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nobody   作者: 福郎 犬猫
1章 少女は世界を知る
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幕間 笑顔の先に私がいなくとも

私には幸せになる資格はない

友を見捨て、妻との約束を破り、家族を裏切った


そんな私は不幸になるべきなのだ

その不幸を一身に受けることこそが私の生きている理由だ


友人たちは、私にはもったいないほど優しく優秀な人達だった


学生時代の私は田舎から出てきたものの、都会に馴染むことは出来なかった

いや、自ら歩み寄ることすらしなかった

金を出してくれた家族のためにも立派な学者になるためだと言い聞かせて


そんな私に声をかけてくれたのは

ディートリヒだった彼は隣国の王子で魔術の勉強をするためにわざわざ留学してきたのだ

彼は聡明で優しい人物だった


他の生徒に絡まれる私をいつも助けてくれたのが、ブレイズだ

彼はこの国の王子で正義感が強く、困っているとものを見逃さなかった

ディートリヒとは難しい立場だが、彼らは互いを認め合っていた


そして私の馬鹿げた研究を嬉々として聞いてくれたのが、レオノール

彼女は学院にいる教授の一人娘だ

彼女は新しい魔術体系を研究しており、極めて優秀な魔術師だ。この国で彼女にかなうものはない


平凡な私の非凡な友人

彼らは私を対等に扱ってくれた。研究に対して議論するときは他の何をするよりも楽しかった

彼らは本当に私の大切な友人だった


そんな中私は一人の女性と出会う

彼女は人間とも獣人とも異なった容姿をしていた。友人達にはじめて秘密が出来た


彼女と交流を続けると次第に彼女に惹かれていく、それほど彼女は美しく、その心根は優しく、素晴らしい人だった

意を決して気持ちを伝えると、彼女は申し訳なさそうにしながらも私の思いを受け入れてくれた

彼女が教えてくれた魔術を構成する文字には音があるのだと彼女の主しかそれを知り得ないと謝られたが、むしろ私は嬉しかった

自分のやっていたことが、正しいと認められた気がして、これでやっと本当に友人たちと対等になれる


幸せだった、その幸せの形が歪なものだったことに気づいていなかった訳では無いがそれに浸っていたかった


そんなある日彼女が身ごもった

そして戦争が始まった


私は彼女とその子を巻き込まれないように王都から離れた

兄を止めに行くディートリヒ、彼に付いていくとレオノール

王都に残るブレイズ

彼らからも戦争からも逃げた


そのことに彼女は自分を攻めていたが、その決断をしたのは私だ。一切の迷いがなかったことに自分の冷酷さを笑った


彼女に約束を求められた

何があってもお腹の子と助け合い幸せに暮らすことを

私は重大さに気づかず安請け合いをした


少し経ち

彼女は子供を生んだ

名前は前から決めていた通りフェリシアにした


生まれたばかりのフェリシアを愛おしそうに抱く彼女は私とその子に別れの言葉を告げて

泥となり崩れてしまった

それに呆然としていると、娘は青白い光に包まれていた

娘は特別な子だ、きっと特別な運命を背負って生まれたのだと私は思った


私は深い悲しみにくれた

それでも娘をどうにかしなければならないので

父と母と妹のいる家に戻ることにした

そして私は研究を続けた娘のために出来る唯一のことだから


数年後

ディートリヒとレオノールが私を訪ねてきた

彼らは隣国の敗戦以降命を狙われているとのことだった

幸い家には誰もいなかったので、すぐに追い返した。たとえ生涯友情を誓った友だとしても娘には替えられなかった

二人にも息子がきた娘より少し年上の少年に睨まれた気がするが

そんなことどうでもよかった


私は病にかかっていた。恐らくそう長くないだろう

子供というのは不思議なものだ。ろくに顔も見せない父親にすら慕ってくれているようで、

部屋の外から声をかける

私はそれを無視して研究に没頭する

声をかける頻度は少なくなったが、娘は毎日私に食事を持ってきてくれる


私には時間がない

友を見捨て、妻との約束を破り、家族を裏切った

私の望みは娘だ

娘さえ幸せになってくれればそれでいいい

笑顔でいててくれればそれ以上のことはない

私を恨んでくれていい、愛さなくていい

娘が笑顔ならその向く先が私でなくていいのだ


私にはそれを受ける資格はない、いつかこの子を笑顔にしてくれる人が現れることをただ祈る

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