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「お待たせ〜。もう少し煮れば、寄せ鍋いけるよ〜。」
謎の生物を捕獲し生活を共にして1週間が経過した。
大学は短い冬休みに入り、バイトと大学の課題をこなしながらと何時もと変わらない毎日である。
少し違うのは、雷華が遊びに来る回数が増えた事。
俺では無く謎の生物と遊ぶ為だ。チャダも懐いてる。
そうそう。ついに一昨日、謎の生物に名前が与えられたのだ。名前はチャダである。
俺の部屋で3人で夕飯を食べて終えた時にテレビ番組で「あの人は今」的な放送を見ていた時だった。
インド人演歌歌手のチャダを探す内容で、掛かっていた演歌に謎の生物はノリノリで踊り出した。その前に演歌って踊れるものなのか?かなり優雅に踊っていたけど。
その姿を見た雷華が一言。
「君の名前は、今日からチャダだ。」
「チャダ!チャダ!なまえだぁ!」
全くもって、インドにも演歌にも縁が無いが、内容はどうであれ本人は気に入ってる様だし、固有名詞があれば呼ぶ自分達も楽である。
そして今日。12月30日。
昨夜一通のメールが届いた所から始まる。
【明日日本に着く。土産持ってくからヨロシク】
送信者は古川 大雅。
俺の小学生からの友であり、バンドのボーカルでもある。
今年の初め皆んなで初詣に行った帰りだった。突然
「職業・旅人って…何か良いよね!」
そんな事を言い出して数週間後にベトナムに飛んだのだ。
以降、時々大学の単位を取りに日本には居たそうだが、気が付くと出国していて、また違う国での写真が添付されたメールが来るの繰り返しだった。
流石デカイ総合病院の三男坊。やる事が規格外だ。
そんな大雅が来るなら他の皆んなも集まるかって話になり、なんなら一緒に鍋をやるかって今に至る。
そして、今。俺の目の前で驚く事が起きている。
「君がチャダなんだね?雷華から話は聞いていたよ。」
「あなたはだれ?」
「オイラは新尚典、雷華と太郎は高校時代からの友達だよ。」
「たかのり?たかのりは、いいひと?」
「良い人かなぁ。自分で言うのも何だか恥ずかしいねぇ。」
尚典がチャダと初対面で無茶苦茶ナチュラルに会話してる。
ほんの数十分前がはじめましてなのに、警戒心ゼロか。
彼・新 尚典は説明通りの友人であり、バンドのドラム担当である。
雷華と尚典は別の高校に通っていた同級生で、家庭の事情で従姉妹のお姉さんの所で身を寄せてるそうだ。
幼少期1人で過ごす事が多く、神話や伝承と言った類いの書籍に囲まれて読み漁ったと聞いてはいたけど………
それでもナチュラル過ぎじゃね?驚かないの?
動物とも人とも言い難い、尚且つ喋る生物なんだぜ?
もう俺の中でツッコミが止まらない。
「太郎は相変わらず直ぐに顔に出るね。」
ふわっとした笑顔で尚典が声を掛けてくる。
「だってさ。こう、何だ?この生き物は??的なアクションじゃね?普通。」
「そうだね。普通ならそうかもしれないけど、チャダの方から見たら僕達が異形な訳じゃない?でもこうして仲良く接してくれるなら、それ相当の対応をしないと失礼じゃないかなって。」
一理ある。言ってる事は一理あるよ。
「それと何かの本でこんな姿の妖精とか神様とか見た記憶があるんだよね。もしそうだったら益々粗相は出来ないよ。」
神様や妖精か。成程。そう言う発想は無かった。
だけど無いな。あんな食に執着する神様や妖精って、普通に考えただけでも嫌だわ。
「きっと何か理由があって太郎の元に来たんだろうから、このまま仲良くしてれば良いと思うよ。」
凄く諭された様な解釈をしてくれた…。尚典、恐るべし。
「それより大雅は遅いね。もう成田にはとっくに着いてる頃でしょ?」
尚典の声で一斉に部屋の壁掛け時計を全員が見上げる。
「まぁ…アイツはややルーズな所もあるからな。どうする?鍋の火を一旦止めとくか。」
「えー。たろう、ごはんはまだなの?」
「もう少しだけ待って。後1人来ないんだよ。」
「なら、チャダ、俺と遊ぼう。」
「あそぶー!きょうこそ、らいかのぼりをクリアするー!」
何だ?その遊びは?内心こっそりとツッコんでしまった。
みんなが集まる日は基本的に鍋。片付けが楽が理由。