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第94話 戦姫の養子

どうも、ヌマサンです!

今回はランドレス家に新たな命が誕生します。

はたして、どのようなことになるのか、楽しんでいただければ幸いです!

それでは、第94話「戦姫の養子」をお楽しみください!

 季節は日中外に出る気を失せさせるほどな熱気に満ちた夏。ナターシャがダルトワ領への遠征から帰ってくる数日前、ランドレス家に嬉しい出来事があった。


 ナターシャの弟、クライヴの妻であるセシリアに新たな命が生まれたのだ。それも、ちょうどクライヴが壮絶な討ち死にを遂げた際に、セシリアが身ごもっていた赤子だ。


 まさしく、クライヴの遺児であり、ランドレス家待望の男子であった。ランドレス家は代々、男は早死にする家系であるため、この子が早死にしないことを祖母として、子を失った一人の母として、シャノンは祈った。


 セシリア譲りの緑色の髪に、クライヴにもあった角のような癖毛。黒髪をもつミシェルとは異なるものの、特徴は両親から受け継がれている。それを見てセシリアは喜びと感動がこみ上げてくるのだ。


「お義母かあさま、この子の名前はどうしよう?」


「そうね……男の子の名前だと……」


 うんうんと唸りながら生まれた赤ん坊の名を考えるシャノンであったが、名前は考えれば一朝一夕に浮かぶものではない。生みの親であるセシリアも脳から汗を流しながら考えるも、浮かばない。


 ――そんな折だった。ダルトワ領へ赴いていたナターシャが王都コーテソミルへと帰還したという報せが入ったのは。


「お母さん、血相を変えてどうしたのですか!?」


「生まれたのですよ!セシリアとクライヴの――」


 シャノンが最後までいい終えぬうちに、ナターシャは馬を駆けさせていた。どこへかなど、言わずもがなである。


 そうして馬を走らせ、瞬く間にセシリアのいるランドレス家の屋敷に到着した。驚く使用人に愛馬を預け、鎧兜をつけたまま屋敷へ駆けこんだ。その様子を使用人たちから聞いたシャノンも苦笑するばかりであった。


「あっ、ナターシャ!おかえり!遠征ご苦労さま」


「ええ、ただいま戻りました。そ、それで、生まれた子供というのは……!?」


「この子です」


 セシリアから慎重に受け渡される赤子を、これまた慎重に抱きかかえるナターシャ。さすがに戦場では『漆黒の戦姫』と恐れられる彼女も、赤子の前では一人の女性であった。


 ナターシャに抱きかかえられるなり泣き叫ぶ赤子にあたふたするも、冷たく硬い鎧が当たったからなのかは定かではないが、赤子にとっては安心できないというのは確かだろう。


 泣き叫ぶ赤子を母であるセシリアがあやすと、ウソのように泣き止む。そんな不思議な小さき命に振り回されながらも、ナターシャの表情は穏やかであった。


「そうだ、この子の名前をどうしようかという話をしてたんだけど……」


「名前……ですか?」


 ちょうど先ほどまで生まれたばかりの赤子の名前をどうするか、シャノン共々話し合っていたところだとセシリアは語った。さりとて、ナターシャとて名づけをするのは初めてのこと。シャノン以上に悩むだけ……かに見えたが。


「そうです、『アスカル』という名はどうでしょう」


「アスカル……!いい名前じゃない?」


「アスカルというのは、お母さんの生まれ故郷では『誇り高い』や、『偉大なる者』という意味のある言葉です。そういう誇り高い人間になってくれという願いを込めてみたのですが……」


 由来まで聞き、セシリアは大賛成であった。続いて、戻って来たばかりのシャノンにも、由来も併せて伝えると反対することなく、あっさりと了承した。こうして、ミシェルに続いて生まれた男児の名は『アスカル』に決まった。


「ナターシャ、アスカルを養子に貰ってもらうことってできるかな?」


「あ、アスカルを養子に……ですか!?」


 生まれたばかりの赤ん坊を養子にという話で、ナターシャも驚かずにはいられなかった。しかし、セシリアとしても母としてクライヴに優るとも劣らぬ立派な男児になってほしいという願いがある。


 そのためにも、大陸にも名を轟かせる女将軍であるナターシャに養子にしてもらいたい――と。


「ナターシャ、良いんじゃないの?あなたとしても、断る理由もないでしょう」


「それはそうなのですが……」


 シャノンからそう言われても、ナターシャとしては胸の辺りに少し引っかかるものがあった。その正体にはすぐに気づくことができた。


「セシリア。生まれたばかりの赤ん坊を母親から引き離すのには抵抗があるのです」


「それはそうなんだけど……」


「ですから、今すぐにではなく、その子が3歳になってからということでどうですか?」


「うん、分かった!そうする!」


 嬉しそうに頬の筋肉を緩めるセシリアに、ナターシャもつられて表情をほぐしながら、セシリアに大人しく抱かれる赤子の頭をそっと撫でた。


「では、アスカル。また来ますね」


 赤子に別れの挨拶を済ませ、ナターシャはランドレス家の屋敷を後にした。遠征軍の総大将としての務めをほっぽらかしてきている手前、長居するわけにもいかないのだ。


 そんなわけで、ナターシャはその足でマリアナの待つ王城へと馬を走らせるのであった。


「セシリアはこれから二児の母として、大変でしょうが私も手伝いますから」


「助かります」


 ありがたい申し出を受けつつ、シャノンにもアスカルを抱かせ、2人は子どもの将来のことについて話をしたりした。途中、使用人に連れられながらやって来たミシェルにもアスカルを紹介するなど、実に平和な光景がそこにあった。


「そういえば、お義母かあさま。レイラ殿が提案した制度をご存じですか?」


「制度ですか?それ自体、初めて聞きましたが……」


 セシリアは宮中で耳にしたレイラ発案の制度について、義母セシリアへ伝えた。その制度とは、国主導の教育制度である。人材を集めるだけでなく、人材を育ててはどうか、そのために改めて国が学びの場を整えてはどうかと意見書を提出したのだ。


 このことは極秘事項というわけではなく、宮中に仕える者であれば、ほとんどの者が知っていること。だが、偶然にもシャノンは知らなかった。


 とはいえ、6歳になれば身分を問わずに学べる場所が解放されるという話もあり、子どもを持つ者としては、レイラを中心とする今後の『学びの場』について、注目したいところではあった。


 こうしてロベルティ王国に新たな命が生まれ落ち、今後も豊かな国であり続けるべく、進化たちが汗水たらしてより良い国づくりを行なっていた。はたして、ロベルティ王国の未来は明るいものになるのか、それとも暗い未来が待ち受けているのか。


 未来とは不確定なものである。一時の判断では良い悪いを決められるものに非ず。


 ヒトには未来を読むことはできない。だからこそ、絶対に悪くなるとも言い切れないし、良くなるとも言い切れない。ただ、今を生きる者たちにできるのは良くなることを願い、どうすれば良くなるかを考え、愚直に実行することのみ。


 あとは時代の趨勢に任せるしかない。それ以上は人の手ではどうしようもない。しかし、マリアナもナターシャなど英雄に限らず、国に暮らす一人の民であっても、己の未来を、己の子孫の住む世を良くしようと善処している。


 レイラの発案した教育制度に始まり、現在クレアが推し進めている港湾都市計画もまた然り。さらには、フレーベル帝国先代皇帝ルドルフが夢見た大陸統一も、武力を用いているとはいえ、彼なりに理想の未来を見据えてのこと。


 はたして、マリアナたち若き世代が担いしロベルティ王国は、末永く栄える未来を作り上げることができるのか。マリアナの父であるカルメロの願った平和な世は、このルノアース大陸に地上の楽園として顕現するのか。顕現しないのか。


 ――それはこれからの彼ら彼女らの行く末を見届けるしかあるまい。

第94話「戦姫の養子」はいかがでしたでしょうか?

今回はクライヴとセシリアの間にアスカルが誕生。

そして、アスカルをナターシャの養子とすることになっていました。

これからのナターシャたちの戦いを今後も見守っていただければと思います……!

――次回「多士済々」

更新は3日後、4/28(金)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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