第79話 帝国とヴァルダロス王国
どうも、ヌマサンです!
今回はヴィクターたち帝国軍とヴァルダロス王国軍との戦い。
はたして、どのような戦いが展開されるというのか……!
それでは、第79話「帝国とヴァルダロス王国」をお楽しみください!
ソフィアが二代皇帝となり、ジェロームとシリルがヴォードクラヌ王国征伐へと出発した頃。
ヴィクター率いる3千の将兵は南方で孤立した城に籠城中。さらに、城は5万7千という数のヴァルダロス王国軍に包囲されてしまっている。19倍という敵の数に、正平たちも怯み、気が滅入ってしまっていた。
「ヴィクター様。申し上げたいことが……」
「分かっている。兵たちの士気が下がっていることだろう」
「はい。みな故郷を懐かしみ、帰りたいと思っているようで……」
「ああ、夜な夜な故郷の歌を口ずさむ者もいるようだな。ここまで聞こえてくる」
焦眉の急は城兵の士気の回復。今さらアナベルに指摘されるまでもなく、ヴィクターも問題視していたところである。だが、それについてはヴィクターの中で答えが出ていた。
「アナベル、俺は少々無茶をするつもりだ。だが、ここで無茶をしなければ全滅もやむなしとなる」
「無茶……ですか?無茶ならヴィクター様、いつもなさっていることではないですか」
ヴィクターの言葉にニコリと微笑んで返すアナベル。ヴィクターの元について7年近い彼女は、ヴィクターと共に死線を何度も潜り抜けてきた。無茶や無理など慣れっこなのである。
「フッ、お前は家柄だけのヤツかと思っていたが、違ったな。真面目でやるといったら最後までやり抜くのは相変わらずだ。今回も頼りにしているぞ、アナベル」
「お任せを」
ドンッと鎧の上から胸部を叩き、力強い声と共に言葉を返すアナベル。ヴィクターも頼もしい部下を持ったと感慨深げな表情をしつつ、参謀のミハイルに何かを言い含めた後、将軍たちを集めて命令を伝えた。
命令とはすなわち、南門から全軍で城を出て敵の本陣を強襲するというモノ。確かに本人が言うだけあって無謀である。
「ヴィクター将軍、それはさすがに無謀なのでは?敵の数が多すぎる。そのうえ、こちらの士気は低い」
「そうだ。だが、このまま城に籠っていても飢え死にするだけの事。ならば、外へ出て一縷の望みをかけて戦う方が良い」
「だとしても、敵本陣に突っ込んで勝てるほど戦は簡単なものでは……!」
華奢な体格をした青髪の女将軍が反論している真っ最中。集まっている部屋の扉がバンッと勢いよく開かれる。
「ヴィクター様。言われた通り、食糧庫を開け、兵士たちにたらふく飯を食わせておきました!」
「ミハイル、ご苦労だったな」
そう、将軍たちを集める前にミハイルに命じたこと。食糧庫を開け、兵士たちに肉も酒もすべて食わせることだった。この行為により、城の食糧庫は空っぽとなり、中には空気のみが残される形となった。
「死ぬのが怖いという者は城に残って飢え死にするといい。食料の無いこの城がその者たちの墓になるだろう」
ヴィクターにそう言われては、将軍たちも覚悟を決めざるを得なかった。将軍たちはそれぞれが指揮する部隊へと戻り、突撃準備を整えていく。
「ダリアといったか。お前も早く部隊の元へ戻るがいい」
「ええ、そうさせてもらうわ」
ミハイルが部屋に飛び込んでくる前、ヴィクターに反論していた女将軍。アナベルと同じく青い髪だが、アナベルよりも薄い青色をしている。そんな彼女の名は、ダリア・フレッチャー。
元はヴィクターの弟であるスティーブの配下であり、ナターシャに斬られたポールとデニスの実の妹にあたる。彼女もまた勇将として帝国では名の知られた猛者である。
ダリアが部屋を退出した後も、アナベルとミハイルは部屋に残っていた。それからは3人で飯を食いながら談笑していた。その様子は、上司と部下というよりも、兄妹が話しているかのような、暖かく柔らかい雰囲気に包まれていた。
「よし、行くぞ」
ヴィクターは南門に全軍を集め、自らも愛馬へヒラリとまたがる。彼が馬上から開門を命じると、重い音を響かせながら門が開かれる。総大将であるヴィクター・エリオット自らを先頭に、城兵3千が黒い塊となって城からあふれ出る。
彼らのいた城では、北門から火の手が上がり、瞬く間に燃え広がっていっていた。
そんな炎上する城に北門の寄せ手が気を取られ、東門と西門の敵勢は敵の混乱に乗じて殲滅するは今だと突入を開始していた頃である。
そうして炎上し、炎の海へと崩れ落ちている城を背に、ヴィクターたちは目の前にいる5倍近い敵へと突撃を敢行。その勢いに、城から敵は出てこないと高を括っていたヴァルダロス王国軍は瞬く間に屍を重ねていった。
ミハイルは慣れない剣捌きで、敵兵の中を馬に乗って駆けていく。アナベル、ダリアの両名は剣を振るって、無双の槍働きをしてみせていた。さらには、部隊の指揮までこなす様は、見事というほかなかった。
「者ども!敵兵から離れるな!魔導砲や魔導銃の餌食になるぞ!」
そして、帝国最強と自他ともに認めるヴィクター・エリオットはアナベルやダリアが1人倒す頃には4,5人の敵を倒すという離れ業で、突き進んでいた。その噂に違わぬ勇猛ぶりに、ヴァルダロス王国兵も恐れをなす。
彼が通った後には帝国兵以外には、生きている人間はいなかったからである。ヴィクターの大剣を振るっての無双ぶりに、ヴァルダロス王国国王であるジョシュアも勝てぬと踏んだ。
「陛下!ここまで接近されては魔導砲も魔導銃も使い物になりません!」
「やはりな。それは盲点であった。ここまで近づかれては為す術もないか。白兵戦は向こうの得意とするところだからな。仕方ない、ここは師を返すとしよう」
ジョシュアの決断は早かった。これ以上、兵を犬死させるのは愚策と判断。即時、撤退を開始。
そんな折、ジョシュアの元にクウォーク王国軍が境を侵してきたという一報がもたらされる。このままでは王都すら危ないという状況に、ジョシュアは全軍に退却の速度を上げるように通達し、帰路を急いだ。
ソフィアが行なった外交工作の効果と、ヴィクターたち城兵の一丸となっての突撃により、ヴァルダロス王国軍の連勝記録は止まり、逃げ去っていった。
鮮血女帝ソフィアからの5万の援軍が到着した頃には、ヴァルダロス王国兵は1人も見当たらず、5千近いヴァルダロス王国兵の亡骸が城の南側に転がっているのみ。
屍の山を築いた、当のヴィクターたちは城に戻って手当てを済ませた後、援軍に後の事は任せて本国へ悠々と帰っていくのであった。
「ヴィクター様」
「ミハイルか。どうした?」
「ハッ、先の戦で一際功を立てた者がおりまして。その者を将軍に取り立ててはいただけないかと」
「別に構わん。その者が将軍に相応しいか、帝都へ戻ってから確かめることとしよう。その者の名は?」
「ライナスと申す者で、平民の出ながら槍一本で百もの敵兵を討ち取ったのです」
ミハイルからライナスという名と手柄のことを聞いたヴィクターは大変な興味を持った。それほどの猛者なら、一度手合わせをしてみて、武芸がどれほどのものかを確かめたい。これこそ、ヴィクターの紛れもない本心であった。
そんな本心を顔に出すことなく、ミハイルにライナスを帝都へ戻ったら自分の元へ連れてくるように伝えた。
このライナスという男がヴィクターの元でこれからも手柄を立てていき、やがてはナターシャたちの前に立ちはだかる強者であるとは、この時の誰が分かったであろうか。
運命とは奇妙なもの。ほんの少しの巡り合わせで、大きく変わってしまう。いつどこで誰と出会うか。才能が腐るか。それとも、美しく開花するか。それだけで大きく変わってしまうのだから。
第79話「帝国とヴァルダロス王国」はいかがでしたでしょうか?
今回はヴィクターたちが寡兵で大軍を打ち破りました……!
ヴィクター陣営の雰囲気なども、楽しんでいただけていれば嬉しいです。
――次回「南征の始まり」
更新は3日後、3/14(火)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




