家族にしては足りない何か
私は兄を誇りに思う
私よ剣の腕には覚えがあった
だが兄は私よりもはるか高みにいた
兄は剣の才能があり、大人とも渡り合う腕手前をしていてさらに人格者でもあり皆から慕われて、いつも周りには人がいた
幼いころは私もいずれ兄のようになるのだと思ったが、それが間違いであることに気づいたのは何時のことだろうか
兄と私を比べるものなど居なかったそれほどまでに兄と私の差は広かったのだ
それから私は剣を振る時間を減らして、その分勉学に励むようになった
大人たちは将来は兄を支えるためだと思ったようで皆それを咎めなかった
証となる刻印が私に現れると考えているものはだれもいなかった
私は勉学に励むため隣国へと渡った
兄から逃げるためではないと強く己に言い聞かせながら
隣国での生活は、兄を取り巻くものなら開放されたような気がして充実した毎日を送ることが出来た
そこで私は二人の友と生涯を誓い合う女性に出会うことになった
学院を出るまでの間は私の人生の中で唯一、ただの私個人で居られる時間だった
友と研鑽を積み、他愛もない話をし、愛する人と共に過ごす時間
それ以上何も要らないと思っていた
そんなとき父の訃報が来たので、久しぶりに祖国に戻った
父の死は悲しくはあったが、この人は私よりもいつも兄を優先させていたこともあり、涙を流すほどではなかった
葬儀の最中父のしよりも気になったのは、兄の変わりようである。いつも笑顔を絶やすことがなく、他人にいつも囲まれているような人だったはずのその人が笑顔はなく目に隈ができていて周囲を睨むような目をしていた。兄に話かける者は臣下でさえおらずずっと一人でいた
そこに違和感はあったが、父の死をいたく悲しんでいたからだと思うことにした
何より私は早くあの学院に戻りたかったからだ
学院に戻る際、多くの人が私を引き止めた
そんな彼らに私は兄がいるのだから良いのではないかと言い残しその場を去った
何て残酷な人間なのだろうか、家族の死を嘆くこともなく、家族と寄り添うこともなく、
いつかその罰が降りかかることを知らずに、私は学院へ急いだ
学院では友達が私のことを心配していてくれた
私にはたまらなくそれが嬉しかった
そしてまた充実した時間に浸る
その頃には兄の変わりようも頭の片隅に追いやっていた
そして数年が過ぎたある日
祖国が隣国との国境にある関所を越えて侵攻を始めたいう報せを受けた
それに驚愕した
兄がそのような命令を下すなどと夢にも思わなかった
私はまた祖国に戻る
兄と話をするため
兄を止め、学院のあるこの国を守るため
友たちと最後に過ごす夜に、一生の友情を誓った
進む道が違えど、その思いは永遠であると
愛する人は私について行くといい、私はそれを拒んだがそれでも聞かない彼女に渋々了承をした
悔しいが私よりも彼女のほうが頼りになる。その卓越した魔術はまさに天賦の才と言っていいほどだ
祖国に戻るとひどい有り様だった
民たちは皆疲れ切っており、誰もが沈んだ表情をしていた
あれほど綺羅びやかだった城下でさえ、寂れて人が往来する様子はなかった
急いで王宮に向かうと、戦場に居るはずの臣下と出会った
彼も戦争を辞めるよう兄に進言するために戦場から引き返したらしい
3人で兄のもとに急ぐ
そこには変わり果てた姿の兄がいた
髭も髪も全く手入れされていなく、目にはひどい隈があり、呆然としていながらもその表情は怒りに染まっていた
兄の側に見知らぬ男がいた
臣下が言うには父が死ぬ少し前に兄に仕えるようになったらしい
兄と話をしようとしたが、それは叶わなかった
男が兄になにか言った後に
兄が私を殺そうとしたからだ
あまつさえ王の力を使ってだ
兄の周囲に幾重もの剣が出現し、一斉に降りかかる
それでも死ななかったのは、彼女の魔術が私達を守ったおかげだ
何度も声をかけても兄は私に反応しなかった
彼は既に正気を失っていたようだ
騒ぎを聞きつけて別の臣下が現れると
兄はそれを見るや、即座に殺した
忠臣に誰も入れないよう指示をして、
兄と対峙する
兄は尚も私を殺そうとしてくる
兄をここで止めないとこの世界の均衡が崩れると判断した私は兄を殺す決意をした
兄に剣を構えて走り出す
しかし、それは叶うことがなかった
兄を殺したのは一緒に来た彼女だったからだ
彼女の悲しそうな表情を生涯忘れることがなかった
それに酷く後悔した私が兄から逃げずにいればこんなことにはならなかったかもしれない
兄の傍らにいた男が主が死んだというのにたいそう愉快そうな邪悪な表情をしていた
王座近くにいた男は気づけば、彼女の前に現れた
すぐさま彼女のもとに駆け寄ろうとしたが、気づけば男の姿はなかった
とはいえこれで戦争は止まる
その筈だった
今度は隣国からの報復による侵攻が始まった
王を失った私達に対抗する術等なく
瞬く間に祖国は滅んだ
亡国の王子となった私の逃亡生活が始まる
傍らにはいつも彼女がいたので挫けることはなかった
何よりも兄の隣りにいた男の計画を阻止するために私は残りの生涯をかけるつもりでいた
そんな逃亡のある日
妻があるボロボロの少年を連れてきた
おそらく捨て子だろう
その少年は口が聞けるようになるくらいの年齡だ
妻は彼を引き取ろうという
当然それに反対した
命を狙われる私達が他人の面倒をみれるはずがない
彼女が反論する
ここで見捨てたらこの子はすぐに死ぬだろう
この年齢の子が生きている状態で見つかったのは奇跡だと
私達に付いてくればこの子もどちらにしろその内死んでしまう
誰かに預ければいい
預ける宛がない
こんな小さな子を見捨てて良いのか
など口論は続く
すると彼女からもらった乾パンを食べながら
少年が一緒に行くと言う
少年に私達について行くのは危険だと説明しても
少年は何も食べられないよりましだと言う
年齡の割によく口が回ると関心したものだと関心した
その時私の脳裏には少年があの子の囮になれるのではないかという考えが浮かんだ
酷く残酷な考えを振り払った
私達の逃亡生活に一人の少年が加わった
妻はその少年をたいそう可愛がり、多くのことを教えた
その少年は地頭がいいようでその全てを吸収した
私も少年に剣や体術を教えるようになった
年月がたつとその少年を息子のように愛するようになっていた
父とも兄とまうまくいかなかった私がと自分でも滑稽に思えた
息子の寝顔を眺めると愛おしいという感情を今度は否定しないと心に決めた




