第186話 アスカルVS.シンシア
どうも、ヌマサンです!
今回はアスカルがシンシアとの手合わせに挑む回になります!
はたして、どのような戦いが繰り広げられるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第186話「アスカルVS.シンシア」をお楽しみください!
その日、ヌティス城において、アスカルとシンシアの、ティナとの結婚をかけた手合わせが行われようとしていた。
両者ともに木剣の使い心地を手早く確認すると、兵士たちが模擬戦で使用する木製の防具などを装備していく。といっても、胴とひじと手首との間の部分を守るだけの簡単なものだが、ないよりはマシだ。
そして、手合わせ自体は紋章の力を纏わせることができる特殊加工の木剣を用いて行われる。アスカルが氷魔紋。父・クライヴと同じ紋章の属性。対するシンシアの紋章の属性はアスカルの知るところではない。
シンシアが紋章を使えることは、わざわざ紋章の力を纏わせることが可能な木剣を試合で用いると言い出した時点でおおよそ推測可能だ。自分が使えないのに、アスカルだけ紋章の力を使っても良いという不利な条件を出すとは思えないからだ。
「まぁ、シンシアさんの紋章の属性は戦いの中で確かめるしかない。今、考えてどうこうできることじゃないし、とにかく今は目の前の戦いに集中しよう」
柄の手触りや攻撃の届く範囲などを確認しつつ、呼吸を整えていく。こうした事前準備の違いが戦いの中で大きな戦いを生むのだ。落ち着いて戦いに臨むことができるだけでも、相手より優位に立てる場合だってある。
「アスカル君、準備はできたかしら?」
「はい、オレはいつでもいけます!」
「それじゃあ、審判は……」
「拙者がするでござる。父親として、これくらいはせねばならぬでござろう」
立候補したのはノーマンだった。母親であるシンシアがアスカルと手合わせをするという状況の中、父である自身が何もせずにいるわけにはいかないのだろう。
ともあれ、実戦経験も豊富なノーマンが審判ならば安心だと、その場にいる全員が同意するところだ。
もちろん、この場にノーマン以上に経験豊富なトラヴィスがいれば、彼に任せられていた役割だろう。しかし、彼は現在は出払っており、審判を頼むことは不可能であった。
とにもかくにもアスカルとシンシアの、ティナとの結婚をかけた手合わせの準備は着々と進み、いよいよ開始の時を迎える――
「それでは、試合開始でござる!」
審判の声が発されると同時に、シンシアは素早く間合いを詰め、アスカルに大振りの斬撃を放った。
初手から氷魔紋の力を発動させようとしていたアスカルの裏をかく行動だった。紋章の使用が認められた試合なのだから、当然、互いに紋章の力を発動させてからの勝負になると思ってしまう。
もしかすると、こうなることを狙って紋章の力を発動させてもいい条件を整えたのではあるまいか。
まさか、速攻で斬りかかってくるとは思わなかったアスカルだが、シンシアの動きをいち早く察知したことで防御することに成功。
木剣同士がぶつかる鈍い音が辺りに響く。シンシアの一撃の威力が高かったこともあり、一撃を木剣を横にして受けたアスカルは木剣が折れるのではないかと冷や汗たらたらであった。
「アスカル君、これを受けられるなんて思わなかったわ」
「お、オレも紋章の力を使わずに速攻で斬りかかってくるとは思いませんでした……」
「ふふっ、でも勝負はここからよ」
そういうと、木剣にかかっていた圧力が消える。次の瞬間には空いた胴目がけて横薙ぎの一閃が繰り出されていたのだ。
「うおっ!?」
反射的に後方へ飛びのいたアスカル。彼が着用している胴部分の防具の表面を滑るように切っ先がかすめていくのが感じられる一撃であった。避けるのが一秒でも遅れていれば、今の一撃で勝負ありとなっていたであろう。
アスカルは後ろへ飛びのき、片膝ついたわけだが、それで安心というわけではない。逃がしてなるものかと、シンシアによる追撃が行われるからだ。
時には斬撃を受け、回避できるようなら体を上手く動かして避ける。アスカルは積極的に仕掛けていくことはなかったが、上手くシンシアの攻撃をあしらっていた。
それにしても、戦う中で痛感させられるのは相対するシンシアの豪剣。ヴィクターのような一撃必殺とまではいかずとも、直撃すれば気絶して病室に運ばれることは間違いなし。
何より、帝国最強を謳われたヴィクターは巌のような屈強な男だったが、シンシアはティナよりも少し小柄な女性だ。そして、小柄ながら引き締まった体つきで、アスカルを侮ることなく一撃一撃を全力で打ち込んでくる。
普段から鍛錬している者の動作というものは、同じく鍛錬している者には分かるという。アスカルも、つい最近鍛え始めたばかりだが、そんな人間にもシンシアが常日頃から鍛錬を欠かしていないことが分かる。
そんな女性と戦えることは光栄であるのだが、アスカルはこの場で戦いたくないと思ってしまう。これほどの相手に勝利し、ティナへの想いを証明しなければならないのだ。
――願わくばエイヤーと簡単に勝つ事のできる戦いであって欲しかった。
心の内でそう言って甘えている自分に叱咤しながら、アスカルは懸命にシンシアの剣筋の分析を進めていく。
一撃一撃に力を込めてくるため、手数はさほど多くない。そして、真正面から受ければこちらの筋力が先に根を上げてしまう。要するに、一撃の重さに重点を置いた剣術であること。
となれば、真正面から受けて筋力と体力が消耗することは避けたい。回避に重点を置き、どうしても避けれない場合でも受け流すことを心がける。
足回りの筋力も鍛えているからか、踏み込みが力強い。そのため、少し離れていたとしても油断は禁物。シンシアが一度の踏み込みで詰められる距離は、アスカルの1.3倍。そのことも頭の中に留め置いて間合いを計算しなければならない。
木剣を用いた手合わせであるが、このように戦いというものは筋力や体力だけが求められるものではない。相手の出方や手癖などを見抜く観察力であったり、相手の技量と自分の技量を冷静に分析して対策を練る力も求められる。
まさしく、戦いがハイレベルになればなるほど、力と頭脳の双方が求められる総合格闘技なのだ。
それはさておき。シンシアとアスカルの戦いは、アスカルが防戦一方のまま進んでいる。一方のシンシアは短期決着を狙ってか、素早く畳みかけてきている状況。シンシアはこのまま戦いが長引くのを避けたいのか、遂に《《アレ》》を発動させる。
「光魔紋か……!」
木剣に白光が纏わせ、改めて中段の構えをとる。仕切り直しという意味合いもあるのか、一度距離を取っていた。これまでグイグイ間合いを詰めて来ていたため、アスカルは久しぶりに間近にシンシアがいない状態に戻ることに。
しかし、シンシアが一度離れたことはアスカルにとっても幸運であった。ここぞとばかりに氷魔紋を発動させ、迎撃準備を整える。これで、アスカルも冷気を木剣に纏わせたことになり、紋章の力を発動させた点で条件は同じになった。
あとは紋章の力を利用し、どのように試合を運ぶか。己の技量と相手の技量をもとに作戦を練り、挑むことになる。
光魔紋の力を木剣に纏わせ、一撃の威力を格段に向上させたシンシア。一方のアスカルも氷魔紋を発動させたが、一撃の威力はシンシアに遠く及ばない。すなわち、力比べではとこしえにシンシアには勝てない。
――ならば、手数か。
そう考えるが、手数で押すにしても、まずは間合いから詰めていく必要がある。一度に踏み込める距離が相手の方が長い以上、迂闊には飛び込めない。
戦いの最中、考え込むアスカルを嘲笑うようにシンシアから猛攻が仕掛けられるのだった――
第186話「アスカルVS.シンシア」はいかがでしたか?
今回はサブタイトル通り、シンシアとアスカルの戦いでした!
お互いに紋章の力を発動させて第二ラウンドが始まろうかというところで終わったわけですが、引き続き、戦いを見守ってもらえればと思います……!
次回も3日後、3/3(日)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!