剣士と魔術士と2
私達はなかなか降りてこない上層部の指示をずっと待っていた
私にはその理由がわからない、剣の王の遺児といっても噂話だし、テオが持ち帰ってきた情報の中にある裏闘技場は明らかな問題なのだならすぐに摘発しないなんてという思いが私以外も持っていた
「何事も事情というものがあるんだよ。それに強いてはことを仕損じるってね、それに僕たちが行くとも限らないからね」
とベルトラン隊長が皆に言うので、これ以上このことについて触れる人は居なかった
しばらく私達は今まで通りの日常を過ごすことになった
今私はガスパールと共に会議室の扉の前になっている
「ベルトラン、あの件については」
「分かっているよ、期を見て必要なら僕から話すよ」
あの件とはモンタグ村のことだ
あの村については、上層部で知っているのは私とガスパール、それに騎士団長であるオーギュスト・デュフォーの3人だけだ
私達は会議室の中に入ると円卓の周りには各隊長の面々がおり、私達が最後のようすだった
全員が席に着くと騎士団長が
「全員集まったようなので、これより定例会議を始める」
定例会議とは月に一度定期的に開かれる
何も無ければ、形式張った内容を行うだけで済むが、今回は違う
「ベルトラン、あの件について報告を」
「はい」
騎士団長の指示でバイルの街でのことを話した。ヴェストの裏カジノがあり、そこの闘技場に剣の国の剣士を名乗る者がいること、そして剣の王の遺児について一通り離し終えると
「ただの噂を定例会議で話す必要があるのでしょうか」
「ただの噂ではない、騒ぎにはなっていないが他の街や村でもその噂を耳にしたものがいる」
クリストフ・ド・ルクレールが始めに口を開いた。彼は名門騎士の家柄の生まれで、彼自身も優秀で若くして第一王女付の近衛騎士で隊を一つ任されている
「噂の真偽はともかく、意図的に誰かが流している可能性もあるだろう」
「だとしても剣の残党といったところでしょう、その中に脅威となるほどの者がいるとは思えませんが」
「落ち着け」
騎士団長がガスパールとクリストフを静止する
モンタグ村のことを知らないクリストフがこの噂を信じないのは無理もない
モンタグ村についてはオルゲンという男に接触して意見を聞きたいとこだが、彼が騎士である我々に素直に応じるかの確証もない
「ここで話すべきは噂の真偽に着いてではない、如何に対処するかだ」
「だとしたら裏カジノを摘発してしまえばいいだけでしょう」
「そうも行かない相手はあのヴェストだ」
ヴェストという単語に全員が黙る
ヴェストとは王都の西にある港町で
命の国オルアルゴンと唯一国交のある港で貿易が盛んだ
その港町周辺を納める領主ミッテランという男が何かと厄介な男なのだ
そのため、この街でしか手に入らない物は数多い。そして彼の手腕により周辺貴族に取り入ることで今や彼の影響力は王都にまで及ぶ
バイルと違い、騎士の配属もなく私兵によってのみ街の防衛を行っており、現地の協力も難しい
下手に失敗すれば貴族からの圧力で二度とかれに手出しできなくなるだろう
それが全員わかっているので誰も口を開こうとしない
「そう深刻な顔をするな、手がないわけではないよ」
そう皆に話しかけたのは、
バティスト・カヴァリエ
元騎士団長であり、今は第一線を退いたもののその剣の腕前は未だ健在
今は名誉顧問として、若い騎士の指導や我々の相談役をしておられる
「手と言うのは」
「お前さん達のことじゃよ」
尋ねると私を指差して言う
「お前さん達の成果はわしの耳にも入っている。今年の新人二人は相当優秀なようじゃな」
新人とはテオとフェリシアのことで間違いない
「新人にこの案件を任せるというのですか」
「こやつらの仕事は噂の調査だけだ、カジノ方はその後で考えれば良い。あやつらを遠目で見たことはあるが、あやつらを見て騎士と思うものはおらんだろう」
「ですが、経験が浅すぎます」
「それがいいんじゃろ、その方がミッテランの目も欺ける」
「それでは新人を当て馬にすると言うのですか」
「自ら騎士になったのなら、覚悟はしておろう。なに大丈夫だあの二人は優秀だ」
一体この人はあの二人の何を知っているのだろうか。そこに怒りを感じるが、表に出さないように意識する
なぜだろう私はこの名誉顧問が苦手で弱みを見せてはいけない気がする
それに普段口を開くことのないこの人がこれだけ話すのもおかしい
あの二人を行かせることに何の意味があるというのか
「ベルトラン、お前はどう思う」
団長が私に問いかける
その瞳には心配の色が見えた気がした
「そうですね、案外あの二人なら上手くいくかもしれませんね。他の人員はこちらで決めさせてくださいね」
感情を隠して、出来るだけとぼけた口調で話す
「決まりですね」
「お前がそう言うなら、この話は独立部隊バフォメットに一任する。反対の者いるか」
誰も異論を唱える者がいないので、会議は終了になった
他が会議室から退出しても私は残っていた
あの二人が如何に安全に事に当たることが出来るよう考えていた
あらかた退出したところ、ガスパールが近づいてきて
「お前、何を考えている」
「何って君と同じことをだよ」
「同じじゃない、あの二人に何かあったらどうする気だ」
「大丈夫だよ、二人は顧問がいった通り優秀だ」
特にテオくんは賢い子だ、勇んで引き際を間違えるようなことはないだろう
「優秀とはいえ、若いやつだけに危険を押し付けるのは俺は好かん」
「そうだったね」
だから彼はいつも先陣を切る
上層部のほとんどは彼にはそろそろ後方での指示に専念してほいと考えているだろうが
「それに剣の件は俺たち戦争をした人間の責任だ。俺たちが失敗したからそうなったんだ」
戦争に参加していたいっても、その時は確か20歳くらいのころだろうか。その頃私達に戦争をどうにか出来たかは疑問だ
「戦争が終わったのは17年も前のことなんだ、今になってどおして」
本当に今年になって何故
モンタグ村の件
バイルで聞いた噂
そしてヴェストにいるという剣の国の剣士
今更なぜこれだけのことが重なる
今までは静かなものだった、確かに戦後まもなくはいろいろあったが
ただの偶然だろうか
もしかしたら
まだ戦争は何も終わっていないかもしれない
ついそんなことを考えてしまった
気づけば会議室に残っていたのは、私達だけだった
そういえば王ならどうご決断されるのだろうか
あの方も戦争を期に変わってしまった
ガスパールは落ち着いたようだ
彼がそんなに強く出なかったのは
モンタグ村とバイルについては彼が持ってきた話なのを彼自身が理解しているのだろう
その後ろめたさとはいえ、彼が一番二人の身を案じているはずだ
私も彼らのために出来ることをしよう
ノルベルト家にて
私はノルベルト先生のところに行き、成功した魔術の事について話しをしにきたが、先客がいたようだった。
その人は私が来るとそれではと帰ってしまった
その人についてノルベルトさんに尋ねると
「昔の助手だよ、といっても学院にいる時だからもう10年以上前のことだが」
その人は今でも学院に所属しており、それなりの地位にいるのだとか
今でもこうして一人で暮らしてい先生の様子を見に来るそうだ
とても優しい人だ
先生にバイルでのことを話す
先生は私が一頻り話すを真面目に聞いてくれた
「そうか魔術は成功したのか」
「はい、先生が教えてくれたとおりに出来ました」
「私が教えたのは出来る限り術式を単純な物にする程度だ。まさか火の魔術から熱のみに省略するとは、よく思いついたね」
「あのとき必死だったので、先生の結果のみをイメージするってアドバイスを思い出せたおかげです」
先生はしばらく考え込んでから
「君ならもしかして」
「今日は術式について話をしよう」
魔術の構築をする際に空中で描く魔法陣は固有の文字を使用する
文字を使用して意味が成立すれば魔術は発動する。それは必ずしも同じ魔術を発動する際に全く同じ術式を描く必要はない
魔術の効果や対象を限定的にしたい場合はより複雑な術式になるので時間と演算が難しくなる
逆に術式を最小限にすることで発動までの条件を簡略化すると複雑な魔術は使えない
火の魔術一つとっても、温度、形、大きさ、燃やす対象、術式の内容によって変わる
火を燃やし続けるためには演算を行い、火の仕組みを理解してで操作する必要がある
演算を行うことで魔力を効率的に消費することが出来る
例えば熟練の魔術師なら服だけを燃やして、本体にダメージを与えなようにすることが出来る
君がやった熱の魔術はほとんど演算することが内容術式を構築した結果と言える
その代わり細かい操作が出来ないので魔力の消費が激しくなる
「やはり膨大な魔力を持つ君なら後者の方が向いているようだ」
「あのちなみに、魔力を限界まで使うとどうなるんですか」
「死ぬ」
「え」
「心配しなくても、急に死ぬわけではない。前兆として息切れなど体の不調が出る」
「なんか体力と同じですね」
「同じなんだよ魔術とは、いわば生命力を代償に世界に命令を下しているようなものだ」
「えーと」
「休めば回復するし、使い過ぎると体に不調が出る。これだけを覚えておきなさい」
「はい」
今日の講義は終わったので、気になっていたことを聞く
「先生はドミニク・ベルーナってご存知ですか
」
「なぜそんなことを」
「あの私の父なんです。学院にいたのでもしかしたらって思いまして」
「やはりそうか、彼は優秀な生徒だったよ。もの静かだったが、勉強熱心でよく友人たちと議論していたよ」
「そうなんですか」
「彼はね、とりわけ古代魔術に熱心でね」
「古代魔術ってなんですか」
「詠唱術という、先程術式を発動する際には文字を使用すると話したが、その文字には今はもう失われた音がある」
「音ってことは、言葉にして話すということですか」
「そうだ。とはいえ全ての音が失われた以上、それは今でも夢物語という者もいる」
「全てといっても、文献などから分からないんですか」
「何一つわかっていない。歴史学者の中には1000年ほど前に失われたという説もある」
「そうですか」
「君の父は歴史から詠唱術を復元しようとしていた。周りの者は彼を変わり者といったが彼の友人だけは彼のことを信じていたようだ」
先生は懐かしそうに話す
そこには亡くなった父のことを思ってなのか物悲しい表情をしていた
「ではテオという少年もドミニクの血縁者なのかい」
「テオですか、テオは違いますよ。詳しくは知らないんですけどテオのご両親のどちらかが私の父の友人みたいで」
「あっ、先生はその人のことも知っているんですよね」
「先生」
呼んでも返事がない
2、3度呼んでようやく気づいて
「すまない、今日は疲れたようだ。休ませてもらっていいかい」
はいと答えて、先生の寝室に連れていってから
片付けと戸締まりをしてから帰った
先生の様子が心配なので明日の朝会いに行って見ようか
今日は魔術のことに加えて、父の話を聞けて良かった
古代魔術 詠唱術とはどのようなものだろう
機会があれば父の研究内容も知りたいと思ったが、当分は魔術を優先しなくちゃ




