最終話 平和と幸せをかみしめて
どうも、ヌマサンです!
今回で『ランドレス戦記』も最終話になります!
まずは、ナターシャから主人公を引き継いだアスカルとシンシアの決闘の行方を見守ってもらえればと思います!
それでは、最終話「平和と幸せをかみしめて」をお楽しみください!
刹那、冷気と白光が真正面から衝突。木剣の刀身同士がぶつかった直後には、周囲に衝撃波が漏れ出ていた。紋章の力が合わさったこともあり、シンシアの一撃の威力は倍近くになっているといっても過言ではない威力に上昇していた。
そんな重い一撃をただ受けるのではなく、自身も氷魔紋の冷気を纏わせた木剣での一撃を叩き込むことで相殺する。この賭けはアスカルにとって有利に働いた。
おそらく、そのまま防御だけしていたとすれば、到底今のアスカルでは耐え切れず、今この瞬間、勝敗が決していたであろうからだ。それほどまでに高い威力を秘めた一撃。
それを相殺することで防ぐ選択をアスカルが採択するとは思わなかったのか、シンシアの表情は鳩が豆鉄砲を食ったようであった。
そんなにも驚いているのであれば、その隙を衝いて反撃を。そう考えるアスカルであったが、シンシアに生じた隙はほんの一瞬にすぎなかった。
「くっ……!?」
「ふぅ、危ない危ない。こんな小さな隙を見逃さずについてくるなんて、本当にアスカル君は成長したわね」
「手合わせの最中に褒められても嫌味にしか聞こえないです……よっ!」
上段から振り下ろされていた木剣を左へ往なし、即座にシンシアの首筋に向けて木剣を動かしたのだ。手首を上手く使った技であり、動きも最小限で済む。すなわち、速攻という観点では最良の一手。
だが、往なされた木剣を迅速――いや、神速とも言うべき速度で引き戻して対応して見せたのだ。シンシアの上を行く戦法に、むしろアスカルの方が驚かされてしまっていた。
それからも互いに威力を上昇させたうえでの戦いが展開。巧妙な駆け引きも繰り広げられるが、何分にもシンシアの方が一枚上手という印象は否めなかった。
手合わせはその場にいる全員の予想を裏切って長期化。シンシアがあの手この手で仕留めようとするたび、アスカルもギリギリの反応速度で対応する。長期化するのは当然のことともいえる状況であった。
「アスカル君、本当にやるわね……!ここまで持ちこたえられるとは思ってなかったわ」
「そう……ですか。でも、オレはシンシアさんに勝ちますよ!絶対に!」
アスカルの動きも鈍化し、顔だけではなく全身に疲労が窺える。しかし、言葉の勢いと瞳の奥に宿る光が陰ることはなかった。
何より、アスカルの相手をしているシンシアにも疲労が出ているのだ。もはや、どちらが先に力尽きるかの我慢比べともいえる状況であった。しかし、こういった勝負で勝つのは、総じて諦めの悪い方というのが真理であろう。
「勝つのは、オレだ!」
シンシアの突きを首を捻ってかわしたアスカル。右足を引いて体を右斜めに向け、刀を右脇に取り、切先を後ろに隠すように下げて構える――脇構えの状態からシンシアの空いた胴へ滑り込ませた――
「両者、そこまででござる!」
審判・ノーマンのその場にいる全員が思わず動きを止めるような声により、手合わせの終了が告げられる。結果は、アスカルの勝利であった。
勝利することができたのは最後まで諦めず、粘り強くシンシアと戦い続けたことが最大の要因であることは言うまでもない。
その手合わせがティナとの結婚をかけてのものであったのだから、誰が一番その勝利を喜んだのかは明白であった。
「アスカル!」
自らの母親に辛くも勝利し、額の汗を拭う青年の胸元へ緑髪の女性。そう、ティナである。
緊張で汗ばんだ彼女の身体をよろつきながらも受け止めたアスカルの瞳は実に穏やかで、先ほどまでの執念のようなものはすっかり消え去ったようだった。
「アスカル君、見事な戦いぶりだったわ」
「あ、ありがとうございます」
「戦っている最中だと嫌味に聞こえるって言うから、今ここで改めて……ね」
手合わせをしている間の自分の発言を思い出し、羞恥心が湧きだしたアスカルの頬が少し赤くなる。
「アスカル。ワタシも王都コーテソミルでエツィオと戦った時よりも、ずっっっと強くなったと思うわ。これ、本当にお世辞とかじゃないんだから」
「そ、そうか。でも、そんな気がするよ。少しでも頑張れば、掴み取れる選択肢が増えるんだって実感できた。シンシアさん、改めて手合わせしてくださって、ありがとうございました」
「どういたしまして。あと、これからは『お義母さん』でいいわよ。ね、あなた?」
「う、うむ。そうでござるな」
ティナとの結婚をノーマンとシンシアの二人からも認めてもらえた。加えて、ここまで努力してきたことが無駄ではなかったと思うと、嬉し涙がこぼれてくる思いがする。
「ちょっと、お父さん!アスカルが泣いちゃったじゃない!」
「えっ、それは拙者のせいではござらぬよ!?」
「ホントよ、ティナの言うとおり、あなたが悪いわ」
「だから、拙者は絶対に悪くないでござる!」
ティナとシンシアの揶揄うような口調で繰り広げられる家族の会話。それを聞いているうちに、アスカルの涙は嬉し涙から笑い泣きに推移していた。
「アスカル、泣いてるの?」
クスクスと揶揄うような笑みを浮かべるティナ。そう煽られると決まって、「泣いてない」と強がりを言ってしまうアスカルの性分を分かっての一言。しかし、予想というものは裏切られることも多いわけで。
「ああ、泣いている。これほど嬉しいことが重なる日に、泣かないわけにはいかないだろ!」
いつになく素直な、邪念のない笑顔。雲一つない空の下、太陽に照らされたティナの顔も知らず知らずのうちに熱くなっていた。
「よし、それならば今夜は宴とするでござる!なにせ、ティナとアスカルの結婚じゃ!領内を挙げて祝うでござるよ!」
今宵は宴。そう聞くなり、周囲の人々は歓声に沸いた。その喜びは城中に伝わり、城を飛び出して城下町中へ伝播していく。その喜びは王都コーテソミルのランドレス家にも伝わり、大いにセシリアとミシェルを驚かせた。
――3ヵ月後。
再会から季節が一つ隣へ移ったその日。王都コーテソミルでは色なき風の中、アスカルとティナの結婚式が執り行われた。
マリアナとノルベルトの結婚式で偶然再会した2人が結ばれる。縁は異なもの味なものとはよく言ったもので、どのような縁がどうなっていくのか――
それは神のみぞ知る、そんなところではなかろうか。いや、時には神にも仏にも分からない縁だってあるかもしれない。
『クライヴ、アスカルも結婚する年になったようだぞ』
結婚式の遥か頭上にて、感慨深げに地上を見下ろす者たちがいた。
『……そうみたいだね、姉さん。それにしても、ミシェルもアスカルも大きくなった』
『死んだとき、こんな未来が来るなんて想像もしなかっただろう?』
『そりゃあ、そうさ。僕も姉さんまで若くで死ぬなんて思わなかったしね』
『ふふっ、それもそうね』
黒髪の男女は次世代の若者たちが結ばれていく。そして、平和になったルノアース大陸で結婚式を挙げられる。まるで、争いが繰り返されていたことが、大昔のよう。
『姉さん、戦場で子供たちの成長を見届けることなく力尽きてしまったのは無念だけどさ』
途中で言葉を区切るクライヴに、無言で相槌を打つナターシャ。まだ弟の言葉が続くことを知っているからである。
『僕たちが戦って死んでいったことは無駄じゃなかった。そして、子供たちが平和に暮らして働いて、好きな人と自由に愛し合って結ばれる。まだ完全とはいえないけど、素晴らしい世の中に近づいていってるって思わない?』
『ズルいですね、クライヴ。この景色を見て、無駄だと思えるわけがないでしょう』
かつて戦場で死んでいった者たちが上から見ているなど、地上の人間には知る由もない。
ただ、新郎新婦と彼ら彼女らを祝福する人々は、今日も平和な大地を踏みしめて力強く生きていくだけなのだから。
最終話「平和と幸せをかみしめて」はいかがでしたか?
今回はアスカルがシンシアに勝利し、ティナとの結婚が認められていました!
そんなアスカルとティナの結婚式を、天上からナターシャとクライヴが見ている――
懐かしい姉弟のやり取りを久々に楽しんでいただけていれば幸いです!
そして、これからも続いていく、今を生きるアスカルたちの幸せな未来を願っていてもらえれば、この上ない喜びです!
最後になりましたが、2022年8月1日に1話を投稿して以来、長きにわたって応援し続けてくださった読者の皆様に改めて感謝申し上げます。
今後もヌマサンの作品を好きでいてくれると嬉しいです!ではでは(`・ω・´)ゞ