第47話 春、再び遠征へ
どうも、ヌマサンです!
今回からはナターシャたちが2度目のクレメンツ教国の遠征に挑みます!
はたして、今回の遠征は成功することができるのか……!
それでは、第47話「春、再び遠征へ」をお楽しみください!
「ナターシャ様、先鋒のアマリア隊はシドロフ王国の王都パレイルに入ったとのことです」
「そうですか。次鋒のノーマン隊がようやく国境を越えた頃だというのに、もうパレイルまで……」
「さすがに早く進み過ぎ……ですよね?」
「まぁ、それについては私からも後でキツく言っておきます」
クレアからが集めてきた報告内容を聞き終えたナターシャは本隊を指揮しながら、進軍を続けていた。
季節は春。すでに日差しも暖かく、動かず日に当たっているとうとうとしてしまう。そのような暖かさの下、急ぐことなく進んでいく。
次鋒のノーマンに続いて王都パレイルへと到着し、本隊の後ろから続くユリア隊とも合流すると、シドロフ王国軍と共に出陣。
さらには、クレメンツ教国とシドロフ王国の国境付近にて、フォーセット王国軍とプリスコット王国軍とも示し合わせた日時に合流を完了させた。
予定通り3万6千もの大軍となった4カ国連合軍はクレメンツ教国北部のザチュア平野へ入り、さらに南下を続けていく。
前回の遠征では3本に分かれた街道に合わせ、軍勢を3つに割って進軍したが、結果として山沿いを進んだ部隊が間に合わなかった。
その反省から、今回は山沿いの街道は使わず、海沿いの東街道と平野の只中を突っ切る中央の街道の2つから進むこととなった。
今回はナターシャたちロベルティ王国軍が最多の兵数を誇るため、一番道幅の広い中央の街道へ。残る3カ国の軍勢が海沿いの街道を進んでいくこととなった。
集合は無理のないよう、前回の遠征よりも1週間延ばした3週間後とした。集合場所は前回の激戦地となったウルムクーナ川北部である。
「ナターシャ殿、今回はウルムクーナ川を突破するおつもりか?」
「ええ。今回はウルムクーナ川を渡り、さらに南に位置するルーナム川までは何としても進みたいところです」
「うむ、ルーナム川まで進軍するのなら、そのままサドール川も超えて、敵の本拠地、聖都コーテソミルまでなだれ込んではどうか」
「ルービン将軍の言う通り、その手もありでしょうが、帰りの兵糧を考えれば厳しいかと。まぁ、よほど進軍が順調に進めば別ですが……」
フォーセット王国軍の総大将ルービンとナターシャはどこまで進むかという話をしていた。食料はザッと4か月分。どれだけ遅くとも、2ヶ月後には引き上げることを視野に入れておかなければならない。
それを思えば、ナターシャが一気にクレメンツ教国の聖都コーテソミルへ侵攻することをためらうのも無理はない。
敵と戦いながら前進すれば、どう考えても3カ月経っても聖都コーテソミルの手前、サドール川までが限界である。
「……少しいいだろうか?」
「アラン将軍、遠慮なく発言してください」
「では、お言葉に甘えて。ルービン殿の案は性急すぎると感じる。しかし、ナターシャ殿の案では、いつまで経っても聖都コーテソミルまでたどり着けそうにない」
アランの案は2人の間を取ったような意見だった。ナターシャがルービンの案に反対しているのは、全軍で進んだ場合の話。ならば、本隊はルーナム川付近で駐屯させ、騎兵のみで構成された部隊のみでサドール川を越えて聖都コーテソミルへ不意打ちをくらわせるのはどうか、と。
「アラン殿の意見はなかなか良いとは思いますが、もし退路となるサドール川を遮断されてしまえば、敵中に孤立することになります」
「それもそうか……。俺としてはイイ案だと思ったんだがな……」
こうしてアランも黙り込んでしまった。結局、その後もナターシャ、ルービン、アラン、アルベルトといった各軍の総大将4人が協議したが、名案と呼べるようなものはなかった。
三人寄れば文殊の知恵という言葉があるが、こればっかりは3人どころか4人でもどうしようもなかった。それになにより、敵の出方によるところが大きく、戦う前から話し合ってもどうしようもなかった。
ともあれ、ウルムクーナ川北部で合流した際にもう一度協議するということで、その日は解散。翌日からは中央と東側に分かれ、予定通り進軍を開始した。
それからの道中、ロベルティ王国軍も3カ国軍も以前のように進軍に手間取るような事もなく、2週間後には全軍無事にウルムクーナ川の北岸に布陣した。
対するクレメンツ教国側はと言えば、またしても北からロベルティ王国を中心とした4カ国連合軍が侵攻してきたと聞こえるなり、教皇パトリックは聖堂騎士団長ダミアンに命じて1万8千の数をもって防がせにやった。
そんな聖堂騎士団であるが、昨年の一戦で溺れ死んだ聖堂騎士が1万を超えたことも大きく、聖堂騎士を辞める者が相次いでいた。もはや聖堂騎士団の規模は昨年よりも2万以上数が減っているという深刻な状況にある。
さらには、せき止められた川の水で押し流された聖堂騎士の中には、優秀で熟練度の高い騎士が数多くいたため、聖堂騎士団という組織としての崩壊寸前の状態にまで落ち込んでいた。
数が減った以上に、騎士の質が下がってしまったことが一番の損失であることは騎士団長として騎士たちを統率するダミアンも分かっていた。
「さすがに今回は生きて帰れないかもしれないな……」
聖堂騎士団長本人がこのように負けと死を覚悟しているのだから、末端の騎士など逃げ出したくてたまらないといったところであった。
それを危惧していたのはダミアンだけではない。司教の座にあるナンシーも聖堂騎士団の士気が低いことを見て取り、父でもある教皇に後詰の部隊を出陣させるよう進言。
「ならば、司教ナンシーよ。そなたが聖都コーテソミルに残っている1万6千の聖堂騎士すべてを率いて、ダミアンの後に続けばよい」
かくして司教自らも大軍を率いて聖都コーテソミルを出発、北にあるサドール川を渡河し、ひたすらに北上した。
結局、北上する聖堂騎士団と南下する4カ国連合軍が激突したのは、ウルムクーナ川とサドール川の中間を流れるルーナム川であった。川を挟んで南北に陣取った両陣営は10日ほどにらみ合いが続いていた。
「申し上げます!敵は前備えに聖堂騎士団長ダミアン率いる1万8千、後備えには司教ナンシー率いる1万6千が布陣しました!」
「……敵は3万4千を超える大軍勢。どうする?」
「こちらは敵より2千ほど数が多いですが、川を渡ろうとすれば私たちの方が不利……といったところでしょう」
伝令から伝えられた兵数にロベルティ王国陣営は頭を悩まされていた。その場にいるのは総帥のナターシャとユリア。他には、先鋒次鋒のアマリアとノーマンがいた。
若手ばかりでどうするかを話し合っているところへ、老練なトラヴィスとローランもやって来る。
「ナターシャ殿、ずいぶんと頭を悩ませているようだな」
「ええ、敵はこちらとほぼ同数。川を無理に渡ろうとすれば、こちらが不利。川を渡っている最中に攻撃されればどうしようもありませんから」
「そうは言っても、このままにらみ合っていても埒が明かぬでござるよ」
ナターシャの言葉に付け足すようにノーマンが口を開く。一同はノーマンの言葉に『その通りだ』と頷いていると、そこにローランが口を開いた。
「だったらよ、敵に川を渡らせればいいじゃねぇか」
「敵に川を渡らせる……?」
ローランは続けて説明を行なった。すなわち、少数の部隊で挑発行為を仕掛け、敵を渡河させてしまおうという策だった。だが、敵がその手に乗るほど上手く釣り込むのは至難の技である。
それからも議論が交わされた末、トラヴィスが1つの策を献じた。すなわち、前回と同じく川をせき止めるというものであった。
第47話「春、再び遠征へ」はいかがでしたでしょうか?
進軍に関しては問題なく進めたナターシャたち。
とはいえ、自分たちとほぼ同数の敵と河を挟んで睨み合う形に……!
はたして、トラヴィスやローランたちベテランの意見を取り入れ、勝利を収めることはできるのか!
――次回「再び川をせき止める」
更新は3日後、12/8(木)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




