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謎の生物が更に謎を呼ぶ朝となった。
「おはよう。」
そう謎の生物が俺に話したのだ。
まずは昨夜の記憶から遡ってみよう。
結局殆どのケーキを奪われ、冷蔵庫からもう一切れを出して自分も食べ切って夕飯は終了。
謎の生物は生クリームまみれになり、ウエットティシュで拭き上げてそのまま2人(1人と1匹?)でテレビを視聴していた。
クリスマスの特番ばかりで消しても良いかと思っていたが、謎の生物は興味津々なのか釘付け状態だったのでそのままにし、俺は相変わらず携帯で奴の生態を調べていた。
そして気付いたら朝になっていた。
しまった。2日連続でテレビ付けたまま寝てしまった…。
目を擦りながら謎の生物を探すと、コタツテーブルに座ったまま未だテレビを見ていたのだ。え…この生物オールしたの…?大丈夫なのか…?
思わず謎の生物に「おはよう。」と投げ掛けたらだ。
「おはよう」
そして今に至る。
たまに喋る犬や喋る猫とか見るけど、そんな曖昧な話し方で無く、ハッキリと挨拶が返って来た。
それとも喋る生物なの?人間以外でクリアに話す生物って存在するの?あ、もしかしたらインコとかかなぁ。
そもそも言葉を発する事が出来るのは、人間だけだと義務教育中に先生から聞いたけど、口呼吸の関係とかで。
やっぱり人…?
「ね?きのうは、ごはんありがとう!」
ケーキを食べたい時と同じ笑顔で更に続いた。話す確定だ。
一体…何なのだろうか…?
「あれ?ことば、ちがう?」
「あ…ああ。合ってる。分かってる。」
「よかった。」
今返せる限りの言葉を並べてみた。
しかしレスポンスが可能なら、何者か当人から聞けば良い。
「君は…何者?誰だい?」
「わかんない!」
質疑応答、終了。分からないんじゃあ仕方がない。
……………それで終わる訳じゃないよな。おかげで謎の生物が益々分からなくなったんだから。
「昨日まで話さなかった様だけど、今はどうして?」
「きのうのテレビでおぼえた。」
「一晩で?」
「うん。もっとおぼえればいいとおもう。」
それって相当な学習能力じゃね?俺だって英語が未だにギリギリなのに、一晩オールで難しいと言われる日本語を覚えたって…。
視線をテレビに向けると、朝の情報番組が陽気に流れている。こんなんで言語を獲得出来る物なのか?
もしかして…実はこの世に存在しない物………?
「おなかすいた。」
謎の生物がそう元気良く伝えると同時に、昨晩聞いたのと同じ腹の虫が鳴き出した。俺も流石に腹が減った。菓子パンとケーキだけだからな。当然か。
「君は…何が食べれる?」
「たぶん、なんでもだいじょうぶ。」
「何か作るわ。待ってて。」
再びツヤツヤとした笑顔で俺を見ている。
とりあえず家にある物を探しに台所へ向かう。
冷蔵庫には冷飯と卵。ごはんは温めて、卵焼きにでもするか。
妙に視線を感じたのでコタツの方を見ると、テーブル角の先から頑張って俺を見ている。気になるのか?
「コタツから落ちないでよ?」
「う…うん!」
現時点で分かった事は、奴は食いしん坊である。確定だ。
太郎の作る卵焼きは、だし巻き卵です。
時々ネギやじゃこも入ります。