戴冠3
眼の前の光景はなんだ
オルゲンの提案で街を見に行くことになった
といっても無理やり連れ出されたようなものだが
今俺はオルゲン、ジギ、アロイスと街を歩いている
この街は17年前1度滅んだとはいえ、よくもここまで栄えたものだ
市場では人の往来も多く、活気に満ちあふれている
「オルゲン、お前オルゲンじゃないのか」
一人の騎士がこちらに話をかけてくる
「誰だ、お前は顔を隠されてはわからん」
当のオルゲンには心当たりがないようだ
「ヨシアスだ、ヨシアス・ハーケン」
男は甲冑から顔を見せて言う
「ヨシアスか、久しぶりだな」
「オルゲンやっとわかったか、お前は老けたな」
「うるせぇ、いい年してまだ一兵卒みたいな格好をしてるやつよりマシだ」
「それもそうだ、お前が街に来ていることは知っていたが、そんな若い人達を引き連れてどうした」
この騎士も区長同様にオルゲンのことを知っていながら、それをどうこうするつもりはないらしい
「ただの子守だよ、それよりもお前この街で衛兵でもやってんのか。どうしてだ」
オルゲンの質問の意図はこうだろう
オルゲンの知り合いということは、このヨシアスという男も剣の国の出身だ
そんな者が何故騎士のような格好をしている
身分でも偽っているのだろうか
「そりゃあ、区長様のおかげだよ。区長様は俺達、剣の国の人間にも職をお与えになられた。それで今では俺も区長様お抱えの騎士ってわけだ」
区長は自治区内で職を無くした、元騎士や衛兵を積極的に雇用したようだ
そのおかげかこの街の騎士は一部の護衛騎士を除いてほとんどが剣の国の出身者だ
その奇妙なバランスを維持することが出来ているのも区長の実力によるところだろう
「それよりヒューゴとレンナルトにはもう会ったのか」
「何、彼奴等もこの街にいるのか」
たしかヒューゴとは、剣の国の軍師だった男だ
当時は若い年齢にあるにも関わらず、実力はずば抜けていたそうだ
レンナルトはオルゲンと並ぶ猛将でその大剣で幾重の敵を薙ぎ払ったとか
共に剣の国の重鎮だ
これではあの区長のやっていることは、まるで剣の国の復興ではないか
「でこの子らは」
ヨシアスが俺たちを見て尋ねる
「こいつらは何だ。これからのこの国を担う奴らだ」
何とも歯切れの悪い回答だ
それでもヨシアスは合点がいったようで
「そんな方たちとお会いできるなんて光栄だ、ヒューゴとレンナルトとも会ってやってください」
ヨシアスの話す内容にいまいちピンとこないジギとアロイスは不思議そうな顔をしていたが
ヨシアスは見回りの続きがあるからとこの場を去った
俺たちはまた街を見て周った
そろそろ区長の家に戻ろうとした頃に
「お前はテオなのかい」
フェリシアの魔術の先生であるノルベルトが俺の名前を呼んだ
面倒だな
この人が一人でこの街には来れるはずがない
王族と騎士が動いているのは間違いない。予想以上に動きが早い
次の王が現れないことにもっと混乱するとおもっていたが
眼の前老人が何かを請いるような目でこちらを見てくる
「そうですが、どうかしましたか」
出来るだけ感情を表に出さないことを意識する
「いや、すまない。お前は本当にレオノールの子供なのかい」
「いや、違う。俺なんかがあの人の子供な訳がない」
その名前が俺の感情を揺らす
うまい回答ができなかった
「そうか君がレオノールとディートリヒの息子なのか」
「だから違うと」
つい大声を出してしまった
「君は二人と一緒にいたのだろう」
何を答えていいかわからなくなってしまった
ノルベルトは何も答えないでいる俺に近づいてくる
「わしにらわかるよ。二人は君を愛していたとね」
それを聞いた瞬間俺の中に揺らいでいたものが、全て崩れ落ちた気がした
「愛だと、ふざけるな。俺にそんな資格はない」
「そんな事はない。あの二人は何とも思っていない人を側に置くほど善良な人ではないことをわしは知っているよ」
「何が知っているだ、あんたがそう思いたいだけだろ。なら本当のことを教えてやるよ。あんたの娘は俺のせいで死んだんだ」
「やめろ」
次の言葉を続けようとした時にオルゲンが俺の肩を持って止めた
「何だよ」
オルゲンは何も言わないただ寂しそうな顔をするのみだった
ノルベルトはまだ俺に何かを求めいるかのような目で見てくる
それに言いようのない苛つきを感じる
「あんたの勘違いだ。俺はあんたの娘が愛したあんたの孫でも何でもない」
そう言って立ち去る
あの人は何も悪くないということはわかっている。今はそれに浸ると決意が鈍る気がする。それこそあの二人に対しての裏切りだ
1人になって1度冷静になろう
そうすれば少しはましな話が出来るだろう
どれくらい時間が経っただろうか
昔のことを思い出す
二人は優しい人だった
血のつながりのない俺にも優しく接してくれた
二人は優秀な人だった
血統、魔術の才能は申し分ない
あの二人が生きていたら、今頃どうなっていただろうか
少なくとも俺が生きているよりずっと良い
バゴン
少し遠い場所か何が落ちる音がした
驚いてあたりを見回すと先程ノルベルトと話していた近くで大きな土煙があがっていた
考えるよりも先に俺の体が動いて
土煙の方に走る
男が言った
「テオ・クレマンはどこにいる」
こいつはテオを狙っているということ
立ち振舞があいつと何となく重なる
まさかと思い尋ねる
「お前、オルニアスの仲間か」
男は少し驚いたようだ
「そうか、お前がオルニアスと戦って生き抜いた騎士とやらか。そこまで強そうには見えないが、よほど頭が切れるのか」
まあいい、男は構えた
素手でやるそうだ
「テオ・クレマンは、剣の王はどこにいる。教えるなら命くらいは助けてやるぞ」
「てことは、教えない内は殺さないってことか」
ラウルが挑発する
「それもそうだな。なら、1人ずつ殺していくことにしよう。本来なら弱者をいたぶるのは趣味ではないのだが、何分時間がないのでな」
時間
さっきからこいつは時間がないと言っている
ただのブラフかそれとも
「こいつは危険だ。匂いが人間ではない、もっと邪悪ななにかだ」
オルティノが反応する
とても警戒しているようだ、その様子に恐怖を感じているようにも思える
「皆、逃げるんだ」
父上が俺たちを家の奥に行くように言う
俺たちはそれに従う
普段なら文句を言うとこだが、ソーニャ様にもしものことがあってはいけない
「それは困るな」
男は正面の騎士を甲冑ごと貫いた
素手でだ
その騎士からガバっという声が聞こえるとすでに騎士は事切れているようだった
「皆こいつは人間じゃないと思え、こいつの仲間は剣で切られても血すら出なかったんだよ」
「それは先に言えよ」
ラウルら軽口にも余裕がない
「とにかく区長様を守れ」
騎士の誰かが叫んだ
1人がやられても彼らは逃げないで立ち向かう
彼らの声を背に俺たちは父上と母上に促されて移動する
ジゼルはソーニャ様の側にいて、先頭は母上とラウル、最後尾が父上でその前を俺が行く
しばらく移動するとキッチンまで来たそこには移動できるような扉は無く、まさに袋のネズミとなった
「こんなとこに来てどうすんだよ」
たまらず声を出した
「この先に街へと続く脱出用の地下道がある」
「そんなんで逃げてもどうにもならないよ」
「私が残るから、その隙に逃げ切るんだ」
いつもそうだ
最もらしいことを言っているつもりが、文句しか言っていない。誰かが何とかしてくれるのを期待しつつ、何もしていないという事実が嫌で口だけを出す
何と身勝手で卑怯な人間なんだ
「母さんとソーニャ様を頼むぞ」
父上は俺の肩を叩く
その顔はいつもどおりの優しい顔だ
「私も残ろう」
オルティノが申し出る
「いやせっかくの申し出だが、妻をたのむよ。君が一番頼りになるのだから」
少し離れたところでしていた音が消える
それは護衛の兵士が全員倒れていたことを意味する
「早く行きなさい」
オルティノが先行し、お嬢様早くとジゼルがソーニャ様を連れて母上と先に行く、ラウルはこちらの様子を伺いながらもそれについていく
「ほら、マティアスお前も行くんだ。お前は何としても生き残るんだ。いいな」
結局俺は自分では何もしない
父が死を選んでいることにどこかほっとしている
情けなさに涙が出る
それでも父上に生きていてほしいのは本音だから
「父上もどうかご無事で」
今際の際に最悪なことしか言えない
それでも父上は最後に笑ってくれた
地下道の中はどこまでもまっすぐで市街地に続いているだけだ
このまま言ってもあいつに追いつかれて終わるだろう
「皆先に行ってくれ」
やっと言えた
「残ってどうするつもりだ」
「父上が稼いでくれる時間で罠を張る」
ラウルが俺を見る
何て顔をしているんだ
こういう時こそフザケたことを言ってほしいものだ
「マティ、何で一緒に逃げようよ」
ソーニャ様が言ってくれる
「ジゼル早くしろ」
それを無視してジゼルに早く行くよう促す
「ラウル、皆を頼むよ」
「何だよ、これじゃ俺のハーレムじゃんか」
最後くらいもっと面白いことを言ってくれよ
「マティアス、時間稼ぎなら母さんがするからあなたはソーニャ様と」
ラウルが母さんを先に行かせてくれる
「母さん、今までありがとう。親不孝の息子でごめんなさい」
「何を言っているの」
「ソーニャ、あなたは無理ばかり言って正直困ることもたくさんありましたが、そんなあなたが大好きです。だから変わらないでくださいね」
「マティ」
オルティノは何も言わずにソーニャと母上を無理やり抱えて、先に行った
ラウルとジゼルもそれについて行く
罠の準備にかかる
ただでは死なない、必ず皆を生きて返す
息子達は行った
最後に見る息子の顔を思い出す
覚悟を決めた顔だ
それを嬉しく思う自分がいる
足音が徐々に近づいてくる
待っている間に妻に散々辞めるように言われていたタバコを取り出して火をつける
まだ子供だと思っていたが、あんなに大きくなるのは早いとはな
もっとあの子との時間を大切にすればよかった
キッチンの扉が開く
「他の人間はどうした」
「さあね、教えたら君は私を殺すのだろう」
男は笑った
「私は周りから風見鶏なんて呼ばれているんだ。知っているかい、風見鶏を」
「何を言っている」
「風見鶏はね、風が吹く方向を教えてくれるんだ。人間はそれを悪い意味に捉えることもあるがね」
「気でもふれたかいや違うな。何かを考えているな、お前は何を狙っている」
大したことはわたしには出来ない
「君の手は随分汚れているな、そんな手で私を殺すのはやめてくれ。そこに水場があるから手を洗ってくれ」
男の手は本当に血で汚れていた
彼らは最後まで戦ってくれたのか
1人くらい逃げてくれれば、この情報が彼らに行くかもしれないのに
それはないか、皆真面目で良い子たちだった
私にはもったいないほどに
「貴様の狙いはなんだ」
この男は私を警戒している
私にそんな大層なことが出来るわけないのに
「何も、最後に殺されるならきれいな手がいいというのは当然のことだろう」
「そうか、俺ではちゃんとお前と話すことすら出来ないのか」
男はもう私と話す気はない
水場から距離をとる
「最後に聞かせてくれ、君の名前はなんだい」
「グシオンだ、それで満足か」
男は拳を私へと向けて近づいてくる
これは到底避けれそうにない
そう思った私はタバコを投げた
この男に感情があってよかった
私を警戒してくれてよかった
そしたら油の匂いやガスの匂いに気づかれたかもしれない
最後に聞こえる音がこんな爆発音とはいささか感慨にかけるがそれでもいいだろう
目を瞑ると大切な人達を思い出せることが出来るのだから




