第38話 英雄は英雄を知る
どうも、ヌマサンです!
今回からはついにクレメンツ教国への遠征が始まります!
はたして、前途多難な遠征はどうなっていくのか……!
それでは、第38話「英雄は英雄を知る」をお楽しみください!
北国であるロベルティ王国の冬は厳しい。毎年のことながら冬らしい荒々しい風が吹き荒れるのだ。さらには、呑気に雪遊びなどといっていられないほどな積雪量。
まさしく冬のロベルティ王国は何も出来なくなってしまうのだ。そんな冬も一生続くわけではなく、ようやく春を迎えた。
まだまだ肌寒さが残っているが、春のあたたかな日差しは人々の心も温め、活動を活発にする。人は寒いと物事に身が入りづらいが、反対に温かさというのはそれだけで人に活力を与える。
ともあれ、ロベルティ王国は兼ねてより計画されていたクレメンツ教国への出兵を行なうべく、シドロフ王国の王都パレイルへ向けて1万6千の大軍で南下を始めた。
どうして王都パレイルなのかと言われれば、そこで連合軍を集結させる予定となっているためである。
ロベルティ王国軍が出立する数日前には帝国のヴォードクラヌ領から2万4千の数が旧王都であるレシテラを出たという知らせが入っている。また、道中にはプリスコット王国軍3千9百が副都ゼンドアを発ち、フォーセット王国軍もまた王都レミアムより3千6百という数が続々と街道に沿って西進していることなどの情報が集まって来た。
こうして数日後にはシドロフ王国の王都パレイルには5カ国の軍旗が翻るというなんとも壮観な眺めとなっていた。そして、5カ国の連合軍を束ねる総大将となったのは帝国軍を率いているルイス・ヴォードクラヌ。
帝都フランユレールにてナターシャが面会した時にはルイスも18歳の青年であったが、あれから2回年が変わり、ルイスも20歳となっていた。前に会った時よりも確実に大将としての人品のようなものが備わっているように感じられた。
そのルイスが総大将として他の4カ国の代表を集めて軍議を開いた。顔ぶれとしてはロベルティ王国からはナターシャ・ランドレス、シドロフ王国からはアルベルト、フォーセット王国からはルービン、プリスコット王国からはアラン・プリスコットである。
今回の遠征においてはいずれの国も国王自ら出張ってくるようなことはなく、配下の将軍や一族の者に任せる形となっていた。そのことからも、今回の遠征にかける情熱はいずれの国もそこまで高くないことが伝わってくる。
「さて、諸将たちよ。今回の遠征において集まったのは我ら帝国軍が2万4千、ロベルティ王国軍1万6千5百、シドロフ王国軍2千2百、フォーセット王国軍3千6百、プリスコット王国軍3千9百の合わせて5万2百となっている」
連合軍の数は総勢5万となり、ナターシャが懸念していたほど数が少なくなることはなく、むしろ想定していたよりも数が揃っているため、内心では安堵しているといった状態である。
しかし、5カ国連合軍は帝国軍以外は士気が上がらず、その上各軍同士の団結やまとまりに欠ける。よって、とても必死に国を守ろうとしてくるクレメンツ教国の軍と渡り合えるのかどうかが懸念材料であった。
どうやらルイス・ヴォードクラヌとしてもそのことは不安に感じているらしく、指揮が高揚するよう努めるべしと諸将にねんごろに伝えていた。
されど、指揮が上がらない理由としては、帝国軍以外の王国からすれば特に危害を加えてくるでもない相手と一戦交えることなど、気乗りしない。
『向こうから侵攻してきているならまだしも……』という心の声が兵士たちから聞こえてくる。そんな軍の士気をあげることはいかなる将軍でも至難の技であった。が、やらなければ殺戮の憂き目を見ることは明らかなのである。
「ルイス殿。此度の遠征、どのように進軍なされるおつもりですか?」
「ああ、それなら……」
ルイスが地図上で示した進軍の行程は出発前にクライヴが推測していた通り。『これならば問題はない』とナターシャは内心で思いつつ、詳細についてはルイスの話から情報を得ることとした。
情報では、ザチュア平野にある村々は森から切り出した木材で柵やら逆茂木を築いたりと防備を固めているとのこと。さながら、村が砦に様変わりといった具合である。
ルイス率いる帝国軍が先鋒となって、街道沿いの村々を攻め落としながら南下。街道が東西へ枝のように別れる地点がある。東の街道は海沿い、西の街道は山沿いのルート。中央の街道は道幅も広く大軍が進むのに適しているため、最も兵数の多い帝国軍が進む。
海沿いの街道も道幅が広く、海岸沿いで開けた道であることから帝国軍の次に数の多いロベルティ王国軍が進軍。残る山沿いの街道は道幅も狭く、道も険しいために残る3国の軍勢が進むことと相成った。
そうして3つの街道に沿って村を攻め落としながら南下し、3つの街道が合流する地点が最初の河川であるウルムクーナ川の北にあたる。すなわち、ウルムクーナ川の北側で5カ国の軍は再集結するということで話はまとまった。
また、山側の街道を進む3国の軍はどの国の軍が先頭に立ち、最後尾にはどの国の軍勢が続くのかでもめていたが、最後尾はシドロフ王国軍の大将アルベルトが立候補したことで決定。
先頭をどちらが行くのか、フォーセット王国軍の大将ルービンとプリスコット王国軍の大将アランが口論となった末に、ルイスが仲介に入った。すなわち、いずれが先頭に立つのかはくじ引きで決めることを提案し、『先』のくじを引いたのはアラン、『後』のくじを引いたのはルービンであった。
すなわち、山沿いの街道はプリスコット王国軍、フォーセット王国軍、シドロフ王国軍の順に進軍することとなった。
こうしてルイスから進軍についての説明を受け、詳細を決めた後、軍議はお開きとなり、皆それぞれの軍営へと戻っていく。
「ナターシャ殿、会うのは帝都フランユレール以来になるわけか」
「ええ。あれから1年と数カ月経つのかと私も驚いていたところです」
本営の外ではルイスとナターシャが立ち話をしていたが、1年数カ月ぶりの再会ということもあり、積もる話をしているうちに時間は刻一刻と過ぎていった。そんなルイスとの立ち話も互いに部下が迎えにやって来たことで、幕引きとなった。
この時、ルイスは20歳、ナターシャは24歳と若い2人の大将は互いの国が仇であることはさておいて帝国の未来や、今回の遠征についての互いの心象など様々なことを語った。
ここではその詳細は省くが、ナターシャもルイスの着眼点を褒め、本来の実力を軍議の場では隠しているのではないかとも感じた。ルイスもまた、ナターシャは決して剣だけの人物ではなく、軍を率いる者としての采配も見事だと腹心のコリンやアレーヌに語ったのだった。
ともあれ、ルイスはナターシャのいるうちはロベルティ王国軍とは戦いたくないと思い、ナターシャもルイスが健在の間はヴォードクラヌとは事を構えられないと直感した立ち話であった。
まさに『英雄は英雄を知る』という故事成語の通り、ナターシャとルイスは互いの実力や才覚を話の中で見抜いていたということになる。
ともあれ、そんな英雄2名が率いる軍は翌日、それぞれの担当する方面へと行軍を開始し、クレメンツ教国との戦いが幕を開けた。
対するクレメンツ教国も5カ国連合軍が境を侵してきたという一報を受け、対応について連日協議することとなるのだが、それはまた別の話。
さて、波乱のクレメンツ教国遠征の始まり、始まり……!
第38話「英雄は英雄を知る」はいかがでしたでしょうか?
ルイスとナターシャが互いの実力を認め合うような雰囲気になってました。
そして、互いに実力を認めたことで、何か良い影響があるのか……!
ともあれ、次回の遠征の様子も楽しんでもらえればと思います!
――次回「安居危思」
更新は3日後、11/11(金)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




