとしても、フェリシア並みの魔力がないと、とっくに魔力切れで死んでいるはずだ
これは王の力と近いものだと考えるべきか
だとしたら、どう対応すべきか
情報が少なすぎる
騎士たちも戸惑いがあるようで男と距離をとる
「どいつもこいつも弱ぇな、さっきの中に王はいないな」
王
理由が分からないが、こいつは俺を王と勘違いしているようだ
とにかくオルゲン達と合流したほうが良さそうだ
この場を1度離れようとした時、男は手当たり次第に暴れ始めた
逃げ遅れている人達が建物とともに切られるていく
ガハハと笑い声を上げながらアバドンとかいう化け物は暴れている
こいつを確実に殺すためになにをすればいい
殺される人には申し訳ないが、今ここで俺が出ても何の意味もない
「いい加減にしろ、化け物が」
騎士たちが一斉に化け物に突進する
当然化け物は余裕の笑みを浮かばせながらそれを撃退する
しかし、アバドンの肘が切られていた
誰が切ったかは分からないが、この化け物に傷をつけた
その傷からは血が流れていなかった
これは大した問題ではない
この化け物にやりようによっては傷を付けられる。問題はどうすれば致命傷になるかだ
もし、こいつが無敵の化け物なら真っ先に王を殺せばいい
王がいるか分からないこの場所ではなく
王が確実にいる他の国へ行けばいい、それをしないのはこいつも王とやりあえばただでは済まないということだろう
「テオ、テオ」
小声で誰かに呼ばれる
後ろを振り向くとオルゲン、ジギ、アロイス、ノルベルトがいた
「聞いていた話と違うぞ、あれは何だ」
ジギが俺に問う
「俺も分からない」
「なら何でお前の名前を言っている」
「それはこっちが聞きたいね」
「お前が剣の王なのか、だからあいつは」
アロイスは何も知らずに尋ねる
「違うよ、だとしたらとっくにあいつを殺している」
そんなことを話しているうちにアバドンは街を建物を人を破壊し続ける
そんなグシオンに斬りかかる影が2つ見える
その武人達はグシオンと互角に渡り合う、だが致命傷を与えることは出来ない。殺されるのさ時間の問題だ
「ヒューゴとレンナルトだ」
オルゲンは呟く
二人はグシオンの攻撃を躱しながら、剣戟を入れるが、どれも鉄同士がぶつかる甲高い音だ
「肘や可動部を狙え、こいつ効果と動作を一変に出来ないぞ」
大声を出して、得た情報を伝える
この情報は間違っていないはずだ。先程から効果を何度も解いては発動している
こいつの能力は恐らく、皮膚の硬質化や鉄に変換しているといったところだろう
皮膚だけが鉄になるので、攻撃する時には必ず可動部の鋼鉄かを解かなければいけない
だから先程死んだ騎士たちは肘だけに傷をつけられることが出来た
ただ傷をつける方法はわかっても、こいつには何のダメージもないのだろう
何かないのか
「テオ、ジギ俺たちも行くぞ」
オルゲンが叫ぶ
「俺も行く」
アロイスがそれに答える
「お前はだめだ」
3人の声が揃う。それにアロイスもたじろいだ
「テオ、お前がテオなのか」
アバドンがオルゲンの叫び声に反応する
「そうだ」
「お前が剣の王がなのか」
「答えると思うか」
アバドンは全身の鉄化を説いた
こちらに構えて右腕を伸ばした
それは鋼鉄となりまっすぐこちらに伸びる
とっさのことに反応が遅れたが、何とか避けられて、腕をかする程度ですんだ
こいつ、曲げることは出来ないが、伸ばすことはできるようだ
「俺は剣の王じゃない」
「何だ、やっぱりそうか。お前が王ならこそこそしてないで初めから来るもんな」
痛いとこをついてくる
「俺からも質問いいか」
「何だ」
「どうしたらお前を殺せるんだ」
一か八か聞いてみた
アバドンは大きく笑った
「お前、素直なやつだな。気に入った教えてやるよ。ここだ」
男は自分の左胸の位置を指さした
「ここに俺の核がある。ここを壊せば俺は死ぬ」
「ありがとう」
「いいってことよ。まあここの鋼鉄化は解くつもりはないがな」
嘘か本当かは分からないがこの男の殺し方が一応はわかった
問題はそれが到底出来ないってことだ
「俺からも質問いいか」
「どうぞ」
「お前は誰が剣の王か知っているのか」
「知ってるよ」
「誰だ」
「そこまでは教えられないな」
それにはヒューゴとレンナルトも驚いたように反応した
「どういうことだ」
「オルゲン、お前も知っていたのか」
それを見てグシオンは笑みを浮かべた
「そうか、知っているのはお前だけなのか。他は殺して良いんだな」
ヒューゴとレンナルトの方に向かった
その時、アバドンの真上に火球が発生して爆ぜた
あたりはたちまち煙に覆われる
それを気に俺たちはグシオンと距離を取る
「大丈夫か、テオ」
その火球を発生させたのはノルベルトだった
「どうして来た」
「やはりお前が心配でな」
ここで魔術師が一人加わっただけでは大した意味もない
「お前にこれを持ってきたんだ」
ノルベルトは先程はなかった荷物から剣を一つ出したそれは鞘に納められただけの普通の剣のようだ
「これは何だ」
「ディートリヒ、お前の父親が考案して、わしが完成させた何でも切れる剣だ」
何でもってそんな都合のいいものがあるはずがない
ノルベルトは剣を鞘から抜いて俺に見せた
その刀身には文字がきざまれており、それが魔術なのは理解できた
刻印式か
ただ術式に空欄があり、完成されたものではない
「これは何の魔術だ」
「分解だよ、その空欄に対象となる物質を刻むことでそれを分解する魔術の剣。魔剣だ」
分解そんな複雑な魔術は誰でも扱えるものではない、それにあいつの鋼鉄化の物質も判明していない
それでも活路は見えた
「オルゲン」
「何だ」
「お前の戦斧でやつの一部を欠けさせることは出来るか」
「わからんが、やってみよう。そうしなければ勝てんのだろう」
「ジギはやつの破片を速やかにこちらに持ってきてくれ」
「わかった」
「俺たちはどうすれば良い」
ヒューゴとレンナルトが尋ねる
「あんた達は援護を頼む。最初はオルゲンの次は俺のを頼む」
「どういうことだ」
「オルゲンがやつを欠けさせれば、あとは俺が何とかできる」
「わかった」
「ジギが退避したら、全員1度引いてくれ。その後俺が合図を出すから俺の援護してくれ。他の騎士は住人の避難だ」
「俺はどうすればいいんだよ」
アロイスが文句を言う
「お前にできることはないよ」
「なんでだよ、囮くらいはできる」
「お前を死なすわけにはいかないんだよ。その代わりちゃんと見ていろよ」
アロイスがどういうわけか黙ったので
もう一度言う
「今から俺がすることをちゃんと見ていてくれ」
「わかったよ」
結局俺には良い作戦なんかひらめくことはなかった
そもそもアバドンが本当のことを言っているのか、オルゲンがグシオンから破片を取ること、そしてやつから切り離した部分の硬化が戻らないこと、ノルベルトがその破片の解析が早く終わる事
そして俺の魔力が足りるかどうか
敵は恐らくあいつ1人ではない、それには俺達の敵は他にもいる
ここでの一か八かをかけるのは愚策のような気もするが
こいつに何かを残せるのならそれもそうだいいだろう
テオ・クレマンという中途半端な人間にはちょうどいい最後なのかもしれない
オルゲンが先手を切って、アバドンに突っ込む
それにヒューゴとレンナルトが続いて、最後にジギが行く
オルゲンは戦斧を大きく振り回して、攻撃するがアバドンには通じない
オルゲンに攻撃がいかないように、ヒューゴとレンナルトが援護して
ジギはナイフを投げて牽制している
今の陣形はうまくいっているが、肝心のオルゲンの斬撃の効果が薄い
これではいくらやっても破片が出てこないかもしれない
どうしたらいい
やつは皮膚を硬化させる能力だ
その為肘や関節を硬化してしまうと、動かすことができない
オルゲンほどではないとはいえやつも大柄だ
それだけの鋼鉄の塊を欠けさせることは至難の業だろう
まてよ
肌だけを硬化させるなら何故、騎士達を真っ二つに切ることが出来た
それが出来るなら、はなから剣での打ち合いなんて出来るはずがない
人の体のような丸みを持った形をそのまま固くしても、打撃で敵を殺せても、切ることはできない
何か鋭く、細いものを鋼鉄化しなければ行けないはずだ
ふと自分の手を見て気づいた爪だ
爪なら細くて鋭い、やつは鋼鉄化したら自分の体を伸ばせることができるのでそれなら納得が行く
奴の能力は体の表面を鋼鉄化することなのか
「オルゲン爪だ、指の先を狙え」
「何言ってやがるんだ、お前ら」
爪なら薄いので他の部位より、破損させやすいはずだ
オルゲンは察したようだが、そううまく指先だけを狙うことは難しい
膠着状態が続く、アバドンはオルゲン達の連携の前に決め手にかけるようだが、こちらもオルゲンやレンナルトが中心に剣戟を浴びせられるが奴から破片が出ることはない
このままでは体力を無駄に消耗させるだけだ
何かないのか
「冷気はどうだろうか」
「え」
「奴が本当に鋼鉄ならで冷気で割れやすくなるかもしれない」
「その方法は」
「以前フェリシアは火の術式の簡略化をすることで熱をで溶かしたそうだ」
「それの逆をするってことか。理論はわかったが出来るのか」
「何年魔術に携わっていたと思うんだ。やつに近づけさえすれば」
「わかったそっちは俺がなんとかする」
そう言うとノルベルトは魔法陣を構成する
俺はある程度の構成が終わるとノルベルトを抱えて走る
「オルゲン」
オルゲンたちは前に出できた俺たちに言う
「何しに来た」
「作戦変更だ、援護してくれ」
オルゲンは一応はわかってくれたようで
俺たちを隠すように前に出る
「何をする気だ、お前達」
グシオンも当然俺達の動きを不審に思う
「近くで見たくなっただけだよ気にするな」
軽口を叩いて見たものの、迂闊に近づけない
オルゲン、ヒューゴ、レンナルトが一斉にアバドンに切るかかるが鋼鉄に弾かれる
俺はその隙にアバドンの背後に周る
グシオンは背後の俺たちに注意をしながらも、3人を余裕でいなす
「爺さん、いいか今から一気に距離を詰める」
「わかった」
その言葉を聴いた瞬間俺は最速の速さで一気に近づく
アバドンはその速さに対応できず、隙が出来る
ノルベルトは手を前にかざし、冷気の魔術を放つ
「冷た」
アバドンは何をされているかは理解しきれていないようだ
生身の部分を守るように一気に全身を硬化させる
「いまだ」
オルゲンが斧を一気に振り下ろす
ボキンと何かが折れる音がする
オルゲンの斧と奴の硬化した髪があたり、硬化した髪が折れた音だった
とりあえずの作戦はうまくいったようだ
ジギが破片を回収したのを確認すると
用意していた霧の魔術を発動する
一度やつからはなれて瓦礫の影に隠れる
霧が現れるとやつは怒り狂ったように暴れ始めた




