戴冠1
俺たちは三人で無事に関所を通り
元剣の国である自治区へと入る
自治区の騎士団本拠地であるスタッドにいるであろうオルゲン達との合流を目指す
「それでオルゲンは何処にいるんだ」
「今はスタッドの街の一角に村人全員で移り住んでいます」
「にしてもどうやって、そんな集団で関所を超えられたんだ」
「わかりません。ただオルゲンが指定した時間に行くと門番が誰もいなかったんです」
「どういうことだ」
ジギとロゼッタの二人が疑問に思うのも当然だ
小さな村とはいえまとまった数の人間が見つからずに関所を通れる訳がない、かといって正攻法で王の承認を得るなど、出来るわけがない
「向こうに着けばわかるさ」
二人の不思議そうな顔を無視して、目的地を目指す
スタッドの街に着くと思い描いていた風景との違いに驚く
このスタッドは元は剣の国の王都があった場所だ。もちろん始めて来たがもっと閑散としていると思っていた
実際は戦後の復興は進んでおり、立派な街になっている
これも区長であるアンソニー・ローランの手腕によるところかと素直に関心する
スタッドの町並みを見て歩いていると声をかけられる
「お前たち久しぶりだな」
熊のような大柄の男 オルゲンだ
「オルゲンさん、御無沙汰しております」
「お前もしかしてジギかデカくなったな。立派になったもんだ」
「オルゲンさんもお変わりないようで、よかったです」
二人は10年ぶりの再開だ
ジギの俺とオルゲンの接し方の差でいかにオルゲンを尊敬して慕っているかがわかる
「ロゼッタも道案内ご苦労だったな」
「本当です。私はこんなことをするためにあなた達といるわけではないのですから」
ロゼッタもモンタグ村にいる時は偽装のためとはいえ性格を偽っていたが、その変わりようにも関心する
「よお、テオお前もよく来た」
「オルゲンもうまくやったみたいだな」
「それもお前とバイアーのおかげだ」
バイアーはずっと我関せずで俺の肩に止まっている
「なんだこの鳥公、前はあんなにやかましかったのに今は静かなもんだな」
バイアーに病気でもあるのかと心配をしているオルゲンに大丈夫だと返した
「それよりもどこか話ができる場所はないのか」
「ああ、それだったら区長様のご自宅を好きに使っていいそうだ」
願ってもないことだが、ここまで好きに動けるとはここの区長はどこまで手を回してくれているのだろうか
あまり大々的にされても、その分王都に行く情報が早くなって面倒なことになる気がするが、本人がいないのにそんなことを言っても仕方がないので
オルゲンに区長の家へ案内してもらう
それはこの街で一番大きな家と言っても差し支えないだろうが、屋敷と言うには少し小さい気がする
外観も質素なものでとてもこの自治区の区長の家とは思えない。辺境にいるとはいえ腐っても騎士団の重鎮のはずだ
家の前のベルをオルゲンが鳴らすと扉の奥からはいはいという声が聞こえた
「あらオルゲンさん、どうしたの」
「奥さん急にすいません。思ったよりも早く来たもので」
中年の女性が出てきたどうやら使用人でもないようで、オルゲンとも顔なじみのようだ
「あらまあ、じゃあこの方達が」
「ああそうです。この赤毛がテオですよ」
するとその女性が目を輝かせてこちらに来る
「あなたがテオさんね、いつも息子がお世話になっております」
状況が飲み込めない
この女性は区長の家から出てきて、奥さんと呼ばれたことからマティアスの母親で間違いない。
だとしても何故そこまで俺を歓迎するよかのような態度になるのか。事情を全く知らないのならわからなくもないが、そういう人の前で公にあってはいいものか
「よしなさい、彼らは今日この街についたばかりで疲れているんだ」
中から中年の男性が出てくる、身なりからしてもこの人がマティアスの父親でここの区長であるアンソニー・ローランで間違いないだろう
奥さんはだってなどというがそれを押しのけて
「いや失礼、長旅で疲れたでしょう。さあ中に入ってください。お茶の準備をしましょう」
快く迎えてくれる。少なくともこの人は事情をある程度は知っているはずだが、それを気にしないように振る舞う
ローラン区長に客室へと案内される
室内も簡素なもので、調度品などもあまりない
「こんなところで申し訳ない。場所が場所だけにあまりお金をかけられなくてね」
区長はにこやかな表情のまま言う
「マティアスは元気でやっておりますかな」
「ええ、特に問題もなく元気でやっていると思いますよ」
「それは良かった、あれは不器用なところがありましてな心配していたんですよ」
区長はそう言って紅茶を飲む
俺たちも用意された紅茶を口にする
「話をしたいのですが」
と奥さんを見ながら区長に言う
「心配しなくとも、家内は全て知っているので大丈夫ですよ」
「なら何故俺を」
「立場は違えど、息子の友人であることに変わりませんからな。歓迎して当然ですよ」
「それに俺は」
「全ては我が主の意思ですよ」
言葉が続かなかった
この人は全てを分かったうえで、息子の友人として俺を迎え入れているらしい
「王都にはどう報告するつもりですか」
「何もするつもりはありません。関所の方にも既に手を回しているので、しばらくは時間が稼げるでしょう」
「いくら王の命令とはいえ、王亡きあとあなたの後ろ盾はないのになぜそこまでする」
「君は心配性なのだね。君も知っている通り、この自治区は剣の国の人間を保護するために王が定めたものだ。だとしたら私はそれを全うするだけだよ」
オルゲンたちがモンタグ村で十年以上生活できたのも、関所を通ることができたのも今俺たちがここにいるのも全てこの人のおかげだ
だからこそ解せない、王が死ぬ原因になった俺を気にもしないかのように振る舞うことに
「おい、テオ来ているのか」
モンタグ村にいた少年と獣人が急に扉を開ける
「おい、アロイス今大事な話をしているんだ。勝手に入ってくるな」
オルゲンに注意されて不貞腐れている彼はモンタグ村で最初に襲ってきた二刀の剣士の少年だ
俺は無言でオルゲンを見るとオルゲンは気まずそうに顔をかくだけだった
まあいい、彼にも近いうちに俺から話すとしよう。オルゲンは情が移って話ができてきないらしい、無意味なことに多少苛つきがあるがそれを表に出さないようにする
もう一人入ってきたのは獣人のオルティノで、バイルの街で出会った。上手くモンタグ村に同行しているようだった
「久しぶりだな、テオ。お前のお陰で俺も息子も何とかやれてるよ」
「いや礼はいいよ。それより元気そうでよかったが、着いてきてよかったのか」
「他に行く宛もないし、皆良くしてくれるんだ。その人たちの役に立ちたい」
オルティノはモンタグ村、ひいては剣の国のために働いてくれるそうだ
願ってもないことだ
この後区長は俺たちに夕食を振る舞い、寝床の準備もしてくれた
ここまでしてくれる彼らに何も思わない訳ではないが、俺は自分の目的を優先させる何を犠牲にしたと
しても
あともう少しで終わる事ができると思うとなんだか寂しさすら感じる
自治区へ向かうのは俺とラウルで、フェリシアの地元に行くのは、フェリシアとヨランダさんで別れる予定になった
ラウルはそれに異を唱えたが、全員が彼の言い分を無視した
自治区へ向かう馬車の中、俺とラウル二人だけのはずが
「ねぇマテイ、オジサマとオバサマに会うの何年ぶりかしら」
「お嬢様、マティアス様は今お仕事の打ち合わせをしているのですからお静かにしないと」
「はは、賑やかなのはやはりいいな」
何故か人数が多い気がする
それは気の所為ではないのでそれを踏まえて今後を考える。呑気に同行者が増えていることに喜んでいるラウルに腹が立つ
同乗者が誰かと言うと
まず一人目の同乗者はノルベルト先生だ
朝に騎士団本部に赴いて、どこから聞いたか分からないが騎士団長に自分も自治区に連れて行くよう直訴したらしい
そこに報告に来ていたベルトラン隊長が二つ返事で許可を出したそうだ
先生はまだいい。もし調査に行き詰まったら、何かと知恵を貸してくれるから
それに孫かもしれないテオと話がしたいのだろう
問題は何故かこの場所にソーニャ様とその従者のジゼルがいることだ
二人共俺たちの荷物に忍び込んでいた
普段ソーニャ様を止めるはずのジゼルまでどうして
見つけたときには多少時間がかかっても引き戻すべきだと主張しても
ノルベルト先生もラウルも何故か俺に賛成はしてくれなかった
ラウルに関しては、男だけなのを嘆いていたから、ジゼル目当てなのはわかるが、先生についてはよくわからない
ジゼルも
「マティアス様、無理は承知でお願いします。お嬢様が側にいることをお許しください。お嬢様は平気そうにしておられますが、また自分が知らないところで大切な人を失うかもしれないと不安に感じておられるのです」
こんなことを言われると断れなかった
幸い自治区には父上と母上もいるし、さしたる危険もないので許可することにした
ということで、何とも賑やかな道中となった
そうはいっても、何者かが関所を通ったという話があるのでテオが自治区にいる可能性はかなり高い、それとは別にオルゲンたちもいるかもしれない
そうなるとやはり関所の警備に疑問がある
ただの油断と言うよりは作為的な物を感じる
父上に限って、国や王を裏切ることはないと思うが
「ねぇマテイたら」
「ソーニャ様」
「何よ」
「自治区では何があるかわかりません。いざという時はジゼルと二人で逃げてください」
「逃げるってどこによ、それに俺が守るからとか言えないの」
本当にその通りだ。自分で守ると言いたいが、そんな根拠のないことは言えなかった
どの任務においても俺は大して役にたってはいない。後輩のテオは口は悪いが、頭は切れるし器用に何でもこなす
フェリシアに関しても魔術の素質ではとても敵わない
それにオルニアスとかいう化け物がこの世界にいることを俺は知ってしまった。あんな化物に俺は対抗する術がない
「マティ、マティアス」
「はい」
急に大声で名前を呼ばれて、とっさに返事をする
「急に黙るんじゃないの、こっちまで不安になるでしょ」
「すいません」
もうと言って彼女は拗ねたような態度になる
いつものことなので、誰も慌てて機嫌を取るような人はここにはいない
馬車の中では、ラウルが仕切りにジゼルに話しかけているが、まるで相手にされていない
先生は皆の話を聞きながら本を読んで、たまに会話に交じる
ここだけ見ると何も変わらないような風景に落ち着くよう自分に言い聞かせる




