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第185話 執務室での告白

どうも、ヌマサンです!

今回は久しぶりのヌティス城が舞台になります!

はたして、アスカルが無事ノーマンにティナと結婚したい旨を伝えることができるのか……!?

それでは、第185話「執務室での告白」をお楽しみください!

「ノーマン殿。アスカル・ランドレス、ただいま戻りました」


「おお、戻ったでござるか!入っても構わぬでござるよ!」


 ノーマンから入室の許可が出た。前に来た時には簡単に開けられたドアが、今はとても重たい物に思えてしまう。


 そんなアスカルを見かねてか、ティナが代わりにドアを開け、入室していく。


「ティナ……」


「ただいま、お父さん。急に飛び出したりして、ごめん」


「いやいや、拙者もティナの気持ちに寄り添ってやれなかった。申し訳なく思っているでござる」


 ペコペコと何度も頭を下げる娘と、丁寧に一礼する父。奇妙な父と娘の再会だが、会話している雰囲気そのものは実に穏やかである。そして、それを部屋の入り口から見守っているアスカルの肩を、トントンと優しく叩く者がいた。


「はい、どちら様――」


「アタシはシンシア・プリスコットよ。アスカル・ランドレス君」


「シンシア――あっ、もしかしなくても」


 シンシア・プリスコットが何者であるか。思い出し、口に出そうとしたアスカルの唇に、そっと人差し指が当てられた。指をあてているシンシアの方は、歯を見せてにかっと笑っている。


 部屋の入り口で行われているアスカルとシンシアのやり取りに気づいたのは、ノーマンであった。まあ、下げていた頭を上げれば、視界に二人の姿が移る位置にいるため、当然といえば当然なのだが。


「なんだ、シンシア。城の見回りは済んだのでござるか」


「ええ、兵士たちがたるんでいたので、ついでにピシッとしつけてきたところよ」


「そ、そうでござったか……」


 兵士たちにピシッとしつける領主夫人に面食らうアスカルの隣を通り過ぎていく影が一つ。そう、ティナである。


 久しぶりに会う母親を見て、ティナはこれまでで一番といっても過言ではないほどの笑みを浮かべている。娘にこれほどな笑顔をさせるとは、本当にスゴイ母親だとアスカルは正直に思った。


「お母さん、お帰りなさい!」


「はい、ただいま。アタシが居ない間、あの人とケンカしたんだって?」


「う、うん。でも、ちゃんと仲直りしたよ」


「大丈夫、それはちゃんと見てたから」


 会話の内容を知らず、仲良く抱き合っている二人を見れば、母と娘というよりも姉と妹に見えてしまう。


「そうだ、2人が揃ったところで話したいことがあるんだけど……」


「分かったわ。さ、アスカル君も中に入って」


「あ、はい」


 ティナが話したいことがあると言った刹那、せっかくほぐれていた緊張がアスカルの心の内で蘇ってしまったのだ。その緊張のせいで、アスカルの動きは再びぎこちないものになってしまう。


 そして、再び胸の内に復活した緊張を胸に、ティナの両親に告げなければならないことを告げるときが、刻一刻と迫りつつあった。


「それで、ティナ。帝都のエリオット剣術道場の方はやめてきてしまったのでござるか?」


「ううん。続けることにした。領主になる責務と、剣術を研鑽したいという想いを両立させることに決めたわ」


「……それなら良かったでござる。アスカル、改めてお礼を」


「い、いえ、俺は別に大したことは……」


「どうしたでござる?随分、緊張しているように見受けられるが……」


 さすがのノーマンも、目の前の青年は顔を引きつらせていることに気づいた。ただ、その表情から一体何に緊張しているのかまでは分からない。むしろ、分かる方が恐ろしいというものだ。


「アスカル君、深呼吸してからゆっくり話してみて。大丈夫、誰も怒らないから」


 落ち着いた雰囲気を纏い、少しでも緊張がほぐれるよう配慮してくれるシンシアの言葉を聞き入れ、アスカルは深呼吸をしてから話さなければならないことを話し始める。


「オレはティナさんと結婚したい。そのお許しをもらいたいと思っています」


 すぐにも本題に斬り込むアスカル。話してみなさいと言ったシンシアも、そしてノーマンも体が氷漬けになったのではないかと思うほど動かなかった。


「あ、アスカル。ティナと結婚したいというのは本気でござるか?」


「はい、本気です。冗談でこんなこと言わないのは分かっているのでは……?」


「そ、そうでござるな。ティナはどうだ?アスカルと結婚するというのか?」


「もちろんよ。第一、先に好きだって言ったのはワタシよ」


 ティナが話し終えると、執務室には気まずい雰囲気が漂う。いや、気まずいというより、突然の話に当惑しているという方が正しかった。


 父・ノーマンは腕を組み、黙り込んでしまう。そして、母・シンシアはじっとティナを見つめた後、その隣のアスカルへと視線を移す。


 シンシアにじっと見られている際のアスカルは、蛇に睨まれた蛙のよう。体はおろか、手足の指一本動かせない状況。動きが加速しているのは心拍数だけである。


「アスカル君。外で手合わせをしましょう」


「手合わせ……?」


「ええ。アタシと剣術で戦ってほしい。兵士たちが訓練で使う木剣を使って行うわ。そして、ワタシに勝つ事ができなかったら、ティナとの結婚はなかったことにしてちょうだい」


 さすがにティナの父親であるノーマンから「うちの娘はやらんでござるよ!」と言われることは覚悟していたアスカルにも、シンシアからティナとの結婚をかけた手合わせを申し込まれるとは想定外であった。


 だが、申し込まれた時点でアスカルが返す言葉は決まっている。


「もちろん、受けましょう」


「即答ね。母親としてはそれくらい言い切ってくれるアスカル君なら安心だわ。あとは、実力でその想いを証明してちょうだい」


 シンシアからの言葉に、アスカルは静かに首を縦に振るのみ。受けると言った以上、あーだこーだ言うつもりはない。


 両者ともに真剣な眼差しを相手に向ける状況。空気が徐々に張り詰めていく中、そのピリピリした空気に耐えられなくなったノーマンから場所を変えないかと提案される。


 そうして場所は執務室から外、兵士たちが普段から使う訓練場へと移った。ここなら、兵士同士が手合わせで使用する木剣をはじめとした道具類は完備している。


「アスカル、頑張って。お母さんは強いから、油断だけはダメよ」


「ああ、分かっている。ティナとの旅をしているうちに、強者が放つオーラみたいなものが感じ取れるようになったから」


 この強者が放つ威圧感のようなものを感じ取れる。アスカルとしては、それだけでも十分に成長を実感できる要素の一つ。


 そう、アスカルでも感じ取れた威圧感。それを放っているのが、目の前で木剣を手に取り、空を切っている茶髪に翡翠色の瞳を持つ美女なのだ。そんな彼女と戦うというだけで、以前ならば足がすくんで動けなかった。しかし、今のアスカルは違う。


 覚悟を決めて訓練場の中央へ足を進めると、シンシアから木剣が投げ渡された。


「アスカル君、今回はそれを使ってくれる?」


「はい!分かりました!」


 いつも使っている魔剣ヴィントシュティレよりも、刀身が少し短い。魔剣ヴィントシュティレの感覚のままで挑むと危険だ。木剣を手に取って瞬間、それだけは感じ取れた。


「ちなみに、その木剣は特殊加工がされているらしくて、紋章の力を纏わせて戦うことができるのよ」


「さ、最新技術じゃないですか、それ……!」


「ええ、先日近衛隊の方にも人数分届けられたらしいから、王都コーテソミルに帰ったらアスカル君の分も用意されているはずよ」


 ある意味、この場で紋章の力を纏わせられる木剣を試用することができる。どんな使い心地か早く確かめてみたい。いつしか、アスカルの気持ちは好奇心へと塗り替わっていた。

第185話「執務室での告白」はいかがでしたか?

今回はアスカルがティナとの結婚をかけて、シンシアと手合わせを実施するところで終了!

次回はアスカルとシンシアの手合わせが行われるわけですが、どんな戦いになるのかは次回を楽しみにしていてもらえればと思います……!

では、次回も3日後、2/26(月)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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