第182話 旧帝都フランユレールの土産は
どうも、ヌマサンです!
今回はアスカルがベルンハルトとお土産探しをする回になります!
とにかく平和な話なので、楽しみながら読んでもらえればと思います……!
それでは、第182話「旧帝都フランユレールの土産は」をお楽しみください!
ベルンハルトに誘われ、旧帝都フランユレールのスイーツ店を2つ3つ回ったアスカル。意外だったのは、英雄を志す青年がこれほどまでにスイーツに詳しかったこと。
どの店舗のどのメニューが美味しいだの、店主はこれこれこういう経歴の人で、スイーツづくりにおいてどういった点を気をつけているか。
このスイーツの味はこの素材とこの素材をこれこれこのように調理しなければ出せない味だと、熱弁を振るって解説してくれるのである。
正直なところ、説明を聞いているうちにアスカルは旧帝都フランユレールのスイーツを特集している雑誌などを読むよりも、ベルンハルトに聞いた方が早いのではないかと思うほどであった。
「ベルンハルトはどうしてそんなにスイーツに詳しいんだ……?スイーツ好きの女性を救う英雄になれそうな知識量だが……」
「フフフ、確かにスイーツ好きの女性を救う英雄にはなれるかもしれない。なかなか面白い表現だ」
初めてベルンハルトが笑う瞬間を、アスカルは見た。英雄を目指すという気迫からか、カッコつけている風があった人間が笑うと、意外性も著しいというもの。
「まぁ、スイーツ好きの女性を救う英雄というのは、適当に思いついて言ってみただけだ。それで――」
「ああ、スイーツに詳しい理由だろう?」
ベルンハルトは穏やかな表情のまま目を閉じ、感慨深げに語り始めた。母・アナベルが誕生日に買ってきてくれたスイーツを食べ、感動したのがキッカケなのだと。
最初は同じくスイーツが大好きな母が語る知識を聞いたまま覚えるだけだったという。そんなある日、まだ幼い妹のモニカが泣いていた。
当時、すでに英雄を目指していたベルンハルトは英雄を志す者として、何よりモニカの兄として彼女を泣き止ませようと試みた。どうして泣いているかも分からない状況の中、ベルンハルトは悩んだ。
そんな折、母のアナベルから教えてもらったスイーツの知識が不意に脳内で再生された。一度、モニカをあやすことを中断し、スイーツ店へと走り、モニカの好みを考慮したうえで、子供でも食べやすいスイーツを選んで購入。
結果としては、ベルンハルトなりに妹のことを考えて購入したスイーツはモニカも気に入った。今でも好物らしいのだが、自分では買いに行こうとしないのだとか。
ベルンハルト曰く、店の前を通りがかると必ず足を止めるのだが、「食べたいのか?」と尋ねると、恥ずかしそうに「い、いらない」と答えるのだという。
「恥ずかしそうにいらないって言うのか。でも、どうして恥ずかしいんだろうか……?」
「さあ?それは本人に聞いてみないと分からない。でも、恥ずかしいんじゃないか?モニカお気に入りのスイーツはあくまでも子供用のスイーツだし、バカにされると思っているのかもしれない」
「なるほどな、それなら納得がいくな」
大人になると懐かしいと思う反面、なかなか買いづらかったりするスイーツ。アスカルにはそういった思い出はない。ただ、人と話すのが苦手そうなモニカを医務室で見かけたこともあり、何となくそんな気がした、というだけのこと。
「それじゃあ、今度モニカさんと一緒に買いに行ってあげる……というのもいいんじゃないか?」
モニカが1人では買いに行きづらいだけかもしれない。だとすれば、兄であるベルンハルト同伴というアプローチ方法ならアリなのではないか。そう思いつき、口にしたアスカル。
そんなアスカルの提案を聞き、ベルンハルトはアスカルの瞳を凝視していた。ガタイの良い美形の青年に自分の瞳をじっと見つめられるという奇妙な状況に、アスカルはただただ困惑するのみ。
「べ、ベルンハルト。そんなに見つめられても困るんだが……!」
「ああ、すまない。俺とまったく同じ考えだったから、嬉しくてね」
「う、嬉しいものなのか……?というか、一緒に行くことを思いついていたなら、なぜ実行してないんだ……」
「いや、実は前にも一緒に行かないかと誘ったんだが、ダメだったんだ」
目に見えて落ち込んでいる様子のベルンハルト。一度断られたものの、ちゃんと実行していた行動力については、称賛に値するだろう。
だが、ダメだったということが判明した以上、話は振り出しに戻ってしまった。
穏やかな日差しの下、フランユレールの雑踏な往来の中、思案に暮れるアスカルとベルンハルト。時折、肩と肩がぶつかりそうにあるのを寸前で回避しながら移動してゆく。
「アスカル、いい案は浮かんだか?」
「いや、まったく」
「俺もだ。やっぱり、成功するまで挑戦するしかないか。よし、帰ったら今日中にモニカにスイーツ店に行かないか、誘ってみるとしよう」
考えてもいい案が浮かばないなら、考えても仕方ない。そう割り切れるのも、また決断力のある人間ならでは、といったところであろう。
「そうだ、アスカル。旧帝都フランユレールのスイーツだが、ティナの好物を売っている店がこの近くなんだ」
先ほどまで慣れない考え事をし、無心で歩いた疲れが瞳に現れていたアスカル。そのベルンハルトの言葉が耳に入り、情報処理した瞬間、瞳に明るさが戻る。しかし、気取られるのが恥ずかしいのか、すぐに感情に蓋をしてしまっていた。
「アスカル、どうかしたか?一瞬、挙動不審だったが……」
「い、いや。なんでもない。それで、ティナの好物を売っている店というのは……?」
「ああ、こっちだ」
近くといっても、広大な旧帝都フランユレールのことだ。かなり距離があるのだろう。そのようにアスカルは思っていた。
だが、近くというのは本当に近くだった。角を一つ、左折。それから数十歩ほど歩いた程度の距離だったのだ。体感的には歩いた感もほとんどない距離。
「ここが、ティナの好物があるって店か」
「そうだ。今の時間帯なら空いているし、ゆっくり選べるはずだ」
そういうなり、店の扉を開けて店の中へ入っていくベルンハルト。店の扉に手をかける動作、扉を開けて入るなり店の人とにこやかに会話をする様は、まさしく常連客であった。
「どうした?アスカルは入らないのか?」
「あ、ああ。入る入る」
扉を再度開け、アスカルが入って来るのをご丁寧に待つベルンハルト。これ以上待たせてはいけないという想いからか、アスカルの店へ入る足は自然に早まっていた。
「いい香りがするな」
鼻を微細に動かしながら、店内を見回すアスカル。先ほどと同じく、挙動不審に見える様子に、思わずベルンハルトから笑いがこぼれていた。
「ちょ、笑うなって」
「いや、本当に面白い反応をするなと思ってな」
人を苛立たせる、ニヤニヤした表情。それにつられてアスカルの表情も険しくなったが、そんな表情は一瞬だけ。すぐに平常通りの顔つきに戻っていた。
それからはベルンハルトによる店の説明、並んでいる商品の開発秘話などを聞かされ、ようやく本題であるティナお気に入りのスイーツを入手することができた。
「このクリームが特徴なのか」
「ああ、店主が独自に改良を加えたクリームで、ここでしか食べられない一品だ」
ティナ用と自分用の二つを購入しただけで、まだ食べたことのないクリームの話を聞かされるうちに、いつしかアスカルも食べるのが楽しみになっていた。
「あっ、そろそろ荷物を取りに道場まで戻らないと、馬車が出る時間に間に合わない……!」
「もうそんな時間だったか、悪いな。アスカルは歩いて馬車乗り場まで行ってくれ。走るとスイーツが崩れるし、荷物は責任もって届けるから」
アスカルとベルンハルトは店の前で別れ、アスカルは落ち着いた足取りで馬車乗り場へ向かうのであった。
第182話「旧帝都フランユレールの土産は」はいかがでしたか?
今回はアスカルがベルンハルトと一緒にお土産を探す、ただただ平和な回でした!
その中で、ティナの好物であるスイーツを買っていましたが、はたしてティナがどのような反応をするのか――
次回も3日後、2/20(火)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!