剣士と魔術士と6
「あまり楽そうではないな、フォルカー」
目の前の男
ミッテランが興味なさそうに尋ねる
この男はなかなかの遣手だ
この街を塀で囲って、小さな国の王のように振る舞っていやがる。そしてそれをするだけの手腕がこの男にはある
腕っぷしはあまりたが、それでも余りあるものがこいつにはあるの。だから俺達の協力関係は成立している
現に剣の国の出身を謳いながら、街を闊歩しても騎士や衛兵に咎められることはない
その代わりとして、この男の用心棒と邪魔な人間の排除を俺はしている
ミッテランにテオと名乗る少年を闘技場に出すこと、それまでの間の監視を頼んだ
「何か不思議なやつでよ、楽しめるかまだわからんが」
「そんなことのために人を動かせたのか」
「つれないこと言うなよ、俺達の仲だ」
まあ良いとミッテランの視線は書類の方に向かった
俺は後ろに向きそのまま、部屋を出る
今日あったガキのことを思い出す
あの目は戦争を知っているやつの目だった。どこまでも戦争に取り残されているやつの
17年前の戦争のときや戦後まもなくの頃はよく見た目だが、今ではほとんど見なくなった
皆戦争を過去のものにしたようだ
それを戦争を知らないはずのガキが。腕は多少物足りないが、それでも良しとする。明日が楽しみだ
何とも忙しい1日を終えて
俺は横になり目を瞑る
夜としか時間を指定されなかったので
日が暮れてしまう前に闘技場に向かおう
それまでは試合の準備に専念する
俺の救出作戦は彼らに任せることに決めていた
彼らに申し訳無いが、作戦の是非は俺にとってどうでもいいことだ
ただ欲を言うなら、俺の命はもっと意味のあることに使いたい
いざとなったらフェリシアのみを連れてこの街を出よう
彼女さていれば何の問題もない
気づけば俺は眠りについていたようで朝日で目を開ける
周囲を見るとラウルが寝ていた。昨日は少しまで作戦を確実にするため話し合っていたようなので静かにして置くことにする
目を開けながら
俺はまだ全員で何事もなくこの街を出る方法を考える
何も思い浮かばない
それでも考えていると小さいノックが聞こえる
扉まで近づいて、ラウルが起きないよう小さな声で応対する
扉を開けるとフェリシアが無理矢理作ったであろう笑顔で立っていた
「おはよう」
彼女との時間は俺にとって何よりも大切なものになっていた
初めて彼女と出会ってからまさかこんな風になるとは昔の自分からは想像ができない
「おはよう」
少し遅れて彼女に返す
彼女はあまり眠れなかったようで、他愛もない話をしてしばらく過ごす
皆が起き始めるであろう時間になると彼女と別れて、俺は宿屋を出て港の方に行く
特に意味がないが、俺を監視しているであろうフォルカー本人かもしくはその手下に対してのちょっとした嫌がらせだ
それから適当に朝食を済ませて、剣を振る
なぜかとても穏やかな気分だ
今日は調子がいいようだ
それでもフォルカーには遠く及ばないが
剣を振り続ける
自分の邪念を振り切るように
俺に穏やかな明日が来ることはないのだから
息が切れてきたので、休憩がてら昼飯にする
昨日行った店に一人でもう一度行くことにしたが、昨日よりも混んでいて行列が出来ていた
諦めて屋台で簡単に終わらせた
日が暮れるまで本を読んだり適当に時間を潰した
日が暮れ始めるとカジノに向かう
裏カジノなので簡単に入れるか疑問だったが
、裏とは王都に向けたもののようで特に厳しい警備などはなく
余程身なりが怪しいもの以外は自由に出入り出来るようだった
カジノの奥へと向かうと扉があり、そこには2名の従業員が立っていた
扉の方へ向かうと呼び止められたので名前を名乗って、フォスカーに呼ばれたことを伝えた
それだけでは不十分だと言われたので冒険証を見せると一人の従業員に付いてくるように言われた
聞いた話と違うことに多少の憤りを感じそうなものだが、それでも俺の感情は穏やかなものだった
従業員に付いていくと部屋に案内されて、ここで待つように言われた
ここは剣闘士の控室のようだ
今まで通ってきた華やかな作りとは違い、独房のような簡素なものだった
次に呼ばれたら入った扉と別の扉から出るように伝えられた
地下で窓もないので時間の進みが分からない、この状況に緊張せず、何も感じない自分が少し不気味感じてしまい少し笑った
ノックもせずに従業員が入って来て時間だというので別の扉から出て廊下を歩くと闘技場に出た
闘技場は地面が土でそれ以外は何もなかった
強いて気になるなら地面に血の跡があるくらいだろうか
俺を見下ろす形で観客がいた。どいつも金持ちのようや服装をしていた
フォルカーはすでに立っていて
俺に気付くとにっと笑った
「よう、逃げずに来たか」
「逃げたら見逃してくれるのか」
「そう思うなら試せばよかっただろ」
どうでもいい会話をこいつとする気がないので
「なんで俺なんだ、この街なら俺より強いやつくらいいるだろ」
「その中でもお前が一番面白そうだったからな」
面白い、何がだ
「お前、今まで人を切ったことないだろ」
「どうだかな」
「分かるって言ったろ、お前の剣は人を切ったことはない」
「だが、お前は人殺しの目をしている」
わけのわからないことを言って、フォルカーは笑うだがそこに一切の隙はない
「詳しく聞かせてくれよ」
「もう言いだろう、時間稼ぎは」
バレていたか
フォルカーは剣を抜いた
「最後に聞かせてくれ、剣の王の遺児を知っているか」
「ああ知っているとも、俺が流させた噂だ。こうしたらこの街に強いやつが集まると思ってな」
まんまと俺達は引っかかったようだ
「クソ野郎が」
そう言い捨てて、剣を抜いた
お互いがお互いに向かって走り始めた
殺し合いが始まった
互いの剣がぶつかる
俺のほうが大きく弾き飛ばされる
その隙をみてフォルカーは俺に斬りかかる
それを凌ぐだけで精一杯だ
防戦一方で攻め入る隙が一切ない
「ほらほらどうした、頑張らないと本当に殺すぞ」
フォルカーは楽しげに興奮しているようで声をかける
何度も降り注ぐ攻撃を何とか剣で受け止める
凌げているのだ眼の前の絶対的な強者の剣撃を
今日は本当に調子がいいようだ
何度目かの剣撃に対応して弾き返して、距離を取る
フォルカーはそれを許さず、俺に剣を振るう
俺はそれを剣で受けることも避けることもせずにただ受け止める
俺の首が飛ぶ
そのはずだったが、フォルカーの剣は俺の首を撥ねず寸でのところで止まる
その隙に今日初めて俺から斬りかかる
だが捉えきれずに剣の持ち手とは逆の手で防がれて致命傷にはならなかった
今までの攻防でわかったことはやはりやつは強うということだ
俺があいつの攻撃をそう何度も凌ぎ切れるはずがないのだ
確証はなかったが、ヤツは自ら手を抜いて、俺が死なないよう楽しむつもりなのではないかと
だから一か八か俺を殺さずに勝負を終わらせないことに賭けた
フォルカーは左手から血を流していた
「お前いかれてんのか、常人は気付いてもこんな馬鹿げたことしねぇぞ」
それでもフォルカーから笑みは消えない
「いいね、いいね」
と彼は己の左手をじっくり見ててから、己のふくを破り手に巻き付けて、止血した
「うん、わかった。十分わかった」
「だからお前はもうお前に要はない。ここで殺す」
何がわかったかはわからないが
「あいにく、死に場所はもう決めてるんでね」
「ほざけ、そういうのはな、自分より弱いやつに言うもんなんだよ」
再び切り合いとなる
左手が使えないことによって奴の剣撃は鈍くなることはなかった
むしろ手加減を辞めたことにより速さがました
先程と違い、やつの剣撃を防ぎ切れずにいる
幸い致命傷は避けるのとはできるが
また一つ、また一つと肌が避ける
あいつの笑い声が止まらない
思考もろくにできない状態で
また一つ傷が増える
その時
場内にとんでもない爆音が響く
流石のフォルカーもそれに驚き、一瞬手をとめたのを確認して距離を開ける
爆発により生じた土煙が晴れていく
そこからフェリシアが現れた
ラウルもヨランダもいない
作戦はどうなった
騒ぎを起こしてカジノの客を逃がしてから、こちらに爆発を起こしてその隙に逃げるはずだった
なのにフェリシアは俺達の前に一人で現れた
「クソアマ、つまんねえ邪魔してんじょねえよ」
フォルカーから怒号をあげて、フェリシアを睨む
フェリシアはそのことに気にすることなく、魔術を発動しようとした
当然フォルカーもそれに気付き、フェリシアの方に駆けていく
そして、フェリシアの所まで駆け寄ると剣を振り下ろすため腕をあげた
俺もフェリシアの側に行こうとするが、間に合いそうにない
やむを得ないと思った俺は今までよりも速く駆ける
間一髪フォルカーの剣を受け止めることが出来た
それを見たフォルカーの力が弱くなったことに気付いたので、力一杯弾き飛ばした
フォルカーに隙ができた
フェリシアが生成した空気の弾丸がやつを捉える
やつは吹っ飛ばされ壁にあたって、項垂れて立ち上がる様子はなかった
「何考えてんだお前死ぬ気か」
「それはテオもでしょ」
そういう彼女の表情は、俺が見たことのない覚悟を決めた意志の強さを感じさせるものだった
無駄な問答をやめて
「ヨランダとラウルは」
「ヨランダさんは街の人を逃してる、ラウルさんは街を出て騎士と合流してると思う」
騎士
騎士団が動いたのか
マティアスとベルトランがどうやら実態を察知して、急いでガスパールに接触したというところだろう
この街にどう騎士が介入するかわからないが、時間稼ぎをするだけで何とかなりそうだ
そこまで話してフォルカーの方を見た
奴はそこには居なかった
気づけばこちらの直ぐ側まで来ていた
俺はそのことに気付くと剣を構える
奴は剣を振らずに俺を蹴り飛ばした
剣に集中していた俺はそれをもろにくらいフェリシアから離れてしまった
彼女が危ないと思ってももう遅い、フォルカーの剣はすぐにでも彼女を切り裂こうとしていた
間に合わないことをわかっていても俺は彼女のもとに急いだ
フォルカーの剣が彼女に届く寸前にフェリシアを中心にして青白い光のようなものが爆ぜた
フェリシアはその場で倒れていた
フォルカーはまたも遠くに飛ばされて、フェリシアとの距離が離れた
俺は急いで彼女の所まで行き、彼女の様子を確認すると息があり気絶しているだけのようだった
彼女の大丈夫な様子に安心する
ただ面倒なことになった
このフォルカーという男を必ず殺さなければいけなくなった
そのうち騎士団が来ると言っていたな
それまでに目の前の男の息を止めなければ
邪魔になる
早くこの男を殺さないと




