第39話 安居危思
どうも、ヌマサンです!
今回はナターシャたちロベルティ王国軍が南下していく話になります!
はたして、街道を南下するナターシャたちの前に立ちはだかるのは、一体何者なのか……!
それでは、第39話「安居危思」をお楽しみください!
ロベルティ王国軍1万6千は海沿いの街道を南下していた。そうして南下を始めてから最初にぶつかる漁村では。
「お姉さま、この先の村は周囲に堀と木の策をめぐらせ、徹底抗戦の構えとのことです」
「そうですか……。あまり軍に所属していない民衆と戦いたくはありませんが、止むを得ませんか」
ナターシャとしても一般市民と戦うのは気が進まないが、無視して進むわけにもいかない。それこそ、撤退する際に退路を塞がれたり、背後から奇襲されたりなど、遠征の行き帰りにおいての危険性が高まる。そのこともあり、制圧せざるを得ない。
ナターシャたちはまず、海沿いの漁村を包囲し陣を張った。しかし、村1つにあまり時間はかけてはいられない。逆に、長引けば南からクレメンツ教国の聖堂騎士団からの攻撃を受けることにもなりかねない。
「ここから合流地点まで漁村が11と、平野部にある村が3つ。物見によれば、このすべてが徹底抗戦の意思を示し、村の守りを固めているとのことです」
「……この14の村を攻略した上で、合流地点に半月後に到着する必要がある」
「ユリアの言う通りです。ですから、1日に1つの村を攻略していたとしても、行軍時間や休息の時間も含めなければなりませんから間に合わないでしょう。まぁ、一日に2つずつ攻略できれば余裕をもって到着できそうですが……」
本心では1日に2つずつ村を落としながら南下するのが最善だが、現実的には厳しいものがあった。さらには、兵力も決戦のために温存しておきたいから、無理な力攻めも避けたい。このように考えれば、最善の手が見るからない。
「ナターシャ殿、敵の食料はどこから運ばれてくるか分かるか?」
「調べさせたところ、海から船で運び込んだということでした」
「なら、その食料はどこへ?」
「村の中……でしょうか?」
ナターシャの返答にトラヴィスは黙って首を横に振る。そのトラヴィスの様子に、誰もが食料がどこに備蓄されているのか分からなくなった。
「この海岸沿いの洞穴に隠してある。そこなら潮風にも当たらず、食料も村の中においておくよりは腐りにくい」
トラヴィスからの情報に皆一様に頷いた。情報元もトラヴィスが家来に村民の後をつけさせて見つけたのだという。ならば、ここにある食料がなくなれば敵はどうすることもできない。
それからのロベルティ王国軍の動きは迅速だった。トラヴィスやローランなどの歴戦の猛者たちは海沿いの風は日中は海から陸に吹いているが、夜になれば陸から海へと風向きが変わることを経験として知っていた。
それならば、とナターシャたちは夜の間に数百の兵をトラヴィスに預け、洞穴の中に油をまいた後で松明を放り込み、焼き払ったのだ。
その事を知った村人たちは渋々ではあったが、降伏を願い出た。そこで降伏の条件として示したのは隣村の村長を投降させることであった。成功すれば、村人全員の命は助ける。成功しなければ……と脅して言うことを聞かせた。
そこからは降伏した村の村長が自分の村を守るためにも必死に隣村の村長の説得を試みていくため、次々に村が降伏していき、14の村々を一兵も失うことなく突破していくことに成功。
こうして予定よりも4日早く合流地点に陣を構えることができたのであった。さらに、早く到着したことで時間ができたこともあり、眼前のウルムクーナ川周辺に地理を詳細に調べ上げることができた。
その偵察を担当したのはナターシャの家臣であるクレアとモレーノ、ダレンの3名。3名それぞれが百騎ほどを引き連れて、調査を行なったのだ。その結果、色々なことが分かって来た。
「まず、この街道沿いには石橋がかかっており、普段から南北へ街道を往来する商人や旅人が使用しております。そして、橋は上流の山沿いにも2本ありますが、人一人がやっと渡れるつり橋ですから、大勢では渡れそうにありません」
橋について調べていたのはモレーノ。地図上の川に3本の橋が描かれ、それぞれの橋の印の横に情報が細かく几帳面に記されており、モレーノの性格がよく表れている。
「ナターシャ様、川の下流は流れが早く、橋が無くては渡ることもできないでやしょうが、上流の方は水深も浅く、対岸に敵の伏兵さえいなければ問題なく渡河することができそうでやした」
「なるほど、上流の方は土嚢を敷き詰めればせき止められるような水流ですか?」
「へぇ、恐らくはせき止められるかと思いやすが……」
あくまで推測だが、という言葉を使いながらダレンはナターシャからの問いに答えた。しばらくナターシャは考える素振りを見せた後、ダレンを下がらせた。
そして、モレーノとダレンから持ち込まれた情報を1つの地図にまとめているところへ、対岸の偵察に赴いていたクレアが帰還した。
「クレア、対岸の様子は?」
「地理的な情報は先ほどの村で村長から受け取ったものに記されている通りでした。ですが、それよりも重大な情報が1つほどあります」
眉根を寄せ、真剣な表情のクレアの様子に、その場にいるナターシャとユリア、アマリア、トラヴィスなどの諸将も顔つきが緊張感を帯びたものへと変貌する。
「どうやら、聖堂騎士団がこちらに向かっているそうで、あと5日もすればウルムクーナ川南部に到るとのこと」
ついにクレメンツ教国の聖堂騎士団が押し寄せる。そのことで、緊張しない者はいなかった。いよいよ、本格的な戦いとなるのであるから、緊張しない方が無理というものである。
「ナターシャ様、偵察中に得た情報では、こちらに押し寄せる聖堂騎士団は2万4千ほどだと」
2万4千という数に、その場に居合わせた誰しもが背中に冷たいものを感じた。今この場にいるのはロベルティ王国軍1万6千のみ。
他の連合軍の到着が間に合わなければ、このウルムクーナ川で1.5倍の敵を相手にしなければならなくなる。そうなれば、いかにして戦うか。
「ナターシャ殿、俺に良い策がある」
「それは?」
そこでトラヴィスが示した策とは。トラヴィス率いる3千の兵が橋を渡り、橋の付近に陣を構えるというもの。
それ以外の1万3千は川の北側に残したままであるが、わざと橋から少し距離を取っていた。
それはトラヴィス勢3千が逃げ込めるようにしておいたものであり、トラヴィス隊は適当に交戦した後に橋を渡って撤退するというものであった。
いかに大軍で押し寄せても一気に橋を渡れる人数には限界がある。そのことで敵が戸惑っているうちに、上流で予めせき止めておいた川の水で押し流してしまおうというのである。
トラヴィスはかなり危険な役回りとなるが、川の南北は緩やかではあるが盆地となっている。よって、トラヴィス隊は橋を渡り少しでも高い場所へと逃れることができれば、味方への被害は出さずに済む。
そんなトラヴィス渾身の一計はその場で採用され、トラヴィスに率いられた3千は作戦通り速やかに橋を渡り、予め想定していた対岸に陣を構えるのであった。
対岸に残るナターシャたちは橋に矢が届く範囲に弓隊を配置し、本陣は水流で押し流されないよう一番高い位置へと移動させた。
こうして味方が間に合わないという最悪の事態を想定し、ナターシャたちロベルティ王国軍は着々と迎撃準備を整えていく。
――はたして、ロベルティ王国軍の運命は、5カ国連合軍の運命やいかに……!?
第39話「安居危思」はいかがでしたでしょうか?
今回はトラヴィス提案の作戦で、数多ある村を一兵も失うことなく通過することに成功してました!
そして、味方が合流地点に間に合わない可能性も出てきてましたが、本当にどうなることやら……
次回は山側の道を進む3国の話になります!
――次回「蝸牛角上の争い」
更新は3日後、11/14(月)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




