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第184話 恥じらいをこえて

どうも、ヌマサンです!

今回は恋愛要素が多めの回になります!

アスカルとティナのヌティス城への帰路を、優しく見守っていてもらえればと思います……!

それでは、第184話「恥じらいをこえて」をお楽しみください!

 互いの想いを確認し合った翌朝。眠い目をこすりながら窓の外に見える紅の霞を視界に収める。窓を開けて、新鮮な空気で室内と肺の中を満たすところから始める一日というのは実に気持ちが良いものだ。


「さて、早朝出発の馬車に乗れば陽が落ちる前……は無理でも、今日中にはヌティス城下町へ到着できるな」


 睡魔が恥ずかしいという感情を持ち去ってくれたことに感謝しながら、壁に立てかけている魔剣ヴィントシュティレを手に取る。


 日課である素振りを行うつもりだったが、出発の時間を考えれば厳しい。出発する時間も考慮して、もっと早く起きていれば良かった――


 剣の柄を握り、動きを停止させた状態で思考が駆け巡るアスカル。まるで時間でも止まっているかのように動かない状態も、とうてい長くは続かなかった。


「アスカル、起きてる~?お~い!」


 二回のノック音が一つに重なっているかのような音とともに、同じく恥じらいを睡魔に持っていってもらった女性の声がアスカルの耳元まで届いた。その声に、普段通り話すことができそうだと安心しつつ、ドアの方へ向かう。


「おはよう、ティナ。そろそろ行くか?」


「ええ。ワタシは準備万端、いつでも出発できるけど……」


「ああ、悪い。荷物はまとまっているから、着替えだけ済まさせてくれ」


 まだ準備ができていないことを言われそうになったのを遮るかのように、閉まる扉。目の前にいたアスカルが部屋の中へ消え、扉が目の前にある状況に、ティナはほんの少し物足りなさを覚える。


 しかし、扉の向こうから聞こえる衣擦れの音。その音から、扉の向こうで何が行われているかを想像し、アスカルが次に扉を開ける頃にはティナの顔は少々赤くなっていた。


「ど、どうした?準備できたぞ?」


「へっ?あ、うん!準備できたんだ。そ、それじゃあ行こうか!しゅっぱ~つ!」


「……なんか、変だな」


 先ほどまでとは別人のようにテンションが高いティナに、少し違和感を感じつつも、馬車乗り場へと移動を開始するアスカル。一方、アスカルが自分の様子に違和感を感じているなど微塵も思わないティナは、スキップしながら前進していく。


 昨日とまた違う妙な雰囲気が漂う中、先へ先へ進んでいくティナの後をアスカルが歩いていく。


「オレも横に並べる日が来るんだろうか……」


 口から出るなり、雑踏にまぎれていく言葉。紛れもないアスカルの本心。両想いであるというだけで、並んで歩くことが許されるのか。剣術の技量をはじめ、まだまだティナに及ばないのに。


 アスカルは上機嫌で先を歩くティナを見ながら、己の未熟さについて考えてしまっていた。比べても仕方ないといえばそうなのだが、それが頭で分かっていても比べてしまうのが人間という生き物なのだろう。


 そうしてアスカルがうじうじと悩んでいる間にヌティス城下町へ向かう馬車乗り場へと到着していた。ティナから声を掛けられ、馬車乗り場に着いたことに気づくあたり、本人が思っているよりも考え込んでいたことが分かる。


「アスカル、大丈夫?さっきから表情が暗いみたいだけど……」


「そんなに暗い顔をしていたか?まぁ、別に体調が悪いわけではないし、気にしないでくれ」


 口では気にするなと言っているアスカル。そんな彼の心の内は、ティナに気遣われた申し訳なさと好意を寄せる相手が己の些細なことに気づいたことへの喜びが半分ずつ占めていた。


 アスカルとティナが乗り込んだ馬車は、2人の後にやって来た人々を3名ほど乗せてから出発。ガラガラと音を立てながら東へ進み始める馬車は、町の外へ出ると少しだけ速度を増して進行していく。


 行きはティナを見つける必要もあり、心が休まらなかったところがある。しかし、今は違う。当のティナは隣にいるうえに、帰り道だというのだから、馬車でまったり羽根を伸ばすことができていた。


 当初、朝から残っていた眠気に負けて、昼過ぎまで熟睡していたアスカルだったが、目覚めるなり、隣で自分の寝顔を見ていたらしいティナと視線を合わせる。


「そうだ、ティナ。オレに好意を伝えてきたことの真意を聞いておきたい」


「……真意?」


「ああ、ただ好きだと伝えたかっただけなのか。はたまた恋人になりたい、結婚したいといった関係を進展させたい想いが裏に隠れているのか、聞いておきたい」


 真っ直ぐにティナの瞳を見つめるアスカル。そんな彼の質問に、彼女はゆっくりと問い返す。


「もし、前者だと言ったら?」


「別に。そうだったのかと納得するだけのことだ」


「じゃあ、後者であったら?」


「その想いを、ありがたく頂戴するとする。オレにはもったいないくらいだと思うが……な」


 つい、己の本心を吐露してしまった。このことに焦りつつも、その気持ちに蓋をするように語尾を濁す。そして、一連のアスカルの様子を見たティナはくすっと笑う。


「後者よ」


「……ん?今、何か言ったか?」


「だから、後者だって言ったのよ」


 先ほどよりも語尾を強め、想いを告げるティナ。一瞬、何のことだか分からず、体の動きを止めるアスカル。しかし、『後者』という言葉が指すものに気づくのに、そう時間はかからなかった。


「そ、そうか」


「ヌティス城に帰ったら、報告しないといけなくなったわね」


 狙ってやっているのか、わざと耳元まで口を移動させてからの発言であった。アスカルよりも年下であるティナ。だが、こうしてからかっている様子を見ている限りでは、アスカルの方が年下のようである。


 ともあれ、長いような短いような旅の中で、ティナとアスカルの関係性は大きく変わった。王都コーテソミルにおいてエツィオと戦った際に再会してから1ヵ月とかからず、結婚を見据えての恋人へと関係を進めたのだから。


 その時、アスカルの頭の中は、ヌティス城に戻ったらティナの父であるノーマンに対し、連れ戻したことの報告をした後にしなければならない報告の口上でいっぱいだった。


 俗にいう「娘さんをください!」のシチュエーション。何の手土産もなく、そんなことを言ってはいけないのではないか。もし、ダメだと言われたらどうしよう。


 合理主義者であれば「考えても仕方ないことを考えるのは無駄だ」とバッサリ斬り捨てられることだろう。


 だが、いかなる合理主義者であっても、恋という病を煩ってしまったが最後、煩悩に苦しめられることになる――のだろうが、そもそもアスカルは合理主義者でも何でもない。


 とにもかくにも、喜びと緊張のダブルパンチにより破裂してしまいそうな心臓を抱えながらアスカルはティナと共にヌティス城下町へと帰還。


「やっと帰って来れたわね。といっても、アスカルの実家は王都なわけだし、まだまだ先が長いわね」


「あ、ああ。そうだな、申請した休暇が終わるまでに戻らないといけないし、急いで用事を済ませないといけないな!」


 いかにも空回っている、妙に高ぶる気持ちでアスカルは城のある方角へと歩き出す。その足取りは早く、競歩といっても過言ではない。


 足早にヌティス城へ、父・ノーマンの待つ執務室へ向けて移動していく恋人の背を見ながら、ティナは喜色満面でついていく。フォルトゥナートはサランジェ領に帰ってしまったが、もう一人の家族が今日は城にいるはず。


 久しぶりに会える家族の顔を思い浮かべながら城門を潜り入城するティナ。かたや、ノーマンにティナと結婚したい旨を伝えることに緊張し、城に近づくほど足の震えが止まらなくなっているアスカル。


 この2人が今、ノーマンの待つ執務室へ到着しようとしていた。

第184話「恥じらいをこえて」はいかがでしたか?

今回はアスカルとティナが改めて互いの気持ちを確認し合っていました。

そして、次回はいよいよアスカルがノーマンにティナと結婚したい旨を伝えるわけですが、はたして無事に承諾してもらえるのか……!?

それでは、次回も3日後、2/26(月)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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