第51話 聖都コーテソミルを包囲せよ
どうも、ヌマサンです!
今回でついにサドール川の戦いも決着します……!
はたして、サドール川の戦いはどのような結果に終わるのか……!
それでは、第51話「聖都コーテソミルを包囲せよ」をお楽しみください!
「それ!対岸には司教ナンシーがいるのだぞ!ヤツを生け捕りにし、我らプリスコット王国の手柄とするのだ!」
馬上からの指示にプリスコット王国軍の兵士たちの士気が上がる。馬上で黄土色の大鎧を身に纏う壮年男性。プリスコット王国軍の総大将を務めるアラン・プリスコットである。
彼は自身、国王であり義兄にあたるラッセルから賜った緋色の直長剣を引っ提げて、獅子奮迅の働きを見せていた。
それと同じ頃、フォーセット王国軍の大将ルービンも翡翠色の大剣を血の色に染め上げながら渡河を終えていた。
「ルービン様!我らが一番乗りですぞ!」
「おう、プリスコット王国軍は渡河に手こずっているらしいな。よし、今のうちに我らが挙げられるだけ手柄を挙げるのだ!」
ルービンが大剣を掲げると、兵士たちも槍や剣を掲げ、声を上げる。その幾重にも重なる迫力のある声は、それだけで波状攻撃となっており、聖堂騎士たちを恐れさせた。
そして、進軍を指示しようとした際、ルービンの視界の端をよぎる旗があった。
「むっ、あれこそ司教の旗だ!皆の者、あそこに司教ナンシーがいるぞ!ヤツを生け捕れば褒賞も思いのままだ!行くぞっ!」
ルービンが馬に鞭打ち、敵中へ駆け入るとフォーセット王国兵たちも槍や剣を引っ提げて後に続いていく。そのあまりの勢いに応戦する聖堂騎士たちも怯む。
「奴らの狙いは司教様だ!これ以上、司教様に近づけるな!」
聖堂騎士たちの奮戦により、プリスコット王国軍は三度撃退されたが、四度目の正直で強行突破した。プリスコット王国軍が強行突破していくのを見たシドロフ王国軍も後に続いていく。
「兄さん、これはいい流れに乗ったね」
「ああ、このまま奴らについていき、司教の首だけ貰っていくとするか」
アルベルトとクロエは、それぞれ斧槍とサーベルを振るって、兵たちと共に敵中を駆け抜けていく。
敵の狙いが司教であるナンシーだと前線から通達を受けたナンシーはそのまま押し返すように指示したが、側近たちはナンシーに撤退を進言し始めた。
そんな側近たちは普段は戦からは程遠い教会内で事務仕事をしている者たちばかり。つまり、戦争など経験したことのない者たちからすれば、敵が自分たちの方に向かってくることは何よりも恐ろしいのである。
それゆえに撤退を必死に促し、ナンシーも根負けした。ナンシーは不器用ながら部下たちのことを信頼し、頼りにしている。そんな彼らが死を恐れて逃げようとしているのは分かっていた。
……それでも、彼らに死んでほしくないという想いが勝り、自身は百にも満たない側近たちを連れて戦線を離脱し始めた。
それを見た聖堂騎士たちは我も我もと聖都コーテソミルへ逃げ込もうとする。そうなれば、戦線を維持することはできなかった。
こうしてサドール川での決戦は4カ国連合軍の大勝に終わり、4カ国連合軍は5千もの死者が出た。内訳はロベルティ王国兵2千、プリスコット王国兵1千3百、フォーセット王国兵1千2百、シドロフ王国兵5百となる。
対して、クレメンツ教国は聖堂騎士団長ダミアンを始めとして2万近い聖堂騎士団員が戦死し、5千ほどは連合軍に投降。残る8千ほどは傷を負いながら、やっとの思いで聖都コーテソミルへの撤退を成功させた。
死者が半数以上という大敗北を喫したナンシーは教皇パトリックの逆鱗に触れるかと思いきや、お咎めなしという意外な結果であった。
ナンシーは司教であると同時に、その美貌から聖都コーテソミルの民衆から『聖女』と呼ばれている。教皇としても、そんな聖女を罪に問うわけにはいかなかったのである。また、ナンシーはパトリックにとって唯一の家族であることも大きかった。
妻は5年前に流行病で亡くし、ナンシーはその妻に似た美貌の一人娘。親兄弟をすでに失くしているパトリックにとっての唯一の家族なのである。それに何より、次期教皇としたいと考えていることも大きい。
そうしたパトリックの私情が影響を及ぼした結果、敗戦の罪には問われなかったのである。
ともあれ、今回のサドール川の激戦は4カ国連合軍とクレメンツ教国の運命を大きく決定づける一戦であったと言えよう。
クレメンツ教国に残された軍勢は3万と4千。そのうち、南の国境に帝国軍への備えとして1万3千が配置されている。その指揮官は幾度も帝国軍を退けているヴェルナー・タンデル。
この1万3千に聖都コーテソミルへの援軍を求めつつ、残る2万1千で聖都コーテソミルの守りを固める籠城策が採用されていた。その策を進めたのは他ならぬナンシー・クレメンツである。
そんな2万1千の聖堂騎士と20万近い民衆が立て籠もっている聖都コーテソミルを4カ国連合軍が包囲する。その数は3万1千。そこへサランジェ族の戦士団を加え、5万5千となった。
「ナターシャ将軍、お疲れ様」
「これはこれはレティシア殿。サランジェ族の方々の説得が上手くいったようですね」
「まぁね。でも、この数はさすがにビックリしたんじゃない?」
「ええ。まさか2万4千も加勢していただけるとは思いませんでしたから」
ナターシャとレティシアは二週間ぶりの再会に話が弾む。そんな2人の会話は喉が焼き切れてしまうのではないかと思われたころ、ようやく一段落した。
「あ、そうだ。サランジェ族の族長も呼んでるんだけど……」
「もう来てるよ」
忘れ物を思い出したかのような声を上げるレティシアの背後から長らく待たされたことへの怒りを含んだ声が響く。
レティシアの背後に立つ褐色肌の長身女性は露出の多い恰好をしていた。『もしかせずとも、この人がサランジェ族の族長なのか』とナターシャは思っていた。
「まったく、人を呼びつけといて待たせるなんていい度胸してるねぇ。アンタ……!」
「ごめん、ごめん……!謝るからその手を放して……ッ!」
サランジェ族の族長と思われる女性に頬をつねられるレティシア。仲良さげな2人を見て、ナターシャも思わず笑みをこぼす。
「マルグリット!こちらがロベルティ王国軍の総帥、ナターシャ将軍だよ」
「ああ、アンタがそうだったのかい」
レティシアの指差す女性がナターシャだと聞くなり、マルグリットと呼ばれた褐色肌の女性はレティシアの頬をつねっていた手を放す。
「アタシがサランジェ族の族長、マルグリット・サランジェだよ」
「ご丁寧にどうも。私が紹介に預かったナターシャ・ランドレスと申す者。今回はご助力いただき、御礼申し上げます」
「ああ、それは構わないさ。むしろ、来てくれたことに感謝したいくらいだよ」
マルグリットとナターシャは色々と話をしたが、一介の武人として何やら共感するものがあった。その後も、何時間にわたり様々なことを語り明かし、その日は別れた。
「ナターシャ。アタシはロベルティ王国に仕えることにするよ。アンタの言うマリアナ女王にも会ってみたいねぇ」
「それは有り難い……!ですが、マリアナ様にも許可をいただかなければなりませんから。レティシア殿を召し抱えることも尋ねなければなりません」
「そうかい。レティシアも家臣面してるくせに、まだ家臣じゃなかったのかい」
そう言ってマルグリットは大笑いし、レティシアは照れくさそうな表情で俯いていた。
「ともあれ、明日からの包囲戦はよろしくお願いします」
「こちらこそ、今後ともよろしく頼むよ」
マルグリットが自らの陣営に戻った後、レティシアはナターシャに城攻めの一計を勧めるのであった。
第51話「聖都コーテソミルを包囲せよ」はいかがでしたでしょうか?
今回はナターシャたち4カ国連合の勝利という結果で、サドール川の戦いは決着。
そして、レティシアが連れて来たマルグリット率いるサランジェ族の戦士たちを加えて、聖都コーテソミル攻めが始まる……!
――次回「佚を以て労を待つ」
更新は3日後、12/20(火)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




