第48話 再び川をせき止める
どうも、ヌマサンです!
今回はナターシャたちがいよいよ聖堂騎士団との合戦に挑みます!
はたして、どうやって戦いに持ち込もうというのか……!
それでは、第48話「再び川をせき止める」をお楽しみください!
「ナターシャ殿、ここは今一度川をせき止めてみてはどうだ?」
「川を……せき止める?」
前回に続いて今回も川をせき止めるということに、誰しもが戸惑った。前回と同じ手を敵が見過ごすとは思えない。
「みな戸惑っているようだが、その敵が見過ごさないところを利用するのだ」
トラヴィスが示した作戦内容。それらを聞き届けた諸将は作戦実行に同意した。
「では、兄者。囮部隊の大将は誰にするか」
「俺は先ほどから戦いたがっているノーマンが適任だと思うが」
「ハハハハハ、血気にはやる若造では兵の駆け引きなどできるものか!ここはナターシャ殿の家臣であるクレア殿が無難で良いだろうよ」
トラヴィスは甥のノーマンを推挙し、ノーマンの父ローランはクレアを推薦した。結局、ノーマンは危なっかしいということもあり、囮部隊の大将はクレアに決まった。
「では、クレアは兵5百を率いてルーナム川の上流へと向かった。もちろん、土嚢の用意ができしだいということになりますが」
そう、5百の兵が土嚢をもって川の上流へ向かったことが敵に知られれば、まず確実にせき止めるつもりだと見破られることだろう。
だが、今回は見破ってもらわなければならない。とはいえ、見破られることがなければ、そのまま前回同様、川の水で押し流すのみ。
聖堂騎士団が作戦に乗ろうが乗るまいが上手くいく。なんとも狡猾な罠であったが、老練なトラヴィスだからこそ思いつく策であった。
結局、土嚢の用意は2日後には完了し、目立つように荷車に乗せた上に昼間に出発させた。このことは対岸で見張りについている聖堂騎士団の方にも伝わった。
「むむ、川の上流へ5百ほどの兵が土嚢を持って向かったということは……」
「敵はまた同じ手を使おうというのか!我らを侮るのも大概にしろ!」
「然り!ここは速やかに軍勢を派遣し、阻止すべきではあるまいか!」
「諸将の言う通りだな。ここでまた川をせき止められ、決壊させられれば去年の二の舞となる。それだけは避けなければ……!」
会議は決した。ダミアンは部下に2千の騎士を率いさせ、ただちにルーナム川の上流へと出発した。これこそ、敵の狙っていることだとは知らずに。
こうして、両軍とも翌朝には川の上流に到着。クレア隊は予定通り、土嚢を川に並べ、水をせき止め始めた。それを見た2千の騎士が槍を揃えて突撃を開始。
「敵が来た!撤退するよ!土嚢はその場に放置!」
それに気づくなり、クレアは采配を振り、自らも馬に乗って撤退を開始する。土嚢を持っていた兵士たちは近づいてくる聖堂騎士へ土嚢を放り投げ、たちまち逃げ出した。
土嚢を体にぶつけられるだけでなく、顔面に叩きつけられた者も大勢おり、その者たちの怒りはすさまじかった。そんな無礼な挑発行為にのり、聖堂騎士2千は皆殺しにしてやるとばかりに、怒りに任せて川を渡っていく。
こうして2千の敵が対岸へ足を踏み入れた頃。対岸の茂みや木々の後ろから6百ほどの弓隊が姿を現した。
「……放て」
ユリアがそういうなり、矢唸りが辺りの音を支配する。先頭切って突き進んでいく騎士たちの胸部腹部に矢が容赦なく撃ち込まれ、歩いていたものは顔から倒れ、馬に乗っている者は立て続けに落馬。
「ええい、伏兵を潜ませているとは罠であったか……!!ええい、退け!退くのだ!」
指揮官が撤退を叫ぶか、その指揮官もユリアの放った矢に眉間を射抜かれ、落馬。それにより副将が指揮を執るが、その頃には支離滅裂であり、飛来する矢から逃げ惑うのみ。
そこへ逃げていったクレア隊が取って返し、ユリア隊に加勢し、渡河の最中にある騎士たちを次々に討ち取っていく。そこへさらに、対岸に回り込んでいたノーマン率いる6百が猛攻を加える。
もはや逃げ場を失くした騎士たちは応戦するも、瞬く間に全滅。アリの一匹も逃れることはできず、全滅という悲惨な結果となった。
――川上に向かった騎士団2千は全滅。
その一報は物見によって、たちまち聖堂騎士団の本営にも伝わった。知らせを受けて、ダミアンを筆頭として、聖堂騎士団の上層部は頭を悩ませることに。
「ダミアン団長、敵は川上に土嚢を築き終え、さらには対岸には見張りのための砦が設営されたとのことだ」
「これで打つ手なしか……」
全員がひざを叩き、口惜しそうにする中、ダミアンは全軍に撤退を命じた。諸将は敵の追撃を心配したが、敵は追って来ないとダミアンは踏んでいた。
結果としては、ダミアンの予想通り、4カ国連合軍は急に退いたことを聖堂騎士団側の罠ではないかと疑い、ルーナム川を渡河して追撃してくることはなかった。
ダミアンは後方に控えている司教ナンシーにも伝え、サドール川北岸まで後退。その布陣はまさしく背水の陣。
その理由は単純かつ理不尽なものであり、教皇パトリックから『2千の騎士を失ったくらいで逃げてくるとは恥さらしも良いところ。速やかにサドール川にて敵を破るべし。敵を破るまで、サドール川を渡河することは許さぬ』という内容の書状がダミアンへと届けられた。
教皇の命令により、ダミアン率いる聖堂騎士団1万6千は悲壮な覚悟をもって布陣したのである。
陣形そのものも背水の陣であるだけでなく、精神的にも進退窮まった。ただし、司教ナンシー率いる1万6千は督軍として、サドール川南方に陣取っていた。
すなわち、ナンシーに下された命令は非常なものであった。川を渡ってくる者を敵味方問わず、皆殺しにせよというもの。
ナンシーとしても父である教皇からの命令に心から従っているわけではなかったが、従わなければ自分たちがどうなるか、知れたものではない。よって、任務を遂行するという覚悟を持って臨んでいた。
そんな状況にあるとまでは知らず、ナターシャたちはサドール川より北に位置するルーナム川南岸にて本営をおいていた。
「ナターシャ殿、村の者が面会を求めております」
「村の者がですか?」
ナターシャはすぐにでも会うことを決め、本営へと通した。やって来た村人は2人。1人は中年男性、もう1人は妙に若い青年である。
2人とも見るからに村人とは思えなかった。確かに着ているものは村人のそれだが、中の人間からは村人らしさが欠片も感じられなかった。
「オレは前司教にあたるレティシア・クローチェの家臣、サイモンというもんだ。そんで、俺の隣に控えているのが我が甥、クラウス」
サイモンは速やかに自己紹介を済ませ、甥のクラウスは頭を下げるのみに留まった。そんな2人はレティシアという者の家臣であると言った。
ナターシャは2人はレティシアという人について、サイモンとクラウスに問いかける。
2人が言うには、レティシアという人物はナターシャと同じく大陸に7人しかいない特殊な紋章の使い手なのだという。それも、精霊の声を聴き、天候を読むことができるのだという。その名も霊魔紋。
そのような紋章使いがいるのであれば、ぜひとも会ってみたいということで、すぐに面会する手はずとなった。
そのため、クラウスを先に返し、サイモンの案内に従ってレティシアに会いに行くことが決まり、会いに行く顔ぶれとしては総帥のナターシャと家臣のクレアの2人のみ。諸将は不安がっていたが、ナターシャたっての願いとあらば退かざるを得なかった。
そして、ナターシャはレティシアに面会することを心待ちに、もうひと眠りすることにしたのだった。
第48話「再び川をせき止める」はいかがでしたでしょうか?
今回はトラヴィスによる狡猾な作戦で、聖堂騎士団との初戦に勝利……!
とはいえ、この負けで退いたダミアンたち聖堂騎士団にはもう後がないという事態に……
その一方、ナターシャはレティシアという人物へ会いに行く――
――次回「天候を読む軍略家」
更新は3日後、12/11(日)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




