<前編>
この作品は
『そのひまわりが咲く事は無い』
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『ひまわり記念日』
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『ひまわりの秘密』
https://ncode.syosetu.com/n9213ia/
の関連作品です。
合わせてお読みいただければとてもとても嬉しいです(#^.^#)
「そうなんだ! 今までのオレはコンパクトに収まってたんじゃないのか??」
谷合誠二はそう自問する。
「オレの同期のライバルは女、上司だって女だ! 女と競り合って勝てない方がどうかしてるんだ!!」
そう!先月、酔った勢いなのか……同期の深谷詔子に言い寄られて寝た。
やってしまえば簡単だった。
二人共、上司の佐々木係長(女)に憧れていて飲むと必ずその話になる。
だからオレが佐々木係長を想っていることも、アイツはもちろん知っている。
にも拘らずオレと同衾するという事は、オレの事をそれなりに評価しているのだろう。
深谷とはいつも競り合っていたけれど、ここの所、オレの方が頭一つ抜け出てきた気がする、先月も連勝したし……やっぱり男は『仕事が出来てナンボ』だ!!
今動いている超有名キャラクターのライセンシーの案件が成功すれば、オレは佐々木係長とも肩を並べる事ができる!!
そうすればオレの見える景色も変わるかもしれない!
ライセンサーのデザイン部のお姉さん達とも交流が深められるのかも……
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「お前のアパート、ここでいいんだよな?」
ナビの到着のアナウンスにパーキングブレーキを踏んだ佐々木陽葵は後ろを振り返る。
「はい……」とレジ袋に半ば顔を突っ込みながら力なく応える深谷詔子をお姫様よろしく車からエスコートする陽葵は“男前”だ。
「係長にお見せする様な所じゃないんですけど……」
「ウチも同じようなアパートだよ。お風呂なんて“バランス釜”だ!」
「バランス??」
「ハハハ!知らないんだったらお前の所の方が“作り”は新しいって事だ。部屋の鍵、貸してくれ、ドア開けるから」
詔子の部屋はこざっぱりとした“女子部屋”といった感じで……“ワサッ!”とした物は“外に干すのがはばかられる”洗濯物のハンガーくらいだった。
「詔子はいい奥さんになれるな」
陽葵の言葉に詔子はただ、きゅ~っとなった。
そんな詔子を陽葵はそっと抱き寄せる。
「けど今は、甘えろ」
その言葉に詔子はまた泣き出してしまった。
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ベッドに寝かしつけた詔子の頭を撫でながら陽葵は語り掛ける。
「恥ずかしい話だが、私の心はもうずいぶん前から荒れ放題の空き家でね、そこに明かりを灯してくれたのがお前と谷合なんだ。 だからお前たちの事は妹や弟の様に想っていて……口では『絶対負けられないライバルだ!!』って言っていても実は物凄く仲良しなお前達が一緒になったら素敵だろうなって夢想している。」
そう言いながら陽葵はもう片方の手を布団の上から詔子のお腹辺りに添える。
「出来てしまったのは間違いだったのかもしれないけど、二人、手を取り合って、二人の愛とこの子供を育ててはいけないだろうか?」
「係長はそれでいいんですか?」
詔子から涙に濡れた瞳で見つめられて、陽葵は満面の笑みを浮かべた。
「当たり前じゃないか! 詔子の事を守る谷合を私は上司として同僚として……いつかは部下としてかもしれないが……全力で守り、サポートするよ。だから心配するな!」
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陽葵が社用車に戻ってケイタイを立ち上げて見ると社と谷合からの着歴がズラリと残っていた。
陽葵はシートに背を預けてまず谷合の着歴にリダイアルした。
切羽詰まった声の谷合の報告を聞き終わった後、陽葵はひと言だけ指示した。
「こっちはあと30分もすれば社に戻れる。お前はまだ1時間くらいはかかるだろ? とにかく慌てるな!二次災害にならないよう落ち着いていつも通りを心掛けろ!いいな!」
電話を切った陽葵は、つい先ほどまで居たアパートの部屋をドアウィンド越しに仰いだ。
「詔子!ありがとう! お前にはいつも勇気を貰っているな」
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陽葵と谷合の二人きりの会議室、他の社員は前を通る事すらせずにしんと静まり返っている。
「バカヤロウ!!いつまでも学生気分で友達ごっこするんじゃない!!」
「私と深谷はそんな緩んだ関係じゃありません! 今回の事とは……」
「大いに関係がある! じゃれ合いの“ライバルごっこ”をしているから他社から舐められるんだ!」
その言葉にかっとした谷合は会議テーブルにバンッ!と辞表を叩き付ける。
「責任は……」言い掛けた谷合の頬を陽葵は思いっ切り張り倒した。
陽葵のこの細い体のいったいどこにそんな力が??と言う位に谷合の体はすっ飛んで行ってボウリングのピンのごとくテーブルをなぎ倒した。
「仕事を!! 人生を!! そして女をなめるな!! 深谷は!!
お前の子供を身ごもってくれているんだぞ!!」
こう言い捨てて叩き付けられた辞表を掴み、陽葵は出て行った。
倒れたテーブルの檻の中で茫然としている谷合を残して……
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二通の辞表を前に腕組みしていた社長は陽葵に口を開いた。
「つまり谷合は“なりすまし”を喰らったわけだな!」
「カレもバカじゃありませんから…相手は内部事情を熟知している“グループ”の仕業と思われます。」
社長は軽くため息を付いた。
「“元”のライセンシーの役員からさっき電話があったよ。“生産済みの”ウチの商品を買い叩きに来た。社名の修正印刷と今回の『キーマン』の谷合込みでな!」
「社長は谷合をお疑いですか?」
「それは無いよ。アイツはキミに心酔してるからな!裏切りはしないだろう! ただウチに必要かどうかは別の話だ」
「谷合も今回の事で“甘さ”を修正するでしょう。さすればゆくゆくは私なぞ足元にも及ばない人材となるはず!そんな逸材をみすみす他社の社畜にしてしまうのはもったいないと私は思います」
「君以上の社畜になるかね?」
「なります」
「私も君の逸話は先代たる伯父から何回も聞かされたが……それ以上かね?」
「カレがやらなければ私がやるだけです。必ずや“倍返し”はいたしますよ」
「そういうことなら、コイツは保留だな」と社長は“二通の”辞表を机の引き出しにしまった。
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「佐々木係長と谷合くんがクビになるかもしれない!!」
業務の子から入ったケータイメールに詔子は真っ青になった。
「全部私のせいだ!! 功を焦った谷合くんは“詐欺師”に付け込まれたんだ!!
でもそれは私の思い上がり??
いずれにしてもプライドが高く負けん気が強い彼の事だ!!
私の事は……もう……
係長はああ言ってくれたけど、やはりベビーとは……」
詔子がまた流れ出した涙で布団を濡らしていると、表のチャイムが鳴った。
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「今日はまた遅いのね」
大鉢に盛られた“おばんさい”がカウンターにいくつも並んでいるお店で、独り座っている陽葵に女将さんがビールを注いだ。
「ああ、ゴメン! ここ、11時までだっけ?! またしばらく来れないかな……」
「ダメよ!陽葵ちゃん! どうせ私は2階住まいなんだから今まで通り寝酒の相手をしてちょうだい。この2階からはあなたの部屋の窓が見えるんだから!ちゃんと見張っているわよ」
陽葵のグラスに自分のグラスをカチリ!と当てて女将さんはウィンクした。
<後編へ続きます>
今週は黒楓しろかえでの共作なので“月曜真っ黒シリーズ”はございません<m(__)m>
明日はこの作品の後編を頑張って書きます。
因みに明日は詔子さんがメインです(#^.^#)
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