第55話 レティシアの盟友たち
どうも、ヌマサンです!
今回はナターシャがレティシアが推挙した人物たちと面会します。
一体、どんな人物が登場するのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第55話「レティシアの盟友たち」をお楽しみください!
まだ暑さの残る季節。秋が目前に迫った時期に、旧クレメンツ教国の領地を治めるナターシャは大聖堂にてレティシアから推挙された6名と会っていた。
「ナターシャ殿、こちらが先日推挙した者たちです」
「聖都コーテソミルを攻めている時に顔を合わせた者もいますが、あまり話したこともないですね」
「そうだね、右端のアーロン、アーロンの隣のフェルナンド、左から2番目のマルグリットとは会ったことがあったか」
アーロンとは少し話したのみであるが、フェルナンドとマルグリットの両名とは作戦にも加わっているため、作戦絡みで何度も話したことがあったのだ。
だが、アーロンとは面識はあれど、ほとんど話したこともない。そのうえ、残る3名は完全な初対面である。名前も顔も、どんな人物なのかも分からない。
「まず、右から3番目、フェルナンドの隣の焦げ茶色の髪をおさげにしているのが、レイラ・イヴェンスだよ」
「レイラ……イヴェンス?」
『イヴェンス』という家名には、ナターシャも聞き覚えがあった。どこで聞いたのかを思い出している最中、レティシアから答えを先回りされてしまう。
「レイラは聖堂騎士団長をしていたダミアン・イヴェンスの娘……って言った方が分かりやすいかな」
「ああ、あの聖堂騎士団長の……」
サドール川の激戦の中、アマリアとの一騎打ちの末、討ち取られた男である。戦後、アマリアが「殺すには惜しい、素晴らしい戦士だった」と賛辞を述べていたのを思い出した。
ナターシャはそれほどな戦士の娘であることには驚いた。何分にも、レイラは戦士という風ではなく、華奢な体型で服装も良いところのお嬢さんそのものであるからだ。
「レイラはアタシの学友なんだよ。教会学校のね」
「教会学校?」
「言葉のまんまだよ。教会がやっている学校。校長は教皇自らが務めてるんだけど」
つまり、教皇パトリックが存命の頃は、校長もパトリックであったということ。ナターシャが今は校長を誰が務めているのかを問うと、他でもないレティシアが校長を務めていると返答された。
「……まぁ、話を戻すけど、レイラとアタシは教会学校の学友で、卒業した後は道の舗装とか、土木関係の公共事業を担当していたんだよ」
「なるほど、それなら是非とも聖都コーテソミルの復興に必要な人材ですね」
そう。レティシアがレイラを推挙したのは、ナターシャも気づいての通り、聖都コーテソミルの復興を任せるため。
「では、レイラ嬢。これからは聖都コーテソミルの復興をお願いしても構いませんか?」
「はい。喜んで」
レイラは軽く一礼をした。その態度たるや貴賓にあふれており、一挙手一投足が美しかった。そんなレイラを見ていて、ナターシャは脳裏に浮かんだことの1つを質問した。
「レイラ嬢。その、お父さんの事は恨んでいませんか?」
ナターシャの口からゆっくり飛び出した言葉に、大聖堂中が静けさに包まれる。そして、少しの間が空いてレイラが静寂を破った。
「もちろん、恨んでる。どうしてお父さんが殺されなきゃいけなかったのか……ってね」
「それは申し訳ないことをしました。私からも……」
「謝罪はいらない。別に謝ってほしいわけじゃないから。でも、これだけは約束してほしい」
ナターシャの言葉を遮ったレイラであったが、その瞳には確固たる信念が宿っていた。その信念の宿る瞳と正面からナターシャが向き合う。
「必ず、民が笑って平和に暮らせる国にしてほしい。天国に旅立ったお父さんが、死んでも後悔しないような、自分の死は平和の礎になったと喜べるような、そんな平和な国を」
「……簡単には分かったとは言えません。ですが、そうなるように全力を尽くします。たとえ、私の行きつく先が地獄であったとしても」
無言で見つめ合った後、レイラもナターシャも笑みをこぼした。
「ふふ、私も全力で聖都コーテソミルの復興にあたるよ。私もその平和な世に貢献したい」
「ええ、お願いします。まずは、この聖都コーテソミルの民が安心して暮らせるよう、元の姿に戻さなければなりませんから」
レイラとナターシャはその後も一言二言話した後、レティシアが次の人物を紹介した。
「ナターシャ殿。レイラの隣にいるのが、タンデル領主の……」
「ヴェルナー・タンデルですか。あの帝国軍を幾度も退けたという」
ヴェルナー・タンデルはナターシャもレティシアから名前を何度も聞いていた。それゆえに、この人が名将ヴェルナーかと内心では感嘆の声を発していた。
「ぼ、僕が紹介に預かりましたヴェルナーです……!」
口を開いたヴェルナーの声に、ナターシャは少し意外なものを感じた。態度は堂々としたものであるが、声や口調などは自信なさげなのである。この違和感がナターシャの脳裏に焼き付いた。
ともかく、ナターシャは名将として名高いヴェルナーと話をしてみることとした。人品というモノは胸襟を開いて話をしてみなければわからないものである。
「ヴェルナー殿。前にレティシアから聞いたのですが、レティシアとは幼馴染だそうですね」
「は、はい!父親同士が仲が良かったもので……!」
やはり自信のなさを感じる受け答えであるが、ナターシャは話をしている中で、確かな芯が通っていることに気がついていた。それは、仲間や友のためならば犬馬の労も惜しまないというもの。
その精神があるからこそ、帝国による侵略を幾度も跳ね除けてきたのであろう。そう、ナターシャは一度結論付けた。
「レティシア殿、ヴェルナー殿を推挙したのは『護る』ことに優れているからですか?」
「うん。ヴェルナーは日常的な場面ではこんなだけど、戦場ではナターシャ以上に落ち着いてると思う。それに、地形を見ればどう守れば良いかを見抜く力がある。だからかな、防衛をさせれば右に出る者はいないんだよ」
地形を見れば、どう守ればよいかが分かる。これはスゴイ能力である。後天的にみにつけようとしても、そう簡単に身につくものではないのは確かだ。
「では、ヘキラトゥス山地の切り通しに関所を築いたのも、ヴェルナーの発案で?」
「そうだよ。お父さんが教皇だった頃に気づいたものだから、結構前になるかな」
「た、確か8年前だったはず。僕、その時の事は覚えてる」
ヴェルナーはその時のことを思い出したのか、優しい表情をしていた。その表情からは、思い出そのものが優しいものであることを想起させる。
「ナターシャ殿、もしかして僕をタンデル領主にしたのは……」
「ええ、レティシアの推挙あってこそです。それに、実績が確かにあるのですから、引き続き南側の防衛を任せたいのです」
「わ、分かりました……!必ず、レティシア氏やナターシャ氏の期待に応えてみせるよ!」
言葉には自信が宿っていないようだが、レイラと同じく、瞳には確かな覚悟が備わっていた。ともあれ、ナターシャはレイラもヴェルナーも信頼のおける者たちであり、有能な者たちばかりであることに驚かされてばかりであった。
レティシアが言うには、レイラもヴェルナーも教皇パトリックからは重用されてはいなかった。あくまで、重用されていないだけであり、冷遇されていたわけではない。
しかし、この者たちが重用されていたなら、クレメンツ教国の運命は大きく変わっていたことだろう。
ナターシャはそう思いながら、1つの教訓を胸に刻み込んでいた。いかに強大な国でも、用いるべき人材を用いず、要らざる人を用いれば滅亡にまで至るのだ……と。
――自分はそうはならぬよう、邁進しなければならない。
その教訓を胸に、残る4名との対面を続けるのであった。
第55話「レティシアの盟友たち」はいかがでしたでしょうか?
今回はレイラとヴェルナーの2人が紹介されていました。
中でも、レイラがダミアンの娘だということに驚いた方が多かったかもしれないですね……!
クレメンツ教国にいた逸材たちを加えて、ロベルティ王国がこれからどうなっていくのか、見守っていてもらえればと思います!
――次回「教国の旧臣たち」
更新は3日後、1/1(日)の9時になりますので、お楽しみに!
それでは皆さん、よいお年をお迎えください。




