第87話 逃がした魚は大きい
どうも、ヌマサンです!
今回もリカルドたちの撤退戦が続きます!
はたして、どのような撤退戦になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第87話「逃がした魚は大きい」をお楽しみください!
ローレンスの一計にて北と東からの攻撃が来ると、敵陣の動きを見て看破したリカルドは改めて敵陣を眺めていた。
「リカルド様、このまま北に進んだとしても、お味方の元まで戻ることは困難かと……」
「そうみたいだな。ローレンス隊9千を退けても、後ろにはまだカルロッタ率いる1万3千が残っているわけだ。こりゃあ、北に向かって撤退は難しいか」
リカルドは兵からの報告を聞きつつ、思案を巡らせる。そして、現状を踏まえて次の決断を下す。
「よし、西北へ進路を変えるぞ!ちょうどローレンス隊の西側の備えは薄い!その弱点を突く!」
リカルドの軍の采配は戦経験の少ない若造とは思えぬ、歴戦の名将に匹敵する名采配であった。しかも、ローレンスも自陣の西側が脆いことに気づき、補強しようとしていた頃合いである。
しかし、動きはリカルドの方が迅速であった。一気にローレンス隊の西側の備えを蹴散らし、西北へと進み始めた。ローレンス隊も逃がすまいと兵をまとめて追撃を開始。
ローレンスからの報告を受けたカルロッタも、自ら先頭を切ってリカルド隊を仕留めるべく、西へと軍を進め始める。
リカルド隊は一連の合戦で1万から8千へと数を減らしてこそいたが、依然として高い統率力を維持。南からローレンス隊8千、東からカルロッタ隊1万3千に追撃される格好となりつつも、悠々と西北方向へと撤退していく。
そんなリカルドと帝国軍の間の鬼ごっこが続く中、西側で新たな異変が発生する。
「リカルド様!西からも帝国軍が!も、もしや謀られたのでは……!」
「フハハハハッ!いやいや、そんなことはない。ローレンスは策士だろうが、西へ行かせたくないなら、ああまで慌てて西の備えを強化しようとはしないだろ。つまり、これはあいつらにとっても想定外ってところだろう」
ここまでのローレンス隊の動きや、必死に東と南から折ってくる帝国軍2万の様子を見れば、敵の策ではないことを瞬時に理解していた。
「旗印は……クレメンツ教国か?あの国は滅んだはずだろ?」
リカルドも疑念と共に敵の掲げる旗を見つめる。しかし、クレメンツ教国の復興を願う者が1人、思い当たった。
「確か、レティシアのやつが言ってたな。かつての教皇の娘であるナンシー・クレメンツがまだ行方が分からない……と」
ならば、クレメンツ教国の復興を願い、ロベルティ王国を恨む者は南に逃れ、帝国を頼っていた可能性がある。そして、帝国で兵を借り受けて攻め寄せて来たのではないか。
そのような敵の事情を推察しつつも、重要なのはそこではないとリカルドは自らに言い聞かせる。
「まずは、西から来る奴らを蹴散らし、撤退する方向を真北に修正するぞ!」
またもやリカルドの素早い決断と采配により、次は西からの敵へとぶつかっていく。騎馬隊のみで構成され、圧倒的な機動力を誇るリカルド隊はほぼ同数、8千の大軍で西から向かってくる敵勢を迎え撃つのであった。
「ナンシー様!ロベルティ王国軍がこちらへと猛進してまいります!」
「分かってる!教国の再興のためにも、ここは叩き潰しておかないと……!」
リカルド隊の西から迫ってくる一団はリカルドの推察が偶然当たっており、ナンシー・クレメンツを大将とする大軍であったのだ。
だが、ここまで連戦連勝を重ね、圧倒的な機動力を誇るリカルド隊は瞬く間に統率のとれていないナンシー隊を一蹴。鎧袖一触の勢いで、ナンシー隊を撃破してしまう。
しかし、今は亡き教皇パトリックの娘として、ナンシーはポニーテールにしてまとめた群青色の髪を揺らしながら最前線で指揮を執りはじめる。さらには、光の魔剣エクレールの切れ味をもって、リカルド隊の兵士たちを次々と斬り伏せていく。
ナンシーの剣の腕は高いとは言えないが、なにより魔剣エクレールの威力がものを言っている状態。だが、剣に腕があるだけの兵士たちでは近づくことすら叶わずにいた。
「退け退け!こんな雑魚相手に犬死するな!みんなは他の敵兵を相手してくれ!」
ナンシーに苦戦し、次々部下たちが斬られていくのを見たリカルドが我慢ならず、ナンシーの前へと駒を進めてくる。
「よくもオレの部下をやってくれたな!」
「アンタが大将?だったら、好機ね!ここで討ち取らせてもらうわ!」
「おうおう!ずいぶん威勢が良い女だな!いいだろう、このリカルド・セミュラ様が直々に葬ってやる!」
リカルドはここへ来て初めて雷魔紋の力を発動させ、光の魔剣エクレールを操るナンシーとの勝負に臨む。だが、剣術の技量で遥かにナンシーを上回るリカルド相手では、ナンシーなど相手にもならなかった。
30合ほど剣を打ち合った後、リカルドは魔剣エクレールをナンシーの手元から弾き飛ばした。
「くっ、こんなところで!」
「ハッ!」
リカルドの雷を纏う一閃がナンシーの胴に横一文字の傷を刻み込んだ。切り裂かれた傷口から噴水の如く大量の血が噴き出す。完全なる致命傷であった。
「私は……クレメンツ教国の復興を……!」
「なんだ、まだ生きてたのか。まぁ、仕留めきれなかったオレの太刀筋も悪かったか」
虫の息であったナンシーにトドメを刺すと、一度馬を降りたついでに魔剣エクレールを回収。それから速やかに騎乗し、真北へと再び撤退を開始した。
ナンシーが討たれたことで、彼女の指揮を執っていた8千も、8百近い兵士が短期間のうちに討ち死に。残る7千強の兵も散り散りになって逃げ去っていった。
この短期決戦の間にカルロッタとローレンスの帝国軍が追いつくかに見えたが、またもやするりと逃げられてしまうこととなった。
そうして、次々に襲い来る帝国軍を退けながら、リカルド隊はライオギ平野を比類なき速度で北上し、ユルゲンとミルカの部隊と交戦するナターシャたち本隊の姿が見えた。
「おっ、こっちでも戦闘になっていたから北から来る敵が少なかったのか」
「リカルド様!南から2万の帝国軍が追いついてきます!このままでは……!」
「挟まれるな。だったら、敵中突破し、一気に北へ抜ける!これで本隊とも合流できるしな!」
相変わらずの決断力と状況分析力により、リカルド隊はもっとも手を焼いているユルゲン隊の背後を突いた。
「何っ、背後から敵襲だと……!?」
「どうやら、奴らこそカルロッタ様からの報告にもあったブルーノ様を討ち、ヌティス城に挑発的な攻撃を行なった敵部隊のようです!」
「おのれ、倅の仇め……!」
ユルゲンの激怒を横目に軽く背後を突いたリカルド隊。さすがに北へ抜けることは不可能とみて、ユルゲン隊の西側を掠めながら北へと退き、間一髪のところで南北からの挟撃を免れたのであった。
一連のリカルド隊の奇襲成功と、数多の敵将を討ち取った功績はロベルティ王国軍の全軍に伝えられ、帝国軍と戦う諸将を奮起させた。
直後、リカルドと同じく騎馬隊を指揮するマルグリットも、サランジェ族の戦士たちと共にミルカ隊を撃破。
トラヴィス相手に善戦するほどの武勇を誇るミルカである。地魔紋を発動させたマルグリットとも互角に渡り合い、ミルカも途中から炎魔紋を用いて応戦したが、一騎打ちは決着がつかず、両者引き分けとなった。
こうしてライオギ平野での戦いは最初こそ血で血を洗う激戦となっていたが、初日の激戦以降、兵数が拮抗した両軍の戦は決着がつかず、最終的にはライオギ平野で3カ月近くにらみ合うだけとなり、膠着状態へと落ち着いてしまったのであった。
第87話「逃がした魚は大きい」はいかがでしたでしょうか?
今回はリカルドたちが無事、撤退に成功。
ただ、またしても膠着状態に陥る事態に……
はたして、ここからの戦いがどうなるか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
――次回「時は得難くして失い易し」
更新は3日後、4/7(金)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




