表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも三角ときどき四角  作者: しまうまかえで
2/2

<後編>

イラストは旧姓“深谷”そして現在は一児の母である谷合詔子(たにあいしょうこ)さんです。




挿絵(By みてみん)






「どうかしてるわよ!!こんな大変な時に私の所に来るなんて!!」


 そう叫びながら私は本当に後悔していた。


そもそも酔った勢いでカレを部屋に引き入れなかったら、こうやってカレが尋ねて来る事はなかったのに!!


でも、もうどうする事もできない。

今、パジャマの上に形ばかりのカーディガンを羽織った私の前に立っているスーツ姿のカレの事を……


「係長に辞表出して来た! 今頃は社長の所まで行っているだろう。その位の大事(おおごと)をやらかしてしまったからな」


「そんな!!」


「いいんだ!どうせクビになるんだから『進退伺』なんてダルい事はしてらんねえよ!」


そう言いながらカレ……誠二くんは玄関に跪いて私のお腹辺りにそっと手を伸ばして来たので私は反射的に飛びのいた。


「何するの!!」


「お腹、オレの子供……」


そう言われて私は大きくため息をついた。


「誠二くんには迷惑掛けないから!!」


この私の言葉に!!

誠二くんの顔が初めて歪んだ。


そしてカレの目から涙がハラリと落ちた。


一粒だけじゃない! いくつもいくつも


「オレ!! 何にも無くなっちゃう!! 子供も! お前も居なくなったら!! 

頼む!! こんな!どうしようもないオレだけど!! 一緒に居てくれ!! 

オレを!!オレの子供を!! 見捨てないでくれ!! 

オレ! その為なら何でもするから!!」


こう言って土下座するカレをどうして見捨てる事ができるだろう!!


『例えそれが……カレの一時の気の迷いだとしても私は構わない!!』

私の“命”がそう叫んでいた!!


だから私も跪いてカレを抱きかかえワンワン泣いた。


「誠二くん!!謝る相手を間違えてるよ!! 誠二くんに子供の事を教えてくれたのは係長でしょ? だったら……」

ここまで言ってカレの左の頬が腫れているのに気が付いて、そっと手をやる

「これ、どうしたの?」


「係長に平手打ちされた」


あまりの事に私は吹き出し、二人泣きながらゲラゲラ笑った。



--------------------------------------------------------------------


 私も誠二くんと一緒に土下座しようとしたら社長と係長から慌てて止められた。


「お前が真っ先に責任取らなきゃいけないのは深谷さんだろ?!」と社長は誠二くんを睨む。


「自分の今の状態では本当におこがましいのですが、さっき深谷さんにプロポーズしました」


「そうかい!それはおめでとう! “向う”は商品の買い取りと一緒にお前を使ってやってもいいと言ってるぞ!」


「いいえ!どうかどうか!! ここで働かせて下さい!! もう一度だけ!!私にチャンスを下さい!! お願いします!!」


誠二くん、私、そして係長の三人が一斉に社長に頭を下げると

社長は引き出しから二通の辞表を取り出して各々を二つに破り、ゴミ箱へ投げ入れた。


「谷合の事は佐々木に預ける!」


社長はこう言って

頭を下げている私の肩をポン!と叩いた。

「結婚式には私を呼べよ!」



--------------------------------------------------------------------


 「娘に“陽葵”と名付けたい」そうお願いした時に係長は「ありがとう」と言ってくれた。


でも、私が退職してからは、やり取りは専ら電話かメールで……自宅に招待しても固持され、同じ“陽葵”という名を持つ娘には会いに来てくれなかった。


「お前達の大切な時間に割り込みたくないんだ! 私は仕事という名目で谷合の人生の大半を拘束してしまっているからな」

そんな類の言い訳を繰り返しされて私はとても悲しくなる。


 確かに私は佐々木係長……課長……そして今では次長……に、ヤキモチを焼き続けている。

でもそれ以上に!! パパ……誠二くんと同じ位に次長の事が好きなのに……ずっとずっと好きなのに!!


ひょっとしたら次長も、私にヤキモチを焼いていらっしゃるのかもしれない。

自分が子供を持てない事がとてもとても悲しいのかもしれない。


そんな“感情”を抱かないようにする為に、頑ななのかもしれない……


でも、会いたかった。



 人生は予想もしない事が起こる。


頭では分かっていたけれど、まさか自分の身に降りかかるとは……


今朝、家を出た時には思いもよらなかった。


いつかの()()()の様に吐き戻し、今この胸を染めているのは真っ赤な血……


 

私達を妹や弟の様に想っているとおっしゃた次長……いや、“陽葵”さん……私もあなたの事をお姉さんのように想っています。


だからさっき、誰かに尋ねられて あなたの名前を口にしました。


パパは出張で……間に合いそうにないからと

残念ながら

そう思います。


死にたくない!!死にたくない!!死にたくない!!

“陽葵”やパパの顔が浮かんで……迫りくる死に抗おうと、ロクに動かす事もできなくなった口で一所懸命叫んでいたけれど、今は痛みさえ遠ざかり始めて……日が暮れるみたいに視界も閉ざされ、この走馬燈の様に頭を駆け巡る思い出達が()()()()が近い事を教えてくれています。


“陽葵”さん……

もしも誠二くんがあなたの夫だったら……

“陽葵”はきっとあなたの子供……


だから二人を……

あなたにお返しします。


心の中で

こう言ってしまって

私は心が楽になりました。


死ぬ事が

少し楽になりました。


 ああ、でも……やっぱり“陽葵”と“陽葵”さんに逢いたい!! ゴメンね。パパが来るまでは留まっていられそうにないから……


 酸素マスクに覆われた唇が動いたけれど、もう声にならない。私を運ぶストレッチャーのガシャガシャ音だけが耳に響き、脇に零れた手は微かに蠢くけど、虚しく宙を掴む指先は石像の様に冷えてゆきます。


もう


  これまで


      ……



あっ!


温かさと


大きさの違う


二つの手が


私の手を

握ってくれた



「ママ!!」 「詔子!!」


聞こえる!!


    「『陽葵の声が』」



もう顔も見えなくなってしまったけど


私は

二人の手を

私の両の手のひらの上で重ねて繋いだ。


そしたら空いた私の両手を片っぽずつ二人が繋いでくれて


私は胸の上で“三角”を描いた。


それは私がこの世で描いた最後の“三角”


そして明日からは


誠二くんと


陽葵ちゃんと


陽葵おねーちゃんが


新しい三角を作るはず。



思い出す……


陽葵ちゃんが生まれた日


やっぱり病院のベッドの上で


私達は“四角”になれたから


いつかもう一度


四角になりたいな


陽葵おねーちゃんが作る幸せの三角は


遠い遠いお空の上からも


はっきり見えるはずだから


いつかきっと


私は、その“三角標”を目掛けて下りてゆくよ。


そうしたら


パパはパパで変わりないけれど


陽葵おねーちゃんがママになって


陽葵ちゃんが陽葵おねーちゃんになるんだね。



だからそれまでは


三人の幸せな日々を


お空の上から


いつもいつも


見守っているよ。







                      おしまい


後編は私、しろかえでのターンなのですが、最初から涙駄々洩れで……


まったくもう!


でございます<m(__)m>



ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何を言われます。 四宮先生の作品は、無敵です。 私は、大ファンのままですよ!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ