第86話 抜け駆けの功名
どうも、ヌマサンです!
今回はヌティス城へ奇襲に向かったリカルドの話になります。
はたして、どのような戦いが繰り広げられるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第86話「抜け駆けの功名」をお楽しみください!
「リカルド様!前方に帝国軍の軍旗が!」
「おう、本当だな。数は……ざっと5千か」
「ハッ、詳細に物見をさせましたところ、5千と5百。ヌティス城にいる兵の半数が打って出て来たものと思われまする」
ヌティス城には1万1千の兵が詰めていることはリカルドも情報として得ていたため、およそ半数が打って出てきた事は兵数を聞くなり理解できた。
「にしても、オレたちの半数ほどの兵でわざわざ打って出てくるのは不自然だな」
「リカルド様は何か敵に策でもあるとお思いで?」
「ああ、例えば後ろから敵の大軍が来る手はずとなっていて、この付近で南北から挟み撃ち……とかな」
リカルドが冗談半分で傍らの兵士たちに語っていると、伝令兵が北から駆け込んできた。
「申し上げます!2万を超える大軍が北より迫って来ております!」
この伝令兵からの報告を聞いた刹那、兵士たちから刺すような視線がリカルドへと向けられる。リカルドも居心地悪そうに指で頭をポリポリと書いた後、少し考え込むような素振りを見せた。
「り、リカルド様!敵に挟まれる前に撤退を……!」
「よし、敵に挟まれる前に南へ突破するぞ!任務を果たさずに戻れば、叱責を受ける!ここは、ヌティス城下まで一気に駆け抜けるぞ!馬引け!」
リカルドは即座に進路を決めると、迅速に活動を開始した。すなわち、兵をまとめて南へと進軍し始めたのである。
まず、南へ進む障壁となったのはヌティス城から打って出てきたブルーノ隊5千5百であった。ブルーノはカルロッタ配下の将軍であるユルゲンの嫡男である。
ヌティス城の留守居役を務めているジュリアもユルゲンの娘であり、出撃したブルーノの姉にあたる。
当初は父から書状を受け取ったジュリアが出撃する予定だったが、ブルーノが身ごもっている姉を戦場へ向かわせるわけにはいかないと駄々をこねるので、これを許可したものであった。
「テメェら!姉貴にばかり無理はさせられん!ここで敵将の首を挙げて、いつまでもオレを子ども扱いする姉貴にぎゃふんと言わせてやる!」
気合十分のブルーノであるが、それ以上に初手柄に燃えるリカルドの方が気迫がともなっていた。
南へ向かうリカルド隊1万とそれを阻止せんとするブルーノ隊5千5百。ブルーノ隊は槍隊を前面に押し出し、騎馬隊のみで構成されたリカルド隊を受け止めようとするも、そう上手くはいかなかった。
「第一陣、突破されました!ブルーノ様、急ぎ後詰を……!」
息絶える伝令兵を見るだけで、戦況の切迫具合が伝わってくる。後詰を請われたブルーノは自ら後詰することを決め、父や姉と同じ得物である大剣を引っ提げて前線へと赴いた。
今年で18歳となる若武者ブルーノは大剣を振り回し、かかってくるロベルティ王国軍の騎兵を次々と斬り伏せていく。そんな若武者の前に、自分とそう年も変わらぬ若武者が現れた。
「おっ、その仰々しい出で立ちからして、この部隊の大将はお前だな!」
「そうだ!このブルーノ・リーシェこそ、大将だ!そういうお前は何者だ!」
「オレか?オレはリカルド・セミュラだ!」
「な、貴様が敵の大将か!ならば……っ!」
敵将を討つ好機と捉え、斬りかかるブルーノであったが、それはリカルドとて同じこと。斬りかかってくるブルーノを軽く受け流した後、振り向きざまに斬り伏せてしまった。
「敵将、ブルーノ・リーシェ討ち取ったぞ!」
大笑いしながらリカルドは敵に見せつけるように首だけとなったブルーノを見せつけた。これにより、帝国兵は1人、2人と次々に逃げ出していく。大将が討たれれば逃亡兵が相次ぐのは戦の常といえる。
この短期決戦によって、北からの挟み撃ちを受ける前に南の敵を蹴散らすことができたのはリカルドにとっても良い流れとなっていた。
「リカルド様、敵は千ほどの死者を出し、残った兵たちは散り散りになりながらヌティス城のある南へ撤退中!」
「よし、統率の欠けた敵には目もくれるな!一気にヌティス城まで突き進むぞ!」
リカルドの号令1つで再び進軍を再開した騎馬隊1万は相変わらずの勢いでヌティス城下まで到達した。
「リカルド様!今から城攻めをしている余裕は……!」
「ああ、ないな。だが、ナターシャのやつもレティシアのやつも城攻めをしろとは言ってなかっただろ?」
「た、確かに!『軽く町に火をつけたらそれ以上の戦果は望まず、すぐに撤退せよ』とおっしゃっておりました!」
「だろ?それに、こんな騎兵だけで城攻めはそもそも無理だしな!フハハハハハ!」
高笑いし、目の前にそびえるヌティス城を睨むリカルド。彼は持ってきていた弓に矢を番える。そして、矢に雷を纏わせ……発射。
雷を纏う一本の矢は空を直線状に駆け、ヌティス城の城壁へと直撃。城壁に命中するなり大爆発が引き起こされ、城に巨大な穴がくりぬかれる。
「うしっ!ざまぁみろ、帝国兵ども!もう一発くれてやる!」
挑発するかのように放たれた二発目には一つの首が括られていた。それは、ヌティス城にて留守を守るジュリアの実弟・ブルーノの首であった。
これには穏やかで人当たりの良いジュリアも錯乱し、打ち込んできたリカルド隊に向け、憤怒を露わにする。しかし、城を守ることを優先するべきという家臣たちに制止され、怒り任せの出撃だけは阻止することができた。
そして、散々にヌティス城へ挑発を仕掛けたリカルド隊は任務は遂行したとばかりに、すぐさま北へと取って返す。
リカルド率いる騎馬隊の統率力は他の追随を許さず、速やかに北へと撤退していく。ジュリアたちはブルーノの戦死を受けて逃げ出した兵士たちを受け入れることに務め、追撃することまではできなかった。
だが、北へと退くリカルドたちの前に、ダルトワ領主カルロッタ自らが率いる2万2千が立ち塞がる。まず、先頭を切って向かってくるローレンス隊9千との間に戦端が開かれる。
「ローレンス様、敵の奇襲部隊の大将はリカルド・セミュラとか申す二十歳やそこらの若造とのこと!」
「リカルド・セミュラ……セミュラということは、ヴォードクラヌに滅ぼされたセミュラの王族の生き残りだね。確か、我ら帝国に庇護を受けていたにもかかわらず、先のルイスによる侵攻を前に戦わずに逃げ出したと聞いたけど……」
「はい、その後はロベルティ王国へと身を寄せていたようです」
「……そうか、セミュラ王国の姫がロベルティ王国に嫁いでいたから、その伝手を頼ったわけか」
合点がいったと頷くローレンスだが、すでに大きな勘違いをしていた。それはリカルドはたかだかヴォードクラヌの弱兵相手に逃げ出した腰抜けである、ということである。
ローレンスはまだ知らなかった。リカルドたちは南から押し寄せたブルーノ隊を蹴散らし、ヌティス城へ軽く攻撃を仕掛けた後だということを。
「よし、まずは目の前の敵を軽く蹴散らすぞ!」
リカルドが先頭を切って敵中へと突き進み、ローレンス麾下の将軍を立て続けに2名討ち取り、敵の隊列を突き崩す。
その凄まじい奮戦ぶりにローレンス隊は怯み、崩れた隊列を戻すのも一苦労であった。策士ローレンスとはいえ、敵の実力を見誤った時点でリカルド相手に苦戦するのは当然のこととも言えよう。
ともあれ、ローレンスもただでやられるほど甘くはなかった。左備えの2千7百の兵をリカルド隊の東側面へと迂回させたのであった。
「よし、今だ!北と東の二方向から一気に挟み込もう!それっ!」
ローレンスの采配が風を切ると、北と東の二方向からの猛攻撃が幕を開けるのであった……!
第86話「抜け駆けの功名」はいかがでしたでしょうか?
今回はリカルドがブルーノを討ち取る形に。
さらに、北からのカルロッタ本隊とも交戦を開始する流れになっていました。
はたして、敵地に深く入り込んだリカルド隊の命運やいかに――
――次回「逃がした魚は大きい」
更新は3日後、4/4(火)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




