第92話 玉磨かざれば光なし
どうも、ヌマサンです!
今回はロベルティ王国の北、旧王都コーテソミルが舞台になります。
はたして、どんな話になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第92話「玉磨かざれば光なし」をお楽しみください!
トラヴィスたちがプリスコット領へ赴いている頃、軍務大臣であるナターシャは家臣のモレーノとダレンの2名を伴って、ロベルティ王国の北部、ルグラン領へと赴いていた。
「お姉さま!自らのお越し、驚きました……!」
「急に行くと決めてのことですから、伝えるのが遅くなったのは申し訳なかったわね」
不意に北のルグラン領のことが気にかかったナターシャが、自らルグラン領へと赴くことをマリアナに伝えたことが一週間前。
ましてや、そのことが早馬でアマリアの元に伝わったこと自体、3日前であった。それなら、アマリアが急なナターシャの来訪に驚くのも無理はない。
「アマリア、今の情勢はどうなっていますか?」
「はい、元ヴォードクラヌ王ルイスが逃れて来てからというもの、ヴォードクラヌ王国の旧臣らが続々と入国し、仕官を願い出て来ていて対応に追われています」
「やはりそうですか……。仕官を願い出てくる数はどのくらいの数になっていますか?」
「およそ3千ほど。旧臣といっても、志願兵まで連れて来られていますから……」
ルイスが逃げ込んできた事で、3千もの兵士が増えたとあっては領主であるアマリアの負担は計り知れない。
だが、ルイスが逃げ込んできた事はロベルティ王国による旧ヴォードクラヌ王国領への侵攻の大義名分を得たに等しい。
よって、アマリアは命令があればすぐにでも西へ進軍できるよう、領内の道の整備に着手しており、アマリアの領国経営は苦労しながらもなんとかやりくりすることができていた。
また、ルイスを含めてヴォードクラヌ王国の旧臣3千はユリアが長官を務める北方軍政府預かりとしており、北方軍政府ではレティシア臣下のサイモンとクラウスの両名が徴兵と調練を担当していた。
「アマリア、色々と案内してくれたこと感謝します」
「いえいえ、ボクもお姉さまと久々に会えたのが嬉しいですから」
アマリアに旧王都であるテルクスを案内されながら今のルグラン領内の現状を聞き、ナターシャも順に北部の置かれた状況を整理していった。
そうして久々に再会したアマリアとナターシャが楽し気に会話している折、アマリアの屋敷に来客があったと報せが入った。
「来客ですか?」
「はい。ですが、『セリア』と申す者など存じません。通してよろしいものでしょうか?追い返せとおっしゃるなら、追い返しますが……」
「今、セリアといいましたか?」
アマリアが口にした人物の名に、ナターシャも顎に手を当て、思い出すような素振りを見せた。ナターシャも心当たりがあるのか、アマリアにその来客を通すように口添えする。
アマリアに連れられて客間に通されたのは紫色の髪を二つ結びにした可憐な少女であった。その紫色の髪からはアマリアの兄であるジェフリー、アマリアの母であるアリソンを想起させる。
「まずは名前を教えてもらえますか?」
「うん、セリアはセリアよ!」
子どもらしく無邪気で明るい笑顔を見せる少女、セリア。ナターシャとアマリアが紅茶を飲みながら素性を明らかにしていく。
すると、セリアが『ルグラン』の家に連なる者であることが分かって来たのである。しかも、セリアの母がルグラン家にて使用人として働いていたことなどが明らかに。
さらには、その使用人とジェフリーとの間に生まれた子どもこそがセリアということまで判明したのである。それについては、アマリアがルグラン家に仕える使用人たちから聞きだしたことであるが。
そんなセリアの母がセリアを身ごもったことを知ったジェフリーは平民の血が混じった子など自分の子ではないとセリアの母ともども屋敷から追い払ったというのである。
兄ジェフリーの行動にアマリアは憤りの感情を露わにしつつも、その事件が起こったのは11年前であり、アマリアは9歳とまだまだ子供であった。11年前のことともなれば、記憶が薄いのもやむなしといったところ。
「つまり、セリアはアマリアの姪に当たるわけですか……」
「まさか兄の隠し子だったとは思いませんでしたよ……」
ナターシャ、アマリアの両名共に驚きの感情を抱いていたが、それはセリアの様子を見ている限り、血筋を鼻にかけるジェフリーやアリソンと同じ血が流れているとは到底思えないからである。
だが、子どもらしい自由奔放で天真爛漫な性格は見ている大人の心を癒やすような効果がある。下手をすれば、温泉よりも心を癒やす効能があるのではないかと思ってしまうほどだ。
そのような無邪気なセリアの雑談を楽しみつつ、ナターシャとアマリアは今後のセリアの扱いについて思案していた。
「アマリアには子がおりませんでしたね」
「はい、子どころか夫もおりません!ボクはお姉さま一筋ですから」
「そ、そうですか。後半部分は聞かなかったことにしましょう。それはさておき、セリアをアマリアの養女としてしまうのはどうですか?」
「幼女を養女に……ですか」
「アマリア、別にダジャレを言わせたいわけではありませんよ」
少々キツく叱られてしまい、アマリアも主人に叱られた犬のようにしょげていたが、可愛い姪に慰められる有り様となっていた。
「ですが、なぜセリアをボクの養女に……?」
「ここは代々のロベルティ王国領です。ここでジェフリーと言えば、国賊として民衆からの印象も悪い。つまり、セリアがジェフリーの娘だと分かると、民たちからの悪いでしょうから」
「なるほど、領主であるボクの養女となれば民たちも手出しはできないし……なるほど、分かりました。確かに、その方が良さそう」
ナターシャ発案のセリアをアマリアの養女にするという案は採用され、10歳しか年が離れていないものの、その日からセリアはアマリアの養女となり、『ルグラン』の家名を名乗ることが許された。
すなわち、この日からセリアは『セリア・ルグラン』と名乗ることが許されたのである。
さらに、今年10歳となるセリアを女王マリアナの側付きとすることも、ナターシャが王都コーテソミルに戻り次第、マリアナに打診することとした。
こうしてセリアがマリアナの側付きとなる話をざっと勧めた後、セリア自身は側付きとなることが決まってから王都コーテソミルへと来てもらうこととした。
「では、それまではセリアはボクの屋敷に住んでもらうこととしよう」
「ええ、そうする方が良さそうですね」
「セリアはアマリア叔母さんの屋敷に住むの?わ~い!広~い!」
キャッキャッと騒ぎながら客間を飛び出していくセリア。この少女をマリアナの側付きにするのには不安が残るが、そうは言ってもいられない。
「……アマリア、何を苦り切った表情をしているのですか?」
「今、セリアから『叔母さん』と呼ばれたのがショックで……。ボクはまだ20歳なのに」
「いずれはお義母さんと呼ばれるのですから、叔母と呼ばれて凹んでいる場合ではありませんよ……!」
笑いをこらえながら慰めの言葉をかけるナターシャに、アマリアはフグのように頬を膨らせていた。そんな妹分をからかいながらナターシャは紅茶を飲み一服し、ゆったりとした時を過ごしていた。
それから後は、ゆるりと北方軍政府へ赴いたりしつつ数日を過ごし、セリアのことをマリアナに報告すべく王都コーテソミルへと引き返していった。
ナターシャたちが王都コーテソミルへと帰還していくのを見送ったアマリアは引き続き、入国してくるヴォードクラヌ王国の旧臣らの名簿を作成し、別に使いを立ててマリアナへと報告を行なった。
こうして北方の守備の要であるアマリアは姪のセリアを養女に迎えたりしつつ、『旧ヴォードクラヌ王国領の奪還』を目指し、着々と準備を進めていくのであった。
第92話「玉磨かざれば光なし」はいかがでしたでしょうか?
今回はアマリアが姪であるセリアを養女とすることに。
久しぶりのナターシャとアマリアのやり取りを楽しんでいてもらえればうれしい限りです。
ともあれ、今回で第4章『帝国との激闘』は終わりになります。
次回からは新章開幕となりますので、よろしくお願いします。
――次回「港湾都市計画」
更新は3日後、4/22(土)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




