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nobody   作者: 福郎 犬猫
1章 少女は世界を知る
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王を伐つ2

この日の朝は最悪の気分だった

部下を見捨てようとしている自分に嫌気がさす

彼のために出来ることはあるはずなのだ

それでも動くことができないのは、彼を信じきれていないからだ

彼が入隊した年になって、剣の国という言葉を耳にするようになっていた

オルゲン、フォルカー二人共あの戦争を経験した者達だ

これはただの偶然なのだろうか

もしそうでなかったら、他の部下たちにも疑いの目が向く

こうして私は彼と他の部下を天秤に掛けて、未だ答えが出ないでいる

そんな可能性は万に一つもないことくらい分かっているが、彼から感じる違和感が私を迷わせ続ける


「今日も早いですね。ベルトラン隊長」

ヨランダ君が部隊室に入ってくる来た

いつもそうならいいのにと彼女は渡を気遣って気丈に振る舞う

こうして続々と隊員が来る

やはり彼らの表情はテオ君を気にしているようだった

最後にフェリシア君が来る、彼女は連日の取り調べから来る疲れと言い表せないほどの不安があることだろう

彼女が一人でこの部屋に入ることが珍しくなくなってしまった

皆が集まったが、空気が重い

テオ君の無実を証明するためにそれぞれが駆け回って情報を集めたが、一向にそれらしい情報は集まらない

扉が大きな音をたてて開いた


「ベルトラン」

ガスパールが血の気が失せたかのような顔をして入ってきた

その様子に皆に緊張が走る


「王が死んだ」

言葉の意味を理解することが出来なかった

テオ君の訃報の方が可能性があるなどと思考が現実を否定しようとしたことに気づく


「ガスパール」

自分でも知らなかった、ここまで大きな声が出せたとは

私の呼びかけに多少の冷静さを取り戻したガスパールは自分の失態に気付いた

王の死など軽はずみに言ってはいけない

それはその国の滅亡を意味するのだから

とはいえ、皆がガスパールの言葉を聞いてしまったので変に隠し立てするよりかは良いと判断した

少なくとも彼らは信用できる

「ガスパール、もう一度言ってくれ」

「王が死んだ、いや殺された」

もう私の理解を超えることがこんなにも簡単に起こるとは

王が死んだ、それだけでも驚くべきことだが、殺された誰にだ。どうやれば王を殺せるというのだ

「ガスパール落ち着け」

「落ち着けるか、王が」

「落ち着け」

柄にもなく、また大声をあげた

そこから彼に事情を聞いた

朝、執事が王に朝食の準備が出来たことを知らせたが反応がなかった。そこまでなら王がいつもより寝過ごしているだけだと判断するが、時間を置いて再度呼びに来た時に何も反応がなかった。不審に思った執事は扉に手をかけると鍵が開いていた

そこで見たのは、床に倒れている王に複数の剣が突き刺さっている光景だった


話を聞いたあと、皆を残して私は王の元に急いだ。ガスパールは私に声を掛けて着いてきた


王の私室に行くとそこには騎士団長のオーギュスト殿がいた

「状況は」

私の問に答えはなかった

騎士団長もそうとう戸惑っているようだ

部屋を除くと剣こそ抜かれているが体にいくつもの傷跡があり、血まみれの王がいた

王が生きていないことなど、一目見ればわかった

「何かあったのかね」

何も知らない様子でバティスト顧問がこちらに来た

顧問も王の死体を見て

「これは一体何があった」

驚き尋ねた

「あの死体が王そのものだというのは間違いありません。それ以外のことはなにもわかっておりません」

騎士団長の答えに戦慄が走る

本当に王は何者かに殺されたのだ

「王が寝首をかかれたのか」

顧問の問は私の疑問と同じだ

王と正面から戦いを挑んで勝てる者などいない

「その可能性は低いでしょう、王は寝具ではなく床に伏せていた。争いをした形跡すらない、これは王が部屋に招き入れたかもしくは気づかれることなく侵入したものによる犯行だと考えられる」

そうなると王を殺したのは、警戒もされず護衛もなしに部屋に通されるものに限られる

などと考えていると

クリストフが慌てた様子で騎士団長に報告する

「テオ・クレマンが牢屋から消えました。恐らく脱獄したようです。消息は不明です」

体から血の気が引いた

テオ君が消えた日と王が殺された日が偶然同じだった。そんな事があるか

この状況で考えられるのは

テオ君が王を殺した

そこまで考えて我に返った

その考えに至ったのは私だけではないようだ

「周辺の街や村に伝達しろ、テオ・クレマンを指名手配とする」

騎士団長が叫んだ

王を殺した確証はない。だが彼に何かがあるのは間違い。願わくば私が考えていることと別のことであってほしい


王の遺体を運んで部屋の中を見る

この部屋には人が死んだというのに何の形跡もなかった

争ったあとは当然だが、寝具の乱れもない

部屋の捜索は騎士団長の部下に任せて、私達はその場を離れる

「王子たちに証は出たのだろうか」

バティスト顧問が言った

王が死んだのなら、次の王が現れる

私達は会議室に王子と王女をお呼びした

三人は王の死にたいそう驚き、嘆いていた

無理もない、彼らからしたら王と同時に実の父親を失ったのだから

「このような状況で申し訳ありませんが、王との力を継承されたのはどなたなのでしょうか」

騎士団長の問に誰も答えない

誰も名乗りを上げない

その様子にバティスト顧問が言う

「前王の時はブレイズ様に一瞬だが刻印が現れたと聞いた。そのようなことは起こりませんでしたか」

三人とも何も答えない

初めに口を開いたのはソーニャ様だった

「次の王は、ジュリアンお兄様ではないの」

知力、武芸、人柄とジュリアン様は優れたお方だ、この方こそが次の王になると誰もが思っていた

「私にはその刻印は現れなかった」

ジュリアン様はそれを否定した

「お二人はどうなのですか」

縋る思いで聞いたが、二人の表情を見ると違うようだ

この国から王がいなくなった

これは国を揺るがす由々しき事態だ

王の血を引いているものは、この三人しかいないはずだ。この三人でなければ遠縁の者が継承している可能性がある

王を探すには、騎士団の総力を上げて捜索をすべきだ。だが、そうすると他国に王の不在が知れ渡る。そうなれば本当にこの国が滅ぶかもしれない

「このことはこれ以上広めてはいけない。この時から誰であっても他言を禁じる。継承者の捜索も私が一任したもので行う」 

騎士団長が誰の反論も受け付けることのない様子で言い切った

少なくともこの場にいる人間でそれに異を唱える者はいなかった

「騎士団長、継承者の捜索を我が隊におまかせいただけないでしょうか」

騎士団長に尋ねたが、それに反応したのはクリストフだった

「お前の隊の人間が起こしたことだろう、何を言っている」

「私が動転して、調査隊で王の死を話してしまったので適任かと」

ガスパールが助け舟を出す。彼は私達の立場を考えてあえてあの場で口を滑らしたのかもしれない

「何をしているんだお前は、調査隊の中にテオ・クレマンの協力者がいるのかもしれないのだぞ」 

クリストフの心配は最もだ

「ベルトランお前はどう思う」

騎士団長が尋ねる

言葉を慎重に選ばなくては、今後に影響する

「我が隊の人間は皆優秀な者達です。必ず成果をあげることをお約束します。何より独立部隊バフォメットはこういう時のために王が組織した部隊なのですから」






夜が開ける前に王都を離れる

ジギとそれぞれで馬を走らせる

この馬はこの国を脱出するために手配したものだ

運が悪ければ、日の出とすぐに理の王の死が発覚する

それまでに早くこの国を出なければいけない 

「これからどうするんだ」

馬を走らせながら、ジギが問いかける

「オルゲンと合流する」

「オルゲンさんは今、関所の外にいるんだぞ。そう簡単に関所を通れるのか」

「それはオルゲンを信頼するしかない」

俺たちは関所の街を目指す

恐らく関所の街まで王の死が知らされることはないだろうが、俺の捜索は行われることだろう

軽く馬を休ませながら移動すると

関所の街についた時には日が暮れていた

街の様子を覗うと以前来たときと変わらぬ様子だった

そう運が悪くなければ、まだ多少の時間の余裕があるはずだ

街の酒場で夕食をとりながら、情報を集めるとモンタグ村の村人消失については、山火事により村にも被害が出たので自治区の方に移り住んでいることがわかった

オルゲン達は無事に移動できいたことに安堵した

ただこのことも時期に真相が知れ渡るだろう

夕食を取り終えて、何処かで休憩を取ろうとしていたところに

「あなたは達は悠長に何をしているのですか」

どこかの洋館にでもいる人形のような少女に文句を言われた

どうやら案内役はモンタグ村にいた少女ロゼッタが担うようだ

もっと他に人選はなかったのだろうかと思ったが、ここで言っても仕方がない


「この子は」

そういえばジギはオルゲンとは面識があるが、アロイスやロゼッタとはあったことがなかった

「こいつはロゼッタこう見えて、俺たちより年上だからな」

「馬鹿なことをいうな、こんな子が俺より年上なわけがないだろ」

ジギは当然信じない。ロゼッタもすごい形相で俺を見てくるので、つい笑うことしか出来なかった

「馬鹿なことを言っている暇があるなら、早く関所を通りましょう」

「それは無理なんだよロゼッタ。俺達は正規で通る方法がない、深夜に通る予定だ」

この関所は理の国に入ってくる者には厳重な確認をしているが、出る者に対しての警戒はお粗末なものだ

それも仕方がないことではある。滅んだ国に行くものなど本来は余程のもの好き以外いないのだから

「それまでに追手が来たらどうするのですか」

ロゼッタは苛立ったように言う

「むしろ下手にして、捕まったら一環の終わりだ。俺が捕まればフェリシアの立場も危うくなるぞ」

ロゼッタは不本意ながらも納得してくれたようだ

俺達は人々が静まるのを待ってから、関所を通ることにした

見張りの衛兵は二人のようで、雑談をしながら時間を潰しているようだった


俺は霧の魔術を発動する

その霧に衛兵が気付いたが、最初は異常気象か何かと考えていると徐々に広がる霧に事態を理解したようだ

俺とジギは霧に乗じて、衛兵に近づき眠らせた

霧は次第に広がり、関所を覆った。

それに他の衛兵も気づいたようだったが、その時には俺達は馬を奪い関所をあとにした


こうして俺は生まれて初めて、剣の国に足を踏み入れることになった

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