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ランドレス戦記〜漆黒の女騎士は亡き主の意思を継ぎ戦う〜  作者: ヌマサン
第3章 新たなる王国
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第49話 天候を読む軍略家

どうも、ヌマサンです!

今回はナターシャがレティシアという人物に会いに行く話になります!

はたして、2人の間でどのような話がなされるのか……!

それでは、第49話「天候を読む軍略家」をお楽しみください!

 翌朝。ナターシャは家臣のクレアと案内役のサイモンのみを連れて、レティシア・クローチェの元を訪れようとしていた。


 道中の川沿いの村々の人々の営みや、田畑の風景を楽しみながら西へ、西へ。天候も暖かく、雲一つない晴天である。日差しも肌を焼くようなモノではなく、暖かく肌を包み込んでくれているかのような優しい暖かさが感じられた。


 その中を進む3騎が馬蹄の音と風に揺れる草木の音の調和ハーモニーが心地よいひと時であった。


「サイモン、レティシア殿の屋敷はそろそろですか?」


「ああ、この先の一軒家にいるはずだ。もうじき見えてくるだろうよ」


「そうですか」


 しばらくすると、サイモンの言う通り、川沿いに一軒家が視界に入って来た。崩れかかった壁に、ひび割れた窓ガラス。とても人が住んでいるとは思えない一軒家。


「サイモン、本当にここにレティシア殿が……?」


「ああ、住んでるぜ。ほら、クラウスも出て来ただろ?」


 ナターシャがレティシアは本当にこのボロ屋敷に住んでいるのか、疑ってかかっている頃。サイモンの指差す方向に斧槍ハルバードを地面に垂直に突き立てているクラウスの姿が見えた。


 そして、クラウスがこちらに手を振り始めた時、銀色の髪を朝日に光らせながら1人の女性が姿を現した。


「レティシア様!」


 そう言ってサイモンが頭よりも高い位置で勢いよく手を振る。そして、サイモンが口にした人の名で、銀髪の女性が誰なのかをナターシャとクレアは理解する。


 サイモンとクラウスの両名が楽し気にレティシアと話をしているのを待ち、会話の熱が少し鎮静化してきたところですかさず割って入る。


「レティシア殿。私はロベルティ王国の将軍ナターシャ・ランドレスという者です。こちらは私の家臣、クレア・カスタルド」


 自分の名前が呼ばれたクレアはぺこりとお辞儀をする。ごくごく自然な流れで行なわれた挨拶に対し、レティシアも礼儀正しく一礼をもって返答する。


「アタシがサイモンとクラウスの主人、レティシア・クローチェ。2人には粗相のないように言っておいたんだけど無理だったみたいだね。アハハ……」


 そう言いつつ、レティシアは苦笑する。少し歯を見せて笑う姿には可愛らしさがあり、男ならば少しドキッとしてしまうものがあった。とはいえ、この場にいるナターシャもクレアも特に何も思わなかったわけだが。


「まあ、立ち話もなんだし、中で話そう」


 レティシアは慣れたようにボロ屋敷へと入っていく。それに続くサイモン、クラウスも同様だ。しかし、ナターシャとクレアは傾いたドアをくぐり、玄関で蜘蛛の巣に出迎えられながら奥へ。


 奥にある部屋の中央には、ボロ屋敷らしからぬ高級そうなソファがおかれており、その片方にレティシアは腰かけている。向かい合うソファの間には長方形のテーブルが置かれていた


 サイモンとクラウスの姿はないが、レティシアが言うには、お茶とお菓子を取りに行っているとのことで、ナターシャたちは遠慮なくソファに腰かけることとした。


 しばらくすると、サイモンとクラウスが3人分の紅茶とお菓子を運んできた。ボロ屋敷で出される紅茶がどのようなものか、内心ヒヤリとしていたナターシャであったが、目の前に置かれた代物から紅茶の良い香りがし、ようやく心を落ち着かせることができた。


 そうして紅茶の香りを楽しみながら、レティシアとの話が始まった。最初は何気ない世間話から。だが、徐々に本題へと近づいていく。


「レティシア殿。是非とも、我らにお力をお貸し願いたいのです」


 そう、レティシアに助力を乞うためにナターシャ自らやって来たのだ。だが、レティシアは元よりそのつもりだったため、拒む理由はない。


「むしろ、私の方も王国側に力添えしたいと思っていたところだし、それは全然いいよ。ただ、それだとここに呼びつけた意味がないからね」


 レティシアはソファの間に置かれたテーブルに地図を広げる。その地図の中でも、目を引いたのはクレメンツ教国の西部。今いるザチュア平野の西の果てにあたるわけだが、モギウス山脈の麓あたりに『サランジェ族』と部族の名前のようなモノが記されていた。


「レティシア殿、この『サランジェ族』というのは……?」


「ああ、元々はクレメンツ教国とフレーベル帝国の間にあるヘキラトゥス山地のさらに南に居を構えていた騎馬民族だよ。帝国で迫害を受けてこっちに逃げ込んできたんだけど、こっちでも野蛮な異民族として扱われていてね……」


 すなわち、レティシアの言い分をまとめるとこうだ。サランジェ族は帝国で迫害を受け、逃げてきたクレメンツ教国でも粗雑に扱われ、このような辺境の地へと追いやられてしまったというもの。


「それで、アタシはサランジェ族の族長と親密な仲だから、ナターシャ将軍たちに加勢するように説き伏せてみるよ」


「それは、レティシア殿自身が赴くということですか」


「そうだよ?私が行けば、説得にも応じてくれるだろうから、サランジェ族の加勢をもって、参陣の手土産ってことにしたいんだけど……どうかな?」


「それは願ったりかなったりですが、そこまでご助力いただけるのは何か理由が?」


 ここまでレティシアが協力的なのは何か理由でもなければ不自然である。それを奈アーシャは単刀直入に聞いてみることとした。


「実は、アタシのお父さんが今の教皇であるパトリックに殺されたんだ。お父さんだけじゃなく、お母さんもなんだけどさ」


「それは……お悔やみ申し上げます」


 レティシアが言うには、両親は教皇になりたがっていたパトリックにより毒殺されたのだという。そして、何食わぬ顔でパトリックは教皇の座に就き、前教皇の娘であるレティシアを司教の座につけた。


 そういった過去の経緯いきさつなどが語られるにつれ、ナターシャはレティシアが今の教皇へ良い感情を抱いていないことに納得がいき、協力してくれることにも合点がいっていた。


 そして、不満を抱いているのはレティシアだけではなく、サランジェ族もそうなのだ。意外と、クレメンツ教国の中にも味方となり得る者たちが多数いることにナターシャは気づかされた。


 そのことだけでも、ナターシャは大いにレティシアと会った意味はあったと言えよう。さらに、レティシアとの話もまとまり、2週間後にサドール川にサランジェ族の戦士たちを引っ提げて集合することを約した。


 また、サランジェ族の戦士たちといっても、かなりの数になるとのことで、数は2万を下らないだろうとレティシアは断言していた。


 そんなレティシアは日が暮れる前に出発し、サイモンとクラウスの両名を従え、馬に鞭打ち、夕日に向かって走り出す。


 レティシアは去り際に父の形見だという杖とサランジェ族の旗印を記した1枚の紙を預けていった。それだけではなく、これから一週間は猛暑が続くから、建物の影に隠れるなりして避暑に務めるようにとの伝言を残していった。


 ナターシャはレティシアからの言葉を信じ、明日からの猛暑に備えよと陣に戻り次第、全軍に通達した。そして、驚くべきことにそれから1週間。本当に猛暑が続いたことである。


 暑さをしのげる場所を用意せず、川沿いに留まっていなければ、瞬く間に全軍が敵と戦う前に猛暑によって全滅していたことだろう。


 その事態を受け、ナターシャはレティシアが天候を読むことができるというのが真実なのだということを理解し、強力な味方を得たことを心強く思ったりもしたのだった。

第49話「天候を読む軍略家」はいかがでしたでしょうか?

今回はレティシアがナターシャたちに協力してくれることで話がまとまってました!

そして、サランジェ族という民族も登場していたわけですが、はたしてサランジェ族は思うように協力してくれるのか……

――次回「サドール川渡河戦」

更新は3日後、12/14(水)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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