表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランドレス戦記〜漆黒の女騎士は亡き主の意思を継ぎ戦う〜  作者: ヌマサン
第2章 帝国への従属
31/187

第31話 望外の勝利

どうも、ヌマサンです!

今回はアマリアの奮戦ぶりに焦点を当てた回になります!

はたして、アマリアがどのように戦い、勝ちを収めたのか……!

それでは、第31話「望外の勝利」をお楽しみください!

「さあ、行くよ!」


 それまで固く閉じられていた砦の南門が開き、ロベルティ王国兵が溢れ出してきた。まさに、川の水が堰を破って流れ出るかのようである。


 その時、砦の外に飛び出した兵は約4百。先頭に立つアマリアは馬上から武骨なサーベルを振るい、肩にかかる長さで切り揃えた金髪を揺らしながら。立ちふさがるシドロフ王国兵をバタバタと斬り伏せていく。


 そんなアマリアの雄姿を見た兵士たちも勢いよく敵兵へとぶつかっていく。槍の穂先を揃えて向かってくるロベルティ王国兵を見たシドロフ王国兵は慌てて防戦に努めるも、まさか打って出てくるとは夢にも思わなかったことから、思うように陣形が整わない。


 ――アマリア率いる4百が崩れ立つ敵兵の中を駆け抜けていく。


 その後からジェフリーに言われ、アマリアの後を追って出てきたユリアの1千6百がアマリア隊に気をとられているシドロフ王国兵の背後を強襲。


 ようやく迎撃するべく隊列が整い始めたところへ、新手が背後から突っ込んできたのであるから、またしても隊列が乱れてしまう。まさかユリアも後から続いてきているとは知らず、アマリア隊はすでにカイル王子のいるシドロフ王国本陣へ突入していた。


「カイル様!突然、敵が砦から打って出てきました!」


「ああ?出てきただと?」


 包囲し始めてから数時間。敵に動きはなく、総大将のカイルは昼寝をしていた。そこへ、この奇襲である。


「ラウルよ、敵の数はどれくらいだ?」


「ハッ、5百もおりません。騎兵は百にも満たず、大半が歩兵であると」


 王子カイルの側近のラウル・ロメロは質問に対して、即座に回答した。それを聞くなり、カイルも指示を飛ばし始めた。


 カイルは今年で19歳の若武者だが、これが初陣ではない。それを補佐するラウルもカイルの2つ上の21歳。初陣ではないが、若手とは思えないほど、2人は的確に指揮を執り、アマリア隊を捕捉殲滅せんと陣形を整えていく。


「ラウル、アルセンにも伝令を飛ばせ!この分なら、北門からも出てくる可能性があるぞ!」


「すでに父にも伝えてあります。父も今ごろは狩りの支度も整え終わっている頃でしょう」


 ラウルの父はアルセン・ロメロというシドロフ王国きっての猛将であり、幾度となくトラヴィスと干戈を交えてきた歴戦の猛者でもある。そんなアルセンはラウルたちのいる南ではなく、その反対の北側に布陣していた。


 南からのみ敵が出てくるとは考えづらい。カイルはそう考えたのだが、次の知らせに驚かされることになる。


「南門からさらに敵が出てきました!その数、2千弱!」


 ようやく陣形を整えたかと思えば、敵の新手が出てきた。カイルは歯ぎしりした。自分の計画を乱されたことに怒りを覚えたのである。このようにカイルは感情的になりやすい面があったが、側近のラウルは落ち着いており、まさしく副官に相応しい男であった。


「カイル様。ここは陣を2段に分け、最初に出てきた敵勢より北にいる部隊には新手を食い止めることをお命じになられ、残る軍勢で最初に出てきた者どもを討ち取ってしまうのです」


「ああ、そいつはいい。それで、最初に出てきた阿呆どもを皆殺しにしたら、新手を蹴散らして砦に突入するぞ!」


 カイルもその指示を飛ばすことには寝間着の上から鎧兜を身に着け、騎乗しようとしていた。しかし、次の伝令が告げる内容に落馬しそうになるほどの衝撃を受ける。


「も、申し上げます!アンディ将軍が討ち死になされました!」


「何っ、アンディが!?」


 アンディとはカイルの幼なじみであり、ラウルの従兄にあたる者。この戦では南門を攻めるべく、第一陣を受け持っていた。そのアンディが討ち取られたことで、逃亡兵まで出始める始末だと報せが入った。


「カイル様、敵の勢いは想像以上、ここは一度退いて態勢を立て直すべきです!」


「黙れ!たかが数百の兵に好き放題されたとあっては、親父に合わせる顔がないだろうが!」


 ラウルの進言を退けるカイル。彼の形相は鬼のように強張り、真っ赤になっていた。それだけ血が頭に上っている証拠である。


 そして、次に来た伝令兵は目の前で息絶えた。その直前に伝えた内容は、敵がすでに本陣に突入したということ。


「マズい、王子!ここは今すぐ撤退を!」


「ぐぬぬ……!」


 カイルが足元のラウルに視線をやり、正面へと視線を移す。すると、200メートルほど先で立ち塞がる兵士や将軍を草でも刈るように斬り払いながらこちらに前進してくる一団があった。


 それを見た途端、頭に上って来ていた血がサッと引いていく。そして、次にカイルの口から出た言葉は『撤退』であった。


「皆の者!敵の本陣はあそこだ!ここで王子の首を取れば、恩賞も思いのままだぞ!恩賞が欲しい者はボクに付いてきてくれ!」


 剣でカイルの方を示しながら敵将らしき人物が馬を飛ばして近づいてくる。だが、アマリアがカイルのいた天幕へ斬り込んだ時には、カイルの姿はなかった。


「アマリア様。敵はすでに逃げ去ったようです!」


「アマリア様、後を追いますか?」


 配下の者たちの意見をアマリアは退けた。下手に深追いすると敵の伏兵に遭う恐れがある。よって、北から敵の増援が来る前に砦へ速やかに撤退する。アマリアの言葉に従い、再び来た道を引返し、速やかにユリア隊と合流を果たしたうえで、ともに敵を撃滅したのであった。


 ジェフリーが聞いたのは、こうして南側の敵兵を殲滅したアマリア隊、ユリア隊の勝鬨だったのである。


 ジェフリーがその報せを受け取った直後、北門の見張り役から北に陣取っていたアルセンの部隊も撤退したと報告があった。


「この戦、我らの勝ちだ。砦の外の者に負けないほどの勝鬨をあげてやれ」


 シッシと邪魔者でも追い払うかのように臣下を追い払う仕草をしたのち、兵士たちは負傷していながらも声を張って勝鬨をあげた。その時のジェフリーの表情は心底おもしろくないといった感情が漏れ出しているかのよう。


 こうしてジェフリーが不愉快な思いをしているなどつゆ知らず、アマリアは敵将アンディの首を手に提げ、意気揚々と凱旋してきた。


「ユリア、ボクの言ったとおり、出撃が正しかっただろう?」


「……結果だけみれば、そう」


 ユリアは疲れ切った顔でそう答えた。だが、ユリアの言うように結果として勝ったから良かったものの……といったところである。それだけ危ない橋を渡る戦いだったことは言うまでもない。


 また、砦の北側に布陣していたアルセン率いる3千が撤退したのは、退路が絶たれることを恐れたということもあるが、ナターシャ率いる本隊の接近に気づいたからであった。


 すなわち、アマリアが凱旋した直後、ナターシャたちもゼラモ砦に入ったのであった。


「アマリア、今回は見事な勝利でした」


「はい。お姉……ナターシャ様」


「敵将を討ち取り、本陣まで斬り込んだのはロベルティ王国の意地を見せたと言えるでしょう」


「ありがとうございます」


 ナターシャはアマリアの勇戦ぶりを褒めたたえた。だが、クライヴとトラヴィスはユリアと同じように、今後は無茶はしないように諭したのだった。


 そして、序盤の3連勝を帳消しにするほどの負け戦をしたジェフリーは奪った砦3つのうち、2つを奪回されたこと。なにより、2千弱の兵を失ったことを激しく叱責された。


 すなわち、ジェフリーは負傷兵6百共々本国へと送り返され、アマリアはジェフリーに代わり先鋒大将を任された。


 ――こうして陣容を改めたロベルティ王国軍は進軍を再開するのであった。

第31話「望外の勝利」はいかがでしたでしょうか?

今回はアマリアが勝利した半面、勝ちを帳消しにするほどの失態をしたジェフリーは本国へ送り返されるということも起こってました。

ともあれ、陣容を改めたロベルティ王国軍の戦いを楽しみにしていてもらえればと思います!

――次回「平野での決戦」

更新は3日後、10/21(金)の9時になりますので、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ