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第183話 用が済んでの甘味は格別

どうも、ヌマサンです!

今回はついにアスカルとティナが旧帝都フランユレールを離れることに……!

そして、アスカルが買ったお土産の詳細も、明らかになります!

それでは、第183話「用が済んでの甘味は格別」をお楽しみください!

 一人、手土産のスイーツを提げて馬車乗り場へ到着したアスカル。荷物を取りに戻ったベルンハルトは未だ来ず、ティナもくる様子がない。


「俺が荷物を取りに戻って、ベルンハルトにスイーツを預けて馬車乗り場で待っていてもらった方が良かったか……?」


 剣術道場のある方角を睨んでみるが、視界に入る景色の中にベルンハルトとティナの姿はない。


 まだかまだかと焦りを感じ始めた時、不意にアスカルの肩をトントンと叩く者があった。誰かと思って振り返れば、待ち人の片割れ、ティナ・ハワードだったのである。


「お待たせ、アスカル。あれ、荷物は?」


「ああ、今、ベルンハルトが代わりに取りに行ってくれている」


「そう。馬車の出発時間に間に合うのかしら?」


 ティナはズバリ、アスカルが不安に感じている要素を口に出した。そう言われると、ベルンハルトを信じられていない自分が愚かに思えてしまう。


「……それは分からないな。ま、ティナは先に乗っていてくれ」


「ううん、ワタシもここで待つわ」


「いや、荷物も多いし、ゆっくり馬車で待っていていればいいだろ」


「そういうわけにもいかないわ。結局、アスカルが馬車に乗れなかったら、私一人で帰ることになるわけだしね。何より、け、今朝の返事も聞きたいし……」


 突如、消え入りそうな声に変わる後半部分。今朝の返事とはすなわち、ティナがアスカルに対し、「大好き」と言った件について。アスカルも瞬時にそのことに気づいたが、どんな顔でティナを見ればいいか分からず、視線を合わせようとしない。


 もちろん、それはティナも同じで、羞恥心からアスカルと目を合わせることを明らかに避けていた。


 そうしてアスカルとティナから恥ずかしいという感情がもれ出す頃、アスカルの荷物とモニカを担いだベルンハルトが駆けつける。


 ベルンハルトが荷物と妹を担いできたという状況に、アスカルもティナも先ほどまで醸し出していた恥ずかしいオーラが、いつしか吹き飛んでいた。それほどまでに奇妙な構図であったのだが、当の本人に一切自覚がない。


「ベルンハルト。荷物、ありがとうな。助かった」


「いやぁ、なに。大したことじゃない。それよりも馬車が出発する刻限、もうすぐじゃないか?」


「げっ、本当だ。ティナ、急いで馬車に乗るぞ」


「そ、そうね!」


 モニカを連れてきたことについて聞きたかった二人だが、何をおいても馬車に乗車することが最優先と考え、大急ぎで荷物を担いで乗車。それから間もなく、馬車がトリテルテアへ向けて動き始める。


「ティナ、また会える……よね?」


「もちろん、また来るよ。今は一度、お父さんと話をしないといけないから」


 ティナの言葉を聞き安心したのか、モニカが微笑をたたえる。おそらく、ティナと直接話をさせることで彼女を安心させたかったのだ。アスカルはそう結論付けた。


「アスカル!二人仲良く食べろよ!」


 そんな揶揄うようなベルンハルトの声に、アスカルはあえて反応することはなかった。


 そうして、馬車からはベルンハルトとモニカの姿が豆粒のように小さくなった頃、ティナはアスカルがずっと大事そうに持っている物について、聞き出そうとする。ずっと聞きたかったのを堪えていたのだ。


「アスカル、その箱に入っているのって……」


「ああ、ティナお気に入りのスイーツがあるってベルンハルトに教えてもらって、買いに行ったんだ」


「そ、そう」


 食欲を抑え込んでいるのが表情から伝わってくる。そんなティナを見ていると笑いがこみ上げてくるが、ここでティナを怒らせてはいけないと、アスカルは無表情ポーカーフェイスを貫いた。


 その甲斐あって、無駄な衝突もなく、無事にスイーツを渡すことに成功。そんなスイーツはシュークリーム。特にこだわりのあるクリームは格別、きつね色にこんがり焼けた皮の食感など、まさしく絶品。


「このシュークリーム、剣術道場で稽古が終わった後に食べるとより一層おいしいのよ」


「なるほどな、確かに運動した後とか、何かを達成した後に食べると甘い物っておいしく感じるよな」


「それに頑張って良かったという充実感と、明日も頑張ろうって思えるのよ」


 シュークリームを頬張り、幸せそうな笑みを浮かべるティナ。何より、シュークリームを食べながら何かを話す様も、とにかく楽しそうなのだ。そんなティナを見ているだけで、嬉しいという感情で胸がいっぱいになる。


 ティナほど味わって食べることをしなかったアスカルは、一足早く食べ終わっていた。だが、まったく味わっていないわけではないのだが、ティナより早いというだけで、味わっていないように思えてしまう。


 そして、シュークリームのすべてが喉元を通り過ぎたところで、アスカルは覚悟を決めたと顔に書いてあるような表情になる。


「あのさ、ティナ。今朝の返事なんだが」


「うん」


 大事な話が始まるのだから、集中して聞かなければと思ったティナは、すっかり小さくなったシュークリームを口の中へと頬張る。その様子に、まだ話し始めるのは早いと、アスカルも食べ終わるのを待つ。


「確認だが、あの好きというのは友人に対してかける意味合いではないんだよな?」


 他の乗客には聞こえないよう、丁寧に左手で口元を隠し、声量まで落として尋ねてくるアスカル。だが、声量を落としているにもかかわらず、実に聞き取りやすい話し方をする。


 そのあたりの器用な芸当ができることに驚きつつも、ティナも返事をしようとする。アスカルが口元を隠して話すものだから、ティナも同じような話し方をしても、周囲から見ても不審に思われることはない。


「そうよ。それに、ワタシが言ったのは大好きよ。あまり友人に使う言葉ではないと思うけど」


 声量を落とし、耳元で囁くティナ。普段の明るい声とは違い、妙に色っぽい。耳元で囁かれているという状況もあるだろうが、それでも意識してしまう艶やかな声色である。


「そ、そうか。じゃあ、俺もティナのことは大好きだ、ということは伝えておく」


「……っ!?」


 まだ確認が続きそうな雰囲気を出しておきながら、一気に本題へ入ってくる。そんな不意打ちに、ティナの顔は真っ赤になってしまっていた。実に微笑ましく、もっともティナにとっては嬉しい不意打ちである。


「改めて口にすると恥ずかしいな……。ちゃ、ちゃんとオレの気持ちは伝えたぞ。今では一人の女性として好きだってな」


 その一言の後、2人の間に沈黙が流れる。それは馬車がトリテルテアに到着するまで続き、下車する際に一言二言話したことで終わりを迎えた。


 それからはトリテルテアからヌティス城下町へ向かう馬車が出る乗り場――ではなく、宿屋。その点で、割符を合わせたようであった。


 すでに日も暮れて暗くなっており、どのみちヌティス城下町への馬車が出るのは明日のこと。そうなれば、今日は宿を取って休もうとなるのは当然のことだともいえる。


「ふぅ……」


 ベッドに飛び込むなり、枕に顔をうずめてため息を一つ。枕に吐き出された息の熱が顔に伝わってくる。それを感じ取るなり、ベッドの上で仰向けになり、呆然と天井を見上げる……。


 イマイチ力の入らない状況のアスカル。宿屋へ到着し、部屋の前でティナと分かれたところはハッキリと覚えている。お互いに気恥ずかしさから、ほとんど会話もしていない。


 だが、明日の朝になれば恥ずかしさは睡魔が持っていってくれているのではないか。そんな淡い期待を胸に、アスカルもティナも眠りにつくのであった。

第183話「用が済んでの甘味は格別」はいかがでしたか?

今回はアスカルがティナへ、素直な気持ちを伝えていました。

ただ、互いの想いを確認し合ったものの、気恥ずかしさから話しづらくなってしまう事態に……!

はたして、2人の期待通り、睡魔が気恥ずかしさを持っていってくれるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

次回も3日後、2/23(金)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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