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騒がしく携帯電話の着信音が響く。
深い眠りから呼び戻された俺は、着信を見て電話に出る。
「………はい。どうしました?」
『蕪木君?もしかして寝てた?』
「あ。大丈夫です。今起きた所なんで。」
『起こしちゃったかな?悪いねぇ。相談があってさぁ。』
申し訳無さそうな声で話すのは文房具の店長だ。
お店のエプロンがお世辞にも似合わない無骨な風貌だが、話し方や接し方が今まで会った大人の中で断トツ優しい人物だ。そのせいか、店長のお願いはついつい聞いてしまう。
『今日数時間で良いからバイト来れる?』
「大丈夫っすよ。欠員出ましたか?」
『そうなんだよぉ。昨日からの雪が結構積もってね。私鉄が止まっちゃってるんだよ。蕪木君は地下鉄だから来れるかなぁって。』
「大丈夫です。学校休講になったんで、俺行きます。」
『本当!?ありがとう助かったぁ!待ってるからねぇ!』
通話を終えて携帯を置いてからカーテンを開ける。
見慣れた街並みは一面、真っ白な世界へと変わっていた。
少し太陽の光が差し込んで遠くを見ると眩しい。
アパート下では大家さん達が雪かきをしているのも見えた。これは電車も道路も混乱しているんだろうなぁ。納得。
徐々に覚醒し、改めて部屋を見直す。
ベッド近くにあるテレビが小さな音で今回の積雪情報が流れている。しまった。着けたままで寝ちまった。
電気代勿体ない事してしまった。そんな事を考えながらコタツの上を確認する様に見つめる。
矢張り居るな。昨日の謎物体。
謎の生物は暖かさから生きてると判断。流石に雪の中に放置って訳にはいかなかったので、とりあえず部屋に連れて帰ってきた。
厚みのあるタオルで包んでやると、スウスウ寝息をたてて動く事も無くそのまま寝入った様だ。
その間、携帯でこの生物について調べてみたが、何一つ分からない。そのまま疲れて俺も寝てしまった様だ。
この生物を一言で言うと…何て言うか…あれだ。海外の某製粉会社のキャラクター。
鼻は大きくなく、ややのっぺりとした感じだけど…あれに似ていると思って検索したが、当然そのキャラクターのグッズしかヒットしなかったんだよな。
しかしさ、コレ、どうしよう。
これからバイトで家を空けてる時にコレが起きてきたら?
部屋を荒らされたら?悪戯されたら?どうする??
それから鳴くのかなぁ?ペットダメな物件だから、鳴いたりしたら大家さん飛んで来ちゃうよ?
今の所は起きる気配は無い。もし荒らされてもこの生物は全長10センチ位だから、やられたとしてもたかが知れてる。
そもそも悪戯されても大して貴重な物も無いしなぁ。
とりあえず暫定的な形で、最近食べ切ったサブレの大きな缶にタオルごと移動させて蓋をせずにした。
そして防音対策で缶の周りをバスタオルで包んでおく。
あと家にあったあんぱんも入れとく。なんとなく。
これだけの積雪だから地下鉄も混雑しているかも知れない。
簡単に支度を済ませて部屋を出た。
大家さんとご近所さん達に挨拶をし駅に向かう。
此処だけでは無く、色々な家で雪かきを行っていた。
駅迄は徒歩で15分。今日はもう少し掛かるだろう。
そう考えたらホワイトクリスマスなんて話の中だけで充分なものだなぁと感じる。冷めた奴と思われそうだけど。
それより部屋に置いてある生物だ。
誰かに聞いてみたいが、聞ける奴は…バンドのメンツ位だなぁ。時間がある時にメールしとこ。
そんなクリスマスイブの始まりだった。
サブレの缶は地域でも有名な鳥サブレで44枚入のデカい缶。
大家さんから貰って頑張って食べ切りました。暫くは見たくもないそうです。