剣士と魔術士と3
この日は朝から色々のことがあった
朝いつもより早い時間に起こされて、文句を言うと例の先生のお見舞いに行くためだと言われた
俺は知り合いでもないのだから、一人で行けばいいのにと言うと
じゃあ、自分で起きられるんだねと言われてしまい何も言えなくなってしまった
彼女は王都に来て逞しくなった、主に精神的に
それを喜ぶ自分もいれば、寂しがる自分もいる
彼女を俺一人のところに留めることは出来ないと言うのに
それからいつも通り朝食と準備をしてから寮を出る、日の高さから2時間ほどいつもより早い時間に出発する
やはりおかしい
こいつのことだからノルベルトの家に行った後でもお越しに来てくれるだろう
「どういうつもりだ」
「何が」
「その先生の家に俺が行かなきゃいけない理由だよ」
「朝の運動だよ、朝運動すると健康にいいって聞いたよ」
無言で見ると観念したようで
「ノルベルト先生にお父さんのこと色々教えてもらったの、だからもしかしたらテオのご両親もと思って」
やはり、面倒なことだった。今から引き返そうか考えていたころ
「あと、テオに知ってほしかったの。私の大切な人だから」
彼女ははにかむように笑う
これで言う事を聞くしかなくなった自分はなんとも情けない
ノルベルトの家に着くと彼女はなぜか鍵を持っていて、その鍵であけた
それを驚いてまじまじと見ていると
昨日戸締まりをしたのは、彼女でその時鍵を預かったとのことだ
彼女はおそらく寝室であろう部屋に行く
扉でノックをすると声が聞こえた
「先生、フェリシアです。様子を見に来ました」
扉を開けて老人が出て来て、俺をじっと見た
初対面の人間が気づけば時分の家にいるなんて気分のいい話ではない
フェリシアも察したようで
「先生、ごめんなさい。この人は前話した、幼馴染みのテオです」
「そうか、君が」
と老人は俺をただじっと見ていた
「お加減どうですか」
老人ははっとして
「すまない、まだ寝ぼけているようだ。体調はもう大丈夫だよ」
「そうですか、良かったです。お腹は空いてますか」
「そうだね。昨日は夕食も取らずに寝てしまったからね」
だめじゃないですかとフェリシアは一階に降りていった。おそらくキッチンに言ったようだ
なんとお節介な
下かは先生は寝ててくださいねという答えが聞こえてきた
老人は俺をもう一度見てから、寝室に戻った
俺も下に降りた
下に降りるとやることがないので適当に部屋を見て回る
高名な魔術士の名に恥じぬよう本棚が壁一面にあり、魔術書や学習書がびっしり挟まっていた
すると一区画だけ本がない空間があったので、その前に行くと絵が飾ってあった
肖像画のようだ
といっても老人一人の物ではなく、生徒であろう3人の男子と1人の女子と若いころの老人が全員が笑顔で描かれていた
ふと手に取りよく見る
そうか、この中に
「どうしたの」
と急に声をかけられて驚く
「何見てるの」
これだよと言って彼女に絵を見せる
「わ、先生若いね」
そこかよ
「この中にお前の父親がいるんじゃないかって思ってな」
「多分、この人」
と言って彼女は絵を眺める
多分と言うのも無理はない彼女の父親は10年ほど前に亡くなって、それまでもほとんど顔を合わせることはなかったのだから
彼女のはしばらく絵を見てかは朝食の準備に戻った、マッシュポテトを作っているようだ
朝食をつくり終えると
老人に朝食ができたので必ず食べること、戸締まりをしっかりすることを言いつけて家を出た
老人は俺たちが出るとき名残惜しそうに見ていた
家を出たら思いのほか長く滞在したようで、今から急いで行っても遅刻は確定なのでゆっくり行くよう提案して却下された
いつものように遅刻して部隊室に行くと
なぜか空気に違和感を感じた
特にいつもと違う様子はないが、ベルトランの俺たち見る目がいつもと違う気がした
俺たちが来たのを確認してからベルトランが口を開いた
「皆いいかな、騎士団長から直々に仕事を承ったんだ」
騎士団長からの仕事、それだけでことの重大さがわかるおそらくは剣の王の遺児についてだろう
「正確に言うなら昨日の会議で前回一致でうちが押し付けられただけなんだけどね」
話の重要度がガラリと変わって気がするが、気の所為にしておこう
「皆も知っている通り、ヴェストの街での調査だ。ただ、上層部からはテオくんとフェリシアくんがご指名のようなんだ」
上層部が新人二人を指名なんて、何の意図があるんだ
「どういうこと何ですか、何でよりにもよってあの街に新人二人に行かせるんですか」
「あの街って」
「ヴェストの街ってのは、ミッテランって領主がいるんだけど、そいつが結構ヤバい奴で」
ヴェストの街の領主ミッテランは王都にも影響力があり、この街では騎士はまともに活動は愚か入ることさえ出来ないということ
街の中には私兵として、傭兵や冒険者が雇われていること
当然この前のように現地の騎士など協力者はいない
「要はこの前ベルヌーイよりも、何倍もヤバイ奴ってこと」
一通りラウルとヨランダが説明する
「今回はちゃんとした潜入調査ですよ、それをこの二人になんて」
「すまない」
ベルトランが頭を下げた
仕事において彼の真面目な態度を初めて見たかもしれない
「それで詳しい仕事の内容は」
「ああ」
仕事の詳細は
ヴェストの街に潜入して、剣の王の遺児について調べること街の滞在は長くても3日間でソレを過ぎても何も得られない場合でも街を必ず出ること
剣の国の剣士には接触しないこと
「ヴェストの街ってそんなに危ないところ何ですか」
「街自体はそんなにだよ。ミッテランは騎士嫌いで有名でね、あの街に騎士を配属されるかって話の時に相当揉めたみたい」
「それにあの街にはミッテランに雇われている剣闘士がゴロゴロいるわ、下手に騎士が捕まるとあとあと面倒ってこと」
要は適当な新人を当て馬にして、上手くいかなかったら上層部は切り捨てるつもりらしい
変に実績を作ったのが、仇になったか
「こんなの誰がやっても、失敗する可能性のほうが高いじゃないですか」
「確実に大丈夫とは言えないが、こちらもただで行かせるわけではないよ」
懐から紙を取り出した
冒険者ギルドが発行している証明書だった
冒険者と賊の違いはこの証明書だ
この証明書があることにより、どの地域でも身分を証明して仕事を取ることが出来る
これを用意するには、それなりの手順を踏まなければいけないことからベルトランの俺たちを案じる身は本当のようだ
「それで街に入るのはそう難しくないはずだ。それに保険もかけておいた」
保険について聞こうとすると
「何で、俺のがあるの」
「何で、俺のがないんだ」
二人が同時に叫んだ
声の主はマティアスとラウルだ
ある方でショックを受けてるのがラウルで
なくて起こっているのがマティアスだ
「どういことですか」
「本当になんで」
二人がベルトランに詰め寄った
「今回の保険の一つだ、街に行かないマティアスと僕がモンタグ村に行く」
モンタグ村
オルゲンに接触する気か
確かにそれならオルゲンや村の人間に顔が割れているマティアスが適任だ
それに納得していないのはラウルだけだった
だが、全員が彼を無視して進める
「でもモンタグ村で本当のことが聞けるんですか」
「そのために私も一緒に行って確認する、確認出来る内容によっては街の方にも役に立つかもしれない」
ベルトランも必死なようだ
そこまで出来るなら、普段からやれとは誰も言わなかった
ヴェストの街には俺、フェリシア、ヨランダ、ラウル
モンタグ村にはマティアスとベルトラン
が行くことになった
ただ一つ気になることがあるならば、俺とフェリシアが上層部に認知されていることだ
俺はともかくフェリシアがまともに出た任務なんてモンタグ村、バイルの街の2件くらいだ
普段の仕事振りを見て彼女を優秀だとすぐ判断出来るものはいないだろう
まさか
「俺たちを推薦した上層部って、カヴァリエ顧問ですか」
「なぜそれを」
フェリシアの魔術の才を知っているのは、限られる
普段から親交のない人間ならさらにだ
フェリシアが文官の面接にいた人間に限られる
その中でも魔術が使えることに唯一興味を示したのがバティスト・カヴァリエだった
フェリシアは彼のおかげで、騎士に慣れていたいたく喜んでいたので覚えていた
引退した名誉顧問がなぜ
それについてはベルトランにも分からないようなので追求しないことにした
馬を使っては騎士だとバレる可能性があるので、一番近い馬車が止まる街か村まで行って
そこから徒歩になる
細かい打ち合わせは馬車の中ですることにして、俺たちは自室に戻って準備をする
再び集まると騎士団の場所で一番近い村まで送ってくれるらしい
今までにない高待遇に皆の不安が大きくなっているようだ
馬車の中で設定を詰める
俺たちは冒険者で駆け出しの俺とフェリシアに指導を頼まれたヨランダとラウルという4人組で冒険の最中近くを通ったので、休息と何か面白いものはないか物色するためにしばらく滞在する
冒険者ギルドや酒場など人が集まる場所を中心に情報を集める
裏カジノには行かないこと
「裏カジノが一番それっぽい情報があるんじゃないか、それに例の剣士なら何か知っているかもしれないし」
「そうなんだけど、剣士は闘技場の剣闘士だからミッテラン側の人間だからね」
まあ、その剣士が友好的とも限らないしな
「でもそんな方法だと3日ってあっという間に終わるんじゃ」
「そこは私達の安全を優先してくれた我らが隊長の指示に従いましょう」
「大丈夫ですよ、このラウルがいるのでパパッと解決してみせますよ」
「いきなり何よ」
「ヨランダさんとの久し振りの任務なんだ、頑張っちゃいますよ」
「そういうの本当にやめて、だからラウルくんと同じ任務にならないように調整してたのに」
ヨランダは何か虫を見るかのような目でラウルを見ている
ラウルもそれに満更でもないようすで恍惚な表情をしていたの
張り詰めていた空気が少し緩んだ
ラウルがそれを狙って、醜態を見せたのだと思いたい
「フェリシア、大丈夫か」
あれを無視して、フェリシアの様子を確認する
フェリシアは酷く緊張しているようだった
彼女に直接は言えないが、嘘や工作などにもとから向いている性格ではない
それにいくら何でも経験が足りない
何もかもが初めての彼女にとっては辛い任務になるだろう
「不安なら、公衆の前ではあまり話さないことだ。焦って下手に話す方が怪しまれる」
「うん」
「もしいざって時には何があっても思えを逃がすから」
「ありがとう、でも大丈夫だから」
と力なく笑う
こんなところで彼女を失うわけにはいかない
二人には悪いがフェリシアの命が最優先になる
任務が成功するならその方がいいが




