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今日の文具屋もとんでもないものだった。
積雪で客足は少ないと思って店舗に着いたら、ピンポイントでクリスマス関連売場だけ芋洗い状態だった。その中で店長を見つけるも近寄れない。
店長はその風貌でお客さんが寄り付かないんだけど、見事にお客さんの波の中で品出しをしていた。
レジ2台共開局していて、社員さんとパートさんが鬼の形相で打ち込んでいた。
改めて。クリスマスのラストスパート、怖い。
「あぁ!蕪木君来た!早速だけど店長の品出しを代わってあげて!」
レジ打ちをしながら社員さんが俺を見つけると早口で指示をだし再び接客に戻った。
どうやら開店から3人で回してたらしい。通常でも5人体制なのに。
以降は今年も目が回るくらいの忙しさだった。
店長と交代しお客さん達に「これに入る箱はあるか?」とか「クリスマスらしい包装紙は他にもあるか」とか聞かれながら品出し。
出しても出しても直ぐに無くなる為、常に補充。更に売場は掻き回されて汚く見えてしまう為、整理整頓もしていく。
朝から入ってる人達が昼休憩の時はレジ打ち、レジサポート。小さな雑貨もあるので様々なギフトラッピングをこなす。
そして忘れた頃に「年賀状用の判子ありますか?」なんても聞かれるから売場に行くと、何時の間にか筆ペンもスカスカで、此処でも品出し…。をエンドレス状態。
気が付いたら夕方前だったろうか。
漸く入れた休憩でバックヤードへと入る。
夕方にもなると今朝の騒がしさが嘘の様に静まり返る。
「蕪木君?大丈夫かぃ?」
やや疲れた顔で店長が入って来た。
大丈夫かぃ?はどちらかといえば俺の台詞である。
「去年も此処にいましたからね。許容範囲内です。」
「本当?予定とかあったんじゃない?」
「俺、友達少ないし彼女いないから…予定すら無いし。」
自分から言って何だけど、中々寂しい奴だな。俺。
「クリスマスプレゼント」と店長から缶コーヒーを手渡され、軽く会釈する。
「俺、久々にクリスマスプレゼントなんて貰いましたよ。」
「缶コーヒー位何時でもあげるって。今日も蕪木君様様だし。」
冷たい缶コーヒーをそのまま戴く。
相当動いたんだろうな。コーヒーの冷たさが心地良い。
蓄積された疲れも少しずつ放出される様に感じる。
「蕪木君、もう少ししたら夜番の人が来るから残り30分勤務したら上がりで良いからね。」
どうやら私鉄の運行は回復しているらしい。
確かに外を歩く人もいつも通りに戻ってる様だ。
クリスマスかぁ。ケーキ位買って帰ろうかなぁ。
余り甘い物は欲しないんだけど、疲れからかな。カスタードとか生クリームとかが無性に食べたい。
あ。家にあんぱんあったなぁ。でも餡子じゃない。今日は餡子な気分じゃないんだよな。
餡子…あんこ…。
「あああああー!あんぱんッー!」
じゃなくて!謎の生物の存在!忘れてた!
あんぱん置いて放置だった!忙しくて忘れてた!
「蕪木君?本当に大丈夫?もうそのまま上がっても…」
「いや木竜さんの中抜けから戻るまでいます!大丈夫です!あんぱん大丈夫です!」
自分で言っときながら、何が大丈夫だか分からない。
心配そうな店長からのコーヒーを一気に飲み干して売場へと戻り、残された片付けを勢いのまま済ませた。
木竜さんはパートのお姉様です。
シフトは午前10時〜12時、午後5時〜9時閉店時間迄となってます。
理由は義母がデイケアからの帰宅時間と高校生の子供が帰宅する時間帯の為、中抜けシフトになってます。